Healthcare / Intellectual Property

電子カルテなどの保守終了を告げられたら――継続利用とデータ移行の条件をどう確保するか

保守終了後の継続利用は、利用権が残ることだけでは決められません。必要な機能と診療記録の保存・参照手段を確認し、保守終了に伴う安全上のリスクと、対策を講じても残るリスクを評価して、利用する範囲・期間と見直し条件を決めます。

監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)

最終更新日:
目次
  1. 1 終了する対象と時期の切り分け
  2. 2 移行までの利用の期限と、見直し条件の決定
  3. 3 保守・改修を引き継いで利用を続けられるか
  4. 4 移行先で使うデータと、旧記録として残すデータの切り分け
  5. 5 旧環境を終了できる条件の決定

1 終了する対象と時期の切り分け

終了の通知を受けたら、まず、何が終わるのかを分けます。保守・更新の提供が終わるのか、ソフトの利用許諾も終わるのか、認証やサーバなどのサービスが止まるのか。対象ごとに期日が違うことがあります。通知に書かれた対象と期日を拾い、契約上の提供範囲や終了条件と照合します。

そのうえで、実際に何が失われるかを調べます。ここが診療と記録の参照に影響します。院内にソフトがあり、利用許諾も続いていても、端末を交換したときの再認証をベンダーに依存していれば、いま動いていることだけでは継続性を判断できません。更新の提供だけが終わり、認証や連携が続く場合でも、新たな脆弱性に対応するための修正や代替策を確保できるかは、別に確かめる必要があります。

終了によって何が失われるかを確かめる

終了する機能・支援確かめる仕組み影響を確認する場面
更新・障害対応修正の提供と復旧対応の範囲脆弱性が判明したとき、障害が起きたとき
利用の認証定期の認証、機器を交換したときの再認証認証の期限、機器の交換・復旧
他システムとの連携検査結果などの取込みの経路新たな取込み、接続先の変更
記録の参照・出力閲覧ソフトへの依存、出力の形式旧記録の参照、移行の作業

2 移行までの利用の期限と、見直し条件の決定

移行と切替えの確認が終わるまで、旧システムを暫定的に利用することがあります。利用許諾も終了し、ほかに継続利用の根拠がない場合は、暫定利用を認める合意などを確保する必要があります。確保できなければ、そのソフトの利用継続を前提としない診療・移行の方法を検討します。

この期間の利用は、そのまま使い続けることとは別に設計します。対象とする業務と機能、利用の期限、維持する認証・連携・データ出力の条件を定めます。実施する対策と、確認を担当する者、継続・縮小・停止を判断する者を決めます。

新たな脆弱性が判明したとき、予定した対策が成立しないとき、移行が遅れたときには、期限の前でも利用の範囲と代替手段を見直します。移行の遅れによって利用期間が自動的に延びる設計にはしません。

更新が止まる部分、外部との接続、代替策の効果、対策によって失われる診療上の機能を、それぞれ評価します。ネットワークから切り離すという一つの対策で足りるとは限らず、切り離すことで検査結果の取込みや外部からの参照ができなくなることもあります。リスクを評価したこと、責任者が承認したことを記録に残しても、必要な措置の不足がそれで埋まるわけではありません。

既存の契約で求められる事項と、追加の合意が必要な事項を分けて、ベンダーと協議します。

3 保守・改修を引き継いで利用を続けられるか

別の事業者に保守や改修を引き継げるかは、予定する作業を特定してから判断します。障害への対応だけなのか、基本ソフトの更新への追随なのか、機能の追加なのか、データを取り出すための変更なのか。作業によって、必要な権限も、確保すべき資料も変わります。

次に、その作業で誰が、どのプログラムを複製し、変更するのか、何を引継ぎ先に渡すのかを確認します。プログラムの複製物を所有している者は、自ら実行するために必要と認められる限度で、複製や改変ができる場合があります。医療機関がその複製物の所有者に当たるかを、まず確かめます。サービスとして電子カルテを使う場合も、利用契約があることだけで、そのプログラムの複製物の所有者に当たるとはいえません。そのうえで、医療機関自身の利用と、引継ぎ先が行う複製・改変は別に評価します。医療機関の側で条件を満たすからといって、別の事業者への提供やその事業者の作業まで当然に許されるわけではありません。

許諾の範囲、改修を禁じる条項や秘密保持の条項も当てはめ、実施できる条件を決めます。

作業に必要なソースコード、設計資料、動作を確認する環境を確保できるかも詰めます。法律上、改変が許される場合でも、それだけで元のベンダーに資料を引き渡す義務が生じるわけではありません。既存の契約で引渡しを求められるかを確認し、足りない部分は追加の合意を求めます。必要な資料や動作確認の環境を確保できなければ、その改修を前提とする継続利用の計画を見直します。

なお、医療機器に当たるプログラムの改修は、ここでの整理だけでは判断できません。

買収や事業承継で取得したソフトについて、利用権限そのものに疑義がある場合は、買収後、ソフトウェアの利用権限に疑義が生じたらをご覧ください。

4 移行先で使うデータと、旧記録として残すデータの切り分け

移行では、新しいシステムで日常の診療に使うデータと、過去の記録として保存し参照するデータを分けて考えます。同じ移し方をする必要があるとは限りません。

まず、何を移すかを具体化します。出力の対象と形式に加え、患者との対応、検査値の単位、画像や履歴との結び付きが引き継がれるかを確認します。誰がいつ作成し、どう修正したかという情報も、記録の内容を後から確かめるために必要です。移行用に出力した後で追加・修正された記録を、最終的にどう反映するかも決めておきます。

次に、移せたことをどう確認するかを決めます。件数が合うことと、内容が正しく読めることは別です。移す対象としたデータが欠けずに反映され、必要なときに参照できるかを、対象を決めて確かめます。

記録を保存する義務は、医療機関の側にあります。ベンダーとの契約が終わっても、それで消えるものではありません。もっとも、保存の義務があることから、元のベンダーに保守を続ける義務が生じるわけでもありません。適用される制度と起算点を確かめ、どの記録を、あと何年、読める状態で保存する必要があるかを確認します。

国内にある事業者へのデータ提供が、利用目的の達成に必要な範囲での取扱いの委託に伴うものかを確認します。これに当たる場合、その提供について患者一人ひとりの同意を得る必要はありません。委託する業務の範囲と、委託先をどう監督するかを定めます。委託に収まらない取扱いがあるときは、その根拠を別に確認します。

5 旧環境を終了できる条件の決定

新しいシステムが動き始めたことだけで、旧環境も終了できるとは限りません。旧環境での入力・更新を止めること、旧記録の閲覧を終えること、元のベンダーが持つデータを消去することは、それぞれ別に判断します。

必要な記録が欠けずに引き継がれ、内容と作成・修正の情報を確認でき、必要な期間の参照手段を確保できたときに、旧環境での閲覧を終えます。旧環境でしか過去の画像や履歴を参照できない状態であれば、その条件は整っていません。

消去については、対象、方法、実施の条件、実施したことの確認方法を、移行の前に合意します。確認が終わらないまま予定日に消去される設計は避けます。確認が長引いたときに備えて、閲覧や認証を延長する条件、または別の参照手段を確保する条件も定めます。

現在の契約にこれらが含まれるかを確かめ、足りない部分は追加の合意を求めます。延長に応じてもらえることを前提に、移行の予定を組むことは避けます。

移行までの利用、保守・改修の引継ぎ、データ移行、旧環境の終了は、それぞれ契約上の根拠と条件を確かめたうえで、ベンダーと合意する必要があります。当事務所では、利用許諾・保守契約の確認、暫定利用と移行・消去の条件に関するベンダーとの交渉、引継ぎ先との契約について、個別のご相談をお受けしています。

病院・診療所に関係する当事務所の解説は、病院・診療所の法務――事故・診療報酬・広告・承継への対応にまとめています。

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