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海外送金詐欺・BECへの初動対応と損失負担

取引先から「振込口座を変更した」というメールが届き、その口座に代金を送金したところ、後日、本来の取引先から「入金がない」として同じ代金を請求された——ビジネスメール詐欺(BEC)による被害では、送金した資金の行方だけでなく、取引先との間で代金の支払義務が残るのか、損失を誰が負担するのかという、独立した商事紛争が生じます。

BECの被害では、送金した資金を回収できるか、本来の取引先に対する代金の支払義務が残るか、関係者との間で損失をどのように分担するか、保険による補償を受けられるか、という四つの問題が同時に生じます。これらは判断の根拠や手続が異なるため、分けて検討する必要があります。他方で、資金の回収や保険金の支払は、損害額や請求権の帰属などに影響するため、相互の関係も確認します。当事務所は、被害直後の事実の整理から、再請求への対応、関係者との交渉、そして回収・保全の検討までを支援しています。

なお、銀行への連絡や警察への相談については、弁護士へのご相談をお待ちいただく必要はありません。時間の経過が結果を左右する場面ですので、まずそちらを進めてください。

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ご相談いただけること送金の停止・組戻しの依頼/事実経過と連絡経路の保全/本来の取引先からの再請求への回答/損失の分担に関する検討/資金の回収・保全の手段/保険・刑事手続との関係の整理

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目次
  1. 1 不正送金が疑われるときの初動
  2. 2 本来の取引先から代金を再請求されたとき
  3. 3 取引先・関係者との責任と損失分担
  4. 4 被害資金の回収・保全を検討する
  5. 5 保険・刑事手続と民事対応の関係
  6. 6 再請求への回答・交渉と、ご相談時の確認事項
  7. 7 再発を防ぐための取決め
  8. 8 当事務所の対応
  9. よくあるご質問

1 不正送金が疑われるときの初動

銀行への連絡

不正な送金が疑われる場合には、送金銀行に速やかに連絡し、送金の処理がどの段階にあるか、停止や組戻し等の対応が可能かを確認します。ただし、連絡すれば止められるというものではありません。処理の段階、中継銀行や受取銀行の対応、資金が既に引き出されているかどうかによって、結果は大きく異なります。

ここで注意が必要なのは、いわゆる「組戻し」が、送金の契約と銀行実務に基づく手続であって、詐欺の被害を申し出れば当然に返金を受けられる法定の制度ではないという点です。組戻しを依頼することと、それが受け付けられること、そして実際に返金が実行されることは、別のことです。受取人の同意が必要とされる場合もあります。

連絡経路の確認

振込先の変更を求める連絡が届いた場合、その真偽は、疑わしいメールとは別の経路で確認する必要があります。メールに記載された電話番号ではなく、従前から把握している連絡先に確認することが基本になります。既に送金してしまった場合にも、本来の取引先に対し、従前の経路で事実関係を確認することが、その後の対応の前提になります。

証拠の保全

詐欺と疑われるメール、口座変更の指示、社内の承認記録、送金の記録、銀行との交信は、原データと時刻の情報を保持した状態で保存してください。これらのすべてが法令上の保存義務の対象になるわけではありませんが、後に責任の所在や損失の分担が争われる場面では、どの連絡が、いつ、どの経路で行われたかが判断を左右します。メールについては、転送したものではなく、ヘッダー情報を含む原本を保全することが望ましいといえます。

侵害の封じ込めと追加送金の防止

自社または取引先のメールアカウントが侵害されている可能性がある場合には、証拠の保全と並行して、進行中の侵害を止める必要があります。認証情報の変更、不正なセッションの遮断、身に覚えのない転送設定や受信ルールが設定されていないかの確認、多要素認証の設定といった対応を、情報システムの担当者または委託先と連携して行います。

あわせて、同じ経路で他の支払指示が出ていないか、他の取引先にも同様の連絡が届いていないかを確認します。疑わしい指示に基づく送金は一時的に保留します。侵害の範囲が不明な場合には、他の予定送金についても確認が必要な範囲を判断し、支払期限への影響とあわせて対応を検討します。銀行への連絡と証拠の保存だけでは、侵害が続いている状態は解消しません。

個人データが関係する場合

侵害されたアカウントに個人データが含まれていた場合など、被害に個人データの漏えい等が伴うときは、報告と本人への通知の要否を、それぞれ別に検討する必要があります。

報告の対象となるのは、法令が定める類型に該当する漏えい等が発生した場合だけではなく、そのおそれがある場合も含まれます。漏えいが確定するまで検討しなくてよい、というものではありません。他方で、送金詐欺であれば当然に報告義務が生じるというものでもなく、対象となる事態に当たるかを確認することになります。報告先は、権限の委任を受けた事業所管大臣等となる場合があります。

不正の目的をもって行われたおそれのある行為による場合には、既に取得した、または取得しようとしている個人情報で、個人データとして取り扱うことを予定しているものも、報告対象の検討に含まれます。

報告が必要な場合には、速報と確報の期限をそれぞれ確認します。本人への通知も、事態の状況に応じて速やかに行う必要がありますので、全容の判明を一律に待つことはできません。外部からの侵害への対応については、サイバーセキュリティ対応のページで取り上げています。

2 本来の取引先から代金を再請求されたとき

準拠法を分けて考える

この場面では、元の代金債務が消滅したかという問題と、関係者に対して損害賠償を請求できるかという問題とで、適用される法が異なることがあります。売買契約の準拠法条項が、銀行との関係や、第三者に対する不法行為の請求にまで当然に及ぶわけではありません。外国法が適用される場合には、その内容を別に確認する必要があります。また、国際的な物品売買では、日本法を準拠法としていても、国際物品売買契約に関する国際連合条約(CISG)の適用が問題となります。以下は、各論点に日本の民法等が適用される場合を前提とした整理です。

払込みによる弁済

民法は、債権者の預金または貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金または貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずるとしています。送金の指示を出した時点や、自社の口座から引き落とされた時点で、当然に弁済が完了するわけではありません。

もっとも、この規定を、詐欺により偽の口座へ送金した場合にそのまま当てはめることはできません。その口座は債権者の口座ではないため、そもそも同条が想定する場面とは異なるからです。

受領権者としての外観

そこで問題となるのが、受領権者としての外観を有する者に対する弁済に関する民法の規定です。この規定は、受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有するとしています。

もっとも、この規定を援用できるかどうかは、慎重な検討を要します。ここで問題となっているのは、なりすましにより変更された口座に送金したという類型ですので、次の三点を分けて確認することになります。

第一に、口座の変更を指示した者に、その指示をする権限があったといえるか。第二に、その送金が誰に対する弁済として構成され、その者が取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有していたといえるか。第三に、送金した側が何を認識し、どのような確認を行ったか、すなわち善意かつ無過失といえるかです。

取引先の真正なメールアカウントが使われていたとしても、そのことだけで、有効な口座変更の指示があったと決まるわけではありません。「詐欺に気付かなかった」という善意があれば足りるわけでもなく、口座変更の連絡を受けた際にどのような確認を行ったか、契約上どのような手続が定められていたか、社内の承認過程がどのようなものであったかが、評価の対象になります。

契約上の支払条件

あわせて確認すべきは、契約上の支払の場所と方法、口座変更の手続、そして変更の指示が真正なものであったかという点です。契約に口座変更の手続が定められており、それに従っていた場合と、定めがないまま送金した場合とでは、評価が異なり得ます。もっとも、契約上の手順を守ったというだけで債務の消滅を断定することもできません。契約解釈の問題と、受領の権限の問題とは、分けて検討する必要があります。

取引先が利益を受けた場合

民法は、前条の場合を除き、受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有するとしています。本来の取引先が何らかの利益を受けたといえる事情がある場合には、この点も検討の対象になります。ただし、詐欺口座への送金額が、そのまま取引先の利益になるという整理にはなりません。

二つの問題を分ける

本来の取引先に対する代金支払義務が残るかという問題と、その取引先に損害賠償を請求できるかという問題とは、分けて判断することになります。「取引先にも落ち度があるのだから代金は支払わなくてよい」という主張は、そのままの形では通りません。債務の消滅、賠償責任、そして相殺は、それぞれ別に検討する必要があります。

3 取引先・関係者との責任と損失分担

債務不履行による責任

民法は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、または債務の履行が不能であるときは、債権者はこれによって生じた損害の賠償を請求することができるとしつつ、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでないとしています。

BECの被害が発生したという事実だけを取り上げて、取引先の契約違反とすることはできません。取引先がどのような義務を負っていたか、その義務に違反したといえるかを、具体的に特定する必要があります。

メールアカウントが侵害されていた場合

取引先のメールアカウントが第三者に侵害されていたという事実があっても、それだけで取引先の損害賠償責任が確定するわけではありません。取引先がどのような管理義務を負っていたか、侵害を予見し、防止することが可能であったか、侵害に気付いた後に警告や通知を行ったか、そしてそれらと送金との間に因果関係があるかを検討することになります。

不法行為による責任

民法は、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとしています。被害が発生したことや、ある者が関与していたという事実だけで責任が認められるわけではなく、請求の相手方ごとに要件を検討する必要があります。

過失相殺

日本法には、被害を受けた側の過失を考慮する規定があります。債務不履行については民法が、責任および損害賠償の額を定めるに当たってこれを考慮するとし、不法行為については民法が、損害賠償の額を定めるに当たってこれを考慮することができるとしています。両条は作用が異なりますので、同一に扱うことはできません。

口座変更の際の確認が十分でなかった場合に、当然に被害の全額を自己負担することになる、というわけでもありません。相手方の管理体制、詐欺の巧妙さ、業界の慣行なども考慮されることになります。

銀行の責任

銀行の責任については、適用される法、送金の約款、依頼の内容、当時把握し得た事情、そして具体的にどの義務に違反したかに即して検討します。銀行に一般的な詐欺の検知義務や阻止義務があると断定することはできません。また、送金銀行、中継銀行、受取銀行では、それぞれ果たす役割が異なります。なお、外国の銀行が関係する場合であっても、そのことだけでその国の法が適用されると決まるわけではありません。契約関係については準拠法の合意等により、不法行為については不法行為の準拠法に関する規律により、適用される法を確認することになります。

契約に損失分担の定めがある場合

近年は、取引基本契約に、口座変更の手続や、なりすましによる被害が生じた場合の取扱いを定める例が見られます。こうした条項がある場合も、その適用範囲と有効性は、準拠法に即して判断されます。契約に書かれていれば必ず有効である、あるいはセキュリティに関する条項に違反していれば被害の全額を負担する、といった整理にはなりません。

4 被害資金の回収・保全を検討する

いわゆる振り込め詐欺救済法

国内の金融機関の預貯金口座が犯罪に利用された場合について、被害回復分配金の支払等を定める法律があります。もっとも、この制度は国内の口座を対象とするものであり、海外への送金の場面にそのまま適用されるものではないと理解されています。他方で、国内の口座が犯罪における振込先とされ、または犯罪に利用された振込先口座から資金を移すために利用された場合には、資金の流れと口座の利用状況を確認し、法令が定める対象口座に当たるかを検討します。

この制度は対象口座に残る資金を原資とするため、被害の全額が支払われるとは限りません。利用する場合は、預金保険機構の公告等により支払申請期間を確認し、期間内に申請する必要があります。

受取人に対する請求

詐欺により送金した資金の返還を求める場合には、請求の法的根拠を特定する必要があります。日本法が適用される場面では、不当利得の返還を求める構成や、不法行為に基づく損害賠償を求める構成が考えられます。もっとも、口座の名義人であるというだけで、受益や全額の返還義務を認定できるわけではありません。名義人が第三者に口座を貸していた場合など、事案によって検討すべき点が異なります。利益の有無を判断する際には、現金を受け取ったかどうかだけでなく、送金によって誰が預金債権を取得したかも確認します。

保全の可能性

日本で金銭債権の仮差押えを求めるには、日本の裁判所の管轄が認められることに加え、被保全権利と保全の必要性を疎明する必要があります。詐欺の被害に遭ったという事情だけで仮差押えができるわけではなく、誰に対する、どのような請求を、なぜ保全する必要があるのかを示すことになります。

請求の相手方や対象となる財産を特定できない段階では、申立てを直ちに具体化することは困難です。口座番号が判明していることと、その名義人に対する請求の根拠があること、そして差し押さえるべき財産が特定できることとは、別の問題です。

申立てには担保の提供を求められる場合があります。相手方への請求や通知により資金が移されるおそれも踏まえ、連絡と申立ての順序、担保や現地手続に要する費用を検討します。

国内口座については、前述の制度の手続と仮差押え等が互いに影響する場合があるため、手続の進行状況を確認して対応の順序を検討します。

海外の口座

海外にある口座の凍結、保全または返還を実現できるかどうかは、関係国の法令と手続によります。日本での申立てや、日本の弁護士からの要請だけで海外の銀行を拘束できるわけではありません。現地での対応が可能かどうか、費用と時間に見合うかを、個別に検討することになります。あわせて、送金先の国・地域の警察等への通報や、現地で必要となる届出についても、銀行への連絡と並行して確認します。

5 保険・刑事手続と民事対応の関係

保険会社への通知

保険法は、損害保険契約について、保険契約者または被保険者は、保険事故による損害が生じたことを知ったときは、遅滞なく、保険者に対し、その旨の通知を発しなければならないとしています。これは通知義務を定めた規定であり、それ自体が補償の根拠となるものではありません。他方で、通知が遅れたことだけで当然に全額が免責されるわけでもありません。補償に関係する可能性のある保険については、まず事故の連絡を行い、補償範囲の精査はこれと並行して進めることをお勧めします。約款の精査が終わるまで連絡を控える必要はありません。もっとも、これは、すべてのBEC被害について保険法上の通知義務が当然に生じるという意味ではありません。

補償の有無と範囲は、加入している契約の補償対象、免責事由、支払限度額、そして通知その他の条件によって異なります。「サイバー保険に入っているから送金被害も対象になる」という理解は正確ではありません。不正アクセスによる被害、自らの意思で行った送金、第三者から受けた請求が、それぞれどのように扱われるかを、約款に即して確認する必要があります。

保険法上、保険金が支払われると、保険事故による損害に関して被保険者が有する請求権は、法定の範囲で保険者に移ります。保険金が保険契約によりてん補すべき損害額に足りない場合には、その不足額を考慮して移転の範囲が定められ、被保険者に残る請求権については、保険者に先立って弁済を受ける権利が認められます。ただし、企業の事業活動に伴う損害を対象とする保険では、これと異なる特約が置かれる場合があります。代位の範囲、未補償部分の請求権、回収の優先順位と配分は、適用される法と約款をあわせて確認します。関係者との示談や債権の放棄は、保険者との関係に影響しますので、事前に調整すべき事項を確認する必要があります。

事故の通知に加え、保険金請求の手続と期限も別に管理します。

刑事手続との関係

被害届と告訴は異なる手続であり、告訴は、犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思表示です。告訴を行えば犯人が検挙され、被害額が回復するというものではありません。

また、刑事手続が進行することと、民事上の請求や時効の管理とは、別に検討する必要があります。被害届を提出したことや告訴をしたことによって、民事上の請求の消滅時効が当然に止まるわけではありません。

6 再請求への回答・交渉と、ご相談時の確認事項

回答の前に

再請求への回答に先立ち、契約書、口座変更の連絡、送金の記録、そして双方の確認の経過を、時系列で突き合わせます。ただし、必要な資料がすべてそろうまで、銀行への連絡や期限への対応を待つ必要はありません。並行して進めることになります。

暫定的な回答の書き方

暫定的な回答では、確認済みの事実と未確認の事項を分け、債務の存否や責任の割合を不用意に確定させない表現を検討します。民法は、権利の承認があったときは時効が更新される旨を定めています。回答の内容が権利の承認に当たるかどうかは個別の判断によりますので、「権利を留保する」と付記すれば法的な効果を必ず回避できる、という前提で書くことは適切ではありません。

相殺の主張

日本法上の相殺は、相手方に対する意思表示によってし、その意思表示には条件または期限を付することができないとされています。損害賠償を主張しただけで代金債務が消滅するわけではありません。相殺の要件と禁止される場合、そして合意による清算との違いを確認したうえで、主張の組み立てを検討することになります。

合意による解決

追加の支払や損失の分担を合意する場合には、清算の対象、留保する請求、第三者に対する請求権、そして保険者との調整事項を明確にします。当事者間の合意だけで、銀行や保険者など合意に加わっていない者の責任や権利まで確定することはできません。

方針の立て方

対応の方針は、再請求への防御、関係者との損失分担の交渉、そして被害資金の回収について、それぞれの見込みと費用を分けて検討します。資金の回収が困難な事案であっても、再請求への対応や損失の分担に関する検討には意味があります。他方で、弁護士に依頼すれば回収の可能性が必ず高まる、という説明はいたしません。見込みを率直にお伝えしたうえで、方針をご相談します。

7 再発を防ぐための取決め

口座変更の手続を契約で定める

被害が生じた後の責任の分担が争われる場面では、口座の変更をどのような手続で行うことになっていたかが、判断の材料になります。取引基本契約や覚書において、振込先の変更は所定の書面によること、変更の連絡を受けた場合は登録済みの連絡先に対する確認を経ること、確認の方法をあらかじめ定めておくことなどを取り決めておくと、被害の防止につながるとともに、万一の場合の整理も容易になります。

こうした条項を設ける場合には、どちらがどの確認を行う義務を負うか、確認を怠った場合の取扱いをどう定めるかを検討することになります。もっとも、契約に定めれば当然にそのとおりの効果が生じるわけではありません。条項の有効性と適用範囲は、準拠法に照らして判断されます。

社内の手続

送金の実行前に、金額や送金先の変更について複数の担当者による確認を経る仕組みを設けておくことは、被害の防止に有効です。あわせて、被害が疑われた場合に、誰が銀行に連絡し、誰が取引先に確認し、誰が記録を保全するかを、あらかじめ決めておくことをお勧めします。BECの被害では、被害が疑われた段階から、銀行への連絡と追加被害の防止を進めることが重要です。

8 当事務所の対応

ご依頼をいただいた場合、まず、事実関係と資料を時系列で整理し、代金の支払義務が残るかという問題、関係者に対する請求の可否、保険による補償の可能性、そして資金の回収可能性を、それぞれ別に評価します。そのうえで、本来の取引先への回答の内容と時期を検討し、必要に応じて交渉を行います。

損失の分担について協議が整わない場合には、訴訟その他の手続による解決を検討します。資金の所在が判明した場合には、保全の可否をあわせて検討します。海外での対応が必要となる場合には、現地の弁護士と連携し、実現の可能性と費用をご説明したうえで、進めるかどうかをご相談します。

当事務所は、有事の初動対応を中核としており、事実関係が固まらない段階でのご相談にも対応しています。「まだ何が起きたか分からない」という段階で差し支えありません。

よくあるご質問

偽の口座に送金してしまいました。まず何をすべきですか。

送金銀行への連絡を最優先にしてください。処理の段階によっては、対応の余地がある場合があります。あわせて、従前から把握している連絡先で本来の取引先に事実を確認し、メールや送金の記録を保全してください。これらについては、弁護士へのご相談をお待ちいただく必要はありません。

取引先から、同じ代金をもう一度払うよう求められています。応じなければなりませんか。

代金の支払義務が残るかどうかは、適用される法、契約上の支払条件、口座変更の連絡と確認の経過によって判断されます。事実関係を整理しないまま、再度の支払を約束することも、支払を拒絶することも、お勧めできません。もっとも、確認を進めている間も、支払期日が自動的に延びるわけではありません。代金債務が消滅しておらず、支払期日を経過している場合には、遅延損害金や解除の問題が生じ得ます。支払や回答を保留することに法的な不利益がない、という意味ではありませんので、期限の管理は並行して行う必要があります。回答が権利の承認と評価される可能性にも注意が必要です。

銀行に責任を問えますか。

送金の約款、依頼の内容、当時銀行が把握し得た事情、そして具体的な義務違反の有無によります。銀行に一般的な詐欺の検知義務があるとは言えませんので、事案ごとの検討が必要です。

警察に被害届を出せば、お金は戻ってきますか。

刑事手続と、民事上の回収とは別の手続です。被害届の提出や告訴によって被害額の回復が保証されるわけではありません。他方で、刑事手続の中で判明する事実が、民事上の請求に役立つこともあります。

加入しているサイバー保険で補償されますか。

補償の対象、免責事由、限度額および通知の条件は、契約ごとに異なります。自らの意思で行った送金による損害が対象に含まれているかは、約款の確認が必要です。補償に関係する可能性のある保険会社には速やかに事故を連絡し、補償範囲や必要な手続の確認を並行して進めることをお勧めします。

被害額があまり大きくありません。弁護士に依頼する意味はありますか。

被害資金の回収だけを目的とする場合、費用に見合わないこともあります。他方で、取引先から再請求を受けている場合には、支払義務の存否という独立した問題が残ります。その点だけのご相談も承っています。

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本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。