Litigation & Dispute Resolution
大規模修繕工事の談合はいつまで請求できるか――民法・独禁法・契約条項による請求
マンションの大規模修繕工事をめぐる受注調整について、公正取引委員会は2026年9月28日、施工業者と設計コンサル業者に排除措置命令を、施工業者に課徴金納付命令を出しました。対象となった工事の発注者である管理組合が損害の回復を求める場合、請求の根拠には、民法の不法行為、独占禁止法25条、工事請負契約の条項などがあり、根拠ごとに、裁判で主張できる時期と期限が異なります。
独占禁止法25条による請求は、命令の確定が前提です。これに対し、民法に基づく請求は命令の確定を待たずにすることができ、その間も期限が進むことがあります。「命令が確定するまで待てばよい」「公表の日から3年」と一律に考えると、期限の判断を誤るおそれがあります。
本ページは、請求を検討している管理組合の理事会と区分所有者の方に向けて、請求の根拠の分け方、根拠ごとの期限、命令の確定前に進めておくこと、訴えを起こす前の確認を整理したものです。損害額の考え方と、その立証に使う資料は、大規模修繕工事の談合による損害額――工事代金の過大支払をどう調べ、立証するかで扱っています。対象工事の確認や、立場と理事会の状況に応じた進め方は、本ページ末尾の「関連するページ」に掲げた「マンション大規模修繕工事の談合」で扱っています。
監修:原 彰一(弁護士・元裁判官/第一東京弁護士会)
まず確認すること
期限を確認するために、分かる範囲で次の事項を整理してください。
- 工事請負契約と設計コンサル業務の委託契約の締結日、工事の完了日、代金の支払日
- 談合の疑いを知った経緯と時期(報道、公正取引委員会の公表、施工業者からの通知、理事会からの報告など)
- 請求を検討している相手方(受注した施工業者、他の施工業者、設計コンサル業者)と、それぞれに出された命令の有無・内容
- 命令の確定について分かっていること(取消しを求める訴訟の有無など)
- 契約書に、談合があった場合の違約金や損害賠償の条項があるか
- これまでに行った請求・協議・支払の受領・法的手続と、相手方から示されている期限
ご相談いただけること請求の根拠(民法・独占禁止法・契約)ごとの期限の整理/相手方ごとに出された命令の確認と、請求の相手方の検討/催告、協議を行う旨の合意、訴えの提起など、期限への対応の検討/工事請負契約・設計コンサル業務の委託契約の条項の確認管理組合の理事・監事の方のほか、区分所有者の方(お一人でも、複数の方でも)からのご相談も承ります。
お問い合わせフォームへ1 請求の根拠を分けて考える
1-1 民法の不法行為に基づく請求
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。受注調整によって工事代金が高くなった場合、発注者である管理組合は、受注調整に加わった事業者に対し、この規定に基づいて損害の賠償を請求することが考えられます。
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯して賠償する責任を負います(民法719条1項)。受注調整に加わった複数の事業者について、この規定がどこまで当てはまるかは、それぞれの関与を踏まえて検討します。
1-2 独占禁止法25条に基づく請求
不当な取引制限(独占禁止法3条)をした事業者は、被害者に対し損害賠償の責任を負い、故意又は過失がなかったことを証明しても、その責任を免れることができません(同法25条)。
ただし、この請求は、排除措置命令(排除措置命令がされなかった場合は課徴金納付命令)が確定した後でなければ、裁判で主張することができません(同法26条1項)。今回の件では、違反事業者のうち、排除措置命令を受けていない事業者や、課徴金の納付を命じられていない事業者もあります。相手方ごとに、命令の有無・内容と確定の状況を確認し、独占禁止法25条の請求を裁判で主張するための条件を満たすかを検討します。
1-3 契約に基づく請求と、談合違約金の条項
工事請負契約に、談合があった場合に請負代金額の一定の割合を違約金として支払う旨の条項がある場合は、その条項に基づく請求も検討します。国土交通省は2025年6月26日付の事務連絡で、マンション修繕工事の請負契約に定める談合違約金特約の条項の例を示し、関係団体に周知しています。条項の例では、課徴金納付命令が確定したときなどを、違約金の支払の条件としています。実際の契約の条項が、どの事由を支払の条件にしているかを、契約書で確認します。
契約書にこうした条項がない場合に、当然に一定の割合の違約金を請求できるわけではありません。ただし、条項がないことで、契約上の損害賠償の請求まで否定されるわけではありません。設計コンサル業者に対しても、委託契約上の義務に反したこと(債務不履行)を理由とする請求が考えられます。
| 請求の根拠 | 裁判で請求できる時期 | 時効の期限 | 第一審の裁判所 |
|---|---|---|---|
| 民法の不法行為(709条) | 命令の確定を待たずに請求できる | 損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年(724条) | 民事訴訟法の定めによる |
| 独占禁止法25条 | 排除措置命令(ない場合は課徴金納付命令)の確定後(26条1項) | 命令の確定の日から3年(26条2項) | 東京地方裁判所(85条の2) |
| 契約上の違約金・損害賠償 | 違約金の条項が定める支払の条件・期限や、契約上の義務違反と損害の発生などによる | 権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年(民法166条1項) | 民事訴訟法の定めと、契約の合意による |
2 期限を請求の根拠ごとに確認する
2-1 民法の不法行為に基づく請求の期限
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年間、又は不法行為の時から20年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法724条)。
いつ「損害及び加害者を知った」といえるかは、報道、公正取引委員会の公表、施工業者からの通知、管理組合の中での報告などの具体的な経過から判断されます。公表の日や通知を受け取った日で、一律に決まるものではありません。管理組合として請求する場合に、誰が知った時点を基準にするかが問題になることもあります。
冒頭の「まず確認すること」で挙げた、談合の疑いを知った時期は、経過を確かめるために記録するものです。その日がそのまま法律上の起算日になるとは限りません。また、命令の確定を待つ間は時効が進まない、ということでもありません。損害の正確な額が分かるまで時効が進まない、とも限りません。
このため、公表の日から3年と機械的に考えず、法律上の起算点となる可能性のある時点のうち、最も早いものを前提に、期限を管理することをお勧めします。
2-2 独占禁止法25条の請求の期限
独占禁止法25条の請求権は、排除措置命令又は課徴金納付命令が確定した日から3年を経過したときは、時効によって消滅します(同法26条2項)。
命令が確定したかどうかは、取消しを求める訴訟の出訴の期間が過ぎたか、訴訟が提起された場合はその判決が確定したかなどを確認して判断します。
取消訴訟を提起するかどうかは事業者によって異なるため、相手方となる事業者と、その事業者に係る命令ごとに、取消訴訟の有無と確定の状況を確認します。
2-3 契約に基づく請求の期限
契約に基づく債権は、権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法166条1項)。違約金の条項に基づく請求では、条項が定める支払の条件がいつ満たされたか、支払の期限がいつかが、期限を考える手掛かりになります。
この5年・10年は、改正後の民法が適用される場合の時効の期間の原則です。2020年4月1日より前に生じた債権や、同日より前の契約などを原因としてその後に生じた債権については、時効の期間に関する経過措置を確認する必要があるため、契約の時期も確認します。
3 命令の確定前に進めておくこと
3-1 資料の整理と、相手方ごとの見通し
命令の確定を待たずに、工事請負契約・見積り・業者選定の経過の資料を整理し、相手方ごとに、請求の根拠と期限の見通しを一覧にしておきます。公正取引委員会の報道発表と排除措置命令書は、事実関係を確認する出発点になります。
命令が確定したかどうかは、公正取引委員会の公表や、相手方への確認などによって把握に努めます。
3-2 交渉・催告・法的手続で、時効への効果が異なります
請求権を持つ者(又はその権限のある代理人)が、相手方に損害賠償の支払を求める催告をし、それが相手方に到達すると、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法150条1項、97条1項)。
権利について協議を行う旨の合意を書面(電磁的記録を含みます)でした場合は、次のうち最も早い時までの間は、時効は完成しません(民法151条1項・4項・5項)。
- 合意の時から1年を経過した時
- 合意で1年に満たない協議の期間を定めたときは、その期間を経過した時
- 一方から相手方に、協議の続行を拒絶する旨の通知が書面(電磁的記録を含みます)でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時
相手方が権利を承認したときは、その時から時効が新たに進行します(民法152条1項)。施工業者などからの謝罪や補償の申出が承認に当たるかどうかは、その内容と経過によります。
訴えの提起などの手続をとった場合は、その手続が終わるまでの間は、時効は完成しません(民法147条1項)。確定判決などによって権利が確定したときは、時効は、手続が終わった時から新たに進行します(同条2項)。
期限が近づいてから手段を探すことのないよう、どの時点で、どの手段をとるかを、あらかじめ決めておきます。
3-3 誰が、どの相手方に対して行うかを確認します
催告、協議の合意、訴えの提起は、請求権を持つ者(管理組合など)又はその権限を持つ者が行う必要があります。区分所有者の方が個人として、又は有志で相手方に申し入れても、管理組合の請求権について、時効の完成が猶予されるとは限りません。
時効の完成猶予や更新の効力は、その事由が生じた当事者(及びその承継人)の間でのみ生じます(民法153条)。一社への催告、その会社との協議の合意、その会社による承認の効力は、原則として、他の事業者に対する請求には及びません。相手方と対象となる請求権を特定し、それぞれについて必要な措置を確認します。
管理組合の中で、誰が催告や協議の合意を行う権限を持つかは、大規模修繕工事の談合で誰が請求するのか――管理組合の決議と区分所有者・元所有者の権利で扱っています。
4 訴えを起こす前に確認すること
4-1 どの裁判所に訴えるか
独占禁止法25条に基づく損害賠償の訴訟は、第一審を東京地方裁判所が扱います(同法85条の2)。民法の不法行為や契約に基づく請求の訴訟は、この規定の対象ではなく、民事訴訟法の定めなどによって管轄が決まります。複数の根拠をあわせて主張する場合の扱いは、個別に検討します。
4-2 複数の相手方・複数の請求を扱う場合
施工業者と設計コンサル業者の双方に請求する場合や、民法と独占禁止法の請求をあわせて主張する場合は、相手方ごと、根拠ごとに、要件と期限を整理します。同じ損害を二重に回収することはできないため、一部の相手方から支払を受けた場合の調整も考えておきます。
4-3 管理組合の中での決定
管理組合として弁護士に依頼する、訴えを起こす、費用を支出する、和解するといった判断では、法令・規約・既存の決議に照らして、必要な決議と、管理組合を代表する者の権限を確認します。請求権が誰に帰属するかと、誰が訴訟の当事者や代表者になれるかは、区別して検討します。管理組合の中で必要な決定と請求の名義は、大規模修繕工事の談合で誰が請求するのか――管理組合の決議と区分所有者・元所有者の権利で扱っています。
よくあるご質問
Q1 命令が確定するまで、請求できないのですか。
独占禁止法25条による請求を裁判で主張するには、命令の確定が必要です(同法26条1項)。一方、民法の不法行為に基づく請求は、命令の確定を待たずに、交渉や訴えの提起を検討できます。
Q2 時効は、2026年9月28日から3年ですか。
一律にはいえません。民法の不法行為に基づく請求は、損害及び加害者を知った時から3年(民法724条1号)で、その時点は、報道や公表、通知などの具体的な経過から判断されます。独占禁止法25条の請求は、命令の確定の日から3年(同法26条2項)です。
Q3 施工業者と協議をしていれば、時効は止まりますか。
協議を行う旨の合意を書面ですれば、一定の期間、時効は完成しません(民法151条1項)。口頭の話し合いや、交渉を続けているという事実だけでは、この効果は生じません。催告による猶予は6か月間にとどまり(民法150条1項)、催告と協議の合意を重ねて猶予を延ばすことにも制限があります(民法151条3項)。また、一社との協議の合意の効力は、原則として、他の事業者に対する請求には及びません(民法153条2項)。
Q4 契約書に条項がなくても、工事代金の10%を違約金として請求できますか。
当然には請求できません。国土交通省の事務連絡で示された10分の1は、国土交通省が直轄で発注する工事の違約金の割合の例として紹介されているものです。条項がない場合は、民法の不法行為などに基づいて、実際の損害額を主張することになります。
Q5 すべて東京地方裁判所に訴える必要がありますか。
第一審を東京地方裁判所が扱うと定められているのは、独占禁止法25条に基づく損害賠償の訴訟です(同法85条の2)。民法や契約に基づく請求の訴訟は、この規定の対象ではありません。
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ご相談にあたって
大規模修繕工事の談合について、請求の根拠と期限の整理、相手方ごとの命令の確認、催告や協議の合意・訴えの提起の検討、契約の条項の確認をご相談いただけます。管理組合の理事・監事の方のほか、区分所有者の方(お一人でも、複数の方でも)からのご相談も承ります。契約・工事・支払の時期と、これまでの経過をお知らせください。資料の送付方法は、ご相談の可否をお知らせする際にご案内します。
お問い合わせフォームへ※法令等の確認日:2026年9月30日。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。
