Intellectual Property

競合企業による営業秘密の不正使用への対応

自社の技術資料や顧客情報が競合企業に渡り、その製品や営業活動に使われている疑いがある。このような場面で問題になるのは、情報が渡ったという事実そのものよりも、渡った先で実際に使用され、又は開示されたといえるか、そして誰に対してどの類型で請求するかです。類似していることだけから使用を認定できるとは限らず、相手方からは、独自に開発した、公開情報から構成した、事情を知らずに取得したといった説明がなされます。本稿では、使用の有無の確かめ方から、請求の相手方の整理、差止め・損害賠償、仮処分・訴訟における証拠の取扱い、刑事手続との並行までを整理します。

なお、退職者による持ち出しが判明した直後の記録の保全、営業秘密の三要件の検討、退職者本人への対応、競業避止条項や引抜きの問題は、別稿「退職した従業員による情報の持ち出しが疑われるとき」で扱っています。持ち出しの発覚から間がない段階では、まずそちらをご覧ください。本稿は、その先で、情報を受け取った側の企業に対して何をどう請求するかに重心を置いています。また、情報の利用を伴わない引抜きや競業、在職中の従業員に対する懲戒や解雇といった雇用上の対応については、労働関係紛争(企業向け)のページで取り上げています。

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不正使用が疑われるときの確認事項

  • 対象とする情報の内容・版・対象範囲と、それを特定できる資料
  • 競合企業の製品、製造方法、営業活動に現れている変化と、その時期
  • 情報が渡ったと考えられる経路と、相手方が権原として主張し得る事情
  • 既に確保している記録(持出しの記録、送信記録、アクセス履歴)の範囲
  • 求めたい結果(使用の停止、廃棄、損害の回復、再発の防止)の優先順位

ご相談いただけること使用の有無を検討するための資料の整理/営業秘密該当性と契約上の保護の検討/請求の相手方と類型の整理/通知書の作成と交渉/差止め・廃棄等・損害賠償の請求/仮処分・訴訟への対応/刑事手続との並行

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目次
  1. 1 使用の有無をどう確かめるか
  2. 2 誰に、どの類型で請求するか
  3. 3 差止め・廃棄等・損害賠償と交渉
  4. 4 仮処分・訴訟と証拠の取扱い
  5. 5 刑事手続を並行して検討する場合
  6. 6 当事務所のサポート内容
  7. よくあるご質問

1 使用の有無をどう確かめるか

請求の対象とする情報は、ファイル名だけに頼らず、その内容・版・対象範囲から具体化することが考えられます。後に差止請求や秘密保持命令の申立てを行う際、対象を特定できることが前提になるためです。

競合企業の製品、製造方法、営業活動と対象情報との関係は、営業秘密の使用を検討するための資料となります。もっとも、類似していることだけから使用を認定できるわけではありません。

この点について、不正競争防止法は一定の場合に使用を推定する規定を置いています。生産方法その他政令で定める情報に係る技術上の秘密について不正取得等があり、その行為をした者が同法所定の生産等をしたときは、その生産等を不正使用として行ったものと推定されます。技術上の秘密を示された者が、不正の利益を得る目的等で管理に係る任務に違反し、横領、複製の作成、消去すべき記載・記録を消去せず消去したように仮装することのいずれかの方法で領得して生産等をした場合にも、同様の推定が定められています。さらに、取得した後に不正取得行為又は不正開示行為が介在したことを知り、又は重大な過失により知らないで、法定の媒体等を保有して生産等をした場合についても、同様の推定が置かれています。

ただし、この推定の対象は限られています。対象となる技術上の秘密は、生産方法その他政令で定める情報に係るものに限られ、政令は、生産方法に加えて「情報の評価又は分析の方法(生産方法に該当するものを除く。)」を定めています。また、ここでいう生産等とは、その技術上の秘密を使用する行為により生ずる物の生産のほか、政令で定める行為をいいます。対象となるかどうかは情報の内容によって判断されるものであり、生産方法等に当たらない営業上の情報には、この推定は適用されません。情報を持ち出されたことから直ちに使用が推定される、という理解は正確ではありません。

推定に関する規定は令和五年の改正で見直されており、改正法の施行前に行われた取得・領得・保有等については、適用を制限する経過措置が置かれています。生産等が現在も続いているというだけで現行の推定規定が当然に適用されるわけではありませんので、各行為の時期を分けて確認することになります。

なお、この使用の推定規定の要件と、後述する適用除外の要件とは、区別して検討することになります。適用除外に該当する使用・開示については、この推定も適用されません。

顧客の勧誘や取引先の切替えが問題となっている場合には、勧誘を受けた顧客の範囲が持出しの対象と一致しているか、提案の内容が自社のものと重なっているか、時期がどうかを突き合わせて検討することになります。もっとも、顧客が取引先を変更したという結果や、従業員が競合企業に転職したという事実だけでは、情報が使用されたとは断定できません。

2 誰に、どの類型で請求するか

不正競争防止法は、営業秘密をめぐる行為を複数の類型に分けて規定しています。請求の相手方を決めるには、誰がどの類型に当たるかを整理する必要があります。

  • 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為と、それにより取得した営業秘密を使用し、又は開示する行為。ここでいう開示には、秘密を保持しつつ特定の者に示すことが含まれます。
  • 営業秘密保有者からその営業秘密を示された者が、不正の利益を得る目的で、又は保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為。在職中に示された情報を退職後に用いる場面が、この類型に当たることがあります。
  • 不正取得行為の介在を知り、又は重大な過失により知らないで営業秘密を取得する行為と、その使用・開示。不正開示行為であることやその介在について同様の認識がある場合の取得・使用・開示。ここでいう営業秘密不正開示行為には、図利加害目的での開示だけでなく、秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為も含まれます。本人の図利加害目的を立証できなければ転職先の責任も問えない、という理解にはなりません。
  • 技術上の営業秘密の不正使用により生じた物を譲渡し、輸出入する行為等。譲り受けた時に事情を知らず、知らないことにつき重大な過失がない者による行為は除かれます。

取得の時点における認識を問題とする類型とは別に、取得した後に不正取得行為や不正開示行為が介在したことを知り、又は重大な過失により知らないで、その営業秘密を使用し、又は開示する行為も規定されています。警告を受けた後の相手方の行為が問題となるのは、主としてこの場面です。ただし、取引による取得について適用除外が成立する場合には、その権原の範囲内の使用・開示について別に検討することになります。

競合企業に請求する場合は、同社自身の行為が上記のいずれかの類型に当たるかを検討することになります。あわせて、使用者責任や共同不法行為責任が問題となることもあります。対象情報が営業秘密に当たらないと判断される場合でも、秘密保持契約や取引上の合意に基づく請求を検討する余地があります。

3 差止め・廃棄等・損害賠償と交渉

不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その侵害の停止又は予防を請求することができます。この請求をするに際しては、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含みます)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他侵害の停止又は予防に必要な行為をあわせて請求することができます。不正使用により生じた製品の廃棄を求める場面では、この括弧書きが意味を持ちます。

損害賠償については、故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者が、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずるとされています。ただし、後述する期間の経過により差止請求権が消滅した後に営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、不正競争防止法に基づく損害賠償責任からも除外されています。秘密保持契約など、別の根拠に基づく請求の可否は、その要件や期間制限に即して別に検討することになります。

損害額の立証を助ける規定としては、侵害者が侵害の行為により受けている利益の額を損害の額と推定する規定、営業秘密の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を損害の額として請求できる規定があります。このほか、侵害者が譲渡した物や提供した役務の数量と、自社の単位数量当たりの利益を基礎として損害額を算定する規定もあります。もっとも、推定が反証によって覆ることもあり、使用料相当額の請求にも対象となる行為の範囲があります。数量に基づく算定についても、自社の販売・提供能力や販売等をすることができなかった事情による調整が予定されています。相手方の行為の類型と、得られている資料に応じて、どれを主軸に据えるかを検討することになります。

交渉による解決を目指す場合は、対象情報を特定したうえで、使用の停止、資料の返還・削除、第三者への開示の禁止など、求める措置の範囲を具体化しておくことが考えられます。返還・削除を求める場合も、取得・転送・使用の経緯を示す証拠が失われないよう、必要な記録の確保と、削除の範囲・方法・確認手順をあわせて検討することになります。

4 仮処分・訴訟と証拠の取扱い

保全命令の申立てでは、保全すべき権利又は権利関係と保全の必要性を明らかにし、それぞれを疎明しなければなりません。仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができます。もっとも、仮の地位を定める仮処分では、原則として口頭弁論又は相手方が立ち会うことのできる審尋の期日を経る必要があり、担保を求められることもあります。例外の要件、申立先、疎明資料と担保の準備をあわせて確認することになります。

不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟では、裁判所は、当事者の申立てにより、当事者に対して、侵害行為の立証又は損害の計算に必要な書類又は電磁的記録の提出を命ずることができます。ただし、提出を拒むことについて正当な理由がある場合は除かれます。訴訟の当事者でない者が保有する資料については、民事訴訟法上の手続とその要件を別に確認することになります。

自社の営業秘密を主張の中で明らかにする以上、それが訴訟の外に広がらないようにする手当ても必要になります。裁判所は、法定の事由につき疎明があった場合、申立てにより、当事者等に対し、当該営業秘密を訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、又は命令を受けた者以外の者に開示してはならない旨を命ずることができます。また、訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密が記載・記録されていることにつき疎明があった場合には、裁判所は、当事者の申立てにより、その部分の閲覧等を請求できる者を当事者に限ることができます。前者は使用・開示の制限、後者は第三者による記録の閲覧の制限であり、別の制度です。相手方にも一切開示せずに訴訟を進められる、という制度ではありません。電子的に提出する資料については、閲覧の制限だけでなく、営業秘密を含む記録の安全管理のための措置が必要かどうかもあわせて確認することになります。

秘密保持命令については、対象となる者の範囲に限界があります。申立ての時までに、当事者等が準備書面の閲読や証拠の取調べ等以外の方法によってその営業秘密を取得し、又は保有していた場合には、命令の対象から外れます。このように、訴訟外で既にその営業秘密を取得・保有していた者について、秘密保持命令によってその事業上の使用を止めることはできません。その者に対しては、差止請求や仮処分を検討することになります。他方で、訴訟を通じて初めてその情報を知る訴訟代理人等については、対象となる者と情報を分けて、命令の要件を検討することになります。

海外での取得や使用が問題となる場合には、日本の裁判所の管轄と適用される法を分けて検討することになります。国内での事業や情報管理の状況、行為の類型によって、営業秘密の侵害に関する特則が適用されることがあります。

5 刑事手続を並行して検討する場合

不正競争防止法は、営業秘密侵害について罰則を定めています。不正の利益を得る目的で、又は営業秘密保有者に損害を加える目的で、詐欺等行為又は管理侵害行為により営業秘密を取得する行為は、処罰の対象とされています。

また、営業秘密を保有者から示された者が、同様の目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、①営業秘密記録媒体等又は営業秘密が化体された物件の横領、②その複製の作成、③消去すべき記載・記録を消去せず消去したように仮装すること、のいずれかの方法により領得したときも、処罰の対象とされています。複製を作成した事実があることだけで直ちにこの罪が成立するわけではなく、主体、目的、任務違反、方法のそれぞれを検討することになります。取得・領得だけでなく、営業秘密の使用・開示についても、法定の要件を満たす場合には処罰の対象となります。

民事上の不正競争に当たることと、犯罪が成立することは同じではありません。行為者の立場、取得の経緯、目的、使用・開示の時期等を、それぞれの要件に即して検討することになります。犯罪により害を被った者は、告訴をすることができます。民事の手続と並行して刑事の手続を検討する場合は、主張と提出資料の整合に留意する必要があります。

6 当事務所のサポート内容

  • 対象情報について、不正競争防止法上の営業秘密該当性と、契約に基づく保護の有無を分けて検討します
  • 使用の有無を検討するための資料を整理し、必要に応じて技術調査を担う専門家と連携します
  • 請求の相手方、対象情報、求める措置を整理し、通知書の作成と交渉方針の立案を行います
  • 仮処分、訴訟、刑事手続を並行して検討する場合に、各手続における主張と提出資料の整合を図ります
  • 解決後の再発防止として、秘密管理措置、秘密保持契約、退職時の情報の取扱いを見直します

よくあるご質問

競合企業一社にだけ渡されたようです。「開示」に当たるのでしょうか。

不正競争防止法上の開示には、秘密を保持しつつ特定の者に示すことが含まれます。公表された場合に限られるものではありません。

競合企業は「事情を知らなかった」と述べています。請求は難しいでしょうか。

取引によって営業秘密を取得した者が、取得の時点で不正開示行為であることや不正取得・不正開示行為の介在を知らず、かつ知らないことにつき重大な過失がなかった場合には、その取引によって取得した権原の範囲内での使用・開示について、適用除外が定められています。この適用除外は、営業秘密の不正取得・不正開示に関する各類型の不正競争を対象としていますので、その要件を満たす限り、取得の後に事情を知ったことだけを理由として、権原の範囲内での使用・開示について適用除外が失われるわけではないと考えられます。

もっとも、相手方がこの適用除外を援用する場合、請求する側としては、次の三点を個別に確認することになります。取得が「取引によって」されたといえるか、取得の時点で善意かつ無重過失であったか、その取引によって取得した権原の範囲がどこまでかです。これらのいずれかが認められない場合には、取得の時点の認識を問題とする類型と、取得の後の認識を問題とする類型の各要件を検討することになります。相手方の説明をそのまま前提とせず、資料の受渡しの経緯と、相手方が何をもって権原と主張しているのかを確認することが出発点になります。

損害額をどう立証すればよいか分かりません。

不正競争によって、故意又は過失により営業上の利益を侵害した者に対して損害賠償を請求する場合において、その者が侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額が損害の額と推定されます。また、営業秘密の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を、損害の額として請求することもできます。譲渡した物や提供した役務の数量を基礎とする算定方法もあります。いずれも立証の負担を軽くするための規定であり、どれを主軸に据えるかは、把握できている事実によって変わります。ただし、推定が反証によって覆ることもあり、使用料相当額の請求にも対象となる行為の範囲があります。相手方の行為と、各規定の適用の条件を分けて検討することになります。

持ち出しから時間が経っています。もう請求できないのでしょうか。

不正競争防止法は、営業秘密を使用する行為に対する差止請求権について、二つの場合を分けて定めています。一つは、その行為を行う者がその行為を継続する場合において、営業上の利益の侵害又はそのおそれの事実及び行為者を知った時から三年間行使しないときです。もう一つは、その行為の開始の時から二十年を経過したときです。継続という条件は前者に置かれています。持ち出しの日、使用が始まった日、侵害の事実と行為者を知った日は、それぞれ区別して確認することになります。この差止請求権が消滅した後に営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、不正競争防止法に基づく損害賠償も請求できないとされています。それ以前の行為に係る損害賠償請求権の消滅時効は、別に検討することになります。いずれも期間の経過だけで判断せず、時効の完成猶予・更新や援用、古い事案に適用される経過措置もあわせて確認することになります。時期の点は請求の組み立てに影響しますので、早い段階でご相談ください。

相手方の手元にある資料を、訴訟の前に確保できますか。

裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより証拠調べをすることができます。ただし、これは相手方の資料を広く探索するための制度ではありません。対象とする証拠と、あらかじめ証拠調べをしておく必要性を具体的に示す必要があります。申立先も、提訴の前と後とで異なります。

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※本稿は情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、事案の内容に即した検討が必要です。

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本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。