M&A & Business Succession
少数株主の株式買取請求・価格決定への対応
株式併合や組織再編、特別支配株主による株式等売渡請求などに伴い、株式の買取りや対価の決定を巡って、株主と会社・取得者の間で争いが生じることがあります。
利用できる手続、事前に必要となる対応、請求・申立ての期限は取引手法によって異なるため、通知書類や決議・効力発生日を確認する必要があります。
当事務所は、企業価値・事業価値・株式価値の算定自体は行わず、必要に応じて評価専門家と連携し、各当事者の立場に応じた交渉・価格決定手続への対応を支援します。
まず確認すること
以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。未定の事項がある段階や、資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
- 届いた通知――どの手続に関する通知かを特定し、決議の日、効力発生日、記載された期限を確認します。
- 保有の状況――保有する株式の種類と数、株券の有無、株主名簿上の株主が誰かを確認します。
- 議決権と反対の意思表示――株主総会で議決権を行使できるか、総会に先立つ反対の通知が必要かを確認します。
- 希望する対応――対価の増額を求めるのか、手続自体を争うのか、早期に現金化したいのかによって進め方が変わります。
取引手法ごとに期限が異なりますので、まず期限を確定させたうえで、取り得る手段を整理します。
ご相談いただけること通知内容と期限の確認/反対の意思表示と買取請求/価格決定の申立て/会社・取得者側の対応/評価専門家との連携/交渉・裁判手続への対応
お問い合わせフォームへ目次
1 株式の取得・組織再編に関する通知を受けたとき
株主のもとに、株主総会の招集通知、株式併合に関する通知、合併や株式交換に関する通知、あるいは、特別支配株主による株式等売渡請求について対象会社から送られてくる通知などが届くことがあります。最後のものについては、通知を行うのは対象会社であり、この通知がされたことによって、特別支配株主から売渡請求がされたものとみなされる仕組みになっています。もっとも、その後の価格の決定手続で相手方となり、対価を支払う義務を負うのは特別支配株主です。誰から届いた書面かと、誰を相手に手続を進めるのかは、必ずしも一致しません。
この種の通知には、手続ごとに定められた期限が結び付いており、期限を過ぎると取り得る手段が限られます。まず行うべきは、届いた書面がどの手続に関するものかを特定することです。
確認する事項は、採られようとしている手法、株主総会の決議が必要なものかどうか、決議の予定日、効力が発生する日または株式が取得される日、そして自分が何をいつまでに行う必要があるかです。手続によっては、株主総会の前に会社に対して反対する旨を通知しておかなければ、後の手続を利用できなくなります。
自分が議決権を行使できる株主かどうかも確認します。議決権を行使することができない株主については、総会前の通知や総会での反対が求められない仕組みになっているものがあります。逆に、議決権を行使できる株主が総会前の通知を怠ると、その後の請求ができなくなることがあります。
通知に添付されている資料も確認します。対価の算定の根拠、算定を行った者、参考とされた資料が示されていることがあり、後の協議や手続における出発点になります。株券を発行している会社では、株券の提出が求められる場合がありますので、所在も確認しておきます。
期限が迫っている場合には、価格が妥当かどうかの検討を終える前に、まず手続上必要な意思表示を行うかどうかを判断することになります。
2 取引手法と株式買取請求・価格決定
本ページで扱う、組織再編や株式集約に伴う法定の買取請求・価格決定は、法律が定める場合に利用できる手続です。少数株主であるというだけで、会社に対する法定の株式買取請求権が認められるわけではありません。
法律が定める手続は、大きく二つに分かれます。一つは、まず会社に対して買取りを請求し、価格について協議を行い、協議が調わない場合に裁判所へ申し立てるという流れをとるものです。合併や会社分割、株式交換・株式移転といった組織再編が行われる場合、株式交付が行われる場合、事業の譲渡等が行われる場合、一定の定款の変更が行われる場合がこれに当たり、反対株主が、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求することができるものとされています。株式交付の場合、請求の相手方となるのは株式交付親会社です。
株式の併合についても同じ流れの仕組みが設けられていますが、対象が異なります。買取請求の対象となるのは、保有する株式のうち、一株に満たない端数となるものの全部です。保有する株式の全部を任意に買い取らせることができる制度ではありません。
もう一つは、会社への買取請求を経ずに、直接、裁判所に価格の決定を求める申立てをするものです。全部取得条項付種類株式の取得が行われる場合と、特別支配株主による株式等売渡請求があった場合がこれに当たり、いずれも、取得日の二十日前の日から取得日の前日までの間に申し立てることとされています。ただし、全部取得条項付種類株式については、議決権を行使することができる株主は、株主総会に先立って取得に反対する旨を会社に通知し、かつ総会において反対しておく必要があります。直接申し立てられるということは、事前の手続が不要という意味ではありません。この点は、そうした事前の反対が求められていない株式等売渡請求とは異なります。
なお、組織再編が行われれば常に買取請求ができるというわけでもありません。自分がどちらの会社の株主か、対象となる株式の種類はどうか、簡易な手続によるために株主総会の決議を要しない場合に当たらないかといった点によって、請求できるかどうかが変わります。
実際の案件では、公開買付けの後に株式併合や株式等売渡請求が行われるなど、複数の手続が順に用いられることがあります。どの段階でどの手続を利用できるのかを整理しないまま時間が経つと、期限内に必要な行為を行えなくなります。
3 反対の意思表示・請求・申立ての期限
株式買取請求を行うには、手続によって、株主総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ総会において反対することが求められます。条文が求めているのは「総会に先立って」通知することですので、総会の場で反対の意思を示すだけでは足りません。通知がいつ会社に届いたかが後から問題になることもありますので、方法と記録の残し方も検討しておきます。議決権を行使することができない株主については、この通知と総会での反対が求められない仕組みになっています。
買取請求そのものにも期間が定められていますが、ここで手法によって大きな違いがあります。吸収合併や吸収分割、株式交換のように既存の会社に承継させる方法、株式交付、事業の譲渡等、株式の併合、一定の定款変更の場面では、会社からの通知は効力発生日の二十日前までに行うものとされ、株主の買取請求は、効力発生日の二十日前の日から効力発生日の前日までの間に、買取りを求める株式の数を明らかにして行うこととされています。
これに対し、新設合併、新設分割、株式移転のように新たに会社を設立する方法では、会社からの通知は株主総会の決議の日から二週間以内とされ、株主の買取請求は、その通知または公告をした日から二十日以内とされています。起算点も期間の長さも異なりますので、新設型の再編について前段の期間で考えると、請求の時期を誤ることになります。
会社からの通知は、公告をもってこれに代えることができる場合があります。ただし、これはすべての手続に共通するものではありません。会社法上、株式等売渡請求について対象会社が売渡株主に対して行う通知は、公告によって代えることができないとされています。もっとも、振替制度の対象となる株式については特例があり、株主に対する通知に代えて、通知すべき事項を公告することとされています。公告で足りるかどうか、あるいは公告によることとされているかは、手続ごと、そして株式の種類ごとに確認が必要です。
いったん行った買取請求の撤回は、会社の承諾を得た場合に限られるのが原則です。株券が発行されている株式について請求する場合には、株券の提出が求められます。もっとも、株券喪失登録の請求をした者については、提出を要しないとする例外が定められています。
価格について協議が調わない場合の取扱いも定められています。既存の会社に承継させる方法や株式の併合等の場面では、効力発生日から三十日以内に協議が調わないときは、株主または会社が、その期間の満了の日後三十日以内に、裁判所に対して価格の決定を申し立てることができるものとされています。協議が調った場合には、効力発生日から六十日以内に支払われることとされています。価格の協議が調わず、株主・会社のいずれも申立期間内に申し立てなかった場合には、この価格決定手続は利用できなくなります。協議を続けることはできますが、申立期間の満了後は、原則の例外として、会社の承諾なく買取請求を撤回することもできます。ただし、撤回しても組織再編や株式併合自体の効力は変わらず、元の株主の地位に戻れるとは限りません。新設型の再編でも同様です。
新設型の再編では、これらの起算点が設立会社の成立の日になります。すなわち、設立会社の成立の日から三十日以内に協議が調わないときに、その期間の満了の日後三十日以内に申し立てることとされており、二段階で期間を数えることになります。価格について協議が調った場合の支払も、設立会社の成立の日から六十日以内とされています。
なお、買取請求に係る株式の買取りは、効力発生日(新設型の再編では設立会社の成立の日)にその効力を生ずるものとされています。価格が決まっていない段階であっても、その時点で株式は移転しますので、株主としての権利をいつまで行使できるか、会社の資料をいつまでに入手しておくかという点も、あらかじめ考えておく必要があります。
上場会社の株式のように振替制度の対象となっている株式については、買取請求にあたって、会社が開設した買取口座への振替の申請をすることとされているなど、別に定められた手続があります。また、少数株主としての権利を行使する場面では、証券会社等を通じた個別株主通知が必要とされることがありますので、その要否と時期も確認します。
前章で述べた全部取得条項付種類株式や株式等売渡請求の場面では、協議を経ずに、取得日の前日までに裁判所へ申し立てる仕組みになっており、期間の考え方がさらに異なります。手法が違えば期限も違うということが、この分野で最も注意を要する点です。
譲渡制限株式について会社の承認が得られなかった場合の買取りは、これらとは別の仕組みです。会社または指定買取人から買取りの通知があった日から二十日以内に、裁判所に価格の決定を申し立てることができるものとされています。期間内に価格の合意も申立てもない場合には、所定の一株当たり純資産額に対象となる株式の数を乗じた額が売買価格となります。
4 価格の判断要素と評価専門家との連携
法律が定めているのは、反対株主の買取請求については「公正な価格」という基準であり、具体的な算定方法まで定められているわけではありません。全部取得条項付種類株式の取得や株式等売渡請求では、条文の用語も手続の構造も異なりますので、制度ごとに何が判断の対象になるのかを確認することになります。
価格の判断では、取引手法と事案に応じて、評価の基準時、取引がなかった場合の価値、取引による価値の増加とその分配、対価を決めた手続の公正性などを検討します。各要素の位置付けは、制度や取引の内容によって異なります。
上場会社の株式については、市場で成立していた価格が参照されることがあります。もっとも、公開買付けが行われている場合に、その価格がそのまま裁判所の判断する価格になるとは限らず、逆に、公開買付価格を下回る判断がされる可能性もあります。他方で、手続の公正性が確保されていたと評価される場合には、公開買付けにおいて決定された価格が重視されることもあります。
非上場会社の株式については、純資産に着目する方法、将来の収益に着目する方法、配当に着目する方法、類似する会社と比較する方法など複数の考え方があり、事案に応じて使い分けられています。どの方法によるか、複数の方法を併用するか、その重みをどう置くかは、会社の規模や事業の性質、当該株式の位置付けによって異なります。
手続の公正性も検討の対象になります。買収する側と対象会社との間に利益が相反する構造がある取引について、判断の独立性を確保するための措置や、株主に十分な情報を提供するための措置をどのように講じるかについては、経済産業省が公表している「公正なM&Aの在り方に関する指針」があります。この指針は、経営陣による買収や、支配株主による従属会社の買収を主な対象として想定したものであり、すべての取引に一律に当てはまるものではありません。また、指針に沿った措置が講じられていることから、裁判上の価格が直ちに決まるという関係にもありません。
当事務所は、企業価値・事業価値・株式価値の算定自体を行うものではありません。算定が必要となる場合には、公認会計士や評価の専門家と連携し、その算定の前提となる事実関係の確認、手続の履践状況の整理、主張として何を立証する必要があるかという観点からの検討を担当します。なお、専門家が算定した金額に裁判所の判断が拘束されるものではありません。
5 協議・裁判手続と会社・取得者側の対応
価格の決定を求める手続は、通常の訴訟とは異なる手続として行われます。書面のやり取りが中心となりますが、価格の決定については、申立てが不適法であることや理由がないことが明らかであるとして却下する場合を除き、裁判所は審問の期日を開いて申立人と相手方の陳述を聴かなければならないとされています。裁判所が必要と考えたときだけ審問が開かれる、というものではありません。手続の中で会社側の資料の提出を求める場面もあり、どの資料を、どのような理由で必要とするのかを整理して示すことが重要になります。
裁判所が決定した価格については、利息を併せて支払うものとされていますが、その起算点は手法によって異なります。反対株主の買取請求では、協議が調った場合に支払うべきものとされている期間、すなわち効力発生日(新設型の再編では設立会社の成立の日)から六十日という期間の満了の日の後とされています。これに対し、全部取得条項付種類株式の取得や株式等売渡請求では、取得日の後とされています。
他方で、会社や取得者の側が、価格の決定があるまでの間に、自らが公正と考える額を先に支払うことができる旨の定めも置かれています。この仕組みを用いた場合、支払った額に応じて利息の負担が変わり、最終的に決定された価格との差額を精算することになりますので、資金繰りと併せて判断します。
会社・取得者の側の対応としては、まず、法律が定める通知や公告、事前に備え置くべき書類の準備といった手続を正しく履践することが基本になります。手続に不備があると、価格の問題とは別に、取引の効力そのものが争われる余地を残します。買取請求が行われた場合には、請求の要件を満たしているかを確認したうえで、協議の進め方と期限の管理を行います。
なお、価格を争う手続と、取引そのものを争う手続とは別のものです。株式の併合や組織再編について、法令または定款に違反する場合に、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、これをやめるよう請求することができる旨の定めが置かれています。手法によっては、対価が著しく不当であることが差止めの事由とされている場合もあります。
取引を争う手続は、これだけではありません。効力が生じる前に差止めを求める手続、株主総会の決議の効力を争う手続、効力が生じた後に取引や取得の効力そのものを争う手続は、それぞれ要件も、申立てや訴えを起こすことができる者の範囲も、期間も異なります。価格の決定を申し立てたからといって、取引の実行が止まるわけではありません。どの手続を選ぶかは、求める結果と期限を踏まえて判断します。
株主としての地位そのものに争いがある場合には、まずその点を確定させる必要があります。名義株・株式の持ち主を巡る紛争を併せてご覧ください。
よくあるご質問
Q1 少数株主であれば、いつでも会社に株式の買取りを請求できますか。
少数株主であるというだけで、会社に対する法定の株式買取請求権が認められるわけではありません。法律が定めているのは、組織再編、株式交付、事業の譲渡等、一定の定款変更、株式の併合による端数の発生といった場面です。株式の併合の場合、対象となるのは端数となる株式に限られます。これらに当たらない場合には、株主間の合意による譲渡など、別の方法を検討することになります。譲渡制限株式では、譲渡先を定めて会社に承認を請求する方法もあります。不承認の場合に会社または指定買取人による買取りを希望するときは、その旨も併せて請求します。買取りに進んだ場合の価格決定の期限と取扱いは、第3章をご確認ください。
Q2 株主総会で反対すれば、買取請求に必要な手続は足りますか。
足りない場合があります。手続によっては、株主総会に先立って会社に対し反対する旨を通知したうえで、総会においても反対することが求められます。条文は「総会に先立って」通知することを求めていますので、総会の場で反対するだけでは要件を満たしません。議決権を行使することができない株主については、これらが求められない仕組みになっています。
Q3 公開買付価格と異なる価格を求めることはできますか。
求めること自体は可能です。公開買付けの価格が、そのまま裁判所の判断する価格になるとは限りません。もっとも、公開買付けに至る手続の公正性が確保されていたと評価される場合には、その価格が重視されることもあり、結論は事案によって異なります。
Q4 価格決定の申立てによって、取引の実行を止めることはできますか。
できません。価格を争う手続と、取引そのものを止める手続とは別のものです。法令または定款に違反する場合などには、株式の併合や組織再編をやめるよう請求する手続が設けられていますので、取引の実行自体を争う場合には、そちらを検討することになります。
Q5 会社・取得者の側は、買取請求や価格決定の申立てにどう対応すべきですか。
まず、通知や公告、書類の備置きといった手続を正しく履践しているかを確認します。買取請求を受けた場合には、請求の要件を満たしているかを確認したうえで、協議の進め方と期限を管理します。価格の決定があるまでの間に、自らが公正と考える額を支払うことができる仕組みもありますので、利息の負担も含めて検討します。
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株式買取請求・価格決定をご検討の方へ
当事務所は、株式買取請求・価格決定手続について、関係資料と事実経過を確認し、契約・法令に基づく権利義務や対応方針の検討を支援します。ご依頼の範囲に応じて、相手方との交渉、裁判手続等への対応、必要な専門家との連携を行います。ご相談の際は、現在の状況、相手方からの通知の有無、把握している期限などを、分かる範囲でお問い合わせフォームからお知らせください。資料がそろっていない段階でもご相談いただけます。
株式買取請求・価格決定について相談するご依頼の可否・支援範囲は、利益相反等を確認した上で個別にご案内します。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。
