Regulatory Compliance
内部通報制度・公益通報者保護への対応
内部通報への対応では、申告された事実の調査とともに、通報者の保護と対応体制の適切な運用が問題になります。2026年12月1日施行の改正法を踏まえ、現在の義務と施行後に適用される規定を区別して確認します。当事務所は、内部通報制度の整備・運用と、通報後の人事措置等をめぐる対応を支援します。
以下の「現行法」は2026年11月30日までの公益通報者保護法、「新法」は令和7年法律第62号による改正後の同法をいいます。「現行指針」「新指針」は、同法に基づく「事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」の各版を指します。
本記事には、2026年12月1日施行の改正公益通報者保護法に関する説明が含まれます。未施行の規定については、本文中にその旨と施行日を明記しています。
ご相談いただけること公益通報該当性の判断/窓口・従事者・対応体制の整備/通報受領後の情報管理/通報者の探索の禁止を踏まえた調査/通報後の人事措置の検討/改正法の施行日をまたぐ取扱いの整理
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第1章 内部通報と公益通報の保護範囲
社内に申告が寄せられたときは、申告の内容を把握するとともに、その申告が公益通報者保護法上の「公益通報」に当たるかどうかを確認します。もっとも、受付の段階では通報対象事実や保護の要件が明らかでないこともありますので、該当性が確定するまで必要な情報管理や対応を始めない、という運用は避けることになります。内部通報のすべてが公益通報に当たるわけではなく、該当するかどうかで、事業者が負う義務も、通報者に及ぶ保護も変わります。
公益通報とは、法定の通報者が、不正の目的でなく、通報対象事実が生じ又はまさに生じようとしている旨を、法定の通報先に伝えることをいいます。通報者の範囲、通報対象事実の範囲、通報先の種別が、いずれも法律で定められています。したがって、社内の相談窓口に寄せられた申告であっても、この要件を満たさないものは公益通報ではありません。もっとも、公益通報に当たらないからといって、事実関係を確認する必要がなくなるわけではありません。公益通報としての保護の有無と、事業者として調査すべきかどうかは、別の問題です。
改正法では、公益通報を行うことのできる者の範囲が広がります。特定受託業務従事者と、一定の要件を満たすその経験者が加えられます。2026年12月1日からの規定です。もっとも、これは法定の特定受託業務従事者と役務提供先との関係があることを前提とするものであり、外注先の関係者全員が一律にこれに当たるわけではありません。特定受託業務従事者には、所定の個人事業者のほか、一定の一人法人の代表者も含まれます。経験者については、通報の日の前一年以内の業務委託の関係等を確認することになります。自社の業務委託先について、契約の形式ではなく、法の定める関係に当たるかを確認します。
あわせて、2026年12月1日からは、保護の要件を満たす通報を理由として、業務委託契約を解除すること、取引の数量を減らすこと、取引を停止すること、報酬を減額することなども禁止されます。通報の主体は特定受託業務従事者、取引上の不利益な取扱いから保護される対象は特定受託事業者であり、両者は区別されます。労働者についての解雇・懲戒の無効、一年以内の推定、直接の刑事罰が、業務委託契約の解除等にそのまま及ぶわけではありません。
第2章 通報窓口・従事者・対応体制の整備
体制整備の義務は、改正法によって初めて生じるものではありません。確認すべきは、自社が義務の対象となる規模か、従事者の指定が本人に明らかな方法でされているか、経営幹部が関係する通報について独立性を確保する仕組みがあるか、の3点です。
常時使用する労働者の数が300人を超える事業者には、内部公益通報に適切に対応するための体制を整備する義務があります。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、読替えにより、この措置は努力義務となります。基準は「300人を超える」かどうかであり、「300人以上」ではありません。算定の対象は正社員に限られず、常態として使用するパート・アルバイト等も含まれ得ます。派遣労働者については、派遣先と派遣元の双方で算定の対象となります。この義務は改正法の施行前から存在するものであり、2026年12月1日を待って対応を始めればよいというものではありません。
内部公益通報受付窓口で受け付ける通報への対応業務を行い、通報者を特定させる事項を伝達される者については、従事者として、本人に明らかとなる方法によって指定する必要があります。2026年12月1日から適用される新指針では、従事者の地位に就くことに加えて、それに伴う守秘義務と、違反した場合に罰則の適用対象となり得ることも、本人に明らかにすることが明記されています。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、同様に努力義務となります。指定の対象は、通報対応業務に従事し、通報者を特定させる事項を伝達される者です。調査に関わる者全員を一律に指定するという運用が求められているわけではありません。誰を従事者とするか、どの範囲の情報に接するのかを整理したうえで、指定の記録を残しておくことになります。
内部公益通報受付窓口で受け付けた通報について、経営幹部が関係する事案では、受付だけでなく、調査・是正についても、その幹部からの独立性を確保する措置が必要です。2026年12月1日から適用される新指針では、窓口を経由しない内部公益通報や、行政機関等への公益通報などについても、通報対象事実の調査・是正等の対応が必要な場合には、同様の措置をとることが求められます。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については努力義務となります。なお、この対象の広がりは、従事者として定めるべき者の範囲にそのまま当てはまるものではありません。もっとも、これは外部窓口への委託を一律に義務付ける規定ではありません。社外取締役や監査役への報告経路を用いる方法など、自社の機関設計に応じた選択肢を検討することになります。
第3章 通報受領後の情報管理と対応上の禁止事項
通報を受けた後は、調査を進めることと、通報者を特定させる情報を守ることを同時に行う必要があります。改正法では、通報を妨げる行為と通報者を特定しようとする行為が、新たに明文で禁止されます。
従事者又は従事者であった者は、正当な理由がなく、対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはなりません。この義務への違反には、現行法でも30万円以下の罰金が定められており、新法でも維持されます。条文が対象としているのは「公益通報者を特定させるもの」であり、調査で得た情報のすべてに同じ罰則付きの義務が及ぶという趣旨ではありません。他方、従事者として指定されていない者であれば情報の共有に制限がない、というものでもありません。通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有しないこと、記録へのアクセスを制限すること、通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握することは、いずれも体制整備の中で求められる措置です。窓口の担当ではない上司等が通報を受けた場合にも、同じ問題が生じます。また、「従事者であった者」も対象に含まれるため、担当を外れた後や退職後も、この義務はなくなりません。
改正法では、事業者が正当な理由なく、公益通報をしない旨の合意を求めるなどして公益通報を妨げることが禁止されます。そして、これに違反してされた合意その他の法律行為は、無効とされます。2026年12月1日からの規定です。退職時の合意書や和解条項に、通報を制限する条項が含まれていないかを確認することになります。正当な理由があるかどうかは、個別の事情に即した判断となります。
改正法では、事業者が正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為を行うことが禁止されます。2026年12月1日からの規定です。禁じられているのは通報者の特定を目的とする行為であり、通報対象事実そのものの調査が禁じられるわけではありません。なお、通報者の探索の禁止と、解雇等の不利益取扱いから保護されるための要件は、同じではありません。外部への通報について保護の要件を満たすかどうかが問題となる場合でも、それだけで通報者の探索が許されるわけではありません。もっとも、実際の調査では、対象事実の確認と通報者の推知が近接することがあります。誰に、どの順序で、何を尋ねるかを事前に設計しておくことが、この規定との関係でも意味を持ちます。
第4章 通報後の人事措置と不利益取扱いをめぐる紛争
通報をした従業員について人事上の措置を検討する場合、その措置が通報を理由とするものと評価されないかを、措置の内容と時期の両面から確認します。改正法では、一定の期間内にされた措置について推定規定が置かれます。
現行法でも、労働者が法定の保護要件を満たす公益通報をしたことを理由とする解雇は、無効とされています。内部への通報、行政機関への通報、その他外部への通報とで、保護のための要件が異なります。どの通報先に対する通報であったかによって、検討の内容が変わります。
現行法では、法定の保護要件を満たす公益通報を理由として、使用し又は使用していた労働者に対し、降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱いをすることも禁止されています(新法では、解雇に関する規定と併せて一つの条にまとめられます)。派遣労働者及び役員については、別の規定が置かれています。なお、この禁止の範囲と、新法が定める刑事罰の対象範囲は一致しません。禁止されている不利益取扱いのすべてが、刑事罰の対象となるわけではありません。
改正法では、公益通報をした日から1年以内にされた解雇等特定不利益取扱いは、その公益通報をしたことを理由としてされたものと推定されます。2026年12月1日からの規定です。推定の対象は「解雇等特定不利益取扱い」であり、起算日は原則として通報の日、行政機関等その他の法定の外部通報先への通報を事業者が知って措置をした場合には、事業者がその公益通報を知った日です。これは解雇等特定不利益取扱いの無効を判断する際の推定であり、刑事責任について推定を定めるものではありません。実務上は、通報の時期と人事措置の時期が近接する場合に、措置の理由を示す資料が手元にあるかどうかが問題となります。
第4章の2 改正法の経過措置――施行日をまたぐ通報・人事措置
施行日をまたぐ事案では、通報がされた日と、人事措置がされた日を分けて確認する必要があります。附則は、規定ごとに適用の範囲を定めており、通報日だけで新法の適用を判断することはできません。
2026年12月1日の施行後は、附則に特別の定めがある場合を除き、罰則以外の新法の規定は、施行前にされた改正前の法律上の公益通報にも適用されます(改正法の附則)。もっとも、これは施行前のあらゆる社内申告が新法上の公益通報になるという意味ではありません。対象は旧法上の公益通報であり、附則に置かれた個別の経過措置が優先します。
不利益取扱いの禁止と無効に関する新法の規定は、2026年12月1日以後にされた解雇その他不利益な取扱いに適用され、施行前にされたものについては従前の例によります。したがって、施行前の通報についても、施行後にされた措置であれば新法の規律が及びます。
推定規定については、解雇と解雇以外とで扱いが分かれます。施行前にされた解雇についても、新法の推定規定の要件を満たす場合には、改正前の規定の適用に当たり、公益通報を理由とする解雇であるとの推定が働きます。附則は、新法の推定規定を改正前の規定について読み替えて適用するものであり、期間や起算点といった要件は残ります。
これに対し、解雇以外の不利益取扱いについて新法の推定規定が適用されるのは、2026年12月1日以後に懲戒としてされたものです。施行前にされた懲戒に同じ推定は及びません。また、懲戒以外の配置転換等に推定を一律に広げることもできません。
罰則については、2026年12月1日前にした行為に対する適用は、従前の例によります。施行前の行為に新設の罰則が遡って適用されることはありません。附則によりなお従前の例によることとされる場合も同様です。この点も、通報の日だけで判断することはできません。
公益通報をしない旨の合意等を無効とする新法の規定は、2026年12月1日以後にされた法律行為に適用され、施行前にされた法律行為には適用されません。ただし、施行前の合意が常に有効となるわけではなく、公序良俗の観点からの評価は別に残ります。通報妨害一般の禁止と、法律行為の無効とを分けて確認することになります。派遣労働者や、施行前の報告の要求・勧告については、附則に特則が置かれています。
第5章 行政措置と刑事責任
改正法では、行政による是正の仕組みと刑事罰が整備されます。ただし、義務の種類によって、勧告の先にあるものが命令なのか公表にとどまるのかが異なります。行政対応の手段と、違反したときに生じる法的なリスクが異なりますので、義務ごとに分けて確認することになります。
改正法に違反して、公益通報を理由とする解雇又は懲戒としての不利益取扱いを行った行為者には、6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が定められています。2026年12月1日からの規定です。対象となる「解雇等特定不利益取扱い」は、解雇と、解雇以外の不利益な取扱いのうち懲戒としてされたものです。ここでいう懲戒とは、事業者が就業規則に定めた制裁又は労働契約に定めた制裁をいいます。解雇には普通解雇も含まれ、懲戒解雇に限られません。他方、解雇以外については、懲戒として行われるものが対象です。懲戒として行われない配置転換等は、この刑事罰の対象とは区別されますが、公益通報を理由とする不利益取扱いの禁止が及ばないという意味ではありません。
法人の代表者や従業者等が、その法人の業務に関してこの罪に当たる行為をした場合には、行為者を罰するほか、その法人にも3,000万円以下の罰金が科され得ます。国及び地方公共団体には適用されません。もっとも、社内で違反が起きたというだけで法人の処罰が決まるわけではありません。
2026年12月1日からは、従事者の指定義務に違反していると認められる事業者に対し、是正の勧告が行われることがあります。勧告を受けた者が正当な理由なく必要な措置をとらなかった場合には、是正のために必要な措置をとるべきことを命ずることができ、命令をした場合には、その旨を公表することができます。常時使用する労働者の数が300人以下の事業者は、従事者の指定が努力義務であるため、指定義務違反を理由とする命令・公表の対象にはなりません。ただし、努力義務の履行について、助言・指導・勧告や報告の要求の対象となることはあります。
これに対し、体制整備義務に違反している事業者については、勧告を受け、正当な理由がなく当該勧告に係る措置をとらなかったときに、その旨が公表されることがあります。体制整備義務の違反について、命令の規定は置かれていません。従事者の指定義務違反に対する勧告・命令・公表と、体制整備義務違反に対する勧告・公表とは、別の仕組みとして整理しておく必要があります。
第6章 制度の見直し・運用と当事務所の支援
体制は、作ることよりも、使われる状態を保つことのほうが難しいものです。改正法は、周知を法律上の措置として明記しました。
改正法では、内部公益通報への対応体制について労働者等に周知することが、事業者のとるべき措置として法律に明記されます。2026年12月1日からの規定であり、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については努力義務となります。もっとも、施行前の指針にも教育・周知に関する措置が置かれているため、施行前は周知が不要であるということにはなりません。
内部公益通報対応体制については、定期的に評価・点検し、必要に応じて改善することが求められます。新指針は2026年12月1日から適用されます。指針は一律の点検の回数や間隔を定めていませんが、自社の規模、リスク及び運用の状況に応じて、定期的に評価・点検できる時期、方法及び担当を整理しておくことになります。いつ、誰が、何を確認したのかを記録として残しておくことが、次の見直しの出発点になります。
法定の保護の要件を満たす公益通報によって損害を受けたことを理由に、事業者が通報者に対して損害賠償を請求することも、制限されています。通報の行為によって生じた損害と、それとは別の行為によって生じた損害は、区別して検討することになります。また、公益通報者保護法による保護の要件を満たさない通報であっても、直ちに解雇や損害賠償の請求が許されるわけではなく、労働契約法や権利の濫用に関する一般的な考え方による検討が残ります。
当事務所は、事業者の立場から、内部通報体制の整備・見直し、通報受領後の対応及び通報者保護を踏まえた人事措置の法的検討を、ご依頼の範囲に応じて支援します。体制整備、窓口業務、内部調査等のうち、どの業務をお引き受けするかは、個別に定めます。
よくあるご質問
当社の従業員数は300人以下ですが、内部通報の体制や担当者を整備・指定する義務がありますか。
義務ではなく、努力義務となります。体制の整備も従事者の指定も、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者について義務とされ、300人以下の事業者については読替えにより努力義務となります。なお、300人以下の事業者でも、指定を受けた従事者や従事者であった者には、法律上の守秘義務が及びます。また、公益通報を理由とする不利益取扱いの禁止や、2026年12月1日からの通報妨害・通報者探索の禁止が、事業者の規模だけを理由に適用されなくなるわけではありません。
経営幹部を対象とする通報が来ました。本人の指揮下にある部署に対応を任せてよいでしょうか。
経営幹部に関係する内部公益通報への対応では、関係する幹部からの独立性を確保する措置が必要です。外部への委託が一律に義務付けられているわけではありませんので、社外役員や監査役への報告経路を用いる方法を含め、自社の機関設計に応じて、どの経路であれば独立性を確保できるかを確認します。
改正法の施行後は、匿名の通報者が誰かを社内で調べてもよいのでしょうか。
正当な理由なく、公益通報者を特定することを目的として調べることはできません。改正法では、正当な理由がなく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為が禁止されます(2026年12月1日から)。「正当な理由」が認められる場面は限定的であり、調査という名目だけで通報者の探索が許されるわけではありません。通報対象事実そのものの調査が禁じられるわけではありませんが、誰に何を尋ねるかによっては、通報者の特定を目的とする行為と評価される場面があります。調査の対象者と質問の順序を、あらかじめ設計しておくことになります。
通報した従業員の懲戒を検討しています。改正法の施行後は、刑事罰の対象になりますか。
通報の後に懲戒をしたというだけで、刑事罰の対象になるわけではありません。2026年12月1日以後、法定の保護要件を満たす公益通報を理由として、解雇又は懲戒としての不利益取扱いをした場合には、行為者に6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科され得ます。法人についても、所定の要件を満たす場合には3,000万円以下の罰金の対象となります。これとは別に、解雇等特定不利益取扱いの無効を判断する際には、公益通報をした日から1年以内にされた措置について、通報を理由とするものとの推定が働きます。この推定は刑事責任には適用されません。通報とは別の事由による措置であるかどうか、その事由を示す資料が残っているかを確認します。
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お問い合わせフォームへ本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。
