Intellectual Property
特許権侵害の訴状・仮処分申立書を受け取った企業の対応
特許権者から特許権侵害の訴えを起こされ、訴状が届くことがあります。また、販売の差止めを求める仮処分の申立書が届くこともあります。本稿は、こうした書類を受け取った企業の法務・知財・経営担当者を対象としています。
訴訟と仮処分は、別の手続です。届いた書類と手続の段階に応じて期限・期日を確認し、相手方の主張への認否・反論と、それを裏付ける技術資料や取引資料を準備します。損害賠償を求められている場合は、売上・利益の資料と、営業秘密の扱いも問題になります。
本稿では、書類と期限の確認、答弁と反論の準備、証拠と秘密情報の扱い、仮処分と事業の継続、和解までを整理します。
監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)
目次
訴状や仮処分申立書を受け取ったら、まず確認すること
- 受領書類と手続の段階:会社は、届いた書類が訴状か、仮処分の申立書か、裁判所の決定か、執行に関する書類かを確認します。
- 当事者と請求の対象:会社は、被告・債務者とされた会社名、事件番号、特許番号と請求項、対象とされた製品・方法・行為、差止め・廃棄・金銭の支払のどれを求められているかを確認します。
- 受領の経緯:会社は、送付元、受領日、受領した部署と担当者を記録し、封筒や電子通知も保存します。
- 期限と期日:会社は、答弁書などの提出期限と、口頭弁論や審尋の期日を確認し、担当者を決めます。
- 技術資料と取引資料:会社は、対象時期の仕様書・図面・現物・開発記録と、売上・仕入れの資料の所在を確認し、上書きや削除がされないよう保存します。
- 秘密情報と外国語資料:会社は、営業秘密や取引先の秘密情報を含む資料と、外国語の資料を特定し、海外の本社を含む社内外の共有先を確認します。
- 在庫・受注・供給:会社は、対象製品の在庫、受注残、出荷予定と、取引先との契約上の通知事項を確認します。
- 応訴体制と決裁:会社は、社内の窓口、技術・経理の担当者、決裁者を決めます。海外の本社や弁護士が関わる場合は、連絡と翻訳の担当も決めます。
非侵害・無効など、侵害の主張に対する基本的な検討は、知的財産権の侵害警告書を受領した企業の対応で説明しています。
1 受領書類・手続・期限と応訴体制の確認
受領書類・請求内容と当事者
会社は、届いた書類を、訴状、仮処分の申立書、裁判所の決定、執行に関する書類に分けます。仮処分の申立書の写しは、申立人から直接送られてくることもあります。
当事務所は、訴状の「請求の趣旨」と申立書の「申立ての趣旨」から、差止め・廃棄・金銭の支払など、何を求められているかを確認します。あわせて、被告・債務者とされた会社を確認します。海外の本社、日本法人、その他のグループ会社のどれが当事者かによって、対応の窓口も準備する資料も変わります。
答弁書の提出期限と期日への対応
会社は、訴状や呼出状などで、答弁書の提出期限と期日を確認します。期限は、受領から何日と一律に決まっているものではありません。
答弁書等で相手方の主張する事実を争わず、第1回口頭弁論期日にも欠席すると、原則として、その事実を認めたものとして扱われます。その結果、請求を認める判決が出ることがあります。一方、最初にすべき口頭弁論期日では、裁判所が、提出済みの答弁書等の内容を陳述したものとして扱う制度があります。当事務所は、答弁書の内容と期日への対応を併せて検討します。
販売等の差止めを求める仮処分では、原則として、口頭弁論または会社が立ち会える審尋を経て判断されます。ただし、その期日を経ると申立ての目的を達成できない事情がある場合には、例外があります。仮処分の期日は、訴訟の期日とは別に管理します。
管轄と本案訴訟の進行
地方裁判所で扱う特許権侵害訴訟の第一審は、通常の管轄の規定で定まる地域に応じて、東京地方裁判所または大阪地方裁判所の専属管轄となります。被告の本社の所在地だけで決まるものではなく、法律上の要件を満たす場合には、他の裁判所に移送されることもあります。
海外の会社が被告とされた場合は、日本の裁判所に国際裁判管轄があるかも確認します。日本の裁判所に管轄がないとの主張をしないまま、本案について口頭弁論をし、または弁論準備手続で申述すると、それによって日本の裁判所の管轄が生じることがあるためです。
東京地方裁判所が公表している審理モデルでは、まず侵害と無効の主張を審理し、侵害の心証が得られて損害額の判断が必要な場合に、損害額の審理に進みます。実際の進行は事件ごとに異なります。同モデルには、侵害についての心証を開示した段階で、和解を勧める場合も示されています。裁判所は、訴訟のどの段階でも和解を試みることができ、訴訟上の和解が電子調書に記録されると、確定判決と同じ効力が生じます。
送達の管理と国内外の応訴体制
民事訴訟の全面的な電子化は、2026年5月21日に施行されました。新しい手続が適用されるかは、訴えの提起日などで確認します。新しい手続が適用される事件では、弁護士などによる申立てや書面の提出は、原則としてオンラインで行います。ただし、訴状が紙で送達される場合もあります。裁判所のシステムを利用した送達(システム送達)は、原則として、裁判書類をシステム上で閲覧した時、ダウンロードした時、通知が発せられた日から1週間が経った時のうち、最も早い時に効力が生じます。通知メールを開いた時が基準になるわけではありません。仮処分などの民事保全は、この全面的な電子化の対象外です。
海外にある会社への送達は、送達先の国や、適用される条約に応じた方法によります。国や方法によっては、時間がかかることがあります。会社は、日本法人などを通じて写しを受け取った時点から、正式な送達がされたか、期限がいつかを確認します。
会社は、日本の訴訟を担当する弁護士、海外の本社や現地の弁護士、翻訳の担当者の間の連絡経路を決めます。当事務所は、技術内容の検討が必要な場合、弁理士とも連携します。付記を受けた弁理士は、弁護士が同じ依頼者から受任している特許権侵害訴訟で、訴訟代理人となることができます。
2 侵害訴訟における認否・抗弁と証拠の準備
相手方の主張への認否と製品・方法の特定
会社は、訴状に書かれた製品の構成や製造方法、販売の事実を、認める点、争う点、調べなければ分からない点に分けます。当事務所は、型番、仕様、製造時期、工程を対応させ、事実の認否と、侵害に当たるかという評価を分けて整理します。
相手方が主張する製品や方法の具体的な態様を否認する場合は、自社の製品や方法の具体的な態様を明らかにする必要があります。明らかにできない相当の理由がある場合は、この限りではありません。
争点ごとの反論と裏付け資料
当事務所は、特許の請求項を構成要件に分け、自社の製品・方法と一つずつ対比します。相手方が、文言どおりの侵害のほか、均等による侵害や、一定の部品等の供給などを侵害とみなす間接侵害を主張している場合は、それぞれ争点となる点に対応する資料を集めます。先使用権を主張する場合は、発明の完成・取得の経緯と、基準となる時点に日本国内で行っていた、その発明を用いた事業またはその準備を示す資料を集めます。後から作った説明資料と、当時の記録は分けて保存します。
無効の主張と無効審判の管理
侵害訴訟では、特許が無効にされるべきことを理由に、相手方の権利行使を争うことができます(無効の抗弁)。これは、特許庁で特許そのものの効力を争う無効審判とは別の制度であり、審判の請求は必須ではありません。無効審判を請求しても、裁判所が中止を決めない限り、訴訟は進みます。
判例上、特許権者は、訂正によって無効理由が解消されるとの反論(訂正の再抗弁)をすることができるとされています。その場合は、訂正が認められるか、無効理由が解消するか、訂正後の請求項と対象製品との関係を確認します。無効審判も請求する場合は、当事務所が、訴訟と審判の期限、主張、証拠を併せて管理します。
証拠の保存・提出と訳文の準備
会社は、現物、図面、仕様書、ソースコード、試験結果、製造記録を、対象時期の版と対応させて保存します。外国語の文書を証拠として出す場合は、取調べを求める部分の訳文を添えます。
裁判所は、当事者の申立てにより、侵害の立証や損害の計算に必要な書類・電磁的記録の提出を命じることがあります。当事務所は、提出の必要性と範囲、提出を拒む正当な理由の有無を確認します。また、訴えの提起後には、一定の要件のもとで、裁判所が指定する中立の専門家が工場などを調査する査証の制度があります。査証については、発令の要件、調査の範囲と負担、秘密情報の保護を検討します。
3 損害賠償請求への対応と秘密情報の管理
請求額の算定根拠と争点
特許法には、損害額の算定や推定についての規定があります。侵害品の譲渡数量と権利者側の単位数量あたりの利益を基礎とする方法、侵害者側の利益から損害額を推定する方法、実施料に相当する額を請求する方法などがあり、適用の要件や反論すべき事情が異なります。当事務所は、採られた算定方法に応じて、対象の期間、数量、売上、費用を整理します。侵害者側の利益を基礎とする場合、裁判例では、売上から差し引ける費用の範囲と、特許発明以外の性能やデザインなどによって損害額の推定を覆せるかは、区別して検討されています。
売上・利益資料の保存と整理
東京地方裁判所の知的財産権部の案内では、被告は、侵害についての審理の段階から、計算書類、帳簿、伝票などの保存と整理に努めるよう求められています。会社は、対象製品の売上・仕入れ・費用を、帳簿や電子データと対応させて保存します。社内で資料を確保することと、裁判所や相手方に何を提出するかの判断は、分けて考えます。
営業秘密の開示範囲と保護手続
図面、製造条件、原価、顧客別の売上には、営業秘密が含まれることがあります。秘密保持命令は、一定の要件のもとで、対象の営業秘密について、その訴訟を進める目的以外での使用と、同じ秘密について命令を受けていない人への開示を禁じる制度です。第三者による記録の閲覧等は別の問題であり、要件を満たす部分について、別に閲覧等の制限を申し立てます。閲覧等の制限によって、相手方からも秘密にできるわけではありません。
社内で秘密として扱っていることだけで、提出を拒む正当な理由が認められるとは限りません。当事務所は、提出を求められている部分と秘密の部分を切り分け、保護の手続を提出の前に検討します。
4 仮処分の申立て・命令と事業継続の検討
申立て段階と発令後の対応
仮処分の申立書を受け取っただけでは、差止めを命じられたことにはなりません。販売等の差止めを求める仮処分では、申立人が、特許権に基づく差止請求権(被保全権利)と、著しい損害や急迫の危険を避けるために判決を待たずに差止めをする必要性(保全の必要性)を、それぞれ資料によって疎明する必要があります。会社は、この二つを分けて、反論と資料を準備します。
差止命令が出た場合は、主文と別紙から、対象の製品、禁止された行為、対象の会社を確認し、送達と執行の状況も確認します。差止命令に対して保全異議を申し立てても、執行は自動的には止まりません。執行の停止には、別途の申立てに基づき、裁判所が法定の要件を満たすと判断して停止を命じることが必要です。担保、審尋の扱い、執行の停止、取消しの手続は、医薬品の発売直前における販売差止仮処分への対応で詳しく説明しています。
在庫・受注と製造販売の継続・変更
差止命令が出ていなくても、製品が特許権を侵害していれば、差止めや損害賠償の対象になり得ます。会社は、侵害の見通し、在庫と受注、取引先への供給に及ぶ影響を踏まえて、製造・販売を続けるか、止めるか、設計を変えるかを検討します。
設計を変えた製品については、改めて侵害の有無を検討します。また、設計を変えても、変更前の行為について生じた責任が当然に消えるわけではありません。会社は、変更前の現物と資料も保存します。
和解条件と取引先への説明
訴訟でも仮処分でも、反論と並行して、和解を検討することがあります。当事務所は、対象の特許と製品、過去分の支払、将来の実施の条件、在庫の処理を整理し、会社の決裁の範囲を確認します。
取引先には、手続がどの段階にあるか、対象がどの製品かに即して説明します。供給契約の通知や補償の条項も確認します。
よくある質問
Q1 答弁書を出さず、第1回口頭弁論期日に欠席するとどうなりますか。
答弁書等で相手方の主張する事実を争わずに欠席すると、原則として、その事実を認めたものとして扱われ、請求を認める判決が出ることがあります。期限までに答弁書を出し、期日への対応を決めておく必要があります。
Q2 海外の本社が被告とされた場合、何を確認すればよいですか。
誰が被告か、正式な送達がされたか、期限がいつかを確認します。日本の裁判所の管轄を争うかどうかも、最初に検討します。外国語の資料を証拠として出す場合は、取調べを求める部分の訳文が必要です。
Q3 特許が無効だと考えています。無効審判の結果を待ってもよいですか。
無効審判を請求しても、訴訟は当然には止まりません。審判の結果を待たずに、訴訟で無効の抗弁を主張できます。審判も請求する場合は、双方の主張・証拠と期限を整合させます。
Q4 侵害を争っている段階でも、売上や利益の資料を準備する必要がありますか。
損害賠償請求への対応に備えて、侵害を争う段階から資料の保存・整理を進めます。社内で資料を確保することと、提出の要否・範囲の判断は分けて考えます。
Q5 営業秘密を含む図面や帳簿も、提出しなければなりませんか。
求められている範囲と、提出を拒む正当な理由があるかを確認します。提出する場合は、秘密保持命令や閲覧等の制限を検討します。
Q6 仮処分の申立書を受け取った場合と、差止命令が出た場合とで、販売の判断はどう違いますか。
申立書を受け取っただけで、差止めを命じられたことにはなりません。ただし、侵害であれば責任が生じ得ます。差止命令が出た場合は、命令への対応と不服申立てを併せて検討します。保全異議を申し立てただけで執行が止まるわけではありません。
特許権侵害の訴訟・仮処分について当事務所が支援すること
当事務所は、特許権侵害の訴訟と仮処分の代理、答弁書・準備書面の作成、技術資料と証拠の整理、無効の抗弁と無効審判の検討、損害賠償の資料と秘密情報の保護、仮処分の差止命令が出た後の手続、和解の交渉と取引先への説明について、個別のご相談をお受けしています。
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届いた書類の種類と受領日、記載されている期日と期限、対象の特許と製品、これまでの相手方とのやり取りを、分かる範囲でお知らせください。
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