Labor & Employment
解雇・退職勧奨を争われたとき
退職の合意書に署名した従業員から、後日、代理人を通じて「合意は無効である」という通知が届いた。解雇を通知した従業員から、就労を求める書面と賃金の請求が来た。退職勧奨を断られたため、勤務成績を理由に解雇したところ、労働審判を申し立てられた。雇用の終了をめぐる法律関係は、こうした形で紛争になり得ます。
この段階で会社が陥りやすいのは、自社の判断が正しかったかどうかを先に決めようとすることです。しかし、最初に必要なのは、当時の記録を確認することです。従業員に対する指導の記録、面談の経過、通知の文面、就業規則上の根拠などを、確認しておく必要があります。
そして、何が争われているのか(紛争類型)によって、検討する枠組みは変わります。退職の合意が成立しているのか、成立していても取り消し得るのか、解雇の理由が能力・勤務態度なのか、非違行為なのか、経営上の理由なのかによって、確認する事実も、対応も異なります。本ページでは、その分岐や対応指針を整理します。
まず確認すること
以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。会社の判断の当否が確定していない段階でも、ご相談いただけます。
- 相手方から届いた書面と、手続の期限――異議の通知、請求書、代理人からのメールを保全し、相手が何を求めているのか、回答を求められている期限、裁判所からの書類が含まれていないかを確認します。労働審判の申立書や呼出状が届いている場合は、答弁書の提出期限と第1回の期日を確認します。
- 雇用契約書、就業規則――雇用契約書、当時適用されていた版の就業規則と、その周知の状況が分かる資料、解雇の通知、退職の合意書を確保します。規程が改定されている場合には、いつの版が適用されるのかを確認します。
- 退職勧奨から通知・合意に至る経緯――面談の日時、出席者、発言の内容、本人の反応を、発言者ごとに時系列で整理します。録音、メモ、メールが残っているかを確認します。
- 会社が理由としている事実を裏づける原資料――従業員の評価、指導の記録、業務上の支障が生じたことを示す資料、非違行為に関する記録、本人の説明を保全します。後から作成した資料ではなく、当時の資料を確保します。
- 雇用契約関係と、会社が行った措置の種類――無期か有期か、試用期間中か、通知したのは普通解雇か懲戒解雇か、退職勧奨にとどまるのかを確認します。解雇予告をしたのか、解雇予告手当を支払ったのかも確認します。
- 解雇が制限される事情に当たらないか――業務上の傷病による療養のための休業、産前産後の休業、育児休業、組合活動、ハラスメントの申告といった事情との時間的な関係を確認します。
- 現在の就労・賃金・社会保険の取扱い――現在も就労しているのか、賃金を支払っているのか、社会保険の資格をどう処理したのかを確認します。復職を求められている場合は、その申出の内容も確認します。
確認できている記録を基に、何が争われているのかを整理し、回答の順序と解決の方向を検討します。
ご相談いただけること通知・請求の内容と期限の確認/解雇又は退職に至る経緯と記録の整理/解雇理由証明書の取扱い/解雇後の賃金の検討/回答書の作成と交渉/合意による解決の検討/労働審判・訴訟への対応
お問い合わせフォームへ1 どの雇用関係の終了が争われているか
「解雇が争われている」と一口に言っても、実際には、退職の合意が成立しているかどうかが争点である場合と、解雇そのものの効力が争点である場合があります。さらに、解雇であれば、会社が挙げている理由によって検討の枠組みが変わります。
退職勧奨の言動と、合意退職の成立・有効性
退職勧奨は、退職を勧めて本人の判断を求めるものであり、従業員にこれに応じる義務はありません。したがって、退職しない意思を明らかにした従業員に対し、解雇を示唆して長時間・多数回にわたり繰り返し勧奨するなど、自由な意思決定を困難にする態様に至ると、違法な退職勧奨として不法行為を構成し得ます。この場合、合意書の効力が否定されるほか、使用者に損害賠償義務が生じ得るなどのリスクがあります。
また、退職勧奨を受けて作成した合意書に署名があっても、それだけで有効性が確定するわけではなく、民法の定める要件を満たす錯誤、詐欺、強迫があれば、意思表示を取り消すことができるとされており、従業員が退職の合意の取消しを主張するという場合もあります。会社としては、退職に至った経緯、動機、従業員に対し何をどのように説明したかなど、退職勧奨や退職の合意を行った際の面談の内容等を確認する必要があります。
能力・勤務態度・職場秩序を理由とする普通解雇
普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とされます。ここでは、会社が挙げている解雇理由となる事実やその程度を、証拠により裏付けることができるか確認しておく必要があります。「能力不足」「協調性の欠如」という評価だけで結論が決まるものではありません。
非違行為を理由とする懲戒解雇
懲戒解雇は、当該労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らし、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とされます。
懲戒解雇を検討する際には、その根拠規定、懲戒の事由と種類、その規定が当該従業員に適用・周知されていたか、手続の相当性等を確認します。
この点に関連して、常時10人以上の労働者を使用する使用者が制裁の定めを設ける場合には、その種類及び程度を就業規則に記載して届け出る必要があります。また、使用者は、法令所定の方法により就業規則を労働者に周知させなければなりません。
経営上の理由による整理解雇
経営上の理由による整理解雇については、人員削減の必要性、解雇を回避するための努力、人選の合理性、説明・協議等の手続の妥当性といった観点から検討されるのが一般的な整理です。
2 解雇に至る理由と手続を確認する
契約期間、就業規則、解雇の制限
有期労働契約については、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間に労働者を解雇することはできないとされています。期間の途中の解雇と、期間満了時の雇止めとは、別の問題として整理する必要があります。
また、業務上の傷病による療養のために休業する期間及びその後30日間、産前産後の法定の休業期間及びその後30日間は、法定の例外を除き、解雇することができません。私傷病による休職とは区別が必要です。
解雇の予告については、法定の例外を除き、少なくとも30日前に予告をしなければならず、予告をしない場合には30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。平均賃金を支払った日数だけ、予告の期間を短縮することができます。日々雇い入れられる者や試用期間中の者などについては適用除外が定められていますが、試用期間中の者についても、14日を超えて引き続き使用されるに至った場合には適用があります。
会社の説明と、それを裏づける事実・記録
従業員に対する指導の記録、業務上の支障が生じたこと、非違行為の内容等について、当時の記録と本人の説明を時系列で整理しておくことが望ましいといえます。客観的な事実、当事者の説明、会社としての評価を分けて整理しておくと、後の主張の組立てが安定します。
本人への説明、指導・改善の機会、弁明の経過
会社が解雇等の理由として挙げている事実について、本人に対しどのように伝え、改善の機会をどう与えたか、処分に先立って弁明の機会をどう設けたかを確認しておきます。これらは、就業規則の定めと実際の運用の両面から確認しておく必要があります。
3 解雇通知後の異議・復職の要求にどう対応するか
通知済みの理由と、証明書における回答
解雇の予告をした後から退職の日までの間、あるいは退職後に、当該解雇の理由についての証明書を請求された場合には、法定の例外を除き、遅滞なくこれを交付する必要があり、労働者が請求しない事項を記入してはならないとされています。予告がされた日以後に、当該解雇以外の事由により退職した場合の例外も定められています。
証明書の回答では、既に通知した理由と整合しない理由を新たに追加したり、理由を差し替えたりしないことが重要です。就業規則の一定の条項に該当することを理由とする場合は、就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係を記載します。単に「能力不足」「協調性の欠如」などの抽象的な評価や、就業規則の条文の列挙だけでは、具体性を欠くものと判断されるリスクがあります。
解雇期間中の未払賃金
解雇が無効である場合、労働契約は解雇後も存続しているものと扱われ、従業員が、債権者である会社の責めに帰すべき事由によって労務を提供することができなくなったものとして、会社は賃金の支払を拒むことができないとされています。もっとも、労働者が解雇期間中に他の使用者のもとで就労して賃金を得ていた場合などは、会社が賃金の支払から控除することができる場合があります。
解雇後の賃金の請求については、解雇の効力、就労の意思と能力、会社の側の事情といった要素を踏まえて検討されます。
これとは別に、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合には、休業期間中、平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければならないという定めがあります。もっとも、これは休業手当についての定めであり、解雇後の賃金を一律に60パーセントとする趣旨ではありません。
代理人・労働組合からの申入れへの対応
使用者は、雇用する労働者の代表者との団体交渉を、正当な理由がなくて拒むことができないとされています。退職した従業員に関する団体交渉に応じる必要があるかどうかは、対象者と会社との関係、議題、経緯によって別に検討することになります。この点は「社外の労働組合から団体交渉を申し入れられたとき」で扱っています。
4 紛争解決の方法を検討する
雇用の継続や、解雇の撤回を検討する場合
会社が従業員に対し、解雇を撤回すると通知しただけで、雇用関係の終了や賃金をめぐる紛争が当然に解消するわけではありません。有効な解雇を会社が撤回する場合と、そもそも解雇が無効であって雇用契約が存続している場合とでは、前提が異なります。解雇の撤回を検討する場合には、解雇の効力、復職後の就労の条件、賃金の取扱いその他の労働条件、既に経過した解雇期間の処理を、あわせて整理する必要があります。
労働審判・訴訟に備える資料と争点
労働審判の申立書や呼出状が届いた場合には、裁判所が指定した答弁書の提出期限と第1回の期日を確認し、申立書と添付資料を基に、必要な準備をします。
労働審判において裁判所の判断が出された後については、当事者は、審判書の送達又は法定の告知を受けた日から2週間の不変期間内に、裁判所に異議の申立てをすることができます。適法な異議の申立てがあると労働審判は効力を失い、その請求については、労働審判手続の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされます。他方、適法な異議の申立てがないときは、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有します。2週間の不変期間を過ぎた後にされた異議申立ては、不適法なものとして却下されることになるため、迅速な判断を要します。
退職勧奨や解雇等に関する法的リスクの検討、労働審判・訴訟対応のご相談はもちろんのこと、その他にも、雇用関係の終了に関する規程や運用の見直しを継続的に行う場合には顧問サービスを、従業員に対する指導の記録の残し方や解雇等に至る必要な手続を現場に共有する場合には社内研修サービスをご利用いただけます。
よくあるご質問
退職勧奨を断られた場合、解雇に切り替えられますか。
退職勧奨に応じなかったことそれ自体は、解雇の理由になりません。解雇をするのであれば、その理由を裏付ける事実と経過が別に必要です。退職勧奨の場面で解雇を示唆していた場合には、その発言の内容と経緯が、後の判断で確認されることがあります。
勤務成績が低ければ、普通解雇は認められますか。
勤務成績が低いという評価だけで決まるものではありません。普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効とされます。会社が解雇理由としている事実の有無やその程度が記録裏付けられているか、改善の機会をどう与えたか、配置の見直しが検討されたかといった事情を確認しておく必要があります。
退職合意書に署名があっても、後から争われますか。
争われる可能性はあります。署名があることは重要な事実ですが、それだけで退職合意書の有効性が確定するわけではありません。民法上の錯誤、詐欺、強迫があれば、意思表示を取り消すことができるとされています。会社としては、退職に至った経緯、本人に説明した内容、退職の合意を行った際の面談の内容等を確認することになります。
解雇予告手当を支払えば、解雇は有効になりますか。
予告や予告手当の問題と、解雇そのものの有効性とは別に検討されます。法定の例外を除き、少なくとも30日前の予告か、30日分以上の平均賃金の支払が必要ですが、これを満たしたことによって、必ずしも解雇が有効になるわけではありません。
会社の業績が赤字であれば、整理解雇は認められますか。
会社の業績が赤字であることだけで結論が決まるものではありません。人員削減の必要性、解雇を回避するための努力、人選の合理性、説明・協議等の手続の妥当性といった観点から検討されるのが一般的な判断枠組みになりますが、個別の事案ごとに確認することになります。
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まずはご相談ください
早期のご相談が、対応の選択肢を確保するために重要です。
お問い合わせフォームへ本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。
