M&A & Business Succession
M&A契約の解除・クロージング拒絶への対応
M&Aの最終契約を締結した後でも、前提条件の未充足、業績の悪化、契約違反等を理由に、取引の実行や解除を巡る対立が生じることがあります。
履行や解除、損害賠償を求められるかは、契約内容、取引の進捗、当事者の対応を確認して検討する必要があります。
当事務所は、クロージングの実行・拒絶や契約の解除を巡る交渉・紛争対応を支援します。
まず確認すること
以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。未定の事項がある段階や、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
- 最終契約と関連書面――前提条件、実行の手順、最終期限に関する条項、解除と損害賠償の定めを確認します。
- 相手方が実行を拒む理由――前提条件の未充足という主張なのか、義務違反の主張なのか、取引そのものの見直しなのかを整理します。
- 自社側の準備状況――自社が満たすべき前提条件の充足、必要書類の準備、履行の提供を行ったかどうかを確認します。
- 日程と期限――クロージングの予定日、実行の前提となる手続の期限、最終期限に関する条項の日付を確認します。
現在の進捗と相手方の対応を踏まえて、履行を求めるのか、解除に進むのかを含めて検討します。
ご相談いただけること前提条件の充足状況の整理/履行の提供と催告/解除・損害賠償の検討/規制・許認可の遅れへの対応/相手方との交渉/訴訟・仲裁への対応
お問い合わせフォームへ1 契約締結後に取引が止まったとき
最終契約を締結したにもかかわらず、予定していた日に実行されない、あるいは相手方から実行しない旨の連絡があったという場面では、まず、相手方が何を理由として実行を拒んでいるのかを特定します。前提条件が満たされていないという主張なのか、契約上の義務違反があるという主張なのか、事情が変わったので取引そのものを見直したいという趣旨なのかによって、検討する条項が異なります。
理由が明示されない場合や、複数の理由が同時に述べられる場合もあります。相手方が挙げる理由を、契約上どの条項に対応するものかという観点から整理し直すとともに、資金調達や社内の承認の状況についても確認します。
併せて、契約が定める日程を確認します。クロージングの予定日、実行の前提となる手続の期限、一定の日までに実行されない場合に解除できる旨の定め(いわゆる最終期限に関する条項)の有無と、その日付です。最終期限による解除についても、自らの義務違反によって実行されなかった当事者の解除権を制限する定めがないかを確認します。この期限が近い場合には、交渉を続けるか、契約上の手段を取るかの判断を早期に行う必要が生じます。
自社の側の準備状況も確認します。前提条件のうち自社が満たすべきものについて、必要な手続を完了しているか、証明資料を用意できているか、実行日に引き渡すべき書類がそろっているかという点です。相手方の不履行を主張する場面では、準備を整えていたというだけでなく、契約が定める方法で現実に履行の提供を行ったか、相手方がその受領を拒んだのかという点が問題となることがあります。もっとも、相手方があらかじめ受領を拒んでいる場合などには、準備をしたことを通知して受領を求めれば足りるとされることもありますので、提供の方法や、相手方が受領を拒んだ場合の対応は、相手方の対応を踏まえてあらかじめ検討しておく必要があります。
やり取りの記録も重要です。実行の延期や条件の変更について口頭で合意したように見えるやり取りが、後に契約の変更があったかどうかという争点になることがあります。書面による変更を要する旨の定めがある場合には、その定めとの関係も確認します。
2 前提条件の未充足と当事者の義務
M&Aの最終契約では、クロージングを実行する義務について、一定の事項が満たされていることを条件とするのが一般的です。典型的には、表明保証が正確であること、誓約事項が履行されていること、必要な許認可や届出が完了していること、取引先や金融機関その他の第三者の同意が得られていること、対象会社に重大な悪影響が生じていないことなどが挙げられます。
ここで注意が必要なのは、契約上「前提条件」と呼ばれる定めが、法律上の条件と同じ扱いになるとは限らないという点です。多くの場合、これらは相手方の債務の履行を求めるための要件として定められており、条件が満たされないことが直ちに契約の効力を失わせるわけではありません。条件が満たされない場合に何ができるのかは、その条項が実行義務の要件として定められているのか、解除権の発生事由として定められているのかによって変わります。
条件の放棄に関する定めも確認します。前提となるのは、その条件が誰の実行義務に付されたものか、放棄する権限を誰が持つものとされているかという点です。自社の実行義務に付された条件を自社が放棄しても、相手方の実行義務に付された別の条件までが満たされることにはなりません。また、契約上の条件を放棄できたとしても、許認可のように法令上必要とされる手続を省けるわけではありません。双方の利益にかかわる条件について、一方的な放棄ができないこともあります。
許認可や第三者の同意が間に合わない場合の扱いも、しばしば問題になります。契約では、当事者が条件の充足に向けて協力する義務や、努力する義務が定められていることが多く、その義務の内容と程度が争点になります。
条件が満たされなかった原因が、実行を拒む側の対応にある場合の扱いも検討が必要です。必要な資料を提出しなかった、届出に必要な協力をしなかったといった事情があるときに、その当事者が条件の未充足を理由に実行を拒むことができるのかという問題です。この点は、当該条項が法律上の条件に当たるといえるかどうかを確認したうえで検討することになり、契約に協力義務が定められている場合には、その違反として構成することも考えられます。どの程度の対応をすれば義務を果たしたといえるかは、契約の文言のほか、その手続の性質や、相手方に求められた協力の内容によって異なります。
契約によって行政庁の判断やその時期を左右することはできませんが、当事者の間で、許認可の取得に向けてどこまでの対応を行うか、期限までに取得できなかった場合に誰がどの負担を負うかを定めておくことはできます。許認可の取得を前提とする取引では、想定より時間を要する場合の日程の延長、追加で求められる対応の分担、それでも取得できない場合の取扱いを、あらかじめどのように定めているかが実際上の分かれ目になります。業種によって手続の内容は大きく異なりますので、規制業種の取引については、クロスボーダーM&Aと規制対応、金融サービス会社のM&Aと金融規制、医療機関のM&Aと医療法・行政手続、製薬会社・化粧品会社のM&Aと薬機法対応も併せてご覧ください。
3 業績悪化・MAC条項・誓約事項違反
契約締結後に対象会社の業績が悪化した場合、買主が、重大な悪影響が生じたとして実行を拒むことがあります。この主張が通るかどうかは、契約に置かれた条項の書き方によるところが大きく、どの程度の落ち込みであれば足りるといった数値や期間の基準が一般に定まっているわけではありません。
確認するのは、まず対象となる事象の範囲です。対象会社の財政状態や経営成績に生じた変化に限られるのか、将来の見通しに関する事情も含むのか、対象会社が属する業界全体の変動や、経済情勢・法令の変更のように当事者の支配を離れた事情を除外する定めが置かれているのかという点です。
次に、重大性の判断です。金額や期間の基準が定められている契約もあります。定められていない場合に何を確認するかというと、条項が対象としている事象に当たるか、除外事由に該当しないか、どの時点を基準とする定めになっているか、事象が対象会社の事業に及ぼしている影響の内容と見込まれる期間はどうか、といった点です。これらは、当該条項を読むために確認する事情であって、日本法上こうした共通の判断基準が確立しているという趣旨ではありません。
契約締結時にすでに知られていた事情や、開示されていた事情の扱いも、条項の定め方によります。既知であった、あるいは開示されていたというだけで当然に対象から外れるわけではなく、除外事由としてどのように書かれているか、開示の範囲を定める条項との関係はどうかを確認する必要があります。開示されていた事情が予想を超えて拡大した場合の扱いも、同様に条項の書き方によって結論が分かれ得ます。
誓約事項の違反も、実行を拒む理由として主張されることがあります。契約締結からクロージングまでの間、対象会社を通常の事業の方法により運営する義務、一定の行為について事前に相手方の同意を得る義務、重要な事実が生じた場合に通知する義務などが定められているのが通常です。これらの違反があった場合に実行を拒めるかどうかは、違反の内容と程度、契約が軽微な違反を除外しているかどうかによります。
なお、重大な悪影響に関する条項は、実行の前提条件として置かれる場合と、解除権の発生事由として置かれる場合があり、両方に関係する場合もあります。どこに、どのような形で置かれているかによって、主張できる内容が変わります。
4 履行請求・解除・損害賠償
相手方が実行を拒んでいる場合に検討する手段は、契約どおりの実行を求めること、契約を解除すること、損害の賠償を求めることです。これらは二者択一の関係にあるわけではありません。実行を求めながら、遅延によって生じた損害の賠償を併せて請求することもありますし、解除の要件は満たすものの賠償の要件までは満たさないという場合もあります。それぞれの要件と、併存し得る関係かどうかを確認したうえで、取引を実現する実益がなお残っているか、相手方に資力があるか、対象会社の事業に生じている影響がどの程度かを踏まえて方針を決めます。
実行を求める場合には、契約上の履行請求のほか、状況によっては保全の手続を検討することがあります。もっとも、株式の引渡しや代金の支払を現実に強制できるかどうかは、対象となる義務の内容や相手方の状況によって異なり、時間を要することも少なくありません。
解除については、契約が定める解除事由に該当するかをまず確認し、併せて、法律上の解除ができる場合に当たるかを検討します。法律上は、催告をしたうえで解除する場合と、催告をせずに解除できる場合とが定められており、どちらに当たるかによって必要な手順が変わります。催告による場合でも、期間が経過した時点の不履行が契約や取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除できないとされていますので、催告をしたというだけで当然に解除できるわけではありません。契約に解除の手続や通知の方法が定められている場合には、それに従う必要があります。
解除をしても、契約上の義務がすべて消滅するわけではありません。秘密保持、費用の負担、紛争解決の方法、公表に関する定めなどは、解除後も効力を有するものとされていることが一般的です。また、手付金や一部の代金がすでに支払われている場合、資料や設備の引渡しが先行している場合には、解除に伴う原状回復として何をどのように返すかを整理する必要があります。金銭を返還する場合には、受領した時からの利息を付すものとされています。違約金や解約金に関する定めがある場合には、その金額と、それを超える損害を請求できるかどうかを確認します。
損害賠償の範囲も争点になります。取引が実行されていれば得られたはずの利益を請求できるかどうか、費やした費用の賠償にとどまるかどうかは、契約の定めと事案の内容によって異なります。買主側が資金調達をできなかったことを理由に実行を拒む場合についても、それだけで責任を免れるとは限らず、契約が資金調達をどのように位置付けているかを確認して検討します。
5 交渉・訴訟・仲裁への対応
この種の対立では、時間の経過そのものが不利益を生みます。対象会社の従業員や取引先に不安が広がり、許認可の手続が止まり、金融機関との調整が難しくなることがあります。交渉を続ける場合でも、実行日の延長、条件の一部変更、価格の調整といった選択肢について、契約上どのような手当てが必要かを確認したうえで進めます。合意の内容は、書面による変更の要否を含めて、契約の定めに沿って記録します。
証拠の確保も並行して行います。実行日前後のやり取り、社内の意思決定に関する資料、対象会社の業績に関する資料、許認可手続の経過が分かる資料は、後に主張を裏付けるために必要になります。相手方の主張する事情が実際に生じていたのか、それが実行を拒む理由になり得るのかを検討するうえでも、時系列に沿った資料の整理が出発点になります。
手続の選択は、契約の紛争解決条項によります。仲裁の定めがある場合には、仲裁機関や仲裁地があらかじめ決まっていることが多く、保全の申立てをどこに行うかも併せて検討します。相手方が国外の当事者である場合には、契約に適用される法がどのように定められているか、そして判断を実際に実現できるかという観点も必要です。
取引を実行したうえで、発覚した問題については補償で処理するという解決もあり得ます。その場合の検討事項は、M&Aの表明保証違反と補償請求で扱っています。また、旧経営者の個人保証の解除を実行の条件としていた場合には、M&A・事業承継における経営者保証の解除と紛争対応も併せてご覧ください。
よくあるご質問
Q1 最終契約を締結した後でも、取引から撤退できますか。
契約の定めによります。前提条件の未充足、誓約事項の違反、一定の期限までに実行されないことなどが解除事由として定められていることがあり、これに当たるかどうかを確認します。定めに当たらない場合でも、法律上の解除ができる場合があります。いずれにしても、理由なく実行を拒めば、相手方から履行や損害賠償を求められる可能性があります。
Q2 買収資金を調達できない場合はどうなりますか。
資金調達ができなかったこと自体で責任を免れるとは限りません。契約が資金調達を前提条件としているか、調達に関する努力義務を定めているか、調達できない場合の取扱いを定めているかによって結論が変わります。
Q3 許認可が間に合わない場合、解除できますか。
許認可の取得が前提条件とされている場合、実行を求められない状態になることはあります。もっとも、それが直ちに解除できることを意味するとは限らず、最終期限に関する定めや、条件の充足に向けた協力義務の履行状況を確認する必要があります。行政庁の判断やその時期を当事者が保証することはできませんので、日程の延長や、取得できない場合の取扱いをどう定めていたかが実際上の分かれ目になります。
Q4 業績が悪化したことを理由に、重大な悪影響に関する条項を使えますか。
条項の書き方によります。対象となる事象の範囲、除外事由、基準となる時点のいずれについても、契約ごとに定めが異なります。どの程度の落ち込みであれば足りるという一般的な数値基準があるわけではなく、業績の悪化があったというだけで当然に実行を拒めるわけでもありません。
Q5 相手方にクロージングの実行を求めることはできますか。
契約上の履行を求めること自体は可能です。もっとも、現実に実行させるまでにどの程度の時間と手続を要するかは、義務の内容や相手方の状況によって異なります。実行を求めるか、解除して損害賠償を求めるかは、事業への影響も踏まえて判断することになります。
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クロージング・解除を巡る対立が生じている方へ
当事務所は、M&A契約の解除・クロージング拒絶について、関係資料と事実経過を確認し、契約・法令に基づく権利義務や対応方針の検討を支援します。ご依頼の範囲に応じて、相手方との交渉、裁判手続等への対応、必要な専門家との連携を行います。ご相談の際は、現在の状況、相手方からの通知の有無、把握している期限などを、分かる範囲でお問い合わせフォームからお知らせください。資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
M&A契約の解除・クロージングについて相談するご依頼の可否・支援範囲は、利益相反等を確認した上で個別にご案内します。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。
