Intellectual Property

買収後、ソフトウェアの利用権限に疑義が生じたら

買収後、ソフトウェアの利用権限に疑義が生じても、資料不足、権利・許諾の不足、利用条件の違反では対応が異なります。まず、どの会社のどの行為に支障があるかを絞り、契約と実装、開発経緯を照合します。本稿では、説明が食い違う場合の調査から、利用の確保、過去の利用の処理、売主への請求との調整までを整理します。

監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)

最終更新日:
目次
  1. 1 支障が生じている主体と行為の絞り込み
  2. 2 契約と実装の照合、権利の裏付けの確認
  3. 3 利用の確保と、過去の問題の切り分け
  4. 4 是正と売主への請求の調整

1 支障が生じている主体と行為の絞り込み

まず、取引の形態を確認します。株式取得では対象会社の法人格は変わらず、同社を当事者とする許諾関係も原則として維持されます。ただし、支配権の変更に伴う通知・承諾・解除等の条項は別途確認します。事業譲渡では、契約上の地位の移転に原則として相手方の承諾が必要です。既存の契約で事前の承諾が与えられていないかも確認します。会社分割では、分割契約・分割計画に従って権利義務が承継されるため、承継対象と関連する契約条項を確認します。

以下の本文と表は、株式取得を中心に説明します。事業譲渡・会社分割では、従来の契約当事者と、事業を引き継ぐ会社を区別して確認します。

次に、対象会社の従来の利用と、買主・グループ会社への展開を分けます。誰が、どの版・機能を、社内利用、顧客への提供、改修等のために使うのか。取引後も提供主体が同じなのか、別法人がコードを受け取るのかによって、確認する権限や条件が変わります。

暫定対応では、利用継続の法的根拠と未確認事項を整理したうえで、第三者の指摘内容や停止による影響も考慮します。利用を続ける範囲、追加許諾を求める範囲、見合わせる行為を決め、判断の前提と見直し時期を記録します。関係資料の保存と、買収契約上の通知期限の確認も並行します。

以下の表では、事業行為ごとの確認事項と当面の判断を整理します。

判断する事業行為確認する権利・条件主な確認資料当面決めること
対象会社による既存版の利用・顧客提供現在の利用・提供を許す範囲、期間・解除、未履行の条件許諾契約、顧客契約、稼働・提供中の版、ライセンス表示継続する機能・提供先、暫定許諾や制限の要否
対象会社による新規販売・新規提供新規顧客・新たな提供形態を含む許諾、第三者部品の条件提供予定版、提供方法、許諾条件、顧客向け契約・表示新規受注・出荷・リリースを進める範囲、保留する対象
改修・保守・開発先の変更改変・改変後の利用、外部委託・コード開示の可否開発・保守契約、ソースコード、変更履歴、再委託条項着手する改修、委託先へ渡す資料、追加合意の要否
買主・グループ会社での利用・開発・提供対象法人・地域・用途、契約・利用権の承継、再許諾等承継対象一覧、許諾契約、グループ内の移管・提供計画移管・共同開発・提供の実施範囲、必要な承諾・追加許諾

表の各行は、利用の可否を一律に示すものではありません。既存の利用・提供も確認対象であり、同じグループ内というだけで利用が認められるわけではありません。日本法を前提とした整理であり、契約の準拠法も確認します。

2 契約と実装の照合、権利の裏付けの確認

売主の「著作権は譲渡済み」と、開発先の「共通部品は譲渡対象外」は、対象を特定しなければ比較できません。誰が、どの契約・コード・版について、何を主張しているのかを整理するところから入ります。

契約上の成果物と、納品物・現在の実装を対応させます。 開発契約、仕様書、成果物一覧から、納品されたコード・版を特定し、買収時と現在の実装につなげます。追加開発、既存の共通部品、再委託先の作成部分、第三者ライブラリ・OSSを区別します。技術担当者とともに、契約のどの記載が、実装のどの部分に対応するかを確認します。買収後に追加された部分を、買収時からの問題に混ぜないことも、この段階で行います。

当時の資料と現在の説明を照合し、裏付け・矛盾・空白を示します。 開発時のメールや課題管理記録、納品一覧、検収資料、変更履歴を時系列に置き、関係者の説明と照合します。「当初納品に含まれていた」という説明が、納品記録と整合するか、後の変更履歴に初めて現れるかを確かめます。記録だけで分からない部分は、実際の関与者に、対象と時期を示して確認します。資料があることと、その資料が主張を裏付けることは分けます。

帰属が問題となるコード等について、創作的な表現への関与と職務著作の成否を確認し、誰が著作者となるかを検討します。 法人の発意、業務への従事、職務上の作成、作成時の契約・就業規則等が確認事項です。元従業員・元役員という肩書や、変更履歴の名義だけで結論を出しません。プログラムの職務著作では、法人等の名義で公表することは要件とされていません。

その帰属を起点に、譲渡・承継の経路と現在の著作権者を確認します。対象会社による著作権の取得と、必要な利用許諾の有無は分けて検討し、許諾の裏付けも並行して調べます。 譲渡条項については、翻案等の権利と二次的著作物の利用に関する権利が、譲渡の目的として特に示されていない場合には、これらは譲渡人に留保されたものと推定されます。

資料不足と権利不足を分け、次の作業を特定します。 調査結果は「確認できた権限」「不足を認める根拠」「なお不明な点」に分けます。そのうえで、追加取得する資料、説明を求める相手、追加合意・条件是正が必要な事項を示します。「現時点で譲渡を裏付ける資料が見つからない」と「譲渡されていない」は区別します。開発代金の支払いやコードの保有だけで、著作権の取得や必要な許諾を認定することもできません。

3 利用の確保と、過去の問題の切り分け

既存の許諾その他の法的根拠を確認し、追加の許諾が必要な場合には、その権限を持つ相手と暫定利用の範囲を協議します。対象のコード・版、利用する法人、提供先、許される行為、期間、対価、終了時の移行措置を定めます。帰属や過去の責任に争いが残るなら、合意できた事項と未解決の事項を区別します。請求を一時的に控える合意なのか、利用自体を許諾する合意なのかも明確にします。

将来の利用については、必要な権利を持つ開発会社、元従業員・元役員等や、許諾権限のある事業者と、譲渡・追加許諾等を合意します。権利が複数人に分かれる場合は、一人との合意で必要な範囲を確保できるか確認します。対象会社だけでなく、買主やグループ会社による改修、外部委託、顧客への提供まで必要な範囲を特定します。著作権を取得する場合は、改変や改変後の利用に関する権利の範囲も確認し、ソースコードや開発資料の引渡しは別に定めます。改修では、同一性保持権の例外や既存の合意を踏まえ、著作者の同意等が必要かを確認します。許諾権限のない売主の約束だけで、第三者の権利を補うことはできません。

過去の利用は、将来の許諾と分けて扱います。 今後使えるようにしても、それ以前の利用に関する請求まで解決したとは限りません。その請求権者が現在の著作権者と同じかも確認します。請求権を持つ相手と、対象期間、利用した法人、コード・版、利用行為を特定し、対価の精算や請求の放棄などを協議します。合意で処理する請求と、対象外の権利者・請求を明らかにします。

補完が難しい場合は、該当部分の置換えも検討します。技術担当者と対象範囲、移行期間、既存顧客への対応を詰め、代替物の権利・利用条件と移行中の許諾を確認します。置換えだけで過去の問題が消えるわけではなく、元の実装や履歴も保存します。

OSSでは、適用ライセンスに照らし、買収に伴うコード移転や利用変更の条件を確認します。条件の履行・是正と、売主との資料引継ぎ・対応分担は分けて扱います。

4 是正と売主への請求の調整

調査で分かった権利・許諾の状態を、買収契約の表明保証の内容、基準時、開示事項と照合します。買収後の改修や利用主体の変更も追い、保証された状態とどの点が食い違うのかを特定します。

権利者等との是正交渉に入る際は、買収契約上の通知・協議・同意の定めを確認します。売主の同意の要否や対象となる合意、通知の時期・内容を押さえ、追加許諾・和解の交渉と調整します。売主に協力を求める事項と、権利者等との間で解決する事項も分けます。

対象会社の支出を、買主が当然に売主へ請求できるとは限りません。 誰が何のために支出し、誰にどの損失が生じたかを記録したうえで、買主がどの契約条項に基づき何を請求できるかを検討します。是正に関する合意で解決する範囲と、売主への請求として残す事項を明確にします。

関連記事:M&Aの表明保証違反と補償請求(表明保証違反に基づく請求の要件・制限について)

売主と開発会社の説明が食い違う場合や、利用条件の合意と売主への請求を並行して進める場合には、事実関係と交渉方針を一体で検討します。当事務所では、権利帰属・許諾範囲の調査と主張の組立て、権利者・開発会社・元役員等との利用条件の交渉、是正交渉と売主への請求の調整について、個別のご相談をお受けしています。

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