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共有特許のライセンスについて共同研究先の同意が得られない場合の対応

共同研究の成果について共有の特許を持っている場合、その特許を第三者にライセンスするには、他の共有者の同意が必要です。導出の交渉が進んでいるのに共同研究先の同意が得られないと、契約の締結そのものが止まります。

このとき確認するのは、順に三つのことです。第一に、予定している行為が、そもそも他の共有者の同意を要するものかどうか。第二に、同意がすでに与えられていないか。第三に、同意が存在しない場合に、相手方に同意や協議を求める契約上の根拠があるかどうかです。あわせて、共有者が同意を拒んでいる理由と、その背景にある利害を把握します。特許法の規定を確認するだけでは、この場面の解決にはなりません。

本稿では、導出を進めようとしているバイオベンチャー・製薬企業に向けて、確認すべき事項と、交渉の組立て方を整理します。

監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)

最終更新日:

同意が得られないときに確認する事項

  • 対象となる特許の番号、共有者、持分、出願経過
  • 共同研究契約、共同出願契約、持分譲渡に関する合意など、関係する契約のすべて
  • 契約上、第三者への実施許諾について定めがあるか(同意を要する旨、同意を拒める場合、協議の手続など)
  • 共有者が同意を拒んでいる理由として示されているもの
  • 予定しているライセンスの内容(相手方、対象、地域、期間、対価、独占か非独占か)
  • 交渉の期限と、導出先との契約上の前提条件

ご相談いただけること対象特許の共有関係と、関係する契約の整理/包括的な同意の有無、黙示の同意と評価できる経過の有無の確認/契約上の定めについて、同意義務か協議義務かを区別した検討/拒否の理由の分類と、調整が可能な条件の整理/導出先との契約における前提条件と期限の確認/共有者との交渉、合意書の作成

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目次
  1. 1 法律上の原則
  2. 2 検討の三段階
  3. 3 契約上の根拠の確認
  4. 4 拒否の理由の分類
  5. 5 導出先との関係の整理
  6. 6 交渉と、その先の選択肢
  7. 当事務所のサポート内容
  8. よくあるご質問

1 法律上の原則

特許権が共有に係る場合について、特許法は、次の三つを分けて定めています。

第一に、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、またはその持分を目的として質権を設定することができません。

第二に、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないで、その特許発明の実施をすることができます。

第三に、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、または他人に通常実施権を許諾することができません。

つまり、自社が自ら実施することと、第三者に許諾することとは、扱いが異なります。もっとも、「自己の持分の範囲で許諾するだけだ」「独占的な許諾ではない」という説明によって、第三の場面の同意が不要になるわけではありません。非独占の通常実施権の許諾についても、他の共有者の同意が必要とされています。

また、別法人である子会社や導出先が実施することを、当然に共有者自身の実施として扱うこともできません。もっとも、別法人であることだけで、共有者自身の実施でないと決まるわけでもありません。

委託して製造させている場合に、それを共有者自身の実施と評価できるかは、実態に即して検討されます。確認するのは、契約上の役割分担、製造や品質管理についての指揮監督の有無と程度、製品の納入先、費用と利益の帰属です。これらを形式的に整えれば必ず自己実施と扱われる、というものでもありません。この点を判断した裁判例は、次章で紹介します。

これらは出発点であって、結論ではありません。共有者が同意をしない場合にどう進めるかは、次章の三つの段階に沿って確認することになります。

2 検討の三段階

この場面の検討は、次の三つに分けると整理しやすくなります。順序を入れ替えると、議論がかみ合わなくなります。

第一に、予定している行為が、他の共有者の同意を要する第三者への許諾に当たるのかを確認します。自社による実施、子会社を通じた実施、導出先による実施では、検討する内容が異なります。

第二に、同意がすでに存在しないかを確認します。共同研究契約の中で、一定の範囲の許諾についてあらかじめ包括的な同意が与えられていることがあります。また、これまでの経過から黙示の同意があったと評価できる場合もあります。明示の条項がないことと、同意が一切ないこととは、同じではありません。

第三に、同意が存在しない場合に、相手方が同意をし、又は協議に応じる契約上の義務を負うかを確認します。ここで、契約上の同意義務・協議義務の有無とその内容を確認することになります。

ここで重要なのは、「同意が存在するか」と「同意をする義務があるか」が別の問題だということです。また、同意をする義務と、協議に応じる義務も、同じではありません。この区別は、後に述べる請求の検討において結論を左右します。

第一段階と第二段階を分けて判断した裁判例

共有者の一方が第三者に製造・納入させていた事案で、裁判所は、その製造・納入を共有者自身の実施と同視することはできないとしたうえで、これまでの経緯に照らして、他の共有者が第三者への実施許諾に黙示に同意していたと認定した例があります(東京地判平成26年3月26日・平成23年(ワ)3292号)。

もっとも、この事案では、持分の譲渡の目的、技術仕様の提案、会合への参加といった具体的な経緯が考慮されています。知っていて反対しなかったというだけで、常に黙示の同意があったことになるわけではありません。また、明示の合意と黙示の同意の優劣について一般的な判断を示したものでもありません。

3 契約上の根拠の確認

確認する契約書類

共同研究契約、共同出願契約、覚書、議事録、そして特許の出願・登録に関するやり取りを確認します。同意に関する条項があれば、その文言を正確に読みます。

確認するのは、次の点です。

  • 第三者への実施許諾について、あらかじめ包括的な同意が与えられているか。個別の同意を要する旨が定められているか
  • 同意を拒むことができる場合が限定されているか(「合理的な理由なく同意を拒んではならない」といった定めの有無)
  • 同意そのものではなく、協議に応じることだけが定められていないか
  • 対価の分配について定めがあるか
  • 競合他社へのライセンスについて制限があるか

これらは、性質の異なる条項です。条項の型ごとに、求められる内容が変わります。

契約上の定め相手方に求められること交渉で確認すること
一定範囲の許諾について事前の包括的な同意があるそもそも改めて同意を求める場面ではありません予定しているライセンスが、その範囲に収まっているか
個別の同意を要する旨の定めのみ同意するかどうかは相手方の判断です相手方が同意できる条件は何か
合理的な理由なく同意を拒んではならない旨の定めがある合理的な理由がない限り、同意することが求められます示されている理由が、合理的な理由に当たるか
誠実に協議する旨の定めのみ協議に応じることが求められます協議の場が設けられ、必要な情報が提供されているか
第三者への許諾について明示の条項がない契約から直ちに義務を導くことは困難です他の合意書や覚書に定めがないか。従前のやり取りから、包括的または黙示の同意が形成されていないか

この表のどの行に当たるかによって、次にとる手段が変わります。包括的な同意があるのに個別の同意を求めて交渉していたり、協議義務しかないのに同意そのものを請求しようとしていたりすると、時間を失います。

定めがない場合の扱い

同意に関する具体的な定めがない場合、相手方に同意を義務づける根拠を契約から直ちに導くことは困難です。もっとも、明示の条項がないことと、合意が一切ないこととは異なります。これまでのやり取りの中で、一定の範囲の許諾について了解が形成されていたとみる余地がないかも確認します。

そのうえで、根拠となる合意が見当たらない場合は、交渉によって合意を形成することが中心になります。共同研究の目的、これまでの経過、双方の利害を踏まえて、相手方が同意できる条件を探ることになります。

4 拒否の理由の分類

同意が得られない理由は、いくつかに分かれます。以下は、検討すべき拒否理由の例であり、法律上許される拒否の理由を限定して列挙したものではありません。理由によって、とるべき対応が変わります。

競合関係を理由とするもの——ライセンス先が共有者の競合他社であることを理由とする場合です。ライセンスの対象、地域、分野を限定することで調整できる場合があります。

対価の分配に関するもの——ライセンス収入の分配について合意ができていない場合です。分配の方法、時期、監査の定めを含めて協議することになります。

自社実施の予定に関するもの——共有者自身がその発明を実施する予定があり、第三者への許諾がそれを妨げると考えている場合です。独占的な許諾を避ける、地域や分野を分けるといった調整が考えられます。ただし、これらは相手方が同意しやすい条件を探るための調整であって、非独占にすれば同意が不要になるというものではありません。

手続や説明の不足によるもの——ライセンスの内容が十分に説明されていない、社内の承認手続が終わっていないという場合もあります。この場合は、情報の提供と時間の確保が解決になることがあります。

5 導出先との関係の整理

導出先との契約において、共有者の同意が前提条件とされていることがあります。その場合、同意が得られるまでは契約が発効しませんので、期限の管理が必要になります。

同意が得られない可能性を踏まえ、契約の構成を見直すことも考えられます。対象を自社の単独出願にかかる特許に絞る、共有特許については別途の合意ができた時点で追加する、といった方法です。いずれも導出先との協議が必要ですので、早い段階で状況を共有するかどうかを判断します。

なお、導出先の側から第三者の特許を指摘されて契約が止まっている場合は、問題が異なります。この場面は、共有者の同意の問題とは別に、指摘された特許の内容、予定する実施行為、契約条件を検討することになります。

6 交渉と、その先の選択肢

交渉では、拒否の理由に応じた条件を提示することが中心になります。ライセンスの範囲を限定する、共有者にも一定の権利を認める、対価の分配方法を明確にする、といった案が考えられます。提示する許諾条件と、相手方に求める内容とを対応させて整理してください。

対応の例を挙げると、次のようになります。

拒否の理由提示する条件の例相手方に求める内容
競合他社へのライセンスであること分野・地域・期間の限定、競合領域の除外、サブライセンスの禁止限定した範囲についての同意
対価の分配が決まっていないこと分配の割合、支払の時期、報告と監査の方法を定めた合意書の案分配の合意と、それを前提とする同意
共有者自身の実施を妨げること非独占とすること、共有者の実施領域を確保することその前提での同意
説明や社内手続が足りないことライセンスの内容を整理した資料の提供、回答の期限の再設定協議の場の設定と、期限内の回答

条件を提示するときは、相手方に何を求めているのか(同意そのものか、協議に応じることか、条件についての回答か)を明示してください。ここが曖昧なまま往復を重ねると、後に契約上の義務やその履行状況を検討する際、その経過だけでは、何を求め、相手方がどう応じたのかを十分に説明できないことがあります。

交渉が整わない場合の選択肢として、持分の譲渡や取得、共有関係の解消を検討することもあります。ただし、持分の譲渡にも他の共有者の同意が必要ですので、これも交渉の対象になります。

契約上の義務の履行を求めることも考えられます。契約上の債務については、その履行を請求することができるのが原則です。もっとも、請求ができるかどうかを検討する前に、相手方がどのような内容の義務を負っているのかを確定する必要があります。

たとえば、「合理的な理由なく同意を拒んではならない」という定めがある場合と、「誠実に協議する」という定めしかない場合とでは、求められる内容が異なります。前者であれば同意そのものを求める余地がありますが、後者で求められるのは協議に応じることです。特許法の規定そのものが、同意の拒否に合理的な理由を要求しているわけではありませんので、この点は契約の定めによることになります。何が合理的な理由に当たるかも、契約の文言と経過に即して検討されます。

具体的な同意義務が認められる場合には、その履行を求めることになります。意思表示を命じる判決が確定すると、原則として、その意思表示がされたものとみなされます。したがって、検討すべきは、その契約と経過から、どのような内容の義務が認められるかです。

なお、協議義務が守られたかどうかも、条項の文言だけで決まるものではありません。相手方に何を説明し、どのような提案をし、どの情報を提供して協議を行ったのかという経過が検討されます。研究受託契約に基づく知的財産権の帰属・譲渡に関する協議が問題となった事案で、研究経過の報告、権利化の見通しについての説明、委託者がその内容を理解して権利化しないと判断した経過を踏まえ、協議義務の違反を否定した裁判例があります。

なお、訴訟によって解決を図ることが事業上適切かどうかは、これらの検討とは別に判断する必要があります。導出の交渉が続いている段階では、請求の可否を詰めるより、相手方が応じられる条件を探る方が早いこともあります。

当事務所のサポート内容

  • 対象特許の共有関係と、関係する契約のすべてを整理します
  • 包括的な同意の有無、黙示の同意と評価できる経過の有無を確認します
  • 同意に関する契約上の定めについて、同意義務か協議義務かを区別して検討します
  • 拒否の理由を分類し、調整が可能な条件を整理します
  • 導出先との契約における前提条件と期限を確認し、構成の見直しを検討します
  • 共有者との交渉、合意書の作成を支援します
  • 持分の譲渡・取得、共有関係の解消についても検討します

よくあるご質問

Q1 共有者の同意がなければ、第三者にライセンスできないのですか。

特許法は、各共有者は他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、または他人に通常実施権を許諾することができないと定めています。非独占の通常実施権であっても同様です。他方、各共有者が自ら実施することについては、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意は不要とされています。

もっとも、契約の中であらかじめ包括的な同意が与えられている場合や、これまでの経過から黙示の同意があったと評価できる場合もあります。まず、同意がすでに存在しないかを確認してください。

Q2 共有者が理由を示さずに同意を拒んでいます。同意を強制できますか。

契約に「合理的な理由なく同意を拒んではならない」といった定めがあるかどうかによります。定めがある場合でも、何が合理的な理由に当たるかは、契約の文言と経過に即して検討することになります。

特許法のこの規定そのものが、同意を拒むことに合理的な理由を要求しているわけではありません。拒否理由に関する契約上の制限については、契約の定めと経過を確認します。したがって、契約に定めがない場合、法律上の規定から直ちに同意を義務づけることは困難です。また、契約に「誠実に協議する」という定めしかない場合、求められるのは協議に応じることであって、同意そのものではありません。

契約上、具体的な同意義務が認められる場合には、その履行を求めることになります。まず確認するのは、その契約と経過から、どのような内容の義務が認められるかです。

Q3 自社の持分だけを導出先に譲渡することはできますか。

持分の譲渡にも、他の共有者の同意が必要とされています。したがって、この方法も共有者との交渉が前提になります。

Q4 共有者が競合他社へのライセンスを懸念しています。どう調整しますか。

ライセンスの対象、地域、分野、期間を限定する、独占的な許諾を避ける、共有者に一定の権利を留保するといった調整が考えられます。どの条件であれば受け入れられるかを具体的に確認することが出発点になります。なお、これらは相手方が同意しやすい条件を探るための調整であり、非独占にすることで同意が不要になるわけではありません。

Q5 共同研究契約に「誠実に協議する」としか書かれていません。何を求められますか。

求められるのは、協議に応じることです。同意そのものを求める根拠には、通常なりません。もっとも、協議義務が守られたかどうかは、条項の文言だけで決まるものではなく、相手方に何を説明し、どのような提案をし、どの情報を提供したかという経過によって判断されます。したがって、こちら側としては、ライセンスの内容を具体的に示し、相手方の懸念に対応した条件を提示し、回答の期限を設けるという経過を残しておくことに意味があります。

Q6 導出先との契約に期限が設定されています。どう進めればよいですか。

期限と、同意取得の見通しを並べて管理します。同意が間に合わない可能性がある場合には、対象を単独出願にかかる特許に絞る、共有特許については別途の合意ができた時点で追加するといった構成の見直しを、導出先と協議することが考えられます。状況をいつ共有するかは、交渉上の判断になります。

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※法令・裁判例の確認日:2026年9月27日。共有特許の取扱いは契約の内容により大きく異なりますので、具体的な事案については個別にご相談ください。

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