Intellectual Property
共同開発先・退職者による無断の特許出願への対応
共同開発の相手方が、自社で開発していた技術について単独で特許出願していた。あるいは、退職した技術者が自らの名前で出願していた。こうした事態が判明したとき、まず確認すべきは、その出願が現在どの段階にあるかです。出願中か、既に特許権の設定登録がされているかによって、取り得る手続が異なります。
また、「自社が開発費を負担した」「社内の承認を得ていない」という事情だけから、権利が自社に帰属するという結論が導かれるわけではありません。誰が発明をしたのか、特許を受ける権利が誰に帰属し、誰に承継されたのかを、順を追って確認していくことになります。
無断出願が判明したときの確認事項
- 出願番号、出願日、優先日、公開の有無、審査の状況、登録の有無
- 分割出願や外国出願の有無
- 当初の出願書類と、補正後の特許請求の範囲・明細書・図面
- 審査請求の期限、登録料・年金の納付状況
- 共同開発契約、秘密保持契約、職務発明規程、譲渡に関する書類
- 技術資料の持出しや目的外使用が併せて疑われるかどうか
ご相談いただけること出願・登録の状況と契約関係の確認/発明者と権利の帰属の検討/証拠の保全と関係者への聴取/出願中の名義・承継を巡る手続/登録後の移転請求・無効審判/交渉・訴訟と事業継続の検討
お問い合わせフォームへ目次
1 出願中か、登録後か
特許権は、設定の登録により発生します。出願中の段階と、登録後の段階では、検討できる手続が異なりますので、最初にこの点を確認することになります。
権利の回復を目指す場合には、審査請求の有無と期限、登録料・年金の納付状況と期限も確認します。帰属を争っている間も、これらの期限は進行します。審査請求の期間内に請求がされなければ、原則として出願は取り下げられたものとみなされます。また、特許料について、所定の手続と期間に従った納付がされなければ、出願の却下や特許権の消滅につながることがあります。一定の要件と期間の下で救済を受けられる場合もありますが、当然に回復できるものではありません。交渉や訴訟と並行して、出願・権利の維持に必要な手続を誰が行えるのか、どう確保するのかを検討することになります。
なお、出願審査の請求は出願人以外の者も行うことができ、特許料についても納付義務者以外の者が納付できる場合があります。ただし、審査請求は取り下げることができません。相手方の対応を待つ以外の方法も含め、権利の維持と技術の非公開のどちらを重く見るかに照らして、手続を選択することになります。
出願が未公開の場合には、公開の見込時期と、進行中の手続及びその期限をあわせて確認します。未公開の技術については、特許として権利を回復することと、公開によって技術が公になるのを避けることが、異なる目標になり得るためです。権利の帰属を調査するのと並行して、どちらを重視するかを整理し、取り得る合意や保全の措置があるかを検討することになります。交渉や訴訟を始めたことによって公開が止まるものではありませんので、手続の進行は継続して確認する必要があります。
技術内容の確認にあたっては、発明の名称や要約だけでなく、当初の出願書類と補正後の特許請求の範囲、明細書、図面を比較することが考えられます。補正によって、自社の技術に近づけられている場合があります。
契約関係については、共同開発契約、秘密保持契約、職務発明規程、譲渡に関する書類を確認し、出願についての同意があったかどうかと、権利の帰属についてどのような合意があったかを、分けて整理することが考えられます。
なお、技術資料の持出し、目的外使用、第三者への開示が疑われる場合には、出願の権利帰属とは別に、不正競争防止法上の営業秘密侵害や、秘密保持義務違反に基づく対応を検討することになります。この点は、別稿「退職した従業員による情報の持ち出しが疑われるとき」と「競合企業による営業秘密の不正使用への対応」で扱っています。
2 開発経緯・技術的貢献と証拠の保全
研究ノート、設計図、実験結果、プログラム、メール、議事録は、作成者、作成時期、変更履歴を確認できる状態で保全しておくことが考えられます。発明の帰属を争う場面では、いつ、誰が、何を着想し、具体化したかを示す資料が中心的な役割を果たします。
発明者の検討にあたっては、対象となる発明の技術的な特徴を把握したうえで、解決手段の着想や具体化に各人がどのように寄与したかを、開発の経緯に沿って整理することが考えられます。
ここで注意を要するのは、寄与の評価です。研究の方針を示したこと、資金を提供したこと、一般的な管理や指揮を行ったことだけを根拠として、共同発明者であると判断することは避ける必要があります。発明者の認定では、発明の技術的な特徴を踏まえ、その課題を解決するための着想や具体化に、各人がどのような創作的寄与をしたかを検討します。役職や指揮命令の関係がそのまま結論になるわけではありません。社内で検討する際には、請求項ごとに、技術的特徴、寄与した者、完成の時期、裏付けとなる資料、承継の経緯を対応させて整理すると、発明者の認定と権利取得の経緯を混同しにくくなります。
相手方に開示した技術の内容、時期、参加者と、相手方の開発記録を照合し、出願に至る情報の取得の経緯を確認することも考えられます。関係者への聴取では、当時の記録に基づく説明と、後日の記憶や推測を分けて整理することが重要です。
3 発明者と特許を受ける権利の帰属
発明者が誰かという問題と、会社が特許を受ける権利を取得しているかという問題は、別のものです。両者を分けて検討する必要があります。
特許を受ける権利は、移転することができます。
その前提として、従業者等がした発明のすべてが職務発明に当たるわけではありません。会社の業務範囲に属する発明か、発明に至った行為がその会社における現在又は過去の職務に属するかを確認します。退職後に出願された場合にも、出願の時期だけでなく、発明がいつ、どのような職務との関係で完成したかを整理することになります。
2016年4月1日以後に完成した職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めていたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属します。このような事前の定めがなければ、雇用関係があることだけで会社が取得するわけではありません。
同日より前に完成した発明については、この発生時からの帰属の規定ではなく、契約や社内規程に基づく承継の有無と、その承継に適用される法令を確認することになります。出願日や退職日だけでなく、発明の完成の時期、規程の適用時期と内容、個別の譲渡の有無を分けて整理します。
なお、会社への権利の帰属や承継が認められる場合でも、従業者等に対する相当の利益等の取扱いは、適用される法令と契約・社内規程に即して別に確認することになります。
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができません。
権利の取得の経緯は、各発明者から所属企業への帰属・承継と、企業間の承継とを分け、各時点の契約書類から確認していくことが考えられます。
4 冒認出願・共同出願義務違反の判断
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができません。これに違反する出願は、拒絶査定の理由となります。また、特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないときも、拒絶査定の理由となります。前者が共同出願義務違反、後者がいわゆる冒認出願です。
ここで区別が必要なのは、契約上の共同出願義務と、特許法上の共同出願義務です。共同開発契約に「共同で出願する」と定めていたにもかかわらず相手方が単独で出願した場合であっても、そのことだけから特許法上の共同出願義務の違反となるわけではありません。この義務が要件としているのは、特許を受ける権利が現に共有に係ることです。契約上の義務違反は、契約に基づく請求の問題として別に構成することになります。
同様に、自社の技術と共通する点があることだけを根拠に冒認であると判断することも避ける必要があります。対象となる発明の同一性、創作と承継の経緯、相手方が主張する権原の内容を確認することになります。
5 出願中の対応と名義・承継をめぐる手続
出願中の段階で問題となるのは、承継の効力と対抗の問題です。
特許出願前における特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができません。特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他の一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じません。届出は、特許法施行規則に定める様式によります。相続その他の一般承継では、届出が承継の効力発生の条件となるわけではありませんが、承継人は遅滞なく、その旨を特許庁長官に届け出る必要があります。
もっとも、これらの規定が定めているのは承継の対抗要件と効力要件であり、そこから直ちに是正の請求権が導かれるわけではありません。冒認が疑われる出願の名義を是正しようとする場合には、権利の帰属を確認する請求や、必要な手続への協力を求める請求の可否を、権利取得の経緯、裁判例及び特許庁の手続に即して検討することになります。後述する特許権の移転請求は登録後の特許権を対象とする制度であり、出願中の名義変更の直接の根拠となるものではありません。
なお、第三者として情報提供の制度を利用することを検討される場合があります。特許法施行規則が情報提供の対象として列挙しているのは、補正による新規事項の追加、新規性・進歩性等、記載要件、外国語書面の範囲を超える記載に関する事由です。共同出願義務違反や冒認を理由とする情報提供は、この制度では行えません。同じ出願について、新規性を欠くなど別の事由がある場合に、その事由による情報提供をすることまで否定されるものではありません。もっとも、自社の開発記録が先に存在することと、新規性を否定する公知の先行技術が存在することは別です。また、情報提供で提出した書類は原則として閲覧の対象となりますので、秘密情報を含む資料を提出する場合には、その必要性と、開示される範囲を事前に確認する必要があります。秘密を守るための対応が、かえって新たな公開につながることがあります。
また、帰属を争う訴訟を提起しただけで、審査や出願公開が当然に停止するわけではありません。審査においては、必要があると認めるときに訴訟手続が完結するまで手続を中止することができるとされているにとどまります。
6 登録後の特許権移転請求と無効審判
特許権の設定登録がされた後については、特許法が移転請求の制度を定めています。この制度は2012年4月1日以後にする特許出願に適用されます。登録の時期ではなく出願の時期で区分されますので、古い出願に係る特許については、この請求を利用できないことがあります。すなわち、その特許が共同出願義務に違反してされたとき、又は冒認出願に当たるときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができます。
この請求に基づく特許権の移転の登録があったときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなされます。出願公開後の実施に関する補償金請求権についても、同様とされています。
共有に係る特許権について、この請求に基づき持分を移転する場合においては、持分の譲渡に他の共有者の同意を求める規定は適用されません。
無効審判については、特許無効審判は利害関係人に限り請求することができるとされていますが、共同出願義務違反又は冒認を理由として請求する場合には、特許を受ける権利を有する者に限り請求することができます。誰でも請求できるわけではありません。
共同出願義務違反又は冒認を理由として、特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます。権利を自社に取り戻すのか、相手方の特許を消滅させるのかによって、選ぶべき手続が異なります。事業上、その技術を自社で独占したいのか、他社に独占されなければよいのかを整理したうえで方針を決めることになります。
この法定の請求に基づく移転の登録がされると、共同出願義務違反又は冒認に関する無効理由の取扱いも変わります。単なる譲渡による移転とは効果が異なりますので、和解によって解決する場合にも、移転の法的な根拠と登録の内容を確認することになります。なお、移転を受けることによって、新規性や進歩性など別の無効理由まで解消されるわけではありません。
登録後の見直しを求める手続には特許異議の申立てもありますが、共同出願義務違反や冒認は、その申立ての理由には含まれていません。新規性や進歩性など別の理由を問題とする場合とは、利用できる手続を分けて検討することになります。
移転について合意が得られない場合には、現在の特許権者を相手とする民事訴訟を検討します。これに対し、特許無効審判は特許庁に請求する手続です。出願当初の名義人と現在の権利者が異なる場合には、移転の履歴と、誰を相手に手続を進めるかもあわせて確認します。
ここで注意が必要なのは、移転請求によって回復できるのが持分にとどまる場合があることです。共同出願義務違反の事案では、自社の持分を取り戻して共有となっても、各共有者は契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないで特許発明を実施することができます。持分を回復しただけでは、相手方の実施が当然に止まるわけではありません。この点は、和解によって共有とする場合だけでなく、裁判による回復の場合にも同様に問題となります。
7 交渉・訴訟と事業継続の検討
交渉にあたっては、権利の取得・維持を目指すのか、相手方の特許の無効化を目指すのかを整理し、契約上の履行請求・損害賠償請求と、特許法上の請求とを分けて検討することが考えられます。
第三者への譲渡や放棄等によって権利の回復が困難になるおそれがある場合には、保全すべき権利と求める措置を特定したうえで、仮処分の可否を検討することが考えられます。
反対に、相手方から権利行使を受けている場合には、自社への権利帰属の主張に加えて、対象となる製品や工程が特許発明の技術的範囲に属するか、無効理由があるか、実施権の根拠があるかを検討することになります。特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないとされています。
実施権については、出願に係る発明の内容を知らないで自ら発明し、又はそのような者から知得して、出願の際現に国内で実施の事業又はその準備をしている者に通常実施権を認める規定があります。この通常実施権の範囲は、実施又は準備をしていた発明及び事業の目的の範囲内に限られます。要件の詳細と、被疑侵害者側の一般的な防御については、既存の「知的財産権の侵害警告への対応」で扱っています。
なお、無効審判を請求することができる者の範囲と、侵害訴訟において特許が無効にされるべきであると主張することができる者の範囲は、同じではありません。相手方から権利行使を受けている場合には、審判の請求人適格とは別に、訴訟上の防御として主張できる内容を検討することになります。
無断出願、開示、実施による損害賠償については、移転請求の成否だけから結論を出すのではなく、各行為の違法性又は契約違反、帰責事由、損害及び因果関係を個別に検討することになります。
8 当事務所のサポート内容
- 出願・登録の状況と契約関係を確認し、権利の回復、無効化、契約上の請求について方針を整理します
- 開発記録や技術資料に基づいて発明者と権利の帰属を検討し、証拠の保全と関係者への聴取を支援します
- 共同開発先・退職者との交渉において、権利の帰属、出願への協力、損害賠償に関する主張と合意内容を整理します
- 出願中の権利帰属・承継をめぐる手続と、登録後の移転請求・無効審判について、手続相互の関係を踏まえて対応します
- 事業継続の検討と、営業秘密侵害や秘密保持義務違反が併せて問題となる場合の請求・証拠を整理します
よくあるご質問
当社の従業員がした発明について、他社が特許を取得しました。当社は実施できなくなるのでしょうか。
職務発明について、従業者等がその発明について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、使用者等はその特許権について通常実施権を有します。まず、当該発明が職務発明に当たるかを確認します。そのうえで、他社が従業者等から特許を受ける権利を承継して特許を取得したのか、権利を有しないまま取得したのかを区別します。冒認が疑われる場合には、この通常実施権の規定だけで実施の可否を判断せず、権利の帰属や他の防御手段もあわせて検討することになります。
特許権の移転を受けた場合、それまで実施していた相手方や第三者はどうなりますか。
この移転請求に基づく特許権の移転の登録の際、現にその特許権、専用実施権又は通常実施権を有していた者であって、移転の登録前に、その特許が共同出願義務違反又は冒認に該当することを知らないで、日本国内において当該発明の実施である事業をしているもの又はその事業の準備をしているものは、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有します。移転を受けても、それらの者の実施を直ちに止められるとは限りません。
その場合、当社は何も得られないのでしょうか。
移転を受けた特許権者は、前項により通常実施権を有する者から相当の対価を受ける権利を有します。
共有とする内容で和解した場合、当社は自由に実施できますか。
特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができます。もっとも、第三者への実施許諾には他の共有者の同意が必要であり、持分の譲渡にも同意が必要です。和解の際には、これらの点について契約でどう定めるかを検討することになります。
出願公開されてしまいました。補償金を請求できますか。
出願公開されたこと自体による損害と、公開後の発明の実施に対する補償金は、別の問題です。特許法には、出願公開後に発明の内容を記載した書面を提示して警告をした場合に、その警告の後から特許権の設定の登録前までの間に、業としてその発明を実施した者に対して、実施に対し受けるべき金銭の額に相当する補償金を請求できる制度があります。警告がされていない場合でも、公開された特許出願に係る発明であることを知って、設定の登録前に業として実施した者については、同様とされています。この請求権を行使できるのは、特許権の設定の登録があった後です。
自社が出願人でない場合には、まず権利の帰属を整理することになります。ただし、移転の登録によって請求権の帰属が整理されても、警告又は相手方の認識、対象となる実施など、補償金請求の要件を満たすかは別に確認する必要があります。移転請求に基づく移転の登録があったときは、この請求権についても、初めから登録を受けた者に帰属していたものとみなされます。他方、無断で技術が公開されたことによる秘密情報の流出については、秘密保持義務違反や営業秘密侵害の問題として、別に検討することになります。
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※本稿は情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。実際のご対応にあたっては、事案の内容に即した検討が必要です。
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