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国際売買の代金回収・品質紛争への対応
海外の取引先に商品を出荷したのに代金が支払われない、品質に問題があるとして支払を拒まれている、あるいは輸入した製品が仕様と異なっていた——国境をまたぐ物品の売買では、国内取引と同じ感覚で対応すると、権利を主張できる期間を過ぎてしまうことがあります。適用される法が日本の民法や商法とは限らず、検査や通知について、国内取引とは異なる規律が働く場合があるためです。
当事務所は、契約に適用される法の確認から、通知と証拠の整理、請求内容の検討、交渉、そして裁判・仲裁による解決と回収までを支援しています。売主として代金の回収を図る場合と、買主として品質や納期を争う場合とでは、確認の順序が異なります。このページでは、それぞれの立場で何をどの順序で確認するかを整理します。
ご相談いただけること相手方の言い分と期限の確認/契約に適用される法とCISGの確認/検査・通知の要否と内容/履行請求・解除・損害賠償の検討/交渉と裁判・仲裁の選択/回収手段の検討
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1 支払拒絶・納品遅延・品質問題が起きたとき
相手方の言い分と期限を確認する
まず確認していただきたいのは、相手方が支払や引取りを拒む理由として何を述べているか、その通知の内容はどのようなものか、いつ受領したか、そして回答の期限が設けられているかという点です。売主として代金を請求する場面では、これに加えて、引渡しまたは書類の交付をいつ完了したか、支払時期の根拠は契約上どこにあるか、支払の督促をいつ、どのような方法で行ったかを整理します。
ここで注意が必要なのは、相手方が示した期限が、すべて法令上の期限であるとは限らないという点です。契約上の期限である場合もあれば、相手方が交渉上設けた期限にすぎない場合もあります。他方で、法令や条約が定める通知の期間は、相手方が言及していなくても進行します。期限の性質を区別することが、最初の作業になります。
契約の内容を確認する材料
契約の内容は、署名された契約書だけで確定するとは限りません。注文書、承諾の連絡、取引基本契約、約款、仕様書、これらをやり取りしたメールも、契約の成立と内容を確認する材料になります。もっとも、やり取りがあれば契約が成立している、という単純な結論にはならず、どの文書がどの範囲の合意を示しているかを整理する必要があります。
証拠を残したまま対応する
品質が問題となっている物品について、返送、修補または廃棄を行う前には、その措置が現物や検査記録などの証拠に与える影響を確認してください。現物の保存を常に優先すべきだというわけではなく、保管費用や代替品の手配といった事情も踏まえて、保存の方法と範囲を検討することになります。
物品の処分は、証拠の確保だけでなく、解除や代替品の引渡しを求める権利にも影響することがあります。また、受け取った物品の拒絶を予定している場合でも、合理的な保存措置が必要になることがあります。
また、詳細な調査が終わっていない段階でも、契約と適用される法に応じた通知の要否、内容および期限を先に確認しておくことが重要です。ただし、暫定的な通知を出しておけば権利が保全されるわけではなく、通知に求められる内容は適用される規律によって異なります。通知先、通知の方法、通知の内容と、発送および到達を示す資料も保存します。通知が相手方に到達しなかった場合の扱いは、通知の種類によって異なりますので、すべての通知を同じものとして扱わないようにします。
2 契約に適用される法とCISGの確認
準拠法の確認
日本の裁判所で準拠法を判断する場合には、法の適用に関する通則法によります。同法は、法律行為の成立および効力について、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法によるとし、その選択がないときは、最も密接な関係がある地の法によるとしています。まず、契約に準拠法条項が置かれているかを確認します。外国の裁判所や仲裁廷で争われる場合には、その手続で適用される抵触法の規律を別に確認します。
CISGが適用される場面
国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)は、営業所が異なる締約国にある当事者間の物品売買契約について適用されます。双方の営業所所在国がいずれも締約国であるとはいえない場合、すなわち相手方の営業所が締約国以外にある場合であっても、国際私法の準則により締約国の法の適用が導かれるときには適用されることがあります。もっとも、この規律については留保を付している国があります。適用の判断では、関係する国・地域についての条約の発効日と留保の内容も確認します。国際私法を通じて適用される場合には、紛争を扱う裁判所の所在国や、国際私法により適用される法との関係も検討します。
適用の判断は、当事者の国籍ではなく、営業所がどこにあるかを基準とします。「国際取引だから適用される」という理解は正確ではありません。また、条約には、消費者向けの売買などの適用除外があるほか、物品を供給する当事者の義務の主要な部分が労務その他の役務の提供である契約も対象外とされています。委託加工や据付けを伴う機械の供給では、この点の検討が必要です。製造や生産を注文する契約については、注文者が必要な材料の実質的な部分を供給することを引き受けているかも、適用の判断に関わります。
日本法を準拠法としてもCISGが問題となり得ます
注意が必要なのは、契約書に「準拠法は日本法とする」と定めてあればCISGの適用は排除されている、という理解です。日本法の指定と条約の適用の排除とは別の意思表示として整理されるのが一般的な理解であり、日本法を指定しただけでは、条約の適用が当然に排除されるとは限りません。
条約は、当事者が条約の適用を排除することを認めています。したがって、条約の適用を望まないのであれば、その旨を契約書に明記して合意しておくことをお勧めします。既存の契約について確認する場合には、排除の合意が明示されているかをまず確認します。日本法を準拠法としていることや、契約の交渉時に条約を意識していなかったことだけを理由として、排除の合意があったと判断することはできません。
条約が規律しない事項
CISGは、契約の有効性や、物品の所有権に対する契約の効果については、原則として規律の対象外としています。条約が規律する事項について明文の規定がないものは、条約が基礎を置く一般原則により、それがない場合には国際私法の準則により適用される法によって解決するとされており、条約に書かれていないから直ちに日本の民法による、という整理にはなりません。
3 代金・品質の争点と検査・通知
売主の代金請求
CISGが適用される場合、買主は、契約およびこの条約に従い、代金を支払い、かつ、物品の引渡しを受領しなければならないとされています。支払の時期について特段の合意がないときは、売主が物品または物品を処分することを可能にする書類を買主の処分にゆだねた時に支払うものとされ、買主は、請求その他の手続を要することなく、支払の時期が到来した時に代金を支払わなければならないとされています。
ただし、買主は、原則として物品を検査する機会を有する時まで代金を支払う義務を負いません。当事者が合意した引渡しまたは支払の手続が、そのような検査の機会を設けることと両立しない場合には、別の取扱いとなります。
売主の側では、請求額の内訳、支払時期の根拠、引渡しまたは書類の交付の状況を整理したうえで、支払を求める通知を行います。買主が品質について主張している場合でも、争いのない部分の先行支払を求める交渉は可能です。売主は、代金の支払その他の義務の履行を請求することができますが、これと両立しない救済を求めた場合には、その請求はできません。支払を求め続けるか、解除して損失を確定させるかは、この段階で意識して選ぶことになります。
CISG上の検査と通知
CISGのもとでは、買主は、状況に応じて実行可能な限り短い期間内に、物品を検査し、または検査させなければならないとされています(輸送中の物品の転送などがある場合には、検査の時期に関する調整が定められています)。そして、物品の不適合を発見し、または発見すべきであった時から合理的な期間内に、不適合の性質を特定した通知を売主に対して行わない場合には、原則として、不適合を援用する権利を失うとされています。この「合理的な期間」について、条約が一律の日数を定めているわけではありません。物品の性質や取引の状況を踏まえて判断し、契約で通知の期間を定めている場合には、その内容と効力も確認します。
さらに、買主が物品を現実に交付された日から2年以内に不適合の通知を行わない場合には、この期間制限が契約上の保証期間と一致しない場合を除くほか、不適合を援用する権利を失うとされています。この2年を「その間はいつでも通知できる期間」あるいは「消滅時効」と理解することは適切ではありません。合理的な期間内の通知という要件を、別に満たす必要があります。
他方で、不適合が、売主が知り、または知らないはずがなかった事実であって買主に開示しなかったものに関係する場合には、売主は検査と通知に関する失権の規定を援用することができないとされています。また、買主が必要な通知をしなかったことについて合理的な理由がある場合には、代金の減額または得るはずであった利益の喪失の賠償を除く損害賠償を請求することができるとされています。
この二つは、効果の及ぶ範囲が異なります。通知を怠ったことについて合理的な理由がある場合の救済は、代金の減額と、逸失利益を除く損害賠償に限られます。これに対し、売主の認識と非開示に関する例外では、2年の期間制限を含め、検査・通知の規定を売主が援用できなくなります。いずれの場合も、各救済に固有の要件は別に満たす必要があります。
商法が適用される場面
物品の不適合に関する検査と通知について商法の規律を検討するのは、CISGの該当規定が適用されず、日本法が適用される商人間の売買に当たる場合です。CISGが適用される売買であれば条約によることになりますので、商法の規律を持ち出す前に、条約の適用の有無を確認する必要があります。
商法は、買主は、目的物を受領したときは遅滞なくその検査をしなければならないとし、検査により種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができないとしています。種類または品質に関する不適合で直ちに発見することができないものについては、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも同様であるとされています。
また、売主が不適合につき悪意であった場合には、この失権の規律は適用されないとされています。適用されないのは通知を怠った場合の失権の規律であり、検査義務まで不適用となるわけではありません。
二つの規律を同一視しないこと
CISGと商法は、いずれも検査と通知を求める規定ですが、通知の期間、起算点、失権の効果、例外の内容が異なります。「CISGは2年、商法は6か月が時効である」といった整理は、いずれについても正確ではありません。次の表は、両者の違いを整理したものです。
| 確認事項 | CISGが適用される場合 | 商法が適用される場合 |
|---|---|---|
| 検査の時期 | 状況に応じて実行可能な限り短い期間内 | 目的物を受領したときは遅滞なく |
| 通知の期間 | 不適合を発見し、又は発見すべきであった時から合理的な期間内 | 検査により発見したときは直ちに |
| 外側の期間制限/発見が困難な場合 | 不適合の通知一般について、現実の交付から2年以内という制限がある(契約上の保証期間との関係による例外がある) | 種類又は品質に関し直ちに発見できない不適合は、6箇月以内に発見したときも同様の規律による |
| 売主の認識・非開示による例外 | 不適合が、売主が知り、又は知らないはずがなかった事実で、買主に開示しなかったものに関係する場合。2年の制限を含め、検査・通知の規定を売主が援用できない | 売主が不適合につき悪意であった場合(失権の規律を適用しない) |
| 通知を怠った合理的な理由による例外 | 代金の減額と、逸失利益を除く損害賠償に限られる。2年の制限には及ばない | ― |
| 通知を怠った場合 | 原則として不適合を援用する権利を失う | 追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び解除ができない |
いずれの規律が適用されるかは、準拠法とCISGの適用の有無によって決まります。表の内容は概要であり、具体的な事案では、条文の文言と取引の経緯に即した検討が必要です。
仕様の不適合と輸送中の事故を切り分ける
品質の問題としてご相談を受ける事案には、仕様そのものに適合しない場合と、輸送中の滅失または損傷による場合とが混在しており、確認すべき事項が異なります。
不適合の判断では、仕様書の記載だけでなく、通常の用途、売主に知らされた特定の用途、見本、包装なども確認します。また、危険が買主に移転した後に不具合が判明しても、その時点ですでに存在していた不適合については、売主の責任が問題となります。
CISGは、危険が買主に移転した後に生じた滅失または損傷について、それが売主の作為または不作為による場合を除き、買主が代金を支払う義務を免れないとしています。危険の移転の時期は、運送を伴う売買、運送中の物品の売買、その他の場合に分けて定められています。契約でIncotermsが採用されている場合には、その版、規則の三文字表記、指定地点までを確認します。Incotermsは、引渡し、危険の移転、費用の負担に加えて、運送・保険の手配や輸出入の通関などの義務の分担を定めますが、代金の支払条件や所有権の移転を定めるものではありません。費用を負担する当事者と危険を負う当事者とが一致するとは限らない点にも注意が必要です。
4 履行請求・契約解除・損害賠償
解除のしきい
CISGは、契約違反が、相手方がその契約に基づいて期待することができたものを実質的に奪う結果となる不利益を生じさせる場合に、重大な契約違反に当たるとし、予見可能性に関する例外を定めています。品質に問題があった、納期に遅れたという事実だけで重大な契約違反に当たるとは限らず、契約の目的、不利益の程度、予見可能性を個別に評価することになります。
他方で、重大な契約違反だけが解除の経路ではありません。物品が引き渡されない場合の買主、代金が支払われない場合や受領の義務が履行されない場合の売主については、付加期間を定め、その期間内に履行がされないことなどを理由として解除する経路も定められています。ただし、対象となる不履行は限定されており、品質に問題がある場合について、期間を定めて催告すれば解除できるという一般化はできません。
売主は、買主による義務の履行のために合理的な長さの付加期間を定めることができます。もっとも、期間内に履行しない旨の通知を買主から受けた場合を除き、その期間中は契約違反についての救済を求めることができないとされています(履行の遅滞についての損害賠償を請求する権利は失われません)。付加期間を定めるかどうかは、期間中の対応が制約されることを踏まえて決めることになります。
また、CISG上の解除は、相手方に対する通知によって行うものとされ、一定の場合には合理的な期間内に解除の意思表示をする必要があるとされています。契約違反があれば自動的に解除されるわけではありません。
買主の救済の選択
不適合に対する買主の救済には、修補の請求、代替物の引渡しの請求、代金の減額があり、それぞれ要件が異なります。代替物の引渡しを求めるには不適合が重大な契約違反となることなどが必要とされ、代金の減額にも算定方法や追完との関係に関する規律があります。どの救済を選ぶかは、事業上の必要と要件充足の見込みを踏まえた判断になります。
修補や代替物の引渡しを求める場合には、不適合を通知するだけでなく、その通知の際またはその後の合理的な期間内に、それぞれの請求を行う必要があります。通知さえ済ませておけば救済の選択をいつでもできる、というものではありません。売主から追完の申出があった場合の対応も、あわせて確認します。
損害賠償の範囲
CISGは、契約違反による損害賠償の額を、逸失利益を含む損失に相当する額としつつ、違反をした当事者が契約の締結時に予見し、または予見すべきであった損失を超えることができないとしています。発生した損失をすべて回収できるという前提で見通しを立てることは適切ではなく、因果関係と損害額の立証、契約上の責任制限条項の有無もあわせて確認する必要があります。
また、契約違反を援用する当事者が、損失を軽減するために合理的な措置をとらなかった場合には、違反をした当事者は、軽減され得た損失額の賠償の減額を請求することができるとされています。もっとも、特定の代替調達や転売が常に義務付けられるわけではなく、その措置が合理的であったか、どれだけ軽減できたかは、個別に評価されます。
利息
代金その他の支払が遅滞した場合には、相手方は、損害賠償を請求する権利を害されることなく、その額について利息を請求することができるとされています。もっとも、条約は利率について定めを置いていません。利息が発生することと、利率がいくらになるかとを分けて確認する必要があります。利率の決め方には解釈の相違があり、国際私法により適用される法によるという考え方のほか、条約の一般原則から導く考え方もあります。契約上の合意と、審理を行う裁判所・仲裁廷の取扱いを確認することになります。契約や請求書に遅延利息の定めがある場合には、その記載が契約の内容となっているかもあわせて確認します。
免責
CISGには、自己の支配を超える障害によって義務を履行しなかった場合の免責に関する規定があります。免責が認められるには、不履行が自己の支配を超える障害によって生じたことに加えて、契約の締結時にその障害を考慮することや、障害またはその結果を回避し、もしくは克服することを合理的に期待できなかったことを、免責を主張する当事者が証明する必要があります。
免責を主張する当事者は、障害および障害が自己の履行能力に及ぼす影響について相手方に通知しなければならず、その通知が、障害を知り、または知るべきであった時から合理的な期間内に相手方に到達しなかった場合には、到達しなかったことによって生じた損害について責任を負います。
免責が認められたとしても、その効果は損害賠償の請求を免れさせることにとどまり、損害賠償以外の救済まで当然に失われるわけではありません。不可抗力であればすべての義務と責任が消える、という整理は正確ではなく、免責の要件と、各救済の要件を分けて検討することになります。
5 交渉・裁判・仲裁と回収手段
どこで争うか
準拠法の指定とは別に、裁判管轄の合意や仲裁合意の有無と効力を確認します。日本法を準拠法としていても、当然に日本で訴訟ができるわけではなく、仲裁合意があるからといって訴えが自動的に却下されるとも限りません。合意の有効性と対象範囲、相手方の対応によって進め方が変わります。
日本国内の資産に対する保全
外国で本案を争う案件であっても、日本国内に相手方の資産がある場合には、日本で仮差押えを検討できることがあります。判断を得てから考えればよい、というものではありません。民事保全法は、保全命令の申立てについて、日本の裁判所に本案の訴えを提起することができるとき、または仮に差し押さえるべき物もしくは係争物が日本国内にあるときに限り、することができるとしています。仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、または強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができるとされ、保全すべき権利または権利関係および保全の必要性は疎明しなければならないとされています。相手方が外国企業であることや、支払を拒んでいることだけで、保全の必要性が認められるわけではありません。
また、保全命令は、担保を立てさせて発することも、担保を立てさせないで発することもできるものとされています。実際には担保を求められることが多く、担保の額と、その供託に要する期間を見込んでおく必要があります。仲裁合意がある場合でも、裁判所に対する保全処分の申立ては妨げられず、この規律は仲裁地が日本国外にある場合や定まっていない場合にも適用されます。
決済条件と担保の確認
代金の回収を検討する場面では、その取引にどのような決済条件が用いられていたかが結論を左右します。信用状が用いられている場合には、売買契約に基づく請求とは別に、信用状の条件に適合する書類を呈示したかという問題が生じます。銀行は書類の記載に基づいて判断するため、物品に問題がなかったかという争いとは区別して検討する必要があります。信用状については、適用される規則、有効期限、書類の呈示の期限と呈示先も確認します。
前受金、保証状、親会社の保証、保険が付されている場合には、それぞれの条件と請求の期限を確認します。相手方の資力に不安がある場面では、訴訟や仲裁よりも現実的な選択肢となることがあります。
取引を継続するかどうかの判断
継続的な供給関係がある場合、一方的に出荷を停止すると、こちらが契約違反を問われることがあります。他方で、代金が支払われていない状態で出荷を続ければ、損失は拡大します。
この判断では、まず契約上、支払の遅延を理由に出荷を停止できる定めがあるかを確認します。CISGが適用される場合には、相手方の履行をする能力もしくは信用力の著しい不足、または契約の履行の準備もしくは履行における相手方の行動により、相手方が義務の実質的な部分を履行しないであろうという事情が契約の締結後に明らかになったときに、自己の義務の履行を停止することができるとされています。契約の締結後に能力や信用力が低下した場合に限られるわけではなく、締結の時から存在していた不足が後に明らかになった場合も含まれます。物品の発送後にその事由が明らかになった場合について、物品が買主に交付されることを妨げる措置に関する規律も置かれています。
履行を停止した当事者は、直ちに相手方に対して停止の通知を発しなければならず、相手方が履行について適切な保証を提供したときは、履行を継続しなければならないとされています。停止する場合には、その理由と範囲を明確にし、再開に向けてどのような保証を求めるかも検討します。適切な保証に当たるかどうかは、具体的な事情に即して判断されますので、停止した側が示した条件だけが適切な保証になるわけではありません。
引き取られない物品の扱い
買主が物品の受領を遅滞している場合、または代金の支払と物品の引渡しが同時に行われるべきところ買主が代金を支払っていない場合に、売主が物品を占有し、またはその処分を支配できるときは、売主は、物品を保存するために状況に応じて合理的な措置をとらなければならないとされています。その費用が不合理でない限り、相手方の費用で第三者の倉庫に寄託することもできます。
保存の義務を負う当事者は、相手方が物品の占有の取得、その取戻しまたは代金等の支払を不合理に遅滞したときは、適切な方法で物品を売却することができます。この場合には、売却する意思について相手方に合理的な通知をしなければなりません。
これとは別に、物品が急速に劣化しやすいものである場合や、保存に不合理な費用を伴う場合には、売却のための合理的な措置をとらなければならないとされています。こちらは義務であり、選択できる手段の一つというわけではありません。この場合も、可能な限り相手方に通知します。
売却した当事者は、代金から保存および売却に要した合理的な費用に相当する額を留保する権利を有し、残額は相手方に支払います。これは、解除したうえで代替取引を行い、差額を損害賠償として請求する場面とは区別されます。
判断を得た後の実現
外国判決に基づいて日本で強制執行をするには確定した執行判決が、仲裁判断に基づく場合には確定した執行決定が必要です。外国で勝訴すれば日本で直ちに回収できるわけではありません。手続の内容と必要な資料は、外国判決・仲裁判断の日本での承認・執行のページで取り上げています。相手方の所在国で手続を進める場合には、現地の手続、費用、期間および執行の可能性を、現地の専門家とともに確認します。
6 ご相談時に共有いただく事項と対応方針
資料
契約書、注文・出荷・検査の記録、相手方との往復の連絡、検査結果、追加費用の明細などを照合できると、争点の整理が進みます。すべてがそろわなければご相談いただけない、ということではありません。分かる範囲で共有いただければ、確認の順序をご提案します。
契約条項と期限の確認
不可抗力条項、責任制限条項、制裁に関する条項については、その文言と適用される法を踏まえて、履行義務と損害賠償責任を分けて検討します。外国法が適用される場合には、条項の有効性と解釈を別に確認する必要があります。
交渉を続けている間も、通知の期限と消滅時効は、それぞれ適用される規律に従って進行します。交渉を続けていることだけで、通知の期限や時効への対応が不要になるわけではありません。時効については、適用される法に応じて、協議を行う旨の合意や権利の承認などによる完成猶予・更新の有無も確認します。
和解による解決
和解や分割払いを検討する場合には、支払の期限、通貨、送金費用の負担、担保、権利放棄の範囲、合意に違反した場合の対応を整理します。相手方の履行能力と、合意が履行されなかった場合の執行の可能性もあわせて確認します。
7 当事務所の対応
当事務所では、まず、適用される法とCISGの適用の有無を確認し、通知の要否と期限を整理します。そのうえで、請求の根拠を特定し、相手方への通知や回答の内容を検討します。保全の要否と可否は、相手方への通知や交渉との順序も含め、初期の段階で検討します。交渉による解決が難しい場合には、契約上の紛争解決条項に従って訴訟または仲裁を検討します。外国法の内容が結論を左右する場合には、確認すべき事項を整理したうえで、現地の弁護士と分担して進めます。
企業内での実務経験を有する弁護士と、裁判官としての経歴を有する弁護士が協働し、事業上の判断と、訴訟になった場合の見通しの双方を踏まえてご提案することを心がけています。
よくあるご質問
契約書に「準拠法は日本法とする」とあります。CISGは関係ありませんか。
日本法の指定があっても、CISGの適用が当然に排除されるとは限りません。排除の合意があるかどうかを契約書の文言に即して確認し、営業所の所在や適用除外の有無とあわせて検討することになります。
商品を受け取ってから3か月経って不具合が見つかりました。もう請求できませんか。
受領から3か月が経過したことだけで、請求できないと決まるわけではありません。結論は、適用される規律によって異なります。CISGが適用される場合には、不適合を発見し、または発見すべきであった時から合理的な期間内の通知が必要とされ、あわせて現実の交付から2年以内という期間も問題となります。CISGが適用されず、日本法が適用される商人間の売買であれば、商法の規律が働きます。いずれの場合も、いつ発見できたか、どのような通知を行ったかが重要になりますので、経緯を整理したうえでご相談ください。
品質に問題があるので、契約を解除して代金を取り戻したいのですが。
CISGが適用される場合、解除には重大な契約違反であることなどが必要とされており、そのしきいは高いと理解されています。解除以外にも、修補の請求、代替物の引渡しの請求、代金の減額、損害賠償といった選択肢がありますので、事業上の必要に照らして検討することをお勧めします。
相手方が「不可抗力だ」と主張しています。応じるべきでしょうか。
契約の不可抗力条項の文言と、適用される法の規律を確認する必要があります。相手方が主張する事情が条項や条約の要件を満たすか、障害についての通知がされているか、免責が認められる場合に損害賠償以外の救済がどうなるかを、分けて検討することになります。
相手方の資産の所在が分かりません。日本で仮差押えはできますか。
日本国内に資産があれば、仮差押えを検討できる場合があります。ただし、保全すべき権利と保全の必要性の疎明が必要で、対象となる財産を特定する必要もあります。資産の所在が不明な段階では、まず取引の経緯から確認できる情報を整理します。
金額がそれほど大きくありません。それでも相談する意味はありますか。
請求額が大きくない場合には、手続の費用と回収の見込みを踏まえて、交渉による解決を優先すべきこともあります。その場合でも通知の期限や時効の管理は必要で、同じ取引先との取引を続けるかという判断も残ります。方針の整理という形でのご相談も承っています。
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早期のご相談が、対応の選択肢を確保するために重要です。
お問い合わせフォームへ本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。
