Intellectual Property
グループ会社で使う技術・商標――再編後の利用と将来の切り分けをどう設計するか
持株会社化やグループ再編では、技術や商標をどの会社に置くかと、各社にどう使わせるかを併せて検討します。権利を移した会社や、グループに残る会社の利用も対象です。本稿では、帰属・移転と許諾の組合せを軸に、改良成果、将来の切り分け、税務との調整、海外への技術提供を整理します。
監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)
目次
1 再編後に、どの会社が何を使う必要があるか
まず、再編後に各社が続ける事業と、そのために必要な利用を整理します。製造・販売に加え、技術の改良、外部への製造委託、別会社への利用許諾まで必要かを確認します。そのうえで、現時点の権利者、実際の利用会社、利用の根拠となる契約・合意と利用実態を対応させます。帰属や許諾範囲がなお不明なものは、配置案を決める前の確認事項として残します。会計士・税理士とは再編の目的や対象事業を共有し、権利配置と税務上の検討を並行して進めます。親会社への集約を先に決めず、変更によって影響を受ける会社の双方を確認します。
検討する変更ごとの確認
配置や契約を検討する際は、場面ごとに、双方で確保したい利用と決める事項を整理します。
| 検討する変更 | 両側で確保する利用 | 決めておく事項 |
|---|---|---|
| 共通技術・ブランドを親会社に集約 | 親会社による管理と、各事業会社の製造・販売・改良 | 移す権利、各社の許諾範囲、維持管理の担当、新会社の追加方法、移転後の各社の利用開始時期 |
| 事業を別会社へ切り出す | 移る事業の利用と、元の会社に残る事業の利用 | 移す権利・契約、残る会社への許諾、第三者の承諾の要否、資料・情報の引渡し |
| 子会社の持分・支配関係が変わる | 対象会社とグループに残る会社の継続利用 | 見直しの契機、利用期間・対価、ブランド表示の変更、取得済み情報の利用を制限する範囲、改良成果へのアクセス |
| 海外子会社へ技術を提供する | 現地事業の利用と、提供元による情報・再提供の管理 | 対象国・利用者・用途・共有方法、許諾範囲、規制確認の担当と提供開始の条件 |
各行は検討事項の例です。変更だけで権利や利用条件が当然に変わることを示すものではありません。実際の手続と効力は、対象となる権利、再編の方法、既存契約等に応じて確認します。
2 権利の配置と、各社の利用の組合せ
A社の製造技術を、同じグループのB社も使っているとします。A社が持つ特許、製造条件を記した資料、設備を動かすソフトウェアについて、現在の帰属と利用契約を確認します。資料を保管している会社と権利者を同一視せず、第三者からの許諾による制約も整理します。
配置案の一つは、特許権を親会社P社へ移し、P社からA社・B社へ許諾する方法です。もう一つは、A社に権利を残し、B社への許諾を整える方法です。前者ではP社が維持・許諾を担える体制と各社の利用条件を、後者ではA社の判断にB社の事業が左右される範囲と継続利用の条件を比べます。共通ブランドの商標権はP社、事業固有の技術はA社という配置も考えられます。既存の許諾の扱いを確認し、権利を移す会社自身の利用も確保します。管理のしやすさだけでなく、各社に必要な利用、将来の売却、移転に伴う税務や第三者の承諾の要否を踏まえて選びます。
特許権を移しても、製造に必要なノウハウが十分に渡るとは限りません。どの資料・情報を誰に提供し、使用・開示をどこまで認めるかを定めます。制御ソフトウェアも、コードを保有しているだけで自由な改変や他社への提供が認められるわけではありません。必要な利用に対応する権限と、実際に引き渡すコード・資料の範囲をそろえます。
日本の特許の通常実施権は、その発生後に特許権を取得した者にも、登録を要せず対抗できます。商標の通常使用権は、その通常使用権を登録すると、登録後の商標権取得者にも対抗できます。この登録は、当事者間の許諾の成立要件ではありません。予定する譲受人との許諾継続の合意と、将来の第三者にも利用を主張するための登録の要否は、区別して検討します。利用会社の変更、契約の終了条件、技術支援等の義務の承継も別途確認し、権利移転と各社の利用に空白が生じないよう整えます。
関連記事:買収後、ソフトウェアの利用権限に疑義が生じたら(取得済みソフトウェアの利用権限を確認する場面について)
3 各社の利用条件と、将来の変化に備える条項
利用を認める会社は、現在の会社名だけでなく、新設・買収した会社を加える方法も決めます。「グループ会社」の範囲、追加を承認する者、対象事業・地域を明確にし、契約当事者として加えるのか、再許諾等で利用させるのか(再許諾の権限も確認します)を整理します。第三者から受けた許諾の範囲は、親会社の判断だけでは広げられません。
改良成果は、開発担当者・委託先との権利関係を確認し、帰属と各社の利用を定めます。不公正な取引方法の規制について、公取委指針は、完全親子・完全兄弟会社間の取引を通常、実質的に同一企業内の行為に準ずるものとして原則対象外としています。100%未満の子会社でも、株式の保有比率、役員派遣、財務や営業方針への関与、取引関係から、同様に扱われることがあります。これはグループ全体を独禁法から免除するものではなく、第三者の事業活動を制限する行為には及びません。また、グループ外の取引先にも同じ制限を課していれば、通常は、子会社に対しても一取引先として課したものとされ、原則として規制の対象になります。規制対象となる技術ライセンスでは、許諾先が開発した改良技術の権利を許諾元等へ移させる義務や、開発者自身も利用できない独占的許諾を許諾元にする義務は、原則として不公正な取引方法に当たります。元の技術との関係や対価など、例外に当たる事情も確認し、離脱後の成果にも義務を残す場合は見直します。
共通ブランドには、使用する商品・サービス、表示方法、品質確認と是正の手順を設けます。日本では、許諾先が指定商品・サービス又はこれらに類似するものについて登録商標又は類似商標を使用し、商品の品質・サービスの質の誤認や他人の業務に係る商品・サービスとの混同を生ずる場合、取消審判により登録が取り消されることがあります。ただし、商標権者がその事実を知らず、かつ相当の注意をしていた場合は除かれます。確認・是正は契約に定めるだけでなく、実際に運用します。
持分や支配関係が変わるときは、何を見直しの契機とするかを定めます。離脱後の利用は、対象技術・製品、期間、対価、改良成果へのアクセスを分けて検討し、ブランド表示の変更に必要な期間も決めます。情報への新たなアクセスを止めること、取得済みの情報の利用を制限する範囲、秘密保持や資料の返還・削除は別々に定めます。
4 対価・税務の検討条件の調整
対価の検討では、権利の移転と使用許諾を分け、対象、利用範囲、期間、独占性、開発・維持管理の負担を税務担当者と共有します。国内のグループ会社間でも、無償・低額の取引には、寄附金への該当性など税務上の検討が必要です。無償・低額とする理由と取引の実態を整理し、税務上の取扱いを確認して条件を決めます。法務は各社が取得する権利と負う義務を明確にし、税務担当者は再編方法や資本関係、取引の実態を踏まえて評価・税務処理を検討します。両者の前提をそろえて対価と契約条件を調整し、対象や利用範囲を変えるときは見直します。その検討経緯も記録します。国外関連者との取引については、移転価格税制等を別途検討します。
5 海外への技術提供と、共有方法の確認
海外子会社への技術提供は、出資関係だけで規制対象外にはなりません。まず、提供する図面・プログラムや技術指導の内容を特定します。共有フォルダの閲覧権限を付ける場合も、誰が何を取得・利用できるかを整理します。技術担当と輸出管理担当が、技術の仕様、提供先・利用者の所在地・居住性や外国法人等との関係、用途、提供方法を基に、規制対象の技術・取引に当たるかを確認します。リスト規制への該当性に加え、用途等による規制や適用除外の要件も検討し、許可の要否を判断します。法務は、その結果を許諾範囲、再提供の条件、資料交付やアクセス開始の条件に反映します。契約前の資料共有も確認の対象に含め、必要な許可を得る前に対象技術を提供しない運用とします。確認した技術・相手・判断根拠を記録し、技術や利用者を追加するときは見直します。
権利をどの会社に置くかと、各社にどう使わせるかは、改良成果、将来の再編や離脱、海外への提供まで一体で設計する必要があります。当事務所では、権利の配置と各社の許諾条件の設計、改良成果と離脱時の扱いを定める契約、海外子会社への技術提供に伴う契約と確認について、個別のご相談をお受けしています。
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