Crisis Management

病院で患者情報の漏えいが疑われたとき――調査・報告と患者への説明

例えば、患者Aの検査結果を、別の患者Bに渡してしまったとします。書類は戻ったものの、誰がどこまで見たかは分からない――。こうしたとき、病院は回収の結果だけで対応を終えず、患者への影響、行政への報告、本人への通知を並行して検討する必要があります。本稿では紙の誤交付を軸に、誤送信や紛失、職員・委託先での事故にも共通する判断を説明します。

報告・本人通知の説明は、個人情報保護法の民間部門の規律が適用される場合を前提とします。公立病院等でもこの規律が適用される場合があるため、名称だけで分類せず、開設・運営主体と対象業務を確認してください。

監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)

最終更新日:
目次
  1. 1 拡大防止と診療への影響を確認する
  2. 2 患者ごとの情報と到達先を確かめる
  3. 3 報告の要否と三つの時間軸を管理する
  4. 4 患者本人に届く通知・説明を進める
  5. 5 説明を更新し、再発防止につなげる

1 拡大防止と診療への影響を確認する

誤交付に気付いたら、Bへの連絡と書類の回収を進め、写真・コピーの有無や、他の人に渡していないかを確認します。誤送信や外部公開なら、送信先への連絡や公開停止も検討します。相手への確認の際に、患者の病名などを必要以上に伝えないよう注意します。

取り違えた検査結果が診療録に混入したり、説明や処置に使われたりしていないかも確認します。影響が疑われれば、漏えいの範囲の確定を待たずに診療・医療安全担当につなぎ、現在の診療内容を確認して必要な対応を進めます。同時に、調査に必要な原本やアクセスログを保全し、修正・削除によって経緯が分からなくなることを防ぎます。

判明した事実は、回収や確認の完了を待たずに対応責任者へ共有し、連絡、回収、診療への影響の確認を誰がいつ行ったかを記録します。

2 患者ごとの情報と到達先を確かめる

対象患者、書類・データ、情報項目、対象期間、受領・閲覧した人を整理します。氏名や連絡先と、病名・検査結果などを区別し、事故に関係する書類やシステムについて、同じ情報の複製・転記の有無と保存先も確認します。

Bから「未開封」「氏名しか見ていない」と説明されても、それだけで漏えいの範囲は決まりません。封筒の外側に見える情報と中身を分け、封の状態、交付から回収までの経緯、複製や転送の有無を確かめます。持ち帰った場合には、保管場所や他の人が触れた可能性も確認します。申告内容と確認できた状態を記録し、不明な点も記録に残します。

第三者に閲覧される前に全て回収した場合は、漏えいに当たらないと整理されています。ただし、流出した、又は流出したおそれのある個人データの範囲、実際に閲覧されたかどうか、未閲覧のまま全て回収したと判断する根拠は、それぞれ分けて確認します。確認不足のまま「回収済みだから報告不要」とせず、把握した事実に基づく報告判断と追加確認を並行します。

職員の業務外閲覧では、閲覧理由・権限、印刷・持出し等を調べ、漏えい又はそのおそれに当たるかを個別に検討します。検査会社や医療事務等の委託先事故では、自院の対象患者・情報を特定し、再委託先や他院情報との混在も確認します。

外部流出がなくても、情報を失う「滅失」や、意図しない変更・利用不能という「毀損」は、報告・通知の検討対象です。攻撃による暗号化では、別に同じ内容が保管されているかを確かめ、「バックアップあり」という名称だけで毀損に当たらないと判断しません。同じ内容が残っていても、漏えいのおそれは別に調べます。診療継続・復旧については、別記事「病院がランサムウェア等のサイバー攻撃を受けたとき――診療継続・復旧と法的対応」で取り上げています。

3 報告の要否と三つの時間軸を管理する

患者情報の全てが要配慮個人情報になるわけではありません。内容と個人データへの該当性を確認します。診療録等は通常、紙でも個人データに当たり、病歴・診療上の検査結果等には要配慮個人情報が含まれます。

要配慮個人情報を含む個人データの漏えい等又はそのおそれは、一人分でも個人情報保護委員会等への報告対象になり得ます。ほかに、個人データの漏えい等又はそのおそれについて、不正利用による財産的被害のおそれがある類型、不正目的の行為によるものと疑われる類型、本人が1,000人を超える類型があります。不正目的の類型では、病院や、個人データの取扱いの委託先・その取扱いに利用するサービスの提供者に向けた行為が対象です。この類型には、病院が取得し、又は取得しようとしている個人情報で、個人データとして取り扱われる予定のものも含まれます。

いずれの類型でも、高度な暗号化等の保護措置による報告除外には、事故当時の技術水準で第三者の解読が困難で、解読手段も適切に管理されていること等の確認が必要です。攻撃による暗号化だけではこの除外に当たりません。報告除外と、漏えい等の非該当も区別します。

速報・確報の起点は、いずれかの部署の従業者が報告対象事態を知った時点です。事故発見と一致するかは、漏えい等のおそれを含め、その時点で把握していた事実に即して判断します。起点を院長承認や調査完了の日に置き換えません。不正持出しの事案では、持出しを行った従業者等を除いて判断します。

速報は報告対象事態を知った後速やかに行い、行政解釈では概ね3~5日以内が目安とされています。その時点で判明している内容を報告します。

確報は報告対象事態を知った日から原則30日以内、不正目的の類型では60日以内です。合理的努力を尽くしても不明な事項があれば、期限内に把握した内容を報告し、判明次第追完します。

本人通知は速報・確報とは別に、事態の状況に応じて速やかに行います。

院長承認や委託先の最終報告を待たずに進められるよう、担当・決裁代行を定めます。把握日時、速報・確報の期限、本人通知を行う時期、各手続の実施日時を分けて管理します。

報告対象の委託先事故では、原則として病院・委託先双方に報告・本人通知の義務があります。共同報告や所定の委託元通知による委託先の免除を確認し、分担を決めます。

厚生労働省は、サイバー攻撃やその疑いがある場合に、速やかな連絡を求めています。この行政上の連絡要請への対応は、個人情報保護法に基づく報告・本人通知と分けて進めます。

4 患者本人に届く通知・説明を進める

Bへの回収確認と、情報の対象となったAへの通知は別の対応です。Aへの法定の本人通知では、本人の権利利益を守るために必要な範囲で、次の内容と方法を整理します。この表は法定様式や、記入すれば通知義務を果たせる判定表ではありません。

法定の本人通知を行う場合の内容・方法の確認

確認項目患者Aについて整理する内容
対象となる情報漏えい等が生じた、又はそのおそれがある書類・情報項目と、範囲が未確定の部分。
発生の概要・経緯と原因いつ、何が起きたか。判明した原因と、調査中の事項。
二次被害・そのおそれの有無と対応被害や危険の有無・内容と未確認の点。本人保護に役立つ病院の対応・再発防止策も必要に応じて補足する。
通知方法の確認本人に内容が認識される合理的かつ適切な方法を選ぶ。具体策として、封筒の表示、留守番電話、共有メール等から家族等へ情報が伝わる危険に配慮する。
本人保護に役立つ参考情報・今後の案内本人が取れる保護措置など、通知を補う参考情報。追加説明の予定や相談窓口も案内する。

判明事項と未判明事項を分け、全ての事実の解明や確報を一律に待ちません。再発防止策は、本人通知の独立した法定項目ではありません。策の確定を通知の前提にせず、患者の保護に役立つ範囲で説明します。通知に具体的な弊害がある場合も、内容・方法と時期を個別に検討し、事情の変化に応じて再評価します。

本人の理解の状況に応じた伝え方を選びます。家族や成年後見人等に説明する場合は、本人の同意等の情報提供の根拠と必要な範囲を確認します。それとは別に、誰にどの通知をすれば本人通知の義務を果たしたと判断できるか、権限・根拠を確認して記録します。家族や緊急連絡先というだけで、当然に全てを伝えてよいとは扱いません。法定通知が不要な場合の任意説明でも、家族等への提供の根拠と範囲を確認します。

本人に直接通知できる患者には、他の患者の代理権等の確認を待たずに通知を進めます。直接通知が難しい患者についても、代理権の確認だけを待たず、本人に知らせる別の適切な手段と、次の代替措置の要件を並行して検討します。一つの連絡先に届かないことや代理権が未確認であることだけで、直ちに通知困難とは扱いません。

本人通知が困難な場合には、本人の権利利益を保護するために必要な代替措置をとることで、通知に代えることが認められます。事案の公表や、本人が対象か確認できる窓口の設置・公表などが例ですが、通常の公表だけで当然に通知に代わるわけではありません。責任者と確認・再評価の時点を定めて対応を進めます。院内の確認期限は法定の猶予ではありません。

5 説明を更新し、再発防止につなげる

公表する場合は、診療科・日時等の組合せから患者が特定される危険にも配慮します。個別説明では、新たな判明事項や訂正を伝え、質問・要望、説明先・内容・日時、対応費用を記録します。事実の説明や謝罪と、法的責任・補償の判断を整理し、責任の結論が出るまで説明を止めない運用を検討してください。

再発防止は注意喚起だけで終えず、事故の原因に応じて、患者と書類の照合や交付工程、アクセス権限・利用記録などを点検し、必要な見直しにつなげます。制度や初動の総論はサイバー攻撃・情報漏えい対応も参照しながら、自院で誰が次の判断を担うかを明確にしてください。

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本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。