M&A & Business Succession
M&A・事業承継における経営者保証の解除と紛争対応
M&Aや事業承継の後も、旧経営者が個人として負う保証が残り、金融機関から請求を受けることがあります。
金融機関との保証関係と、買主等との保証解除・補償に関する約束は、分けて確認する必要があります。
当事務所は、保証解除に向けた協議、解除約束の不履行への対応、保証債務を支払った後の求償・補償請求を支援します。
まず確認すること
以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。未定の事項がある段階や、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
- 保証の一覧――どの金融機関・取引先に、いつ、どのような内容の保証を差し入れているかを確認します。
- 保証契約書と担保――保証する債務の範囲、上限額や期間の定め、自宅などへの担保設定の有無を確認します。
- M&A・承継時の取決め――株式譲渡契約や合意書に、保証の解除についてどのような条項が置かれているかを確認します。
- 金融機関からの通知――督促や履行を求める書面が届いている場合は、その日付と記載内容を確認します。
金融機関との保証関係と、買主等との解除の約束は、分けて整理したうえで対応を検討します。
ご相談いただけること保証内容の確認/金融機関との解除の協議/解除の約束が守られない場合の対応/請求を受けた場合の主張の整理/支払後の求償・補償請求/交渉・訴訟への対応
お問い合わせフォームへ1 保証が残っていると分かったとき
会社を譲渡し、代表者も退任したのに、金融機関から返済の督促や保証債務の履行を求める通知が届く。事業承継やM&Aの後に、こうした形で問題が表面化することがあります。通知が届いた段階では、期限の利益がすでに失われていることもあり、対応できる時間が限られます。
最初に確認するのは、保証の内容です。保証契約書に、保証する債務の範囲がどのように定められているか、一定の債務に限られているのか、継続的な取引から生じる債務を包括的に保証するものか、極度額や期間の定めがあるかを確認します。保証が一件だけとは限りません。複数の金融機関、信用保証協会、リース会社、取引先に対して、それぞれ別の保証が差し入れられていることがあります。自宅などの不動産に担保が設定されている場合には、その登記も確認します。
保証契約そのものの効力も確認します。一定の範囲に属する不特定の債務を個人が保証する契約は、保証の上限額が定められていなければ効力を生じないとされています。また、事業のための借入れを個人が保証する場合には、契約締結日前一か月以内に作成された公正証書で保証の意思を表示する手続が必要となることがあります。契約時に借入会社の取締役であるなど法定の例外に当たる場合を除き、この手続を欠く保証契約は効力を生じないとされています。配偶者や親族についても、その地位を確認します。いずれも、契約の締結時期によって適用の有無が変わります。
次に、M&Aや承継の際の取決めです。株式譲渡契約や事業承継に関する合意書に、保証の解除についてどのような条項が置かれているかを確認します。あわせて、交渉過程でのやり取り、金融機関との面談の記録、覚書の有無も確認します。口頭での説明しか残っていない場合には、何をどこまで約束したものと評価できるかが争点になり得ます。
金融機関から請求を受けた場合は、保証の解除とは別に、請求された保証債務を負うのか、その範囲はどこまでかも確認します。契約の締結・変更の時期、保証の内容、主たる債務の残額と弁済期、必要な通知が行われているかを踏まえて、請求に対して主張できる事由を検討します。主たる債務について消滅時効が完成している場合には、保証人の側からこれを援用できることもありますので、最後の返済の時期も確認します。委託を受けて保証をしている場合には、金融機関に対し、主たる債務の履行状況に関する情報の提供を求めることも検討できます。保証の解除が実現しないことと、請求された金額をそのまま支払わなければならないこととは、別の問題です。
現在の状況の把握も必要です。会社の返済が滞っているのか、単に保証が解除されないまま残っているだけなのかによって、取れる手段が異なります。すでに支払が行われている場合には、誰が支払ったのかを確認します。旧経営者が保証人として支払った場合と、信用保証協会が金融機関に対して支払った場合とでは、その後に誰から何を請求されるのかが異なります。後者では、会社が協会に対して負う求償債務について、旧経営者が保証をしているかどうかが問題になります。会社が再生手続や整理の手続に入っている場合には、その手続との関係も確認します。
2 金融機関との保証関係と買主の約束
ここで最も重要なのは、二つの関係を分けて考えることです。一つは、旧経営者と金融機関との間の保証契約です。もう一つは、旧経営者と買主等との間の、保証を解除させる、あるいは負担を引き受けるという約束です。
保証契約は、金融機関と保証人との間の契約ですので、保証人が代表者を退任したこと、株式を譲渡したこと、あるいは売主と買主の間で解除を合意したことによって、当然に効力を失うものではありません。金融機関の側に、保証人を交替させたり保証を解除したりする義務が当然に生じるわけでもありません。「会社を売ったのだから保証も一緒に移る」という理解は、正確ではありません。
したがって、旧経営者が金融機関に対して負う責任は、原則として、金融機関との間で保証を解除する合意が成立するか、免責的な引受けなど別の手当てがされるまで残ります。買主が解除に協力しない場合でも、金融機関に対しては、買主との合意を理由に支払を拒むことは難しいのが通常です。
他方で、買主等との約束は、旧経営者が買主に対して権利を主張するための根拠になります。ここで前提となるのは、そのような約束が実際にされたのかという点です。株式を譲り受けて会社の経営を引き継いだというだけで、買主が保証の解除について義務を負うことになるわけではありません。契約書に定めがある場合、契約書には定めがないものの別途の合意があったと主張する場合、そもそも約束自体がない場合は、それぞれ分けて検討する必要があります。
契約に定めがある場合でも、その内容は文言によって大きく異なります。保証の解除に向けて協力する、あるいは努力するという趣旨にとどまるのか、一定の期限までに解除させることを約束したものなのか、解除されない場合に旧経営者が負担した額を補償する趣旨なのかによって、請求できる内容が変わります。解除が実現しない場合の取扱いまで定めているかどうかは、実際上の分かれ目になります。
保証が残っている状態でクロージングを迎えるかどうか自体が、取引の条件として交渉されることもあります。保証の解除を実行の前提条件としていた場合の検討は、M&A契約の解除・クロージング拒絶への対応で扱っています。
3 保証解除に向けた協議
保証を解除するには、金融機関との協議が必要です。協議にあたっては、会社の財務状況、法人と経営者の資産・経理の分離の状況、返済の履行状況、後継者や買主の信用状況、担保の有無などが検討されます。金融機関が保証を不要と判断するかどうかは、これらの事情によります。
この分野では、金融機関と中小企業の間の自主的なルールとして、経営者保証に関するガイドラインが策定されています。さらに、事業承継の場面に焦点を当てた特則が定められており、同一の債権について前の経営者と後継者の双方から保証を求めること(いわゆる二重徴求)を原則として行わないこと、後継者に保証を求めることの是非を慎重に判断すること、前経営者に対する保証の解除を適切に判断することなどが示されています。
もっとも、これらは法令ではなく、金融機関が自発的に尊重し遵守することが期待される準則です。ガイドラインや特則があることを理由に、金融機関に対して保証の解除を当然に請求できるわけではありません。実務的には、ガイドラインが挙げる考慮要素を踏まえて、会社の側でどのような改善ができるかを示しながら協議を進めることになります。
協議の進め方としては、会社の決算内容や資金繰りの見通し、法人と個人の資産の分離状況、後継者・買主の関与の度合いを整理して説明することが基本になります。信用保証協会の保証が付されている融資、複数の金融機関が関与している場合、リースや取引上の保証がある場合には、それぞれについて個別に交渉が必要になります。会社の状況によっては、保証を解除するのではなく、借換えによって被保証債務そのものを消滅させる方法が現実的なこともあります。
4 保証履行後の求償・補償請求
旧経営者が実際に保証債務を支払った場合、支払った額について、主たる債務者である会社に対して求償することが考えられます。会社の委託を受けて保証をしていた場合、支出した財産の額について求償権を有するとされていますが、その額が、支払によって消滅した主たる債務の額を超えるときは、消滅した額が上限になるものとされています。したがって、支出した額がそのまま求償できる額になるとは限りません。もっとも、これは求償権の元本部分についての上限であり、要件を満たす場合には、法定利息や避けることができなかった費用その他の損害も求償の対象に含まれることがあります。請求できる金額全体の絶対的な上限を示すものではありません。あわせて、弁済をしたことによって、金融機関が有していた権利を行使できる場合があります。この場合に行使できる範囲も、求償できる範囲に限られるものとされています。
なお、求償への影響を踏まえ、支払の前後に会社へ通知をしておくことも確認事項になります。会社の委託を受けて保証をしている場合、あらかじめ通知をしないで支払をすると、会社が金融機関に対して主張することができた事由を、求償の請求に対して主張されることがあります。支払をした後に通知を怠った場合についても、別に定めが置かれていますので、事前の通知と事後の通知とは分けて確認します。
まだ支払をしていない段階でも、一定の要件を満たす場合には、あらかじめ求償権を行使することが認められています。契約に、保証債務の履行に先立って補償を受けられる旨の定めや、担保の提供を求められる旨の定めが置かれていることもありますので、支払を終えてから動き出すという前提で考える必要はありません。
もっとも、会社に返済能力がないために保証が履行されたという事案では、求償権を行使しても現実の回収が難しいことがあります。会社からの回収が期待しにくい場合には、買主等に対する契約上の請求も併せて検討することになります。契約に、保証が解除されない場合の補償や、旧経営者が負担した額の負担に関する定めがあるかどうかを確認し、定めがある場合にはその要件を満たしているかを検討します。なお、会社に対する求償権があることを理由に、その名目上の金額を当然に差し引いた額しか請求できない、という関係になるわけではありません。実際にどれだけ回収できるのかを踏まえて、二重の回収とならないよう調整することになります。
契約に定めがない場合や、文言が抽象的な場合には、約束の内容をどのように評価するかが問題になります。解除に向けて努力する趣旨にとどまると評価されるのであれば、解除が実現しなかったという結果だけで責任を問うことは難しく、適切に対応していれば解除に至っていたといえるかどうかまで問われることになります。他方、期限を定めて解除を約束していたと評価できる場合には、その不履行を理由に損害賠償を求める余地があります。いずれの評価になるかは、契約の文言、交渉の経過、当事者が前提としていた事情によります。
会社の再生・清算の手続が進んでいる場合には、求償権の扱いや、保証人自身の債務の整理についても検討が必要になります。ここで注意が必要なのは、会社について再生計画による債務の減免があったとしても、それによって保証人の責任が同じように減るわけではないという点です。保証債務の整理についても、ガイドラインに基づく方法が用いられることがあります。
5 約束が履行されない場合の対応
買主が保証の解除に向けた手続を進めない場合、まず、契約上どのような義務を負っているのかを踏まえて、履行を求める通知を行います。このとき重要になるのは、買主に求める行為を具体的に特定することです。金融機関に対して解除の申入れを行うことなのか、必要な資料を提出することなのか、借換えを実行することなのかによって、求めるべき内容が変わります。「保証を解除せよ」という求め方では、買主が何をすれば義務を果たしたことになるのかが定まりません。
期限の定めがない債務については、履行を求めることによって遅滞の責任を問える状態になります。これは、契約を解除するために相当の期間を定めて催告する手続とは別のものですので、何を目的とした通知なのかを意識して行います。やり取りは書面で残し、金融機関との協議の経過や、買主に求めた対応の内容が分かる形にしておきます。
それでも履行されない場合には、履行を求める訴えや、損害賠償を求める訴えを検討します。ただし、買主に対して判決を得たとしても、それによって金融機関との間の保証関係が消滅するわけではありません。買主に一定の行為を求める判断と、金融機関との保証の解消とは、別のものとして進める必要があります。
損害の内容としては、実際に支払った保証債務の額のほか、担保に供した資産を失った場合の損害などが考えられます。まだ請求を受けていない段階については、将来の負担を損害として主張する方法だけでなく、前章で述べた事前の求償や、契約上の事前の補償・担保提供に関する定めを用いる方法も併せて検討します。
売買代金の一部が未払いの場合には、保証に関する請求と併せて、その支払を求めることを検討します。どちらも旧経営者から買主に対する請求ですので、この二つを互いに相殺するという関係にはありません。買主の側が相殺や支払留保を主張する場合には、買主が旧経営者に対して有するという債権の内容と、契約上の根拠を別に確認することになります。
時間の経過も検討事項です。保証債務の履行を求められてから対応を始めると、選択肢が限られます。会社の返済状況に変化の兆しが見えた段階、あるいは買主が解除の手続を進めていないことが分かった段階で、早めに対応を検討することをお勧めします。
株式の帰属や承継の整理と併せて検討が必要な場合には、名義株・株式の持ち主を巡る紛争も併せてご覧ください。
よくあるご質問
Q1 会社を売却し、代表者も退任すれば、保証は外れますか。
当然には外れません。保証は金融機関との間の契約ですので、代表者を退任したことや株式を譲渡したことによって、保証の効力が自動的に失われるわけではありません。金融機関との間で解除の合意が成立するか、別の手当てがされる必要があります。
Q2 買主との間で解除を合意していれば、金融機関に主張できますか。
できないのが通常です。売主と買主の間の合意は、その当事者の間で効力を持つものであり、金融機関に対する保証の効力を左右するものではありません。買主との合意は、買主に対する請求の根拠として意味を持ちます。
Q3 経営者保証に関するガイドラインに基づいて、解除を求められますか。
ガイドラインは法令ではなく、金融機関が自発的に尊重し遵守することが期待される準則です。したがって、ガイドラインを根拠に解除を当然に請求できるわけではありません。もっとも、協議にあたって考慮されるべき事情が整理されていますので、これを踏まえて交渉を進めることには意味があります。
Q4 保証債務を支払った後は、誰に請求できますか。
主たる債務者である会社に対する求償が基本になります。もっとも、求償できる額は支出した額がそのまま認められるとは限らず、支払によって消滅した主たる債務の額が上限とされる場合があります。会社に資力がない場合には現実の回収が難しいこともありますので、買主等との契約に補償や負担に関する定めがあるときは、その定めに基づく請求も併せて検討します。
Q5 買主が解除の手続を進めてくれない場合は、どうすればよいですか。
まず、契約上どのような義務を負っているのかを確認し、買主に求める行為を具体的に特定したうえで、履行を求める通知を行います。やり取りを書面で残すことが重要です。それでも進まない場合には、履行や損害賠償を求める手続を検討しますが、買主に対する判断を得ても、金融機関との保証関係がそれによって消滅するわけではない点には注意が必要です。
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本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。
