Intellectual Property
AI広告・AI音声の商用利用――許可と権利の確認点
生成AIで広告用の画像や音声を作るときは、サービスの「商用利用可」という表示に加え、素材や生成物に関係する第三者の権利を確認する必要があります。既存の作品やブランド、実在する人物の肖像・声が関わる場合、利用の内容によって確認すべき権利や契約が変わります。
本稿では、広告主と制作会社に向けて、生成物に著作権が生じるか、第三者の権利との関係で許諾が必要かを整理します。音声については、元の録音素材の利用、音声モデルの作成、合成音声の公開を分け、権利制限の適用と契約上の合意を確認する手順を解説します。
AI広告・AI音声を公開する前に確認すること
- 広告の対象商品、公開する媒体、利用する期間・地域と、二次利用の予定
- 利用するAIサービス・プランの規約と、権利の保証・補償の範囲
- 入力する画像・録音・台本等の出所、権利者、取得している許諾
- 特定の実在する人物を想起・識別させる肖像や声を使用するかどうか
- 素材の利用、学習・モデルの作成、新しい発言の合成・公開の各段階についての合意
- 生成物の確認の記録、人による修正の内容、制作会社との責任の分担
ご相談いただけること利用予定の素材・生成物・媒体の整理/著作権・実演・肖像・声に関する法的検討/権利制限の適用と許諾の要否の確認/素材利用・音声モデル作成・合成音声公開の条件整理/出演者・制作会社等との契約の作成・見直し/権利侵害の指摘への対応
お問い合わせフォームへ目次
1 「商用利用可」の範囲と、生成物の権利を確認する
「商用利用可」が意味するのは、提供者との関係です
サービスの規約が生成物の商用利用を認めていることは、提供者との関係で利用が許されているという意味にとどまります。生成物に他人の著作物の表現が含まれていた場合や、実在する人物の肖像・声を想起させる場合に、その表示だけで、第三者の権利まで処理されていると判断することはできません。
確認すべきは、規約が定める禁止用途、生成物の権利の帰属、そして権利の保証や補償に関する条項の有無と範囲です。補償条項が置かれている場合も、対象となる利用、適用の条件、除外事由を確認してください。
生成物に著作権が生じるかは、人の関与によります
著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定めています。文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」は、AIが自律的に生成したものは著作物に該当せず、人が思想又は感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば著作物に該当し、AI利用者が著作者となる、と整理しています。
「道具」として使用したといえるかは、人の「創作意図」があるか、人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったかによって判断されます。同資料では、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は創作的寄与の評価を高める一方、長大な指示であっても創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる場合は判断に影響しないこと、試行回数が多いこと自体は影響しないこと、加筆・修正を加えた場合には通常その部分に著作物性が認められることが示されています。
広告の実務上は、生成物に著作物性が認められない場合、第三者が同じ表現を用いることを著作権に基づいて止めることが難しくなります。他方で、著作物性がないことは、第三者の権利を侵害しないことを意味しません。この二つは別の問題です。
広告主が何を取得するのかも、別に確認します
著作物性が認められるとしても、その権利が当然に広告主に帰属するわけではありません。制作会社に発注して代金を支払ったことだけで、著作権が広告主に移るとは限りません。生成物や、人が加えた創作的な部分について、権利の帰属と、広告主が利用できる範囲を契約で確認します。台本、音楽、写真等の権利も、出演者・実演家の承諾とは別に確認する必要があります。
2 既存の著作物・キャラクター・ブランドとの関係を確認する
類似性と依拠性
生成物が既存の著作物の著作権を侵害するかどうかは、類似性(創作的表現が共通していること)と依拠性が認められ、かつ権利制限規定の対象外である場合に問題となります。
文化庁の整理では、依拠性について、既存の著作物が生成AIの開発・学習段階で学習されていた場合には、AI利用者が既存の著作物を認識していない場合でも、通常、依拠性があったと推認されるとされています。もっとも、学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において出力される状態となっていない場合には、依拠性がないと主張・立証できる可能性があるとも述べられています。
学習段階に権利制限が適用されることと、生成した広告を公開する行為が適法であることとは、別に検討します。なお、自社サイトの情報が取得・学習される側の対応については、別稿「自社サイトのAI学習拒否」で取り上げています。
参考画像を入力する行為も、別に確認します
参考にする画像や音源をAIに入力する行為に伴う複製と、生成物を公開する行為は、別々に確認します。元の画像の創作的な表現を再現させる目的で入力する場合には、情報解析を伴っていても、著作権法30条の4が適用されないことがあります。文化庁も、生成の際の指示として既存の著作物を入力する行為について、享受の目的が併存しないかを検討すべきものとしています。
作風と、具体的な表現
特定の作家や作品の「作風」を指示することと、その作品の具体的な表現を再現することとは異なります。著作権が保護するのは表現であり、アイデアや作風そのものではありません。もっとも、作風を指示した結果として具体的な表現が再現されることはありますので、生成物そのものを確認する必要があります。
キャラクター・ブランド
既存のキャラクターや、他社のロゴ・商品名を想起させる表示を広告に用いる場合は、著作権のほか、商標権や不正競争防止法上の商品等表示に関する規律を確認します。需要者の間に広く認識されている他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用して混同を生じさせる行為や、他人の著名な商品等表示と同一又は類似のものを自己の商品等表示として使用する行為は、不正競争とされています。
確認の記録を残します
どのような指示を与えたか、参照させた素材は何か、生成物のどこを人が修正したかを記録しておくと、後に指摘を受けた際の説明が容易になります。制作会社に委託する場合は、この記録を誰が保管するのかも決めておきます。
3 実在する人物の肖像・声と、元の録音に関する権利を確認する
肖像とパブリシティ権
実在する人物の肖像等を無断で使用する行為について、最高裁は、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となるとしています。この判断は、写真の利用に関するものです。
これとは別に、肖像等をみだりに利用されない人格的な利益も問題になります。著名人でなければ問題にならない、というものではありません。
声について
法務省が2026年8月7日に公表した「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」の取りまとめ報告書は、声をパブリシティ権の保護対象に含める点について、検討会では異論がなかったと整理しています。
ただし、これは検討会による解釈の整理であり、新たな権利を設ける法律でも、AIによる合成音声の利用について判断した判決でもありません。実際の事案では、その使用された肖像等が本人のものであると識別できるか、顧客吸引力をどのように利用しているかなど、個別の利用態様を検討することになります。
他方、法令や判例ではないことを理由に、契約上の確認が不要になるわけでもありません。後述する三つの段階について、関係者との間で許容する利用を明確にしておくことが実務上の備えになります。
実演家・レコード製作者の権利
既存の録音素材を使う場合は、そこに含まれる脚本・楽曲・歌詞などの著作物、実演、レコードについて、権利を分けて確認します。実演とは、著作物を演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含みます)をいいます。台詞の演技や歌唱、口演、朗詠は実演に当たります。他方、著作物を口頭で伝達する朗読は、実演に該当するものを除き、口述として別に扱われています。条文は行為の内容によって実演を定めていますので、声優や俳優が発した音声であるということだけで決まるものでも、抑揚が乏しい読み方であるということだけで決まるものでもありません。
実演家には、実演を録音・録画する権利と、実演を送信可能化する権利がありますが、いずれにも適用除外があります。許諾を得て映画の著作物に収録された実演については、録音・録画権は、音を独立して再生する録音物への録音を除き、適用されません。送信可能化権についても、許諾を得て録画されている実演などについて、別の適用除外が定められています。元の収録の形態と、今回行おうとしている利用行為、そして契約の範囲を分けて確認することになります。音声を抽出すれば両方の権利が必ず問題になる、というものでもありません。
レコード製作者は、そのレコードを複製する権利と送信可能化する権利を専有します。実演に当たらない音声であっても、その録音物についてレコード製作者の権利が問題になることがありますので、音を最初に固定した者や、権利の承継の有無も確認します。もっとも、映像とともに再生することのみを目的とする固定物は、レコードの定義から除かれています。実演家の同意を得ていることだけで、レコード製作者の権利まで処理できるわけではありません。
実演家には、実演家名を表示し、又は表示しないこととする権利があり、また、自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けないものとされています。後者は、あらゆる改変を禁ずる規定ではなく、実演の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変や、公正な慣行に反しないと認められる改変には適用されません。「本人が話していない内容だから当然に同一性保持権の侵害になる」という整理はできません。
声が似ていることと、元の実演を利用したこと
声の特徴が似ていることだけから、元の実演の録音・利用があったとはいえません。元の具体的な実演が再製されていないのであれば、声が似ていることだけを理由に録音権の侵害を導くことはできません。
他方、新しい文章を話しているというだけで、元の実演を利用していないともいえません。元の音源の取り込み方、合成の仕組み、出力に具体的な実演がどの程度再現されているかを、個別に確認したうえで判断することになります。
また、声の問題は、顧客吸引力の利用だけで終わるものではありません。本人が述べていない発言を、本人のものとして示す場合には、名誉やプライバシーといった人格的な利益が問題にならないかも確認します。もっとも、そこから、一般の方についても包括的な声の独占権が確立している、無断の利用はすべて違法である、といえるわけではありません。
なお、AIで生成した旨を表示しても、肖像や声の利用に関する権利や合意の確認が不要になるわけではありません。
4 素材利用・モデル作成・広告公開ごとに、権利処理と合意を確認する
順序を決めて確認します
確認の順序は、①利用する素材と行為を特定する、②権利が及ぶかを確認する、③権利制限が適用されるかを確認する、④必要な許諾と契約条件を決める、の四段階です。すべての段階で許諾が必要になる、というチェックリストにはなりません。
権利制限は、実演・レコードにも及びます
著作権法102条1項は、30条の2から32条までの規定などを、著作隣接権の目的となっている実演、レコード、放送又は有線放送の利用について準用しており、この中には30条の4が含まれます。録音をAIの学習に使う場合にも、要件を満たせば、実演家やレコード製作者の許諾が不要となる場合があるということです。
もっとも、「学習」という名称だけで判断できるものではなく、元の実演を鑑賞させる目的の有無、利用の範囲、権利者への影響を確認することになります。また、同条9項2号は、準用される30条の4の適用を受けて作成された実演等の複製物を用いて、当該実演等を自ら享受し又は他人に享受させる目的のために当該実演等を利用した者を、録音・録画・複製を行ったものとみなすと定めています。学習用に適法に複製できたとしても、その複製物を使って元の実演を広告で聴かせることまで認められるわけではありません。
もっとも、学習済みのモデルがここでいう実演等の複製物に当たるのか、そのモデルを用いた出力が元の実演等を享受させる目的での利用に当たるのかは、別に検討する必要があります。確認するのは、どの音源をどのように取り込んだか、生成に際して元の音源の複製物を用いているか、出力に元の実演がどの程度再現されているか、そしてその利用の目的です。声が似ていることだけで決まるものではありません。
さらに、ここで扱う情報解析のための権利制限が適用される場合にも、実演家人格権と契約上の制限は別に確認することになります。
段階ごとの確認
| 段階 | 主に問題となる権利 | 確認する資料・許諾の範囲 | 個別の検討が必要な部分 | 契約で定めておくこと |
|---|---|---|---|---|
| ①元の録音・出演素材の取得・利用 | 実演家の録音・録画権、送信可能化権、氏名表示権/レコード製作者の複製権・送信可能化権/台本・楽曲の著作権 | 元の音源と収録の形態、過去の出演・収録契約、許諾を与えた相手とその権限、台本・楽曲の権利処理の状況 | 実演に当たるか、適用除外に当たるか。過去の契約がどの範囲まで及ぶか | 提供する素材の特定、利用の目的、再提供の可否、保管と返却・消去 |
| ②学習・音声モデルの作成 | 同上(102条1項により30条の4等が準用される) | 学習に用いる素材の範囲、権利者からの同意の有無と範囲、モデルの保管・管理の取決め | 享受の目的が併存しないか。モデルの保管と再利用をどこまで認めるか | モデル作成の可否、作成したモデルの帰属・保管・第三者提供の可否、利用期間と終了後の取扱い |
| ③新しい発言の合成・公開 | 実演家人格権/パブリシティ権・人格的利益/不正競争防止法上の商品等表示 | 本人の承諾書とその範囲、合成した音声・完成した広告の確認記録、公開の承認者 | 本人を識別できるか、顧客吸引力をどのように利用しているか、元の実演がどの程度再現されているか | 合成できる発言の範囲、媒体・期間・地域、改変の限度、公開前の本人確認、取消しの手続 |
契約で優先して定めること
媒体・期間・地域に加えて、追加の学習の可否、第三者へのモデルの提供、合成する発言の範囲、契約終了後の利用と消去を優先して定めます。出演者の承諾を一つ得ただけで、素材の利用から新しい発言の公開までがすべて処理できると考えるべきではありません。
あわせて、合成した発言と完成した広告を誰が確認して承認するか、権利者から異議が出た場合の連絡・配信停止・差替えの判断と費用の負担をどうするか、元の素材・モデル・合成音声・公開した広告のそれぞれを契約終了後にどう扱うかを定めておきます。
制作会社から「権利処理済み」という説明を受けている場合も、何について、誰から、どの範囲の許諾を得たのかを確認します。広告主として、公開の可否を自ら判断できる状態にしておく必要があります。
当事務所のサポート内容
- 利用を予定している素材・生成物・媒体を整理し、確認すべき権利を特定します
- 著作権、実演家・レコード製作者の権利、肖像・声に関する利益について、利用の態様に即して検討します
- 権利制限の適用と、許諾の要否を分けて整理します
- 素材の利用、音声モデルの作成、合成音声の公開について、契約条件を整理し、契約書の作成・見直しを行います
- 出演者・制作会社・AIサービス提供者との間の責任の分担を整理します
- 権利侵害の指摘を受けた場合の対応を支援します
よくあるご質問
有料プランで「商用利用可」とされていれば、生成物をそのまま広告に使えますか。
そうとは限りません。「商用利用可」は、サービスの提供者との関係で利用が許されているという意味であり、生成物に含まれる他人の著作物の表現や、実在する人物の肖像・声に関する権利まで処理されているわけではありません。規約の禁止用途、権利の帰属、保証・補償条項の範囲を確認したうえで、生成物そのものを見て、第三者の権利との関係を検討することになります。
過去にCM出演・録音の許諾を得た声優の声から、別商品の広告用音声を作れますか。
過去の契約がどの範囲まで許諾しているかによります。出演・録音の許諾が、その収録物を特定の広告で使うことを対象としている場合、別商品の広告のために音声モデルを作成し、新しい発言を合成することまでは、通常、含まれていません。また、映像作品に収録された実演を音声だけ取り出して用いる場合には、適用除外の規定が問題になります。素材の利用、モデルの作成、合成音声の公開を分けて、あらためて合意することをお勧めします。
本人が話していない文章を合成する場合も、実演家の権利の問題になりますか。
場合によります。著作権法上、録音とは、音を物に固定することのほか、その固定物を増製することをいいます。したがって、本人が話していない文章であっても、学習や合成の過程で元の実演を収録した音源を複製する場合や、その録音を組み合わせて出力を作る場合には、実演家の権利が問題になり得ます。
もっとも、声の特徴が似ているというだけで、元の実演を利用したことにはなりません。制作の過程と、出力の作成・公開とを分けたうえで、元の実演を利用しているか、その方法はどのようなものか、許諾の範囲に収まるか、権利制限や適用除外が働くかを確認することになります。学習の過程で複製があったことから、出力の公開までが当然に元の実演の利用になるわけでもありません。
なお、実演家の権利とは別に、レコード製作者の権利、パブリシティ権や人格的な利益、契約上の制限も別に確認します。
「AIで生成した肖像・音声です」と表示すれば、本人の許諾は不要ですか。
不要にはなりません。AIによる生成であることを表示しても、その肖像等が本人のものであると識別でき、顧客吸引力を利用していると評価される場合には、パブリシティ権の問題が残ります。表示によって視聴者の誤認が軽減されるかどうかと、本人の顧客吸引力等を利用していると評価されるかどうかは、別の問題です。広告表示の規制との関係は、これとはさらに別に検討する必要があります。
制作会社から「権利処理済み」と説明を受けていれば、広告主による確認は不要ですか。
不要とはいえません。何について、誰から、どの範囲の許諾を得たのかを確認する必要があります。特に、素材の利用と、音声モデルの作成、合成音声の公開とでは、許諾すべき内容が異なります。契約上、制作会社が補償の義務を負う旨を定めていても、それによって権利者から広告主に対する請求が当然に遮断されるわけではありません。公開の可否を広告主として判断できるよう、根拠となる資料を確認しておくことをお勧めします。
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