Intellectual Property

主力特許に無効審判を請求されたとき――答弁・訂正と事業への影響

無効審判の請求書の副本が届くと、手続上の期限と、契約や取引の上での判断の時期が、並行して動き出します。答弁だけで進めるのか、訂正を伴うのか。訂正後も相手方の製品を権利範囲に捉え、その構成を立証できるのか。この記事は、特許権者の側で何を確認し、何を順に決めるかを整理します。

監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)

最終更新日:
目次
  1. 1 対象特許が支えているもの
  2. 2 答弁と訂正――制度の枠
  3. 3 訂正後も対象製品に権利行使できるか
  4. 4 侵害訴訟と並行しているとき
  5. 5 契約と対外説明
  6. 6 審決が出た後

1 対象特許が支えているもの

答弁・訂正の方針を定めるために、請求されている請求項と、その特許が事業で果たす役割を対応させて確認します。請求は請求項ごとにできますから、特許全体が一律に争われているとは限りません。

役割は一つとは限りません。競合する製品を市場から排除すること。ライセンス収入。取引先(ライセンシーなど)に約束した独占性。将来の製品展開の土台。多くの場合これらは択一ではなく、複数が重なっています。攻撃されている請求項が、そのどれを支えているのか。重なっている以上、今回の審判で何を優先して守るのかを決める必要があります。ここが噛み合っていなければ、手続の上でどれだけうまく防御しても、事業上の目的は達成できません。

2 答弁と訂正――制度の枠

請求書の副本が送達されると、審判長が期間を指定して答弁書の提出を求めます。この期間は、訂正を請求できる期間でもあります。

訂正を請求できるのは、指定された期間内に限られます。その期間は、以下のとおり5つあります。

  1. 答弁書の提出期間。
  2. 請求の理由の要旨を変更する補正が許可され、改めて指定された答弁書の提出期間。
  3. 職権で無効理由が通知されたときの、意見を申し立てる期間。
  4. 審決の予告に対して指定される期間。
  5. 請求に理由がないとする審決が判決で取り消され、その確定の日から1週間以内に申立てをした場合に、審判長が指定することができる期間。

このうち最後の一つは、取消しの判決が確定すれば当然に与えられるものではありません。

訂正の目的も限られています。認められるのは、次の4つです。

  1. 請求の範囲を狭めること。
  2. 誤記や誤訳を直すこと。
  3. 明瞭でない記載を釈明すること。
  4. 請求項どうしの引用関係を解くこと。

これらに当たる場合でも、訂正の根拠とできる明細書等の記載の範囲を超える事項を加えることはできません。請求の範囲を実質的に広げたり、変えたりすることもできません。

無効理由ごとに、反論の根拠があるか、適法な訂正で解消できるか、それでも解消できない問題が残るかを検討します。この振り分けが、答弁の組み立ての出発点になります。

3 訂正後も対象製品に権利行使できるか

訂正は、無効理由を解消できるかだけでは決まりません。訂正に伴う説明も、請求項の解釈に当たって参酌されることがあります。

先行技術と区別するために「この構成は単一の部材から成るものを指し、別の部材を接合したものを含まない」と説明したとします。権利行使の相手方の製品が接合品であれば、侵害を主張する場面でそれを含める解釈は採りにくくなります。無効審判で述べたことと、訴訟で述べることが、同じ請求項の同じ文言について両立するか。過去の出願経過での説明も含めて照合し、そのうえで採る解釈を定め、その解釈で相手方の製品をもう一度評価する、という順になります。

この評価では、2つの問いを分けます。1つは、相手方の製品が訂正後の構成要件を満たすと評価できるのか、満たさないのか、まだ分からないのかです。型番、仕様、対象としている時期ごとに分けます。現に売られているものだけでなく、損害賠償の対象になる過去の仕様も同じように見ます。もう1つは、満たすと評価する場合に、その根拠を裁判で示せるかです。訂正で追加し、または限定した要件について、どの資料でそれを示すのかを確かめます。現物を解析すれば足りるのか、それとも相手方の社内にある記録が必要なのか。手元にない証拠については、いつまでに入手できるかの見込みも立てます。

訂正で範囲を狭めたとき、文言の上では外れた構成について均等の主張が残る場面もありますが、先行技術と区別するために意識して除いたと評価されれば、その主張にも制約が生じ得ます。

表:答弁・訂正案を評価するための確認事項

検討事項確認する問い決めること
反論・訂正の成立性反論だけで無効理由を崩せるか。訂正案は適法で、無効理由を解消できるか。答弁の方針、訂正の要否と候補
解釈の整合先行技術と区別する説明は、相手製品を含める解釈や過去の説明と両立するか。採用する解釈、見直す主張
対象製品の範囲型番・仕様・対象時期ごとに、訂正後の全要件を満たすか。不充足と未確認を分けているか。行使対象に残す製品、外れる製品、追加確認の対象
立証の見通し追加・限定した要件を、どの資料で示すか。不足資料は入手・提出できるか。証拠収集の方針、訂正案を採るか
事業・契約への影響競合排除、ライセンス収入、約束した独占性、将来の製品展開にどう影響するか。通知・協議は必要か。許容する減縮の範囲、調整・説明の内容
判断と提出の時期訂正機会、訴訟上の提出時期、契約上の通知期限に対し、調査と社内決定は間に合うか。方針決定、提出、通知の時期

この表は当事務所による整理です。実際には、請求の理由の内容と訂正案の中身によって扱いが変わります。

4 侵害訴訟と並行しているとき

自社が権利行使をしている最中に、相手方から無効審判を請求されることがあります。侵害訴訟では、相手方は特許が無効にされるべきものであると主張でき、侵害事件を扱う裁判所もこれを判断します。

訴訟での判断は、その訴訟の当事者の間にとどまります。これに対し、無効とする審決が確定すれば、無効とされた請求項に係る特許権は、原則として初めから存在しなかったものとみなされます。一部の請求項について無効が確定しても、他の請求項まで当然に失われるわけではありません。

無効の主張に訂正で対抗するには、原則として特許庁で訂正を請求し、訴訟でも、訂正が適法であること、主張された無効理由が解消すること、相手方の製品が訂正後の技術的範囲に属することを具体的に示す必要があります。これが訂正の再抗弁です。訂正の確定を待つ必要はなく、法律上訂正を請求できない時期にも主張できる場合があります。事実審の口頭弁論終結までに主張しなければ、特段の事情がない限り、その後の訂正確定を理由にその判断を争えません。 終結前でも、時機に後れた主張として却下される場合があります。

5 契約と対外説明

ライセンス契約に、権利の有効性が争われた場合の通知や協議の条項が入っていることがあります。取引先に独占的な供給や実施を約束している場合、その約束が、訂正によって狭まった範囲でも果たせるのかを確認します。専用実施権者や質権者がいる場合は、訂正請求に必要な承諾も確認します。

通知・協議は契約条項に照らして確認し、説明では確認済みの事実と未確定の見通しを区別します。許諾の範囲をめぐる争いについては、知財ライセンス契約の紛争で扱っています。

6 審決が出た後

審決の謄本の送達があった日から30日以内に、審決取消訴訟を提起することができます。この期間は不変期間で、遠隔または交通不便の地にある者のために附加期間が定められることがあります。訴訟は知的財産高等裁判所が扱います。

答弁と訂正の方針は、訂正後も対象製品に権利を行使できるか、侵害訴訟や契約上の約束と両立するかまで見通して決める必要があります。当事務所では、無効理由と訂正案の検討、答弁書の作成を含む審判手続、侵害訴訟との並行対応、審決取消訴訟について、個別のご相談をお受けしています。

知的財産に関する当事務所の取扱いは、知的財産・IT・データをご覧ください。

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