Crisis Management

知的財産権の侵害警告への対応

「貴社の製品は当社の特許権を侵害している。直ちに製造販売を中止し、損害賠償に応じられたい」――ある日突然届く侵害警告書は、主要製品の販売や取引関係に影響し得る重要な経営問題です。もっとも、警告書が届いたからといって、直ちに侵害が成立しているわけではなく、侵害の成否や権利の有効性について検討を要する場合があります。重要なのは、慌てて事業を止めることでも、無視することでもなく、正確な分析に基づいて対応方針を定めることです。

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警告書を受領した直後の確認事項

  1. 警告者、権利番号、対象製品・行為、要求内容、期限を確認する
  2. 権利者への回答・侵害の認定・販売停止を即断しない
  3. 製品、設計・開発資料、販売・利益資料、契約書を保全する
  4. 仕入先・製造委託先との補償・通知条項を確認する
  5. 弁護士・弁理士・技術担当者で検討体制を整える

ご相談いただけること警告内容の分析/回答・交渉/事業継続と訴訟への対応

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目次
  1. 1 警告書を受領したとき、やってはいけないこと
  2. 2 初動対応――体制構築・期限管理・契約関係の確認
  3. 3 法的検討の4つの柱
  4. 4 相手方の立場と解決方針
  5. 5 対応方針の選択肢
  6. 6 訴訟に発展した場合
  7. 7 特許以外の警告への対応
  8. 8 取引先への警告・不当な告知への対応
  9. 9 当事務所のサポート内容
  10. よくあるご質問

1 警告書を受領したとき、やってはいけないこと

  • 無視・放置する:相手方設定の回答期限を過ぎたことだけで侵害や損害賠償責任が確定するわけではありませんが、訴訟・仮処分の申立てや取引先への働きかけ等に進む可能性があります。受領後速やかに警告内容と対応期限の性質を確認します。
  • 安易に侵害を認める回答をする:法的検討を経ない「善処します」「中止を検討します」といった回答が、後の交渉・訴訟で自社に不利な証拠となることがあります。
  • 反射的に製造販売を中止する:侵害が成立しない可能性があるにもかかわらず事業を止めれば、不要な損失と取引先の信用不安を招くおそれがあります。
  • 社内資料を整理と称して廃棄する:開発経緯や販売数量に関する資料は、先使用権の立証や損害論で自社を守る証拠にもなります。

2 初動対応――体制構築・期限管理・契約関係の確認

(1)警告内容の把握と検討体制

まず、警告書の差出人(権利者本人か代理人か)、対象となる権利(特許番号等)、対象製品・行為、要求内容(製造中止・ライセンス・損害賠償)、回答期限を正確に把握します。そのうえで、知財・法務・開発・事業部門と弁護士・弁理士によるチームを組成します。弁護士は、回答・交渉、契約関係、仮処分・訴訟を含む全体的な紛争対応を担当し、弁理士は、クレーム解釈、出願経過・先行技術、無効審判・訂正等について技術的・専門的な検討を行います。必要に応じて、製品解析・実験等を行う技術専門家とも連携します。外国特許に基づく警告の場合は、国ごとに権利範囲・手続・救済が異なるため、現地資格者とも連携します。

(2)回答期限の取扱い

警告者が一方的に設定した回答期限は、通常、それ自体が法定期限ではありません。ただし、完全に放置すれば、訴訟・仮処分等に進む可能性があります。期限までに検討を終えられない場合には、警告書を受領して検討中であること、正式回答の予定時期等を伝え、期限の調整を申し入れることを検討します。相手方が調整に応じるとは限らないため、当初期限も意識して検討を進めます。

(3)契約関係の確認

対象製品の設計・製造・仕入れ・販売に関する契約を確認し、知的財産権非侵害保証、補償条項、紛争通知期限、防御方針の決定権、費用負担、設計変更・返品等の規定を精査します。仕入先等への通知が遅れると補償請求に影響する場合があるため、警告者への回答と並行して確認します。

(4)証拠の保全

警告対象製品の現物・旧版・各バージョン、仕様書・図面・ソースコード、開発・設計記録、試験記録、先行技術調査資料、製造・仕入・販売記録(数量・価格・利益・在庫)、契約書・発注書・ライセンス・取引先との通信、相手方特許の出願前に事業・準備をしていたことを示す資料を保全します。設計変更を行う場合も、変更前の製品・資料を先に保全します。

3 法的検討の4つの柱

(1)権利の現況・権利者の確認

対象特許の登録名義、存続期間、年金納付の状況、対象クレーム、専用実施権等の設定の有無を確認し、警告者が権利行使できる立場にあるかを確かめます。

(2)自社製品は技術的範囲に入るか(充足論)

特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲(クレーム)の記載に基づいて定められます。クレームの構成要件を分説し、自社製品がその全てを充足するかを、明細書の記載や出願経過(禁反言)も踏まえて検討します。文言上充足しない場合の均等侵害の主張や、部品供給等の場合の間接侵害の成否もあわせて検討します。

(3)権利は有効か(無効論)

登録された特許であっても、新規性・進歩性の欠如、記載要件違反等の無効理由の有無を検討する必要があります。先行技術調査の結果、有力な無効資料が見つかれば、反論・交渉方針に影響する重要な資料となります。特許権者による訂正の可能性も踏まえて検討します。

(4)その他の抗弁・実施の権原

相手方の特許出願前から日本国内で独自にその発明の実施である事業やその準備をしていた場合の先使用権、適法に譲渡された製品に関する権利の消尽、既存のライセンスの有無、権利濫用等の抗弁を検討します。

4 相手方の立場と解決方針

相手方が事業会社か、製品・サービスを自ら実施せず特許の保有・ライセンスを事業とする主体(NPE・特許不実施主体)かによって、交渉上の力学は異なります(詳細はQ4)。相手方の権利行使の実績、他社への警告状況等も調査し、法的検討の結果と組み合わせて、解決方針の仮説を立てて対応します。

5 対応方針の選択肢

  • 非侵害・無効の反論:検討結果を踏まえ、理由を付した反論書面を送付し、自社の法的見解を示す。
  • 設計変更(回避設計):警告対象クレームとの関係で、将来の侵害リスクを低減・回避できるかを検討します。変更後の仕様についても改めて充足性等を確認し、変更前製品に関する過去分の責任とは分けて検討します。
  • ライセンス交渉:事業継続を優先し、合理的な条件でのライセンス取得を目指す。料率・範囲・過去分の処理が主な交渉ポイント。
  • 無効の抗弁・無効審判:侵害訴訟では、当該特許が無効審判により無効にされるべきものであるとして、権利行使の制限を主張できます(特許法104条の3)。これとは別に、特許庁へ無効審判を請求し、無効審決の確定により特許を原則として初めから存在しなかったものとすることを求める方法があります。
  • 債務不存在確認訴訟等:確認の利益等の訴訟要件を検討したうえで、紛争の長期化・エスカレートが見込まれる場合に、裁判所の判断を求めることを検討します。

これらは択一ではなく、反論と並行してライセンス条件を探る、無効審判を提起しつつ和解協議を行うなど、組み合わせて用いるのが実務です。

6 訴訟に発展した場合

特許権侵害訴訟の第一審は、通常の管轄が東日本にある事件は東京地方裁判所、西日本にある事件は大阪地方裁判所の専属管轄となるのが原則です。東京地裁知財部では、原則として、まず侵害の成否・無効論を審理し、その後に損害論を審理する二段階審理方式が採用されています。損害額の推定規定(特許法102条)のほか、当事者の申立てにより、厳格な要件の下で裁判所が査証命令を発し、裁判所が指定した中立的な査証人が工場等で調査を行う査証制度(特許権・専用実施権の侵害訴訟の提起後に利用できる制度であり、提訴前には利用できません)など、特許訴訟特有の制度への対応が必要です。侵害訴訟と特許庁の無効審判が並行して進行する場合があり(いわゆるダブルトラック)、両手続の主張・証拠を整合させる必要があります。訴訟リスクが現実化した段階では、在庫・受注・販売継続の方針(Q2参照)もあわせて検討します。

7 特許以外の警告への対応

確認すべき要件・抗弁は権利ごとに異なります。商標権では、商標的使用の有無、商標・商品役務の類似、権利の有効性、商標登録の不使用取消審判、先使用等が、意匠権では、登録意匠の範囲、意匠の類似、権利の有効性、先使用等が、著作権では、著作物性、権利帰属、依拠性・類似性、利用許諾、権利制限規定等が、不正競争防止法では、商品形態模倣・周知表示混同等の各類型の法定要件が、それぞれ主な検討事項となります。当事務所では、特許のほか、商標・意匠・著作権・不正競争防止法に基づく警告への対応もご相談いただけます。

8 取引先への警告・不当な告知への対応

権利者が自社の取引先に対して侵害の可能性を告知する場合があります。警告者と自社が競争関係にあり、取引先への告知内容が客観的事実に反して自社の営業上の信用を害する場合には、不正競争防止法2条1項21号の営業誹謗行為に該当し得ます。ただし、侵害が最終的に否定されたという理由だけで直ちに不正競争となるものではなく、告知内容の真実性、権利者としての正当な権利行使の範囲、告知の目的・必要性・態様等を個別に検討する必要があります。あわせて、取引先に対しては、自社の見解と対応状況を丁寧に説明し、信用不安の拡大を防ぐことが重要です。

9 当事務所のサポート内容

  • 警告書の分析、回答方針の策定、回答書・反論書の起案(弁理士・技術専門家との連携を含む)
  • 先行技術調査・無効理由の検討、非侵害・無効に関する鑑定の取得支援
  • 契約関係(非侵害保証・補償条項等)の確認、仕入先・製造委託先・取引先への対応
  • ライセンス交渉・和解交渉の代理、ライセンス契約の起案・レビュー
  • 無効審判、侵害訴訟・差止仮処分、債務不存在確認訴訟の対応(訴訟代理は弁護士が担当し、事案に応じて付記弁理士と共同で受任)
  • 取引先への不当な告知への対抗措置の検討(差止め・損害賠償請求)
  • 平時の知財リスク管理(他社権利のクリアランス調査、先使用権の証拠確保、知財デューデリジェンス)

よくあるご質問

Q1 回答期限が「2週間以内」とされていますが、間に合いません。

警告者が一方的に設定した回答期限は、通常、それ自体が法定期限ではなく、直ちに法的な効果が生じるものではありません。実務上は、受領した事実と検討中である旨を伝える一次回答を行い、正式回答の予定時期を示して調整を申し入れることが多くあります。ただし、相手方が調整に応じるとは限らず、完全な放置は訴訟提起等のリスクを高めるため、期限内に何らかの応答をすることをお勧めします。

Q2 警告を受けた製品の販売を続けてもよいでしょうか。

販売継続の可否は、侵害・無効・抗弁の見通し、仮処分による差止めの可能性、継続販売によって増加し得る販売数量と損害額、設計変更の可否、取引先への影響等を踏まえて判断します。特許侵害が認められた場合には過失が推定されますが(特許法103条)、警告を受領したことだけで故意・重過失や損害額の加算が当然に認められるわけではありません。必要に応じて弁護士・弁理士等の助言を得つつ、継続・変更・中止を判断すべきです。

Q3 ライセンス料を払えば済む話であれば、争わずに払った方がよいのでは。

早期のライセンス取得が、事業継続や紛争コストの観点から合理的な場合があります。他方、非侵害・無効・先使用権等の主張の見通しは、ライセンスの要否や条件に影響します。料率だけでなく、対象製品・地域・期間、過去分の処理、関連会社・取引先の取扱い、監査条項、契約終了後の措置等を確認して判断します。

Q4 いわゆる「パテントトロール」から警告を受けました。事業会社からの警告と何が違いますか。

「パテントトロール」には法律上確立した定義がなく、一般に否定的な意味で用いられるため、本稿では、製品・サービスを自ら実施せず、特許の保有・ライセンスを事業とする主体を中立的にNPE(特許不実施主体)と呼びます。NPEには大学・研究機関や技術移転事業者等も含まれ得るため、NPEであることだけで権利行使が不当になるわけではありません。ライセンス収入を主な目的とするNPEの場合、相手方が競合製品を販売していないため、自社特許による反対請求や市場での設計変更が交渉上与える影響が、事業会社との紛争とは異なることがあります。ただし、NPEも差止請求や損害賠償請求を行い得るため、警告を軽視することはできません。相手方の属性だけで支払いの可否を決めず、権利者・権利の現況、クレームと対象製品の対応関係、無効理由、先使用権等を検討します。

Q5 相手方の特許出願より前から同じ製品を製造販売しています。それでも侵害になりますか。

自社製品が特許発明の技術的範囲に入る場合でも、先使用権が成立すれば、その実施・準備をしていた発明および事業目的の範囲内で、特許発明を実施できる可能性があります。ただし、出願前から同じ製品を扱っていたという事実だけで当然に先使用権が成立するわけではありません。先使用権には、特許権者の発明を知らずに独自に発明し、または独自に発明した者から知得したこと、相手方の特許出願時に日本国内でその発明を実施する事業を行い、または事業の準備をしていたこと等が必要です。「事業の準備」については、単なる構想・研究段階では足りず、即時に事業を実施する意図が客観的に認識できる程度に表れていたかが問題となります。開発日誌、設計図、試作品、試験記録、発注書・見積書、製造・販売記録、社内決裁、取引先との通信、電子データの作成日時等を保全し、出願時点での実施・準備を立証できるようにします。また、自社の出願前の製造・販売によって発明の内容が公衆に知られ、または公然実施されていた場合には、相手方特許の新規性等を否定する無効理由となる可能性もあります。一方、秘密に行われていた社内での実施・準備は、先使用権の根拠となり得ても、直ちに公知・公然実施となり、相手方特許の新規性を失わせるわけではありません。先使用権と無効理由は、要件と効果を分けて検討します。

侵害警告への対応は、技術・法律・経営判断が交錯する分野です。警告書を受領したら、回答する前に、まずは当事務所までご相談ください。

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本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。