Labor & Employment
社外の労働組合から団体交渉を申し入れられたとき
社内に労働組合がないのに、社外の労働組合から団体交渉申入書が届いた。退職した従業員について、あるいは業務委託の契約で仕事を依頼している相手方について、組合が交渉を求めてきた。個別の従業員との話合いが続いていたところ、その従業員が労働組合に加入したという通知とともに申入れがあった。団体交渉は、こうした形で始まることが多くあります。
申入書には、たいてい短い回答期限が書かれています。期限が近いことを理由に返答をしないでいると、その経過が後に不当労働行為の有無を判断する際の事情として扱われることがあります。まず必要なのは、要求に応じるかどうかの判断ではなく、何を申し入れられているのかを正確に把握し、交渉の窓口を開いたうえで、社内の準備を進めることです。
交渉に応じる義務があるかどうか、どの事項について交渉する義務があるか、資料をどこまで示すかなど、本ページでは、その順序を整理します。
まず確認すること
以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。団体交渉に応じるかどうかを決めていない段階でも、ご相談いただけます。
- 申入書と、受領した日、回答を求められている日――団体交渉申入書、添付されている要求書、送付に用いられた方法(郵送・持参・メール等)と、会社が受領した日を確認します。
- 組合の名称と、連絡の窓口――組合の名称、所在地、担当者、連絡の方法を確認します。上部団体がある場合は、その関係も確認します。
- 交渉の対象となっている人と、会社との関係――対象となっている人が、在職中の従業員か、退職した人か、業務委託その他の契約関係にある相手かを確認します。退職した人の場合は、退職の時期と、退職の前後にどのようなやり取りがあったかも確認します。
- 議題、要求の内容、求められている資料――申し入れられている議題、具体的な要求、提出を求められている資料、希望されている日時と場所を、それぞれ整理します。
- 議題に関係する契約・規程・記録――雇用契約書または業務委託契約書、就業規則、賃金規程、勤怠の記録、業務の指示や評価に関する資料など、議題に関係する資料を保全します。
- 申入れの前後における、会社の発言・回答・人事措置――申入れの前後に、対象者や他の従業員に対してどのような説明や回答をしたか、配置の変更、契約の更新の可否、処分その他の人事上の措置を行ったか、または検討しているかを確認します。
- 回答の担当者と、出席者の権限――誰が回答の窓口となるか、交渉の場に誰が出席するか、その出席者がどこまでの事実を説明でき、どこまでの判断を行えるかを確認します。
- 労働委員会・裁判所からの書類が届いていないか――不当労働行為の救済の申立てに関する書類、あっせんや調停の通知、訴訟に関する書類が届いている場合は、その手続の期限を確認します。
申入書の内容と、対象者と会社との関係を踏まえて、回答の仕方と、交渉に向けた社内の準備を検討します。
ご相談いただけること申入書の内容と回答の期限の確認/組合と組合員の範囲の確認/交渉事項の範囲の検討/交渉の体制と資料・記録の準備/交渉の実施と書面の取扱い/不当労働行為として争われた場合の手続への対応
お問い合わせフォームへ1 申入れの内容と、応じる義務の範囲を確認する
団体交渉の申入れを受けたときに最初に行うのは、誰について、どの事項について、どのような要求がされているのかを把握することです。この整理を経ないまま回答すると、交渉の義務がない事項について交渉を約束してしまったり、逆に、義務がある事項について応じない旨を伝えてしまったりするトラブルが生じかねません。
社外の組合からの申入れであること自体は、断る理由になりません
使用者は、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことができないものとされています。ここでいう代表者には、社内で組織された組合だけでなく、社外の労働組合も含まれます。従業員が個人で加入できる形態の組合から申入れがあった場合も、また、加入している従業員が一人である場合も、そのこと自体は交渉を拒む理由とはなりません。
対象となっている人がすでに退職している場合や、契約上は業務委託である場合には、会社がその人を「雇用する労働者」といえるかどうかが問題となります。退職した人に関する申入れであっても、在職中の労働条件に関する事項で、会社がなお処分できるものについては、対象者と会社との関係、議題の内容、退職からの期間その他の経緯によっては、団体交渉の義務の対象となると考えられています。業務委託の相手方についても、労働組合法上の労働者に当たるかどうか、会社がその使用者に当たるかどうかによって、結論が分かれます。いずれも、契約の名称ではなく、実際の労使関係によって判断されることになります。
交渉の義務がある事項と、そうでない事項を分ける
申し入れられた議題のうち、組合員の労働条件や待遇に関する事項と、団体的な労使関係の運営に関する事項であって、使用者が処分できるものについては、一般に、交渉に応じる義務のある事項として整理されています。他方、会社の経営上の決定そのものや、組合員以外の者の処遇に関する事項については、その扱いが議題ごとに異なります。
実務上は、議題が一つの申入書の中で混在していることが少なくありません。要求の項目ごとに、①組合員の労働条件等に関する事項か、②会社が処分できる事項か、を確認し、交渉に応じる事項と、応じる義務があるとは考えにくい事項とを分けて整理します。交渉に応じる義務があるとは考えにくい事項についても、交渉の場で取り上げること自体は妨げられませんので、対応の方針は、法律上の義務とは別に検討します。
回答を求められている日と、法律上の期限は別のものです
申入書に書かれた回答期限は、組合が希望する日であり、法律上の期限ではありません。もっとも、申入れに対して返答をしないままにしておくと、交渉を拒んだものと評価されるリスクがあります。日程の調整に時間を要する場合であっても、申入れを受領した旨、社内で検討していること、いつまでに具体的な返答をするかを、書面で伝えておくことが考えられます。
まず行うのは、届いた書類の種類、手続の当事者、求められている対応、期限、関係する資料を整理することです。
2 交渉の場に臨む前に整えること
日時・場所・方法の調整は可能ですが、調整を理由に交渉を先延ばしにしないこと
団体交渉の日時、場所、出席者の人数、所要時間、開催の方法については、当事者間で調整することができます。組合が指定した日時にそのまま応じなければならないわけではありません。業務への影響、参加する従業員の勤務状況、会場の確保などの合理的な説明をし、代替日程を提示することは可能です。
他方、調整を口実として交渉を実質的に行わない対応は、正当な理由のない拒否と評価されるリスクがあります。代替日を示さずに延期を繰り返す、回答の期日を定めずに検討中と述べ続ける、といった対応は、後に不当労働行為の有無を判断する際の事情として扱われる可能性があります。調整を行う場合には、代替日程を具体的に示し、その経過を記録に残します。
出席者の役割と、その場で決められる範囲を先に決める
交渉の場に誰が出席するかは、会社が決めることです。あわせて、出席者それぞれについて、どの事実をどこまで説明できるか、どの事項についてその場で判断してよいか、どこから先は持ち帰るかを、事前に整理しておきます。
この整理をしないまま交渉に臨むと、権限のない出席者が正確でない説明をしてしまうことや、権限の所在が示されないために交渉が進まず、誠実に交渉していないと受け取られるリスクがあります。交渉の体制に関する準備として、出席者の役割と権限の範囲を決めておくことが望ましいといえます。
なお、合意に至った場合の労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、または記名押印することによって効力を生ずるものとされています。その場で書面に署名等する可能性がある場合には、誰が署名等をすることができるのか、あらかじめ確認しておく必要があります。
提出する資料と、示さない資料の理由を整理する
組合から資料の提出を求められることがあります。求められた資料をすべて提出しなければならないわけではありませんが、資料を示さないこと自体が、誠実に交渉していないと評価される場合があります。その判断は、議題との関係、その資料が交渉においてどの程度必要か、示せない理由があるか、資料に代わる説明を行っているかといった事情によります。
資料を示さない場合には、その理由と、これに代わる説明の方法を示すことが考えられます。例えば、個々の従業員の氏名を含む資料であれば、氏名を除いた形での集計を示す、営業上の秘密に当たる部分であれば、その範囲を除外した上で、結論に関係する部分のみを説明する、などといった方法です。
なお、提供する資料の中に他の従業員の個人データが含まれている場合には、組合への提供が第三者への提供に当たることがあり、法令に基づく場合その他の法定の例外に当たるときを除き、あらかじめ本人の同意を得ることが必要とされる点に留意する必要があります。
3 交渉を進め、合意を形にする
回答には、その根拠を添える
団体交渉に応じる義務は、組合の要求を受け入れる義務を意味するものではなく、会社の主張を維持すること自体は、交渉を拒むことにはなりません。会社に求められているのは、要求に対する回答を示すとともに、その回答に至った根拠を説明し、合意に向けて誠実に交渉することであるといえます。
仮に組合の要求に応じられないという回答をする場合であっても、どの事実やいかなる根拠に基づき、そのように判断したのかを説明することが、誠実交渉義務の内容として求められます。
その場で回答できない事項の扱い
交渉の場では、即答できない事項が生じた場合には、社内の誰が確認するのか、いつまでに回答するのかを、その場で整理して組合に伝えます。持ち帰りとした事項について、その後の確認と回答の経過を記録しておくと、次回以降の交渉の前提が明確になります。
交渉の内容、提示した資料、持ち帰りとした事項、次回までの対応については、会社側でも記録を作成します。その上で、合意に至った事項と、合意に至っていない事項とを分けて整理します。組合が作成した議事録の提示を受けた場合には、会社の認識と異なる部分がないかを確認し、異なる場合にはその旨を伝えておきます。
合意した内容は、書面の形式を確認して作成する
労働条件その他に関する労働組合と使用者との間の合意は、書面に作成し、両当事者が署名し、または記名押印することによって、労働協約としての効力を生ずるものとされています。合意の内容を書面にする際には、この形式を満たしているかを確認します。
あわせて、その書面が、労働協約として組合員の労働条件を定めるものか、当該の紛争の解決に限った合意かを明らかにしておきます。
4 団体交渉と並行して生じる問題に対応する
人事上の措置と会社の発言が、別の問題を生じさせることがあります
労働者が労働組合の組合員であることや、労働組合の正当な行為をしたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをすることは、禁止されています。また、労働者が労働組合を結成し、または運営することを支配し、これに介入することも、禁止されています。
この点に関し、交渉が続いている時期に、対象者について配置の変更、契約の更新の可否、処分などの措置を行う場合には慎重に検討をすべきです。措置の理由が組合への加入や組合活動と無関係であっても、時期が近接していることによって、そのように受け取られるリスクがあります。このような措置を検討する場合には、その必要性と根拠、検討を開始した時期、同種事案での取扱いなど、資料に基づいて説明できるように確認しておきます。
会社の発言についても同様です。組合への加入や脱退について会社の意向を示すこと、組合を通さずに個別に交渉しようとすることは、支配介入として問題となる可能性があります。管理職が現場で行う発言についても、あらかじめ注意すべき点を共有しておく必要があります。
なお、労働組合の運営のための経費の支払について経理上の援助を与えることは、原則として禁止されていますが、例外として、労働者が労働時間中に時間または賃金を失うことなく使用者と協議し交渉することを使用者が許すこと、一定の福利・厚生基金への寄附、最小限の広さの事務所の供与は、これに含まれないものとされています。組合から便宜の供与を求められた場合には、この範囲を確認します。
また、特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数が一の労働組合の組合員であるときに、その労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することは、法律の定める範囲で妨げられないものとされています。
街宣やインターネット上の投稿への対応は、団体交渉への対応と分けて検討する
団体交渉が続いている間に、会社の事業所の周辺での街宣活動が行われたり、インターネット上に投稿が行われたりすることがあります。これらの行為が正当な組合活動の範囲にとどまるかどうかは、行われた場所、方法、時間帯、表現の内容などによって判断されます。正当な組合活動の範囲を超えていると考えられる場合には、中止の申入れ、投稿の削除請求、損害賠償請求、仮処分の申立てなどといった対応を検討することになります。
もっとも、こうした行為があることだけを理由として、団体交渉そのものを拒むことはできないものとして扱うのが安全であり、街宣や投稿への対応と、団体交渉への対応は、別の問題として対応を検討します。両者を結びつけて「投稿が削除されるまで交渉に応じない」などといった対応をとると、団体交渉の不当な拒否と評価されるおそれがあります。
不当労働行為の救済の申立てを受けた場合
組合が労働委員会に救済を申し立てた場合には、交渉と並行して、その手続への対応が必要になります。申立てには期間の制限があり、行為の日(継続する行為にあってはその終了した日)から1年を経過した事件に係るものであるときは、受けることができないとされています。
都道府県労働委員会の救済命令等の交付を受けた使用者は、15日以内に中央労働委員会に再審査を申し立てることができます。この申立てをしたことによって、救済命令等の効力が停止するわけではありません。また、使用者は、救済命令等の交付の日から30日以内に、その取消しの訴えを提起することができ、この期間は不変期間とされています。再審査を申し立てた場合には、その再審査の申立てに対する中央労働委員会の救済命令等に対してのみ、取消しの訴えを提起することができるものとされています。
救済命令等の取消しの訴えは、その命令等が適法かどうかを争う手続です。労働契約上の地位や、賃金または損害賠償といった権利義務そのものを争う民事訴訟とは、争う対象も、求める救済も異なります。
よくあるご質問
社内で加入しているのが一人だけでも、社外の労働組合との団体交渉に応じる必要がありますか。
加入している従業員の人数によって、団体交渉に応じる義務の有無が決まるわけではありません。使用者は、雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒むことができないものとされており、社外の労働組合であることや、加入者が一人であることは、それ自体では拒む理由となりません。
すでに退職した人や、業務委託先についての団体交渉にも応じる必要がありますか。
対象者と会社との関係によって異なります。退職した人についても、在職中の労働条件に関する事項であって会社がなお処分できるものについては、退職からの期間その他の経緯によっては、交渉義務の対象となると考えられています。業務委託の相手についても、労働組合法上の労働者に当たるかどうか、会社がその使用者に当たるかどうかによって判断が分かれます。契約の名称ではなく、実際の関係によって判断されますので、早い段階で応じられない旨を表明せず、事実関係の確認を先に行うことをお勧めします。
書面で回答すれば、交渉の場を設けなくてもよいですか。
書面での回答だけで足りるとは限りません。団体交渉は、要求に対する回答とその根拠を示し、合意に向けて交渉する場とされていますので、書面の送付をもって交渉に代えることが常に認められるわけではありません。日時や場所、開催の方法を調整すること自体は可能ですが、調整を理由として交渉を実質的に行わない対応は、正当な理由のない拒否と評価されるリスクがあります。
組合が求める資料は、すべて提出しなければなりませんか。
すべてを提出しなければならないわけではありません。資料を示さないことが誠実な交渉に反するかどうかは、議題との関係、その資料の必要性、やこれに代わる説明を行っているかなどによって判断されます。資料を示さない場合には、その理由と、代わりとなる説明の方法を示すことが考えられます。
団体交渉に応じる義務があるということは、要求を受け入れなければならないということですか。
そうではありません。団体交渉に応じる義務は、合意に達する義務や、要求を受け入れる義務を意味するものではありません。求められているのは、要求に対する回答を示し、その根拠を説明し、合意に向けて誠実に交渉することです。
会社の前で街宣活動が行われています。これを理由に団体交渉を断れますか。
街宣活動やインターネット上の投稿があることだけを理由として団体交渉を拒むことは、交渉の拒否と評価されるおそれがあります。これらの行為が正当な組合活動の範囲を超えていると考えられる場合には、中止の申入れ、投稿の削除請求、損害賠償請求、仮処分の申立てなどといった対応を、団体交渉への対応とは別に検討することになります。
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まずはご相談ください
早期のご相談が、対応の選択肢を確保するために重要です。
お問い合わせフォームへ本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。
