Crisis Management
規制当局による調査・強制捜査への対応
ある日突然、規制当局から報告命令や照会文書が届く。あるいは、予告なく調査官が立入検査に訪れる――。当局対応では、対応内容が、その後の事実認定や処分判断に影響することがあります。回答義務の有無や調査の法的性質を見誤ると、不用意な回答が自社に不利な証拠となる一方、法令上の報告命令・検査について虚偽の報告をし、または正当な理由なく拒否・妨害した場合には、制裁の対象となることがあります。当事務所は、当局対応に関する法的助言を行う弁護士が、照会への回答から立入検査・捜索差押えの現場対応までを支援します。
当局から連絡・訪問を受けたとき
- 担当者の所属・氏名、根拠法令、文書・令状、回答期限を確認する
- 法務・コンプライアンス部門と弁護士へ連絡し、社内の対応窓口を一本化する
- メール・文書・端末等の削除、改変、社内関係者による無断持出しを停止し、証拠保全指示を出す
- 当局の質問、提出要求、提出・留置・差押対象、会社側の回答を時系列で記録する
- 虚偽説明や物理的妨害を避け、確認できない事項は推測で答えず確認後に回答する
※役職員個人が聴取・取調べの対象となる場合には、会社と個人の利害が対立する可能性も確認します。
ご相談いただけること調査の性質と期限の確認/照会回答・現場対応/処分を見据えた主張・手続
お問い合わせフォームへ目次
1 当局調査の類型を見極める
当局による調査には、①任意の照会・ヒアリング、②根拠法令に基づく報告徴求・立入検査・提出命令等の行政調査、③行政機関による犯則調査または特別司法警察職員による刑事捜査、④警察・検察等による刑事捜査(任意捜査および令状による捜索差押え)があります。「任意か強制か」という二分だけではなく、根拠法令、調査目的、応答義務、拒否・虚偽回答の効果を個別に確認する必要があります。
任意の照会・ヒアリングであっても、回答内容は後の処分の基礎となり得るため、軽く扱うことはできません。他方、行政調査については、根拠法令によっては、拒否、妨害、虚偽報告等に罰則が設けられています。
2 主な当局と調査の特徴
(1)消費者庁(景品表示法)
優良誤認・有利誤認表示等の調査では、報告徴収・立入検査を経て、措置命令や課徴金納付命令に至ることがあります。特に、優良誤認表示に関する不実証広告規制に基づき、表示の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を文書で求められた場合、提出期限は、資料提出を求められた日から原則として15日後です。期限内に資料を提出しない場合や、提出資料が合理的根拠を示すものと認められない場合には、措置命令との関係では当該表示が不当表示とみなされ、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定されます。課徴金は原則として対象商品・役務の売上額の3%ですが、課徴金対象期間や対象売上額の算定、割増・減額、除外事由等の適用要件があります。また、確約手続通知を受け、所定の要件を満たす確約計画が認定された場合には、認定が取り消されない限り、当該違反被疑行為について措置命令・課徴金納付命令は行われません(利用の可否や計画の認定は個別に判断されます)。
(2)公正取引委員会(独占禁止法・取適法)
カルテル・談合・優越的地位の濫用等の独占禁止法違反の調査では、予告なく立入検査が行われることがあり、排除措置命令・課徴金納付命令につながることがあります。独禁法上の立入検査・提出命令等は、応諾義務を罰則で担保する行政調査であり、犯則調査・刑事捜査とは手続が異なります。
カルテル・入札談合の疑いがある場合には、証拠保全を行ったうえで、課徴金減免制度(リニエンシー)の利用を速やかに検討します。減免の内容は、申請順位、調査開始前後の申請時期、提出資料や調査協力の程度等によって異なるため、限られた範囲で事実確認を進めながら申請時期を判断する必要があります。なお、独禁法にも確約手続がありますが、価格カルテル・入札談合等は原則として対象外です。
下請取引については、2025年に成立・公布された改正法が2026年1月1日に施行され、下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、中小受託取引適正化法(通称:取適法)に名称変更されるとともに、対象取引・対象事業者の範囲等が変更されました。公正取引委員会による調査・指導・勧告のほか、中小企業庁等による調査や、公正取引委員会に対する措置請求が行われる場合があり、それぞれの調査・手続への対応が重要となります。
(3)金融庁・証券取引等監視委員会
金融商品取引業者・銀行等に対しては、報告徴求命令、立入検査、業務改善命令等の監督権限が行使されます。証券取引等監視委員会は、金融商品取引業者等に対する証券検査のほか、インサイダー取引・相場操縦等に関する取引調査、開示書類の虚偽記載等に関する開示検査、刑事告発を目的とする犯則調査を行います。手続の種類により、調査対象、権限、想定される措置が異なります。
(4)厚生労働省・労働基準監督署
労働基準監督官は、法令遵守状況を確認する臨検監督(立入調査)を行う一方、重大・悪質な法違反が疑われる場合には、特別司法警察職員として刑事捜査を行うことがあります。是正勧告は行政指導ですが、その前提となる法違反や、臨検拒否・虚偽陳述等については別途罰則が問題となり得ます。長時間労働・賃金不払・労災事故等の調査では、書類の整備状況と現場の説明の整合性が重要です。
(5)経済産業省・国税当局その他
外為法に基づく安全保障貿易管理、補助金の不正受給等についても、所管官庁による報告徴求・検査、行政処分、返還請求、刑事手続等が問題となる場合があります。また、国税当局による一般の税務調査(課税調査)と、悪質な脱税の刑事責任追及を目的とする査察(犯則調査)では、手続・権限・対応が異なります。税務調査については税理士等と連携し、重加算税の賦課が問題となる場合や、査察への対応・刑事告発が想定される場合には、役割を分担して法的対応を支援します。
3 照会・報告徴求への対応
- 法的根拠の確認:任意の照会か、法令上の報告命令かにより、応答義務と拒否した場合の効果が異なります。
- 正確性の確保:虚偽報告等は、根拠法令によっては罰則・処分の対象となります。また、確認不足や不正確な回答も、回答の信用性を損ない、追加調査や処分判断に影響するおそれがあります。必要な社内確認を行い、確認済みの事実、評価・推測、未確認事項を区別して回答します。期限までに確認が完了しない事項については、その旨を明示し、必要に応じて追加回答・補充を検討します。
- 回答範囲の設計:求められている事項に正確に答えつつ、不必要に広範な情報提供とならないよう、回答書面は、必要に応じて弁護士の助言も得ながら、求められた事項と提出範囲を確認して起案します。
- 期限管理と交渉:回答期限が実務上対応困難な場合には、理由と回答可能な時期を示して期限の調整を申し入れます。ただし、調整が認められるとは限らず、当局の了承を得るまでは当初の期限を前提に対応する必要があります。
4 立入検査・捜索差押え当日の対応
予告なき立入検査・捜索差押えの当日は、現場の混乱の中で的確な対応が求められます。平時からの初動マニュアル整備と訓練が、当日の対応品質に大きく影響します。
(1)共通する初動
直ちに法務部門・弁護士へ連絡し、責任者と当局への対応窓口を一本化します。メールの自動削除、文書廃棄、端末交換等を停止する証拠保全指示を速やかに発出し、調査の経過(質問、提出要求、対象物、回答)を時系列で記録します。従業員には、資料の隠匿、破棄、改変、虚偽説明を行わないよう徹底します。これらの行為は、根拠法令によって検査拒否・妨害や虚偽報告等の制裁対象となるほか、刑事事件では証拠隠滅等の問題となる場合があります。当局の求めに応じた説明は、事実に基づき簡潔に行い、推測で答えないことが重要です。
(2)行政上の立入検査
調査官から提示・交付された身分証明書、検査証票、告知書その他の文書を確認し、根拠条文と調査の対象範囲を把握します。提出命令書、留置物件の目録その他の書面が交付された場合には、その内容を確認して保管します。対象範囲に疑義がある場合には、検査を物理的に妨げることなく、弁護士と協議のうえ、確認や異議を適切に申し入れ、その経過を記録します。業務継続に必要なデータのコピーの交付等は、権利として保証されるとは限りませんが、必要性を示して当局と協議します。
(3)裁判官の令状・許可状による捜索・差押え
犯則調査における臨検・捜索・差押許可状や、警察・検察等の刑事捜査における捜索差押許可状について、執行者の身分、記載事項、対象となる場所・物件、有効期間等を確認します。執行状況を記録し、交付される差押物件の目録等を確認・保管します。対象範囲に疑義がある場合も、執行を物理的に妨げることなく、確認・申入れとその経過の記録により対応します。
(4)弁護士との通信・機密資料の取扱い
日本法上、会社が、弁護士との通信であることだけを理由として当局への提出を一律に拒める一般的な制度があるわけではありません。公正取引委員会の一定の行政調査では、課徴金減免対象被疑行為について、事業者から独立して法律事務を行う弁護士との秘密通信等を対象とする限定的な「判別手続」が設けられていますが、対象事件・文書・保管方法等に要件があり、犯則調査には適用されません。機密文書を独断で提出対象から除外せず、適用される手続を確認して対応します。
5 役職員の事情聴取・取調べへの対応
調査の過程では、役職員個人が当局の聴取や取調べを受けることがあります。供述義務や供述拒否の可否は、聴取の法的性質によって異なります。刑事事件の被疑者には黙秘権がありますが、法令に基づく行政上の審尋では、不出頭、陳述拒否、虚偽陳述等に、報告命令では報告拒否や虚偽報告等に罰則が設けられている場合があります。聴取に先立ち、対象者の立場、根拠法令、任意性、供述拒否・退去の可否を確認します。
聴取内容が調書その他の書面に録取される場合には、適用される手続に応じ、内容を確認し、事実と異なる記載について訂正・加除を求めます。刑事取調べでは、内容に誤りがある場合に訂正等を申し立て、正確でない調書への署名・押印に慎重に対応する必要があります。聴取を受ける役職員への事前説明は、手続や権利、事実に基づいて回答することの確認を目的とし、供述内容の統一や虚偽説明の働きかけを行ってはなりません。
会社の弁護士は会社を依頼者として対応するため、役職員個人の刑事責任・行政責任が問題となり、会社と個人の利害が対立し得る場合には、当該役職員について別の弁護士を選任する必要性を検討します。
6 処分を見据えた制度の利用――減免制度・確約手続・意見聴取
当局調査は、受け身の対応に終始するものではありません。独禁法の課徴金減免制度・調査協力減算制度、景表法・独禁法の確約手続(対象となる行為類型に限ります)のほか、処分前には、根拠法令に応じ、意見聴取、聴聞、弁明の機会、処分案に対する意見・証拠の提出等の手続を利用します。適用要件を満たす制度を適切に利用することにより、課徴金の減免、違反被疑状態の是正、処分前の主張立証等につながる可能性があります。ただし、制度ごとに対象・要件・効果が異なり、利用や結果が保証されるものではありません。どの選択肢を採るかは、違反の成否の見立て、他社・関係者の動向、開示・株主対応への影響を踏まえた経営判断であり、当事務所はその判断材料の整理と実行を支援します。
7 当事務所のサポート内容
- 照会・報告徴求への回答方針の策定、回答書面の起案、当局との折衝
- 立入検査・捜索差押えへの対応(当局の運用・現場状況および対応可能性に応じた弁護士の臨場・遠隔助言)、社内向け初動マニュアルの整備・訓練
- 社内調査による事実関係の把握と、当局対応・開示対応との一体的な設計
- 課徴金減免申請、確約手続、意見聴取・聴聞・弁明手続、行政処分への不服申立て・取消訴訟
- 役職員の聴取・取調べ対応の支援、個人側弁護士の選任要否の検討・連携
- 適時開示・公表・メディア対応、再発防止体制の構築
よくあるご質問
Q1 任意のヒアリングなので、断ってもよいのでしょうか。
法的に応じる義務がない場合でも、拒否により当局の受け止めや調査の進め方に影響が生じることがあります。応じるか否か、応じる場合の説明の範囲・準備をどうするかは、事案の見立てを踏まえて判断すべきであり、安易な拒否も無防備な応諾もお勧めできません。
Q2 立入検査の際、弁護士が来るまで検査を待ってもらえますか。
行政上の立入検査や令状による捜索差押えについて、弁護士の到着まで開始を待つよう求める一般的な権利はありません。弁護士の立会い・現場への立入り・役職員との相談が認められる範囲は、根拠法令、当局の運用、現場の状況によって異なり、制限される場合もあります。検査・捜索を妨げることなく直ちに弁護士へ連絡し、立会いや相談の機会を求めながら、対象範囲や提出物を記録することが重要です。
Q3 カルテルに関与していた疑いが社内調査で判明しました。どうすべきですか。
カルテル・入札談合の疑いがある場合には、証拠保全を行ったうえで、課徴金減免制度の利用を速やかに検討します。減免の内容は、申請順位、調査開始前後の申請時期、提出資料や調査協力の程度等によって異なるため、限られた範囲で事実確認を進めながら申請時期を判断する必要があります。早期のご相談をお勧めします。
Q4 立入検査で求められた資料の提出を拒むことはできますか。
提出に応じる義務があるかは、調査の法的根拠と提出要求の方法によって異なります。任意の提出依頼であれば、直ちに法的義務が生じるとは限りませんが、法令に基づく提出命令・報告徴求・立入検査については、正当な理由のない拒否、妨害、虚偽報告等に罰則が設けられている場合があります。対象範囲に疑義がある場合や、営業秘密、個人情報、弁護士との通信等が含まれる場合にも、資料を独断で廃棄・隠匿・除外せず、対象範囲の確認、提出方法や秘密情報の取扱いに関する協議、適用される保護手続(本文4(4)の判別手続等)の利用を検討します。
初動対応は、その後の調査・処分・公表対応に影響し得ます。照会文書や当局からの連絡を受けた段階、または社内で法令違反の可能性が判明した段階で、まずは当事務所までご相談ください。
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まずはご相談ください
早期のご相談が、対応の選択肢を確保するために重要です。
お問い合わせフォームへ本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。
