Litigation & Dispute Resolution
取引先が支払ってくれないとき(未収金・支払遅延への対応)
納品も検収も終わっているのに入金がない。請求書を送っても返事がない。担当者は「社内で確認中」と言うが、期日が過ぎても状況が変わらない。取引先からの支払が止まったときは、未入金の原因を確認しながら、督促や交渉、法的な手続の進め方を検討することになります。
この判断を難しくしているのは、支払われない理由が一つではないことです。請求書が届いていない、社内の処理が止まっている、入金の消込みを誤っている、振込先が異なっているといった支払事務の行き違いもあれば、相手方の資金繰りの問題や、こちらの請求そのものを争っている場合もあります。複数の事情が重なることもあります。まず、請求・支払・入金の記録を照合し、相手方の説明を確認します。いずれの場合も、期限と資料の確認が必要になります。
本ページでは、支払われない理由の見分け方、期限として意識しておくべきこと、請求のための手続の選び方、判決や和解を得た後に実際に回収するまでの流れを、順に整理します。取引の内容によっては、より詳しい解説をご用意している分野もありますので、あわせてご覧ください。
まず確認すること
以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。資料が一部しか残っていない段階でも、ご相談いただけます。
- 請求の根拠となる契約と発注の記録――基本契約書、個別契約書、注文書・注文請書、見積書のうち、どれが存在するかを確認します。書面がない場合も、メール、チャット、議事録などのやり取りが根拠になることがあるため、残っている記録を確認します。契約の当事者と、請求書の宛先が一致しているかもあわせて確認します。
- 請求している金額と、支払期日――契約上の支払期日、請求書に記載した支払期日、これまでの取引での運用を確認します。契約上の定めと請求書の記載が異なる場合には、その経緯も確認します。取引が複数回にわたる場合は、取引ごとの未入金額と、納品物の受領日や役務の提供日、契約や法令に基づく支払期日を対応させて整理します。支払期日が過ぎたものと、まだ来ていないものも分けて確認します。請求額のうち、相手方が支払義務を認めている部分、争っている部分、回答がないなど認識を確認できていない部分を分けて整理します。
- 相手方が支払わない理由として述べていること――「資金繰りが厳しい」なのか、「納品物に問題がある」「発注していない」「別の請求と相殺する」なのかによって、その後の検討が大きく変わります。口頭の説明も含め、相手方の言い分を時系列で確認します。
- 請求の対象となる納品・作業の進み具合と、その証跡――納品書、検収書、受領印のある書面、作業報告、現場の写真など、こちらの義務をどこまで果たしたかを示す資料を確認します。相手方が受領や検収を争っている場合には、その経緯も確認します。
- 督促と相手方の応答の経緯――消滅時効との関係で意味を持ちます。支払を求めた内容、相手方に届いた日、相手方の返答を時系列で確認します。一部の支払、支払猶予の申入れ、支払う旨の書面などがあれば、その内容と日付も確認します。
- 相手方の営業・支払状況と、把握している財産――商業登記の内容、営業の継続状況、他の取引先への支払状況について、把握している事実を確認します。取引金融機関、主な売掛先、所有する不動産など、把握している財産の情報も確認します。破産・民事再生等の申立てや、弁護士名の受任通知が届いている場合には、その書面を確認します。
- 担保・保証等と、相手方への支払債務――これらに関する契約や通知の有無と内容を確認します。あわせて、こちらから相手方に支払うべき金銭があるかどうかも確認します。相殺の検討に関わります。
社内の担当・連絡窓口・判断権限――社内では、情報を取りまとめる担当者と、相手方への連絡の窓口を決め、経理・営業・法務など関係する担当者が把握している資料と経緯を共有します。支払猶予や分割払いへの合意、法的手続への移行について、社内の誰が判断し、承認するかも確認します。集めた資料と経緯を基に、請求の根拠と相手方の主張を整理し、次に取る手続を検討します。
ご相談いただけること請求の根拠と相手方の主張の整理/消滅時効と期限の確認/催告・交渉/仮差押え/支払督促・調停・訴訟/判決後の回収/相手方の倒産手続への対応
お問い合わせフォームへ1 支払われない理由によって、対応は分かれる
記録の照合とあわせて、相手方の資金繰りに問題があるのか、請求の内容を争っているのか、支払わない理由が明らかでないのかを整理します。請求を認めながら支払を引き延ばしている場合もあります。どれに当たるかによって、優先して確認する事項や、準備する資料が変わります。複数の事情が重なることもあるため、相手方の説明と客観的な資料の双方を確認します。請求の内容が争われていても、資金繰りに不安がある場合には、争点や証拠の整理と並行して、財産の状況と保全の要否を確認します。
取引が続いている場合には、未収金の回収とあわせて、今後の納品や作業の扱いも確認します。
資金繰りの問題である場合
相手方が請求自体は争っていないものの、支払える状態にないという場合には、他の債権者との関係が問題になります。相手方の財産が限られている場合には、担保権の有無や、他の債権者による差押えの状況によって、実際の回収可能性が変わります。そのため、財産の状況と優先関係を確認し、必要に応じて保全の手続を検討することが中心になります。
支払を猶予して分割で回収するという選択もあります。保全の手続と組み合わせて検討する場合もあります。猶予に応じる場合でも、支払の約束を書面にしておくか、担保や保証を得られるかを検討します。所有権留保がある場合も、それだけで相手方の施設に立ち入って商品を持ち帰れるわけではありません。分割払いを合意する場合には、債務の額、各回の支払額と支払期日、支払が滞った場合の残額の扱いを、あらかじめ明確にしておきます。もっとも、通常の合意書を作成しただけでは、その書面に基づいて強制執行をすることはできません。そのうえで、一定額の金銭の支払について、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述を記載した公正証書を作成することも選択肢になります。公正証書を作成しても、強制執行には支払期日の到来などの要件を満たす必要があります。
なお、倒産手続の申立てや開始決定がある場合には、利用できる手段や制限が変わりますので、第4章の「相手方が倒産手続に入った場合」もご覧ください。受けた弁済の返還や、取得した担保の効力が、後の倒産手続で問題となることがあります。支払や担保の設定の時期と内容、その当時に把握していた相手方の支払の状況を確認します。
請求の当否を争っている場合
相手方が支払を拒む理由として述べていることは、いくつかの型に分かれます。どの型かによって、こちらが示すべき資料が変わります。
| 相手方の主張の型 | 実際に言われること | こちらで整理すること |
|---|---|---|
| 履行が不完全である | 納品されたものに不具合がある。仕様どおりでない。作業が終わっていない。 | 契約で定めた範囲と仕様。実際に引き渡したものの内容。不具合の指摘がいつ、どのような形でされたか。修補の申出をしたか。 |
| 受領・検収がされていない | 検収していないので支払義務は生じていない。 | 契約上の検収の手続と、検収の通知の有無。使用開始、転売、追加の依頼など、検収の有無や成果物の受入れを判断する資料となる事実。 |
| 契約が成立していない | その発注はしていない。金額を合意していない。 | 発注の意思表示がどこに残っているか。見積の提示と、それに対する応答。同種の取引で従前どうしていたか。 |
| 相殺する | こちらにも請求がある。損害が出ているので差し引く。 | 相手方が主張する債権の発生原因と金額。双方の債権について弁済期その他の相殺の要件を満たしているか。相殺の意思表示がされたか。契約上または法律上の相殺の制限がないか。倒産手続との関係で相殺が制限されないか。 |
| 支払時期がまだ来ていない | 支払は工事全体の完了後だと理解していた。 | 支払時期の定め。請求書の記載と、これまでの取引での運用。 |
| こちらの履行と引換えである | 納品や修補が終わるまで支払わない。 | 双務契約における履行の順序。こちらに未履行の義務が残っているか。履行または履行の提供をしたか。相手方が支払を拒むことのできる範囲。契約不適合があれば常に代金の全額を拒めるというわけではありません。 |
支払わない理由が明らかでない場合
請求書が届いているか、請求の内容について異議が述べられているか、具体的な支払の予定が示されているかを確認します。回答がないことだけで、請求を認めているとも、支払える状態にないとも判断できません。回答を待つか、次の手続に進むかは、時効の期限や相手方の財産の状況も踏まえて判断します。
システム開発・建築・建設の支払問題に関する解説
支払をめぐる争いのうち、次の類型については、その分野に固有の争点を扱った解説をご用意しています。当てはまる場合には、あわせてご覧ください。
- システム開発について、検収の可否や追加費用をめぐって支払が止まっている場合 ―― 「システム開発紛争への対応」
- 工事の不具合、追加工事、工期の遅れをめぐって代金が支払われない場合 ―― 「建築・建設紛争への対応」
2 支払期日・時効・遅延損害金を確認する
まず、契約や法令に基づく支払期日を確認します。あわせて、いつまで請求できるかという時効の期限と、遅延損害金の発生時期や率を確認します。督促を続けているうちに時間が経ち、請求できる期間を過ぎてしまうことは避けなければなりません。
法律に支払期日の規律がある取引
取引の種類と当事者の属性によっては、支払期日について法律上の規律が置かれています。中小受託取引適正化法(取適法。下請代金支払遅延等防止法を改めたもので、令和8年1月1日から施行されています。)が適用される取引では、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日等から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めることとされ、遅延利息についても特則があります。この60日は支払期日を定める際の上限であり、それより早い支払期日を定めた場合には、その期日までに支払う必要があります。フリーランス・事業者間取引適正化等法にも、支払期日に関する規律があります。同法では、所定の事項を明示した一定の再委託について、支払期日の特例が設けられています。いずれの法律にも、支払期日を定めていない場合や、法定の期間を超える期日を定めた場合に、支払期日が法律上定まる規律があります。契約上の定めや検収の完了だけで判断せず、取引の種類、当事者の属性、発注等の時期を確認します。取適法については、製造等の委託に当たるか、双方の資本金や常時使用する従業員数、個別の委託の時期を確認します。
いつまで請求できるか
債権は、権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します。原則として、二つの期間のうち、先に満了する期間が時効の基準となります。通常の取引で生じる売掛金や報酬については、支払期日を把握しているのが通常ですから、支払期日から5年という期間が目安になります。なお、時効期間が残っていても、相手方の資力や証拠の保存状況によって、回収の見込みは変わります。
かつては、商行為によって生じた債権について5年とする定めが商法に置かれ、債権の種類ごとに短い期間を定める規定も設けられていましたが、平成29年の民法改正に伴って整理されました。令和2年4月より前に締結された契約等に基づく債権には、改正前の規律が適用される場合があります。債権が発生した日だけでなく、原因となる契約等がいつ成立したか、債権の種類は何かを確認します。
時効の完成を猶予する・期間を更新する
時効への対応には、一定の時まで完成を猶予する方法と、それまでに経過した期間を更新し、新たに進行させる方法があります。よく用いられるのは次のものです。
- 催告 ―― 時効が完成する前に、支払を求める催告が相手方に到達すると、その時から6か月を経過するまでの間は、時効が完成しません。ただし、猶予されている間にもう一度催告をしても、重ねて猶予されるわけではありません。催告をした事実と、その到達を後から示せるようにしておく必要があります。
- 協議を行う旨の合意 ―― 権利について協議を行う旨を書面または電磁的記録で合意したときは、法令の定める期間、時効が完成しません。猶予の期限は、合意した協議の期間や、協議を続けない旨の通知の有無などによって変わります。交渉を続けながら期間の経過を避けたい場合に用いられますが、催告によって完成が猶予されている間に協議の合意をしても、重ねて猶予されることはありません。協議の合意によって猶予されている間の催告も同じです。
- 相手方による承認 ―― 時効が完成する前に、相手方が債務のあることを認めたときは、その時から期間が新たに進行します。一部の支払、支払猶予の申入れ、残高の確認書などが、これに当たることがあります。相手方とのやり取りの中で、意図せずこれに当たる書面が交わされていることもあります。時効が完成した後の支払や応答については、その後に時効を援用できるかという別の問題として、内容と経緯を確認します。
- 裁判上の請求など ―― 訴えの提起、支払督促の申立て、民事調停の申立て、相手方の倒産手続への参加といった手段をとると、その事由が終了するまでの間、時効は完成しません。確定判決やこれと同一の効力を有するものによって権利が確定した場合には、その手続が終了した時から、期間が新たに進行します。権利が確定しないまま取下げや却下によって終了した場合には、原則としてその終了の時から6か月の間、完成が猶予されるにとどまります。確定判決や裁判上の和解等によって確定した権利は、もとの時効期間が10年より短い場合でも、原則として10年になります。ただし、確定した時点でまだ支払期日が来ていない債権には、この特則は適用されません。
催告は、時間を作るための手段であって、それ自体で問題が解決するものではありません。催告による完成猶予に頼る場合には、6か月の間に方針を決めるだけでなく、訴えの提起など、時効の完成を防ぐための措置をとる必要があります。なお、期間が経過したとしても、相手方が時効を援用するまで債権が当然に消滅するわけではありません。
遅れた期間についての請求
相手方が支払の遅滞について責任を負う場合には、遅延損害金を請求することができます。いつから発生するかは、支払期日の定めがあるか、催告が到達しているか、こちらの履行状況や履行の提供の有無はどうかを確認して判断します。金銭債務の遅延損害金を請求する場合、損害が生じたことを証明する必要はなく、相手方も不可抗力を理由に遅延損害金の支払を免れることはできません。適用する率については、遅延損害金についての定めのほか、利息の約定や法令の特則の有無も確認します。法定利率による場合は、相手方が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率が基準となり、その後に法定利率が見直されても、その債務について適用される率がそのたびに変わるわけではありません。
3 どの手続で請求するかを検討する
請求のための手続にはいくつかの種類があり、それぞれ利用できる条件と進め方が異なります。相手方が争ってくる見込み、金額、残っている資料、相手方の資力を踏まえて選ぶことになります。実際の進行や回収の見込みは、事案によって変わります。
交渉と催告
交渉の段階で解決を検討できる場合もあります。弁護士名で書面を送ることには、請求の内容と根拠を整理して示すという意味と、催告として時効の完成を一定期間猶予させるという意味があります。他方で、書面を送れば相手方が支払うとは限らず、送った後に何をするかを決めていないと、かえって手詰まりになることがあります。
仮差押えの要否と、相手方への連絡との順序
相手方の資力に不安がある場合には、訴訟を起こす前に、その財産の処分によって将来の回収が困難になることに備えて、財産を仮に差し押さえることを検討します。仮差押えといい、裁判所の判断を得て行います。申立てには、請求権が存在することに加えて、将来の強制執行ができなくなり、または著しく困難になるおそれを示す事情が必要です。支払期日が来ていない債権も対象となりえますが、同様に保全の必要性などの要件を満たす必要があります。裁判所から担保の提供を求められることが多く、その額と提供の方法は、事案と裁判所の判断によります。
仮差押えは、金銭の支払を目的とする債権について将来の強制執行を保全するための手続であり、請求権の存在を最終的に確定するものではありません。また、これによって回収や、他の債権者に対する優先が確定するわけでもありません。仮差押えをした財産から強制執行によって回収するには、原則として判決、裁判上の和解、仮執行宣言付支払督促等の債務名義を別途取得する必要があります。そのため、申立てで被保全権利として示す請求権と、その後の訴訟等で請求する権利との関係を整理しておきます。
財産の処分等が懸念される場合には、相手方への連絡と保全手続の順序も検討します。申立てに当たっては、相手方からすでに示された反論や、請求と食い違う資料も含めて、請求の根拠を確認します。仮差押えが不当であった場合には、申立人の故意・過失などに応じて、相手方に生じた損害の賠償責任を負うことがあります。仮差押えには時効の完成を猶予する効果もありますが、それによって時効の期間が更新されるわけではありません。
手続の選び方
| 手続 | 向いている場面 | 相手方が争ってきたとき | こちらで準備するもの |
|---|---|---|---|
| 交渉 | 相手方が請求自体は争っておらず、支払時期や方法の調整で足りる場合。 | 交渉が続かなければ、他の手続を検討することになります。 | 契約と履行の記録、請求の内訳、これまでのやり取り。 |
| 民事調停 | 当事者間の協議だけではまとまらないものの、支払方法や金額その他の条件について柔軟な合意を検討する余地がある場合。 | 合意に至らなければ原則として終了します。一定の場合には裁判所が調停に代わる決定をすることがあり、所定の期間内に異議があれば効力を失います。成立した場合の調停調書は、強制執行の根拠になります。 | 交渉の場合と同様の資料に加え、こちらが受け入れられる条件の整理。 |
| 支払督促 | 相手方が請求を争わないことが見込まれ、書類上の手続で足りる場合。原則として相手方の普通裁判籍を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。日本国内で、公示送達によらずに送達できることが前提になります。 | 相手方の異議に理由がないと考える場合でも、適法な督促異議があれば、請求額に応じて簡易裁判所または地方裁判所に訴えが提起されたものとみなされます。 | 請求の内容を特定できる資料。相手方の住所の確認。 |
| 訴訟 | 請求の当否そのものが争われている場合。判決による解決が必要な場合。 | 争点について主張と証拠を出し合い、判決または和解に至ります。 | 契約、履行、請求のそれぞれを裏づける資料。相手方の主張への反論。 |
支払督促については、申立てをすれば強制執行ができる状態になるというものではありません。相手方が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てをしないときに、仮執行の宣言を申し立てることができ、これを申し立てることができる時から30日以内に申し立てなければ、支払督促は効力を失います。なお、この2週間を過ぎた後でも、仮執行の宣言が付されるまでの間に適法な督促異議があれば、訴えの提起があったものとみなされます。仮執行の宣言が付された後も、相手方は、その支払督促の送達を受けた日から2週間の不変期間内であれば督促異議を申し立てることができ、適法な異議があれば訴訟に移行します。
請求する金額が60万円以下の金銭の支払を求めるものである場合には、少額訴訟を利用できることがあります。ただし、利用できる回数にも制限があり、通常の訴訟の手続に移る場合もあります。
手続の選択に関わる仲裁・裁判管轄等の定め
契約書に、紛争を仲裁によって解決する旨の合意や、特定の裁判所を専属的な管轄とする定めが置かれていることがあります。これらがある場合には、手続を選ぶ前提が変わりますので、契約書の該当条項を確認します。海外の当事者との取引では、準拠法の定めもあわせて確認します。
4 財産からの回収と、倒産・社内の問題への対応
確定判決や裁判上の和解等によって支払義務が確定しても、相手方が任意に支払わなければ、それだけでは入金に至りません。なお、仮執行の宣言が付されている場合など、確定を待たずに強制執行ができることもあります。ここでは、相手方のどの財産から回収するかを整理します。倒産手続への移行や、社内に問題がある場合の対応については、判決や和解の前後を問わず確認します。
財産情報を得る裁判所の手続と、その要件
相手方の財産が分からない場合には、裁判所の手続によって、相手方自身に財産を陳述させる方法(財産開示手続)と、第三者から情報を得る方法があります。執行力のある債務名義の正本に基づいてこれらの手続を利用する場合には、その債務名義に基づく強制執行を開始できることが前提となります。そのうえで、所定の期間内に終了した強制執行等の配当等の手続で完全な弁済を得られなかったか、把握している財産に対して強制執行をしても完全な弁済を得られないことを疎明する必要があります。あらかじめ強制執行を行っておくことが、常に必要というわけではありません。これらに加えて、取得しようとする情報の種類などに応じた要件を確認します。
第三者から情報を得る方法には、登記所から不動産に関する情報を得るものや、金融機関等から預貯金・振替社債等に関する情報を得るものがあります。不動産に関する情報の取得については、原則として、先に行われた財産開示期日から3年以内であることが必要です。預貯金等の情報の取得には、この前置の要件はありません。預貯金等については、情報の提供を求める金融機関等を特定して申し立てます。情報を得た後、差押えは別に申し立てます。
市町村や年金機構等から勤務先に関する情報を得る手続もありますが、これを利用できる債権は、扶養義務等に係る請求権や、生命・身体の侵害による損害賠償請求権などに限られており、通常の売掛金の回収には利用できません。取得しようとする情報の種類と、債務名義の内容をあわせて確認します。
どの財産から回収するか
相手方が有する売掛金や預貯金を差し押さえる方法、動産を差し押さえる方法、不動産を差し押さえる方法があります。実務上は、相手方の取引先に対する売掛金や、金融機関の預貯金を差し押さえる例が多くみられます。差押えは相手方の事業にも影響するため、取引関係を続けるかどうかという判断とあわせて検討します。
なお、判決を得ても、相手方に見るべき財産がなければ回収には至りません。手続に要する負担と、回収できる見込みとを比べて判断することになります。
相手方が倒産手続に入った場合
相手方について破産手続または民事再生手続の開始決定がされると、開始前の取引等を原因とする一般の債権については、原則として個別に取立てを行うことができなくなり、手続の中で届出をして配当または弁済を受けることになります。担保権、取戻権、相殺のほか、破産手続における財団債権や民事再生手続における共益債権等については、それぞれ別の要件と取扱いが定められています。申立てがされた段階や、弁護士名の受任通知が届いた段階と、裁判所による開始の決定があった後とは区別して確認し、保全処分の有無もあわせて確認します。届出には期間が定められており、これを過ぎると不利益を受けることがあります。
相手方に対してこちらが債務を負っている場合には、相殺ができるかどうかが問題になります。倒産手続の中では相殺が制限される場面があり、双方の債権・債務が生じた時期や経緯によって扱いが変わります。民事再生では、相殺が認められる場合でも、原則として債権届出期間内に相殺をする必要がありますので、届出の期限とあわせて確認します。
背景に社内の問題がある場合
未収金の調査を進める中で、実在しない取引の計上、担当者の不正な関与、別の口座への不審な送金といった事情が疑われることがあります。この場合には、相手方への請求とは別に、社内の事実関係を確認します。進め方については、「社内調査・不正調査への対応」をご覧ください。
よくあるご質問
未払いがある間、納品や作業を止めてもよいですか。
未払いがあるというだけで、常に履行を止められるわけではありません。すでに受けた注文について履行を止められるか、新たな注文を受けるか、契約を解除できるかは、それぞれ別に検討します。未払いとなっている代金と、止めようとしている納品や作業が、引換えに履行すべき関係にあるかを確認します。基本契約等の履行を停止できる条項を根拠とする場合には、対象となる注文の範囲や、催告・通知などの条件も確認します。これまでの取引での運用もあわせて確認したうえで判断することになります。
契約書がありません。請求できますか。
契約書がないこと自体で請求ができなくなるわけではありません。見積書、注文書、メールやチャットのやり取り、議事録、納品や作業の記録から、契約の成立と内容を示せる場合があります。まず、どのような記録が残っているかを確認するところから始めます。
内容証明郵便を送れば支払ってもらえますか。
送れば支払われるというものではありません。内容証明郵便には、請求の内容と根拠を明確に伝えることと、どのような文書をいつ差し出したかを記録に残すことに意味があります。支払を求める通知が相手方に到達し、催告としての効力が認められる場合には、時効の完成が一定期間猶予されますので、その間に、時効の完成を防ぐために必要な措置をとるという使い方になります。差し出したことだけでは到達が確認できませんので、配達証明や配達の状況もあわせて確認します。送った後に何もしないままだと、猶予された期間も過ぎてしまいます。
相手方が「品質に問題がある」と言って支払いません。
その主張が支払を拒む理由になるかどうかは、契約でどこまでを約束していたか、指摘された点が実際にあるか、指摘がいつどのような形でされたか、修補の申出をしたかによって変わります。相手方の主張を早い段階で書面で確認しておくと、後から理由が変わった場合にも整理がしやすくなります。
取引先が倒産しそうだと聞きました。今からできることはありますか。
何ができるかは、相手方の状況と、こちらが持っている資料によって変わります。仮差押えを検討する場面もあれば、担保や保証の有無を確認する場面もあります。こちらが相手方に支払うべき金銭がある場合には、相殺の可否も検討します。弁護士名の受任通知が届いた段階、倒産手続の申立てがされた段階、開始決定がされた段階で、利用できる手段や制限が異なります。現在どの段階にあるかと、担保や相殺の有無を確認します。
判決を得れば、実際に回収できますか。
判決を得ても、相手方が任意に支払わなければ、差押え等の手続を別に検討することになります。請求が認められる見込みと、相手方の財産から実際に回収できる見込みとは、分けて確認する必要があります。相手方の財産の有無や、他の債権者との関係によって、実際の回収の見込みは変わりますので、手続に要する負担とあわせて判断していただく材料をお示しします。
本ページは、取引先からの支払が滞った場合の一般的な法律上の論点を整理したものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。法令その他の取扱いは変更されることがあり、結論は事案ごとの事実関係によって異なります。実際の対応にあたっては、その時点の法令等と、取引の内容を確認する必要があります。
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未収金・支払遅延に関するご相談
取引の内容、請求している金額と期日、相手方からの回答の有無、直近の期限を、分かる範囲でお知らせください。資料がすべてそろっていない段階でもご相談いただけます。
未収金・支払遅延について相談するご依頼の可否・支援範囲は、利益相反等を確認した上で個別にご案内します。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。
