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医療機関のM&Aと医療法・行政手続

医療法人や診療所のM&A・事業承継では、株式会社の株式譲渡とは異なり、開設主体や医療法人の類型に応じて、社員・役員の変更、出資持分の取扱い、事業譲渡、合併・分割などの方法を検討する必要があります。

取引方法によって、医療法上の認可・届出等、保険医療機関の指定、診療記録や雇用関係の承継方法も異なるため、これらを取引日程とあわせて整理することが重要です。

当事務所では、法務調査(デュー・ディリジェンス)、契約、行政手続の検討から、取引の実行(クロージング)とその後の法務まで、医療機関のM&Aに伴う法的課題について支援します。

国内外の医療機関(病院・診療所)の買収案件を取り扱った経験を有する弁護士のほか、裁判官として東京地方裁判所の医療集中部で医療関係訴訟の審理を担当した弁護士が在籍しています。

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まず確認すること

以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。未定の事項がある段階や、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。

  1. 開設主体と医療法人の類型――病院・診療所を誰が開設しているかを確認します。医療法人の場合は、社団・財団の別、社団の場合は出資持分の定めの有無も確認します。
  2. 社員・出資者・役員・管理者の状況――社団医療法人では、現在の社員、出資者、理事・理事長等をそれぞれ確認します。病院・診療所の管理者についても、現在の状況と承継後の予定を整理します。
  3. 承継したい範囲と希望する時期――法人全体の経営を承継するのか、特定の病院・診療所や事業を承継するのかを確認します。取引方法が未定でも、希望する承継範囲と時期が分かれば、必要となる手続を検討できます。
  4. 保険医療機関の指定・施設基準――現在の保険医療機関の指定状況と、届け出ている主な施設基準を確認します。承継後に診療体制や人員配置を変更する予定がある場合は、その内容も確認します。
  5. 病床・開設に関する認可・届出等――病院や有床診療所では、病床数・病床の種類その他の状況を確認します。移転や開設主体の変更を予定している場合には、その内容も共有いただきます。
  6. 保険請求・行政対応の状況――保険診療に関する指導・監査、返還・自主返還、医療法上の立入検査や行政指導等について、把握している事項や関係資料を確認します。
  7. 医師・スタッフ、施設・設備、主要な契約――医師・看護師その他の職員、建物の賃貸借、医療機器の所有・リース、重要な業務委託等を確認します。MS法人その他の関係事業者との取引がある場合には、その契約内容や役員等の関係も確認します。
  8. 診療記録・患者情報と承継後の変更事項――カルテその他の診療記録の管理方法、電子カルテ等のシステム、患者情報の利用目的を確認します。医療機関の名称、ウェブサイト、診療体制等を変更する予定がある場合には、その内容も共有いただきます。

現在把握している情報や資料を基に、取引方法の選択と、追加で確認すべき事項を整理します。

ご相談いただけること取引方法の検討/法務調査/M&A契約・条件交渉/認可・届出等と保険医療機関の指定の整理/診療記録・個人情報の承継/取引実行後の体制・表示

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目次
  1. 1 開設主体と医療法人の類型を確認する
  2. 2 取引方法を選ぶ――社員・役員の変更、事業譲渡、合併・分割
  3. 3 取引方法に応じて認可・届出等と保険医療機関の指定を確認する
  4. 4 法務調査で医療機関特有のリスクを確認する
  5. 5 調査結果と行政手続を契約条件に反映する
  6. 6 取引実行後の診療体制・患者情報・表示を確認する
  7. よくあるご質問

1 開設主体と医療法人の類型を確認する

医療機関のM&A・事業承継では、最初に、誰が病院・診療所を開設しているのか、医療法人であればどの類型に当たるのかを確認します。医療法人の仕組みは株式会社とは異なり、同じ「経営の承継」であっても、開設主体や法人類型によって検討する取引方法や手続が変わります。

医療法人と株式会社のM&Aとの違い

医療法人には、株式会社の「株式」に相当する仕組みがあるわけではありません。社団医療法人では社員が法人の構成員となり、持分の定めのある医療法人であっても、出資持分と社員たる地位は別のものです。また、医療法人は剰余金の配当をすることができません。

そのため、株式会社の株式を取得して経営権を承継する場合と同じ考え方を、そのまま医療法人に当てはめることはできません。社員、出資持分、理事・理事長等の役員、病院・診療所の開設者・管理者を区別したうえで、何をどのように変更・承継するのかを検討します。

事業会社や投資家が関与する場合も、通常の会社買収と同じように医療法人の株式を取得することを前提にはできません。一方、資金提供、MS法人その他の関係事業者との取引などを通じて事業会社等が関与する場面はあるため、医療機関の開設・経営の責任主体や医療法人の非営利性との関係を踏まえて、具体的な関与方法を検討します。

開設主体・類型法人の構成・出資持分主な承継方法最初に確認する事項
持分の定めのある社団医療法人社員が法人の構成員で、定款に出資持分に関する定めがあります。社員資格、出資持分、役員構成はそれぞれ別に確認します。法人を存続させたまま社員の入退社・役員変更等によって経営体制を承継する方法のほか、事業譲渡や合併等を検討します。必要に応じて出資持分の移転もあわせて検討します。定款、現在の社員・出資者・役員、出資持分の状況を確認します。社員の退社に伴う出資持分の払戻しについて、定款がどのように定めているかも確認します。
持分の定めのない社団医療法人社員が法人の構成員ですが、出資持分はありません。社員資格と役員構成を分けて確認します。法人を存続させたまま社員の入退社・役員変更等によって経営体制を承継する方法のほか、事業譲渡、合併等を検討します。分割は法人の種類や認定状況等によって利用できない場合があります。定款、社員・役員の構成、基金の有無、開設する医療機関に関する認可・届出等を確認します。承継後の社員・役員構成もあわせて整理します。
財団医療法人社員や出資持分はなく、評議員会、理事会等の機関があります。法人の運営については寄附行為の内容を確認します。評議員・役員等の構成変更のほか、事業譲渡、合併や、要件を満たす場合の分割等を検討します。寄附行為、評議員・役員の構成、財産の状況等を確認します。合併・分割を検討する場合は、寄附行為と医療法上の要件も確認します。
医師・歯科医師が個人で開設する診療所法人の社員や出資持分はありません。診療所の資産、契約、雇用関係等は開設者個人との関係を確認します。事業譲渡等により、設備、契約、雇用関係その他の承継対象を個別に整理します。承継後の開設や保険医療機関の指定について、別途手続が必要となる場合があります。開設に関する届出等、保険医療機関の指定、賃貸借・医療機器・雇用関係、診療記録の管理状況等を確認します。承継後の開設者・管理者も整理します。
開設主体・法人類型ごとの主な確認事項の例です。個別の取引では、定款・寄附行為と実際の運営状況を確認したうえで検討します。

持分の定めのある社団医療法人

持分の定めのある社団医療法人の「出資持分」は、株式会社の株式と同じものではありません。出資持分は、定款の定めに基づく社員の退社時の払戻しや法人の解散時の残余財産の分配などに関係する財産上の権利であり、それ自体が社員たる地位や議決権を示すものではありません。

そのため、M&A・事業承継では、誰が出資持分を有しているか、誰が社員であるか、誰が理事・理事長等の役員であるかを分けて確認します。社員は、出資持分の有無や額にかかわらず、一人一個の議決権を有します。

また、出資持分の内容は定款によって確認する必要があります。特に、社員の退社に伴う出資持分の払戻しについてどのような定めが置かれているかは、取引方法を検討する際の確認事項となります。出資持分の評価や税務上の取扱いについては、必要に応じて税理士等の専門家と連携して検討します。

持分の定めのない社団医療法人

持分の定めのない社団医療法人にも社員がおり、社員総会が法人の意思決定に重要な役割を担います。一方、持分の定めのある医療法人と異なり、社員に出資持分はありません。

そのため、法人自体を存続させながら経営体制を承継する場合には、定款に基づく社員の入退社と、理事・理事長等の役員構成をそれぞれ確認します。基金が設定されている法人では、基金についてもその内容を確認します。

事業譲渡、合併、分割等を検討することもありますが、分割については、社会医療法人その他の一定の医療法人では利用することができません。法人の種類や認定状況を確認したうえで取引方法を検討します。

財団医療法人

財団医療法人には社団医療法人の「社員」はおらず、出資持分もありません。評議員会や理事会等によって運営されるため、経営体制の変更を検討するときは、寄附行為と現在の評議員・役員の構成を確認します。

また、財団医療法人について事業譲渡や合併等を検討する場合には、寄附行為上の手続と医療法上の手続をそれぞれ確認します。分割についても、寄附行為の定めや法人の種類・認定状況等によって利用可能性が異なります。

個人で開設している診療所

医師・歯科医師が個人で開設している診療所には、承継の対象となる法人そのものがありません。このため、診療所の建物・設備、医療機器、賃貸借、雇用関係、業務委託その他の契約などについて、何を承継するのかを個別に整理します。

また、事業上の資産や契約を承継することと、承継後の医師・医療法人が診療所を開設し、保険診療を行うために必要な手続とは別の問題です。開設主体が変わる場合には、医療法上の開設に関する手続や保険医療機関の指定等をあわせて確認する必要があります。

2 取引方法を選ぶ――社員・役員の変更、事業譲渡、合併・分割

医療機関のM&A・事業承継では、対象となる法人・事業をどのような方法で承継するかによって、承継される権利義務や必要となる認可・届出等が異なります。法人全体の経営を引き継ぐのか、特定の病院・診療所や事業だけを承継するのかを整理したうえで、法人類型や希望する取引時期も踏まえて方法を検討します。

法人継続型の経営承継

社団医療法人では、法人自体を存続させたまま、社員の入退社や理事・理事長等の変更によって経営体制を承継する方法があります。本ページでは、このような方法を「法人継続型の経営承継」と呼びます。法律上の制度名ではありません。

持分の定めのある社団医療法人では、出資持分を移転しただけで法人の意思決定権が当然に移るわけではありません。現在の社員・役員構成と定款を確認したうえで、出資持分の取扱い、社員の入退社、理事・理事長等の変更をそれぞれどのように行うかを検討します。

持分の定めのない社団医療法人でも、社員と役員は区別して考える必要があります。社員の入退社や役員変更について、定款、社員総会・理事会等の機関決定、就任時期などを整理し、承継後の運営体制につなげます。

法人自体が存続する場合でも、理事長や病院・診療所の管理者の変更、定款変更等に伴う認可・届出等が必要となることがあります。具体的な手続は、次章で説明します。

事業譲渡・個人診療所の承継

事業譲渡では、法人そのものが移るのではなく、対象となる事業に関係する資産、契約その他の権利義務について、承継する範囲を定めます。建物・賃借権、医療機器、リース、雇用関係、業務委託その他の契約などについて、取引対象とするものと承継方法を個別に確認します。

個人で開設している診療所を承継する場合も、法人の持分や社員たる地位を取得する方法ではなく、診療所の事業を構成する資産・契約等を整理することになります。どの契約がそのまま承継されるか、相手方の同意や新たな契約が必要かについては、それぞれの契約内容や取引方法に応じて確認します。

一方、事業上の資産や契約を承継できることと、承継後の開設者が同じ病院・診療所で診療を開始できることは別の問題です。開設主体が変わる取引では、医療法上の開設手続や保険医療機関の指定等を取引日程とあわせて検討します。

医療法人の合併

医療法人には、吸収合併と新設合併の制度があります。合併では、消滅する医療法人の権利義務が法定の仕組みにより存続する医療法人または新設される医療法人へ承継されるため、資産・契約等を個別に移転する事業譲渡とは法的な仕組みが異なります。

合併には、医療法人内部の所定の手続に加えて、都道府県知事の認可が必要です。また、合併前の法人類型によって、合併後の医療法人の類型にも違いが生じるため、定款・寄附行為や出資持分の有無を確認したうえで検討します。

医療法上、合併によって一定の許可その他の処分に基づく権利義務も承継される仕組みがあります。ただし、保険医療機関の指定を含むすべての行政上の地位が当然に同じように承継されるという意味ではないため、それぞれの制度について別途確認します。

医療法人の分割

医療法人の分割は、医療法人が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の医療法人または新たに設立する医療法人へ承継させる制度です。事業譲渡とは異なり、分割契約または分割計画に定めた権利義務を法定の仕組みにより承継させます。

もっとも、すべての医療法人が分割制度を利用できるわけではありません。持分の定めのある医療法人、社会医療法人その他の一定の医療法人は対象外とされているため、まず対象法人が分割を利用できるかを確認します。

分割を利用する場合にも、法人内部の手続、都道府県知事の認可、債権者に関する手続等が関係します。どの事業と権利義務を承継させるのかを明確にし、取引日程と行政手続をあわせて検討する必要があります。

秘密保持・基本合意から法務調査、契約交渉、取引実行までのM&A全般の流れについては、「M&A(合併・買収)の法務支援」をご覧ください。本ページでは、医療機関のM&Aで特に検討が必要となる事項を中心に説明します。

3 取引方法に応じて認可・届出等と保険医療機関の指定を確認する

医療機関のM&Aでは、認可・届出等を取引実行の直前に確認するのではなく、取引方法を検討する段階から、必要となる手続とその時期を整理することが重要です。法人をそのまま存続させる場合、開設主体が変わる場合、合併・分割を利用する場合では、確認すべき手続が異なります。

法人継続型の経営承継で確認する手続

法人継続型の経営承継では、医療法人そのものは存続しますが、社員・役員等の変更に伴う法人内部の手続や認可・届出等を確認します。社員の入退社について定款に定める手続を確認するとともに、理事・監事等の役員に変更がある場合には、医療法上の役員変更の届出等が必要となります。

承継に伴って定款を変更する場合は、変更内容に応じて都道府県知事の認可または届出の要否を確認します。また、理事長を変更する場合には、候補者が医療法上の要件を満たすかも確認します。医師・歯科医師でない理事を理事長とする場合には、都道府県知事の認可が必要となるため、その要件・手続を確認します。

病院・診療所の管理者を変更する場合にも、所定の届出等を確認します。法人自体が同一であっても、医療法人の役員、医療機関の管理者、保険医療機関として届け出ている事項はそれぞれ別に確認する必要があります。

事業譲渡・個人診療所の承継で確認する手続

事業譲渡や個人診療所の承継によって病院・診療所の開設主体が変わる場合は、従前の開設者が有する地位をそのまま承継できると考えるのではなく、承継後の開設主体に必要となる手続を確認します。

医療法上、病院を開設する場合や、医療法人等が診療所を開設する場合には開設許可が関係します。これに対し、所定の臨床研修等を修了した医師・歯科医師本人が診療所を開設する場合には、開設後の届出を基本とするなど、開設主体によって手続が異なります。施設や病床の状況によっては、使用許可その他の手続も確認します。

病院や有床診療所では、病床を単純な資産として承継できると考えることはできません。病床数、病床の種別、所在地その他の計画内容に応じ、医療計画との関係を含めて必要となる許可・届出等を確認します。

また、外来医師が多い区域として指定・公示された区域で、入院施設を有しない診療所を新たに開設する場合には、開設前の届出その他の手続が必要となることがあります。この仕組みは令和8年4月から設けられており、既存の診療所を承継する場合の取扱いも承継の態様や事情によって異なるため、開設予定地の区域の指定状況とあわせて確認します。

このため、事業譲渡契約上の取引実行日だけを先に決めるのではなく、新しい開設主体による診療開始に必要となる手続を確認したうえで、取引実行と診療体制の切替えの日程を検討します。

合併・分割で確認する認可と承継

医療法人が合併をする場合には、法人内部で必要となる決定を経たうえで、医療法上の合併認可を受ける必要があります。分割を利用する場合も、対象法人が分割制度を利用できるかを確認したうえで、分割契約または分割計画について所定の手続を進め、都道府県知事の認可を受けます。

合併では消滅する医療法人の権利義務が包括的に承継され、分割では分割契約または分割計画に定めた権利義務が承継されます。医療法上、病院・診療所等の施設について同法上の許可その他の処分に基づく一定の権利義務も承継の対象となる仕組みがあります。

もっとも、この効果から、医療機関に関係するすべての認可・指定等が当然に承継されると考えることはできません。医療法以外の法令に基づく指定や届出等については、それぞれの制度に基づいて承継の有無や必要となる手続を確認します。

また、合併・分割の認可手続や法人登記だけでなく、承継後の役員・管理者、施設基準その他の変更事項について、取引実行後に必要となる届出等がないかも確認します。

保険医療機関の指定・施設基準を取引日程に組み込む

医療法上の法人・施設の承継と、健康保険法上の保険医療機関の指定は別に確認する必要があります。開設者の変更等に伴って新たな保険医療機関の指定申請が必要となる場合があり、法人や事業を承継すれば従前の指定が当然にそのまま承継されるとは限りません。

従前の保険医療機関を廃止して新たな指定を受ける場合でも、一定の要件を満たすときには指定期日を遡及する取扱いがあります。ただし、遡及指定の対象となるか、どのような申請・事前の相談が必要となるかは、開設者の変更その他の具体的な事情によって異なります。この取扱いについては令和8年9月から新しい通知に基づく運用となっているため、取引方法を決める段階から、管轄の地方厚生(支)局の取扱いを確認します。

診療報酬上の施設基準についても、保険医療機関の指定とは別に確認します。承継前の医療機関で届け出ていた施設基準について、承継後も算定を続けるために新たな届出その他の手続が必要となる場合があるため、承継後の人員・設備・診療体制とあわせて整理します。

医療法上の認可・届出等、保険医療機関の指定、施設基準は、それぞれ手続の根拠と確認先が異なります。取引方法と希望する取引実行時期を踏まえて必要となる手続を整理し、法務上の取引日程に反映します。

4 法務調査で医療機関特有のリスクを確認する

医療機関の法務調査では、一般的な法人・契約関係の確認に加えて、保険診療、医療安全、診療記録、医療法人の運営など、医療機関に特有の事項を確認します。確認された事項は、取引を行うかどうかだけでなく、取引方法、契約条件、行政手続や承継後の対応を検討するための材料となります。

保険診療・施設基準・行政対応

保険診療を行う医療機関については、保険医療機関の指定、届け出ている施設基準、診療報酬の請求体制などを確認します。指導・監査、適時調査その他の行政対応を受けたことがある場合には、その内容、対応状況や関係資料も確認します。

診療報酬の請求については、施設基準や算定要件を満たしていなかったことなどが判明した場合、返還・自主返還が問題となることがあります。そのため、過去に返還等を行った事項、現在対応中の事項や、法務調査の過程で把握された請求上の論点について、取引への影響を検討します。

すべての診療報酬請求を法律事務所が再計算・検証するというものではありません。対象となる医療機関の規模や診療内容、確認された事項に応じて、会計その他の専門家とも役割を分担しながら確認範囲を検討します。

医療事故・医事紛争と医療従事者

医療事故・医事紛争については、係属中の訴訟や交渉だけでなく、患者・遺族への対応が継続している事案、医療事故調査制度に基づく対応その他の重要な事項を確認します。医師賠償責任保険その他の保険の加入状況や、事故・紛争が発生した場合の院内での対応体制も確認対象となります。

医師、看護師その他の職員については、雇用・委任等の契約関係、勤務条件、労働時間、未払賃金その他の労務上の事項に加えて、承継後の診療体制を維持するために重要となる人員を確認します。施設基準その他の制度上、一定の人員配置が前提となっている場合には、取引後の人員構成もあわせて検討する必要があります。

医療事故が発生した後の初動、院内調査、医療事故調査制度、患者・遺族への説明、示談交渉・訴訟等については、「医療事故・医療過誤への対応」をご覧ください。本ページでは、M&Aの法務調査・契約において医療事故や医事紛争に関する事項をどのように確認するかを扱います。

診療記録・個人情報・システム・重要契約

カルテその他の診療記録には、患者の病歴等の要配慮個人情報が含まれます。法務調査では、診療記録の保存・管理方法、電子カルテその他のシステム、個人情報の利用目的、安全管理措置、漏えい等の発生・対応状況などを確認します。

法務調査の段階で患者に関する個人データを譲受候補者等へ開示する場合にも、事業の承継に関する個人情報保護法上の取扱いを踏まえて、開示する情報の範囲や方法、利用目的、秘密保持・安全管理、取引が成立しなかった場合の取扱い等を整理します。

また、診療を継続するために重要となる建物の賃貸借、医療機器の所有・リース、電子カルテその他のシステム、検査・給食・清掃等の業務委託その他の契約について、契約期間、解約・変更、承継に必要な手続等を確認します。診療内容に応じて個別の許認可・届出等が関係する場合には、それらも確認対象となります。

医療法人の運営・MS法人等との関係

医療法人については、定款・寄附行為、社員総会・理事会等の議事録、役員構成その他の法人運営に関する資料を確認します。法人継続型の経営承継では、現在の社員・役員構成と実際の意思決定・運営の状況を確認することが特に重要です。

MS法人その他の関係事業者との取引があること自体を問題とするものではありません。一方、医療法人と関係の深い事業者との間で、不動産賃貸、医療機器・物品の供給、業務委託、資金の貸付けその他の取引がある場合には、契約内容、取引条件、役員等の関係や関係事業者としての報告状況などを確認します。

こうした関係については、医療機関の開設・経営の責任主体や医療法人の非営利性との関係も踏まえて検討します。事業会社や投資家が承継後の事業に関与する場合には、既存の関係だけでなく、承継後に予定する資金・不動産・業務委託等の関係も確認します。

5 調査結果と行政手続を契約条件に反映する

医療機関のM&Aでは、法務調査で確認された事項と、前章で整理した認可・届出等を、契約上どのように取り扱うかを検討します。一般的なM&A契約の説明ではなく、ここでは医療機関に特有の事項を取り上げます。

医療特有の事項に関する表明保証と開示

契約では、保険医療機関の指定、施設基準、診療報酬の請求、医療法その他の法令に基づく認可・届出等、行政対応、医療事故・医事紛争、診療記録・個人情報などについて、どの事項を表明保証の対象とするかを検討します。

過去に指導・返還等があったことや医事紛争が存在することだけで、直ちに取引上の問題になるわけではありません。法務調査で把握した具体的な事実を開示事項として整理するのか、一定の事項について表明保証を求めるのかなど、案件ごとに契約上の扱いを検討します。

認可・指定等と取引実行の条件

取引実行までに必要となる行政手続がある場合には、その完了を取引実行の前提条件とするかを検討します。例えば、合併・分割に関する認可、開設に関する手続、保険医療機関の指定その他の手続について、どの段階まで完了していることを取引実行の条件とするかを整理します。

行政庁の判断を契約当事者が保証することはできないため、認可・指定等が得られること自体を当然の前提とするのではなく、申請への協力、必要資料の作成・提供、取得できなかった場合の取扱いなどを契約上定めることを検討します。

また、取引実行後に行う届出や施設基準その他の手続について、譲渡側・譲受側のどちらが何を行うか、必要な協力をどのように行うかを整理する場合があります。

確認されたリスクの分担と価格条件

法務調査で、診療報酬の返還可能性、係属中の紛争、行政対応その他の事項が確認された場合には、その内容に応じて、特別な補償、一定期間の誓約その他の契約上のリスク分担を検討します。

これらの事項が取引価格や支払条件に影響することもありますが、法律事務所が企業価値や医療機関の事業価値を算定するものではありません。法的リスクの内容と契約上の対応を整理し、必要に応じてM&Aアドバイザー、税理士、公認会計士その他の専門家による財務・税務・価値評価の検討につなげます。

理事長・管理者・職員等の承継後の体制

法人継続型の経営承継では、取引実行にあわせて社員・役員をどのように変更するか、理事長や病院・診療所の管理者を誰とするかを整理します。候補者について医療法上の要件や必要な認可・届出等がある場合には、行政手続と整合するよう契約条件を検討します。

事業譲渡等では、医師・看護師その他の職員の雇用関係が当然に一律承継されるとは限りません。取引方法、各契約の内容や本人との関係を踏まえて承継方法を検討し、承継後の診療体制や施設基準に必要となる人員もあわせて確認します。

6 取引実行後の診療体制・患者情報・表示を確認する

取引実行によって法人・事業の承継が完了しても、医療機関としての診療はその後も続きます。診療記録、患者への案内、ウェブサイト等の表示、職員・取引先・システムについて、承継後の体制に合わせて確認します。

診療記録と患者情報を適切に引き継ぐ

カルテその他の診療記録については、法令上の保存義務や診療継続の必要性を踏まえて、誰がどのように保存・管理するのかを整理します。電子カルテ等を利用している場合には、データそのものだけでなく、システムへのアクセス権限、保守契約、バックアップその他の運用面も確認します。

個人情報保護法上、合併その他の事由による「事業の承継に伴う提供」に当たる場合には、承継先は第三者に当たらず、第三者提供について患者の同意を得る必要はありません。ただし、承継後も従前の利用目的との関係を確認し、安全管理措置を含む個人情報の取扱体制を整える必要があります。

取引方法や情報の利用方法によって個人情報保護法上の整理が異なることがあるため、「M&Aであれば患者情報を自由に移転できる」と考えるのではなく、実際の承継方法と承継後の利用目的に即して確認します。

患者への案内を検討する

承継に伴い、医療機関の名称、開設者、管理者、診療体制、予約方法、連絡先その他の患者に関係する事項が変わることがあります。変更内容に応じて、患者にどのような事項を、どの時期・方法で案内するかを検討します。

患者への案内が一律に同じ法的義務として課されるというものではなく、変更事項に関する法令上の表示・掲示等の要否と、診療を継続する患者への実務上の案内を分けて確認します。診療記録の取扱いや問い合わせ先など、患者が診療を受けるうえで必要となる情報もあわせて整理します。

名称・ウェブサイト・医療広告を確認する

承継に伴って医療機関の名称、ウェブサイト、院内外の表示、広告等を変更する場合には、医療法上の医療広告規制との関係を確認します。ウェブサイト等についても、表示内容によって医療広告規制の対象となります。

名称、診療科、医師に関する表示、治療内容その他の情報を更新するときは、承継後の実際の診療体制と表示内容が一致しているかを確認します。また、比較優良広告、誇大広告、虚偽広告その他の禁止される表示に当たらないか、広告可能事項やウェブサイト等に関する要件を満たしているかについても、具体的な表示内容に応じて検討します。

M&Aや事業承継を知らせる表示についても、旧医療機関との関係、医師・診療体制、実績等について、実態と異なる印象を与えないよう確認することが重要です。

職員・取引先・システムの承継を完了する

医師・看護師その他の職員について、取引方法に応じた雇用・契約上の手続を行い、承継後の勤務条件や役割を整理します。施設基準等に必要となる人員については、実際の勤務体制が届出内容と整合しているかも確認します。

建物の賃貸人、医療機器のリース会社、検査・清掃等の委託先その他の取引先についても、必要となる契約の承継・変更・再締結等を行います。電子カルテ、予約、会計その他のシステムについては、契約関係だけでなく、アカウント、アクセス権限、データ移行、安全管理等を含めて、承継後の運用体制を確認します。

よくあるご質問

Q1 医療法人のM&Aは、株式会社の株式譲渡と何が違いますか。

医療法人には、株式会社の株式と同じ仕組みがあるわけではありません。社団医療法人では社員が法人の構成員となり、持分の定めのある医療法人でも、出資持分、社員たる地位、理事・理事長等の役員たる地位はそれぞれ区別して考える必要があります。そのため、法人類型や承継したい事業の範囲に応じて、法人継続型の経営承継、事業譲渡、合併・分割等から取引方法を検討します。

Q2 持分の定めのある医療法人は、出資持分を譲渡すれば経営を承継できますか。

出資持分を移転しただけで、社員たる地位や法人の意思決定権が当然に移るわけではありません。持分の定めのある社団医療法人では、出資持分、社員資格、役員構成をそれぞれ分けて確認する必要があります。定款や現在の社員・役員構成を確認したうえで、出資持分の取扱い、社員の入退社、理事・理事長等の変更をどのように行うかを検討します。

Q3 保険医療機関の指定や施設基準は、そのまま引き継げますか。

取引方法や開設者の変更内容によって扱いが異なるため、一律に引き継げるとは限りません。新たな保険医療機関の指定申請が必要となる場合があり、一定の要件を満たす場合には指定期日を遡及する取扱いもあります。もっとも、遡及指定の対象となる場合は限られており、事前の相談が必要となることもあります。施設基準についても、保険医療機関の指定とは別に必要な届出等を確認します。取引方法を検討する段階から、管轄の地方厚生(支)局の取扱いを確認することが重要です。

Q4 個人で開設している診療所もM&A・事業承継できますか。

個人開設の診療所についても、事業を承継することはできますが、医療法人そのものを承継する場合とは法的な仕組みが異なります。設備、賃貸借、医療機器、雇用関係その他の資産・契約について、何をどのように承継するかを個別に整理します。開設主体が変わる場合には、承継後の開設に関する手続や保険医療機関の指定等もあわせて確認する必要があります。

Q5 診療記録を承継先へ引き継ぐには、患者全員の同意が必要ですか。

当該提供が個人情報保護法上の事業の承継に伴う提供に当たる場合には、承継先は第三者に当たらず、患者一人ひとりから第三者提供についての同意を得る必要はありません。ただし、すべての情報移転が無条件に認められるという意味ではありません。実際の取引方法、承継後の利用目的、診療記録の保存、安全管理措置等を確認する必要があります。

Q6 MS法人や事業会社が医療機関のM&Aに関与する場合、どのような点に注意が必要ですか。

MS法人その他の事業会社が医療機関と取引・協力すること自体を一律に問題とするものではありません。一方、医療法人は株式会社とは異なる法人制度であり、通常の会社買収と同じように株式取得を前提とすることはできません。医療法人との契約条件、役員等の関係、資金・不動産・業務委託等の関係を確認し、医療機関の開設・経営の責任主体や医療法人の非営利性との関係を踏まえて関与方法を検討します。

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