Intellectual Property
出荷済み製品・提供中サービスでOSS違反を指摘されたとき――既提供分の是正と今後の提供をどう判断するか
対応は、適用されるライセンスの条項・版・例外を、改変・結合の実態と提供先・提供方法に照らして判断します。既提供分の不足の是正と、今後の提供に必要な許諾の確保を分けて検討します。
監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)
目次
1 どの製品・版・提供先まで調査するか
まず、指摘者の立場と要求内容を確認します。対象とされている製品・部品・版、根拠とされる条件、通知の受領日と回答期限も特定します。あわせて、当時の出荷物・配信物、表示やライセンス文、ビルド記録を保全し、指摘されている内容と、自社で確認できた事実を分けて整理します。
調査は指摘された製品・版から始め、同じコードや共通部品、共通のビルド設定を使う他製品・旧版へ広げ、出荷・配信記録で提供先をたどります。対象から外す場合も、該当コードを含まないなどの根拠資料と判断理由を残し、未確認のものは区別します。ソフトウェア部品表を作成している場合は、この照合に使える資料の一つとして扱います。ただし、作成済みであることが、適用される条件を満たしているかどうかの判断まで代替するわけではありません。出力された情報が実際の出荷物と一致しているかも確認します。
2 実装・提供の実態に照らして、どの条件への対応が不足しているか
適用される条件は、当時のファイルに付された表示や添付文書から確認します。同じ部品でも、版によって条件が異なることや、例外の定めが付されていることがあります。そのうえで、改変の有無と範囲、他のコードとの結合の仕方、誰に対して何を渡したかという提供の実態を照合します。提供に関する条件は、ライセンス原文の用語・定義と、適用される法に照らして確認します。日本の著作権法の「頒布」に当たるかどうかだけで、その条件の適用を判断することはしません。
提供の実態と、確認する条件
| 原文で確認する適用条件 | 技術・提供の状態 | 調べる具体的な事実 | 既提供分で検討する対応 |
|---|---|---|---|
| 改変ライブラリとの再結合用資料の提供が条件となる場合 | ライブラリを静的リンクして出荷 | 既提供版のソース、オブジェクトファイル、ビルド手順は残っているか | 該当ソース・再リンク用資料を提供。条件に応じて導入情報も補う |
| 交換可能な共有ライブラリ方式で条件を満たす場合 | 動的リンクした製品を出荷 | インターフェース互換の改変版に差し替えて正常に動作する仕組みか | 置換可能な構成への更新、必要なソース・導入情報の補充を検討 |
| 結合した全体と独立した著作物の集積で扱いが異なる場合 | 同一製品内で別プロセスとして動作 | コードの取り込み・共有、呼出し内容、全体の構成 | 当該OSSへの対応で足りるか、結合した範囲についてソース提供や許諾条件の見直しが必要かを確認する |
| 改変版との遠隔対話にソース提供条件がある場合 | サーバ側で動くプログラムを利用させる | 改変の有無と対象範囲、利用者が対話するプログラム | 当該改変版と遠隔で対話する全利用者が、対応ソースを無償取得できる経路と目立つ案内を整える |
| コピーの提供に表示・ソース等の条件がある場合 | ブラウザへコード送信、顧客環境へイメージ納品 | 実際に渡したファイル・版、同梱表示と提供資料 | 受領した版に対応する表示・必要なソースを追加提供 |
注記:各行は左欄の条件を確認した場合の例です。対応欄は候補であり、履行すべき条件の全体ではありません。結合方法だけで適用範囲は決まらず、別プロセスでも個別の判断が必要です。過去の不足の解消と許諾の回復は別途確認します。
調査の結果は、製品・版ごとに、適用される条件、確認された不足、判断には必要だが未確認の事実、の三つに整理します。同一製品の中で別のプロセスとして動いているかといった技術的な形式だけでは結論が出せない箇所は、その旨を明示して残します。
3 既提供分をどう是正し、今後の提供を続けられるか
確認された不足ごとに、必要な対応を定めます。表示やライセンス文の補充で足りるもの、対応するソースの提供が必要なもの、部品の差し替えを検討するものに分かれます。ソースを提供する場合、最新のソースや自社が改変した箇所だけで足りるとは限りません。既に提供した版に対応するものであるか、必要なビルド資料が揃っているか、誰にどの方法でどの期間提供するのかを確認します。適用条件に応じ、提供先の改変・再提供等を認める許諾が必要か、自社の利用条件がそれを妨げていないかも確認します。
対象は一様ではありません。顧客の手元にある個体、更新されずに残っている旧版、流通在庫、保守用の交換部品、これから配信する更新ファイルを区別します。更新の仕組みがあるかどうかだけで方針を決めず、コードの更新を伴わずに表示や資料を届けられるかも検討します。更新できる製品でも、更新されずに残る版への対応は残ります。
直すことと、今後の利用許諾が確保されることは同一ではありません。表示やソースの提供、部品の差し替えによって何を是正できたかと、終了した許諾の回復や別途の許諾を要するかを分けて確認します。商用ライセンスも、既提供分を含む対象と効力を確認する必要があります。
ライセンス違反による許諾の終了と、是正後の回復は、適用される版の条項に従って確認します。回復規定がある場合も、違反の解消、権利者からの通知の有無・受領日、過去の通知歴などによって結論が分かれます。過去の通知は、同じ権利者から同じライセンスの違反について受けたものを、製品や違反内容の違いだけで除外せずに確認します。回復の有無は関係する権利者ごとに確認し、適用される条項が暫定的な回復と確定的な回復を区別している場合は、その区別も確認します。
回復条項に期間が定められていても、その間の違反を一律に許す猶予期間ではありません。原文に自動回復の定めがない場合、その原文だけを根拠に自動回復を主張することはできませんが、別途の許諾を得られるかは検討できます。
そのため、終了の定めの適用があるか、その終了事由に適用できる回復条項があるか、適用される回復条項が求める範囲の違反を解消したか、通知は誰からいつ届き、その内容は違反の指摘か許諾の終了に関するものか、是正はいつ完了したかを、記録として押さえます。
既提供分への対応、許諾の状態、今後も続くソース提供などの義務は、分けて記録します。そのうえで、提供を継続するのか、対象を限定するのか、一時的に止めるのかを判断します。許諾が回復したとしても、過去の責任や請求の処理まで当然に終わるわけではありません。
利用許諾や是正範囲を巡る紛争については、知財ライセンス契約の紛争で扱っています。
4 顧客・納品先に、何をいつ伝えるか
顧客への連絡は、通知条項と期限、顧客による再提供、是正に必要な協力を基に判断します。自社の許諾の状態と、顧客自身の利用・再提供の条件は分けて確認し、自社の許諾終了だけから顧客も当然に利用できなくなるとは扱いません。
説明では、対象の納品版と確認された不足、調査中の事項、追加する表示・資料、顧客に求める作業と次回報告時期を示します。顧客が再提供している場合は、その提供先への案内や資料の補充が必要かも確認します。是正完了まで連絡を待つ方針を一律に採りません。
5 委託先に、是正への協力と費用負担をどこまで求めるか
契約上のOSS使用・申告、保証・補償、協力義務を確認し、部品の選定・組込みと自社の指定・承認の記録を照合します。既提供版に対応するソースやビルド資料の確保は、責任配分の決着を待たずに依頼します。
補償条項による請求と、債務不履行による賠償請求の要件を分けて確認します。後者では委託先に責任を帰せるかや損害との因果関係も検討し、責任制限、通知・請求期限、費用負担に事前承諾を要する定めの有無を確認します。委託先への請求と自社の是正は並行して進めます。
既提供分の是正と、今後の提供に必要な許諾の確保は、適用される条項と提供の実態に照らして分けて判断する必要があります。当事務所では、適用条件と提供実態の調査、指摘者・権利者との是正と許諾に関する交渉、顧客への説明と委託先との責任分担の調整について、個別のご相談をお受けしています。
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