Intellectual Property
上場準備で知財の是正を求められたとき――権利・契約・規程の確認と見直し
上場準備で知財の是正を求められたとき、まず確かめるのは、指摘の背景にある懸念です。会社の利用権限、契約の継続性、取引条件、過去の権利処理では、対応が異なります。本稿では、権利の帰属・利用契約と規程・運用を対象に、何を確認・是正し、誰との合意や社内決定を経て、どの資料で対応状況を説明するかを整理します。
監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)
1 指摘の出どころと懸念の確認
「知財を整理してください」という指摘を受けたら、まず原文を確認し、誰が、どの手続で、何を懸念しているのかを整理します。
主幹事証券会社は、上場準備の段階で、資本政策や社内体制の整備に関する助言と、手続の支援を行います。これとは別に、公募・売出し等を引き受けるための会社内容の審査(引受審査)も行います。助言を担当する部署の了解を、引受審査の結論と同じものとして扱わないようにします。指摘の趣旨と、求められている対応の段階は、指摘を出した担当者に確認します。
監査法人からの指摘は、財務諸表監査上の確認によるものか、準備段階の指導・助言によるものかを確かめます。取引所の上場審査で受けた質問については、会社が根拠資料に基づいて回答します。主幹事との窓口と回答作成の分担を確認しますが、主幹事との認識が一致しても、それだけで取引所の判断が確定するわけではありません。
説明先ごとに違う事実を述べるという意味ではありません。事実は共通にしたうえで、それぞれの確認目的に必要な説明を整えます。
全社的な是正の進め方と、専門家の役割分担は、上場支援・バックオフィス構築サービスで扱います。
2 主力事業に必要な権利の帰属と利用契約
主力事業が他者名義の特許や商標に依存している場合に確認するのは、対象となる権利と取得の経緯、会社が使える範囲、契約の期間と終了条件、そして事業がその権利にどの程度依存しているかです。会社が権利者でないことだけを、それ自体で不備として扱う必要はありません。
利用の継続性が確認できないときは、権利の譲受けや利用契約の締結・変更など、必要な対応を検討します。特許権・商標権を譲り受ける場合は、権利者側の決裁、対価の合意、移転登録による効力発生までの時間を見込みます。契約で対応する場合は、期間と終了条件だけでなく、独占的に使えるか、侵害があったときに誰がどう対応するか、権利の維持に必要な対応と費用を誰が担うか、必要な開示ができるかを定めます。
相手方が大学であれば、交渉の窓口と、契約を決定できる者を確かめます。大学側に譲渡や利用条件についての方針がある場合は、その範囲で調整することになります。共有者がいる場合に必要となる同意と、その取得状況も確認します。譲渡が難しいときは、どの条件を契約で確保するかが中心になります。専用実施権を唯一の答えとして扱わないようにします。その設定にも登録が必要であり、日程を短縮する手段ではありません。
相手方が創業者個人や資産管理会社であれば、個人と法人を分けて考えます。契約の当事者が誰かを確かめ、相手方の代表権の所在も確認します。取引条件が合理的かどうか、利益相反に関する承認が必要かどうかは、具体的な関係と会社の機関設計によります。創業者個人の了解だけで、資産管理会社の意思決定まで済んだものとして扱わないようにします。
既に契約違反の指摘や解除通知を受けている場合は、知的財産・ライセンス紛争の対応もあわせてご覧ください。
3 過去の権利処理と、今後の規程・運用
新しい職務発明規程を作っても、過去の発明の帰属や、対価・利益の問題が自動的に解消するわけではありません。
権利の取得について確認するのは、発明の完成時期、当時の所属と職務、適用された規程や契約、そして会社が権利を取得した時期です。出願日だけで時系列を作ると、実際の判断とずれます。会社への当初からの帰属と、承継による取得を区別し、その根拠を確認します。会社が取得していない場合は、取得の必要性を踏まえ、既存の規程・契約による承継の可否と、新たな合意の要否を検討します。取得済みで資料が足りない場合と、権利がまだ移っていない場合では、対応が異なります。
対価・利益については、適用される法令と、当時の定めを確認します。基準を定めるときの協議、基準の開示、個別の決定に関する意見の聴取を、それぞれ分けて確認します。規程に手続が書かれていることと、実際に行ったことは別です。所定の書式がないというだけで、手続がなかったと判断することもできません。支払や付与の記録も照合します。
今後の運用については、発明の届出、権利の取得、利益の決定、意見や異議の取扱いを誰が担うかを定めます。規程の承認に加えて、周知・受付・判断が実際に行われているかを確認します。他社の権利について、調査・評価の結果や警告を、誰にどう報告し、誰が判断するかも、同じ場面で決めます。
指摘の核心と、必要な対応
指摘の内容に応じ、必要な対応と確認資料を整理します。以下はその例です。
| 指摘の核心 | 是正の選択と必要な合意 | 実施を確認する資料 | 日程を左右する未了事項 |
|---|---|---|---|
| 主力技術を使う権限・継続性が確認できない | 利用根拠を確認。必要に応じ権利者・共有者等と譲渡や契約変更を合意 | 締結済契約、同意書、必要な登録の記録 | 権利者側の決裁、条件の合意、効力発生 |
| 創業者等との取引条件・承認が未整理 | 取引の必要性・条件を検討し、必要な機関承認と相手方との条件調整 | 条件の検討資料、承認記録、契約書 | 条件の合理性、承認者・手続の確認 |
| 過去の職務発明の権利取得を確認できない | 取得根拠を確認し、未取得なら権利者との合意を検討 | 当時の規程・契約、発明記録、取得・承継を示す資料 | 発明者・時期の特定、退職者等との調整 |
| 過去分の対価・利益の扱いが未確認 | 適用法と定めを確認し、必要な支払・付与等を検討 | 基準の策定・周知資料、個別決定・支払等の記録 | 過去資料、対象者の意見、未処理範囲の確認 |
| 他社権利の確認結果・警告が判断につながらない | 確認の要否、報告先、判断権限を法務・開発等で定める | 規程・手順、実際の報告・判断記録 | 担当・権限の確定、運用開始後の記録確認 |
資料は例示であり、そろえたことだけで懸念が解消したとは判断できません。資料の内容、法的な効力、実際の運用を確認します。同じ案件が複数の行に当てはまることもあります。
4 日程と、間に合わないとき
契約の締結、法的な効力の発生、運用の確認、審査に向けた説明は、それぞれ進捗と完了を確認します。特許権・商標権の譲渡であれば移転登録まで、規程については、対象業務に応じた運用の確認と記録に要する時間を見込みます。
期限までに対応できない場合に、必ず代替案がある前提で考えるのは適切ではありません。未確認の事実、まだ成立していない合意、その間に残る事業上の支障を明らかにしたうえで、対応の方法と上場日程への影響を検討します。
是正は、指摘の出どころと懸念を確かめたうえで、誰との合意と社内決定を経て、どの資料で説明するかまで組み立てる必要があります。当事務所では、指摘に応じた是正方針の検討、権利者・共有者・創業者等との合意、職務発明規程と運用の見直しについて、個別のご相談をお受けしています。
知的財産に関する当事務所の取扱分野は、知的財産のご案内をご覧ください。
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