Regulatory Compliance
取適法(旧下請法)・価格交渉・代金トラブルへの対応
価格改定や代金の減額・支払をめぐる問題では、まず取適法の適用範囲と取引の経過を確認します。価格協議を行ったかどうかに加え、代金の決め方や支払条件など、問題となる行為ごとの要件を検討します。当事務所は、取引資料の確認、価格協議、当局対応と社内手続の見直しを支援します。
取適法の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号)です。以下は、2026年1月1日以後にされた委託を対象とします。それ以前の委託については、改正法(令和7年法律第41号)附則の経過措置を別途確認します。「委託事業者」「中小受託事業者」は法定の定義を満たす者を指します。
ご相談いただけること適用対象となる取引・事業者の判定/発注条件の明示と支払期日の確認/価格協議の進め方と記録/減額・返品・やり直しの検討/調査・勧告を受けた場合の対応/記録管理と再発防止
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第1章 異議・請求を受けたときの確認
まず、取引先が問題としている行為が、代金の決定に関するものか、既に定めた代金の減額か、受領の拒否か、返品か、やり直しの指示か、それとも費用の負担の要求かを整理します。
取引先が用いた呼び方だけで分類することは適切ではありません。たとえば「不良品の引取り」と説明されている取扱いが、法令上は返品として評価されることがありますし、「協力金」「調整金」という名目の支払が、実質的には代金の減額として扱われることもあります。また、一つの取扱いが複数の禁止の類型に関係することもあります。
適用される法令を判断する際には、基本契約を締結した日だけでなく、個別の委託がいつ行われたか、内容が変更されたか、給付をいつ受領したか、支払をいつ行ったかという時点を確認します。支払日が施行日より後であるという理由だけで新しい規定が適用されるとは限りません。経過措置は施行日前にされた委託について定められていますので、基本契約をいつ締結したかではなく、個別の委託がいつ行われたかを基準に照合することになります。
契約書と発注書、仕様及び検査の記録、価格協議に関する交信、請求書、支払の記録を照合し、合意した内容と実際の処理を確認します。法令上の記録の作成・保存義務と、紛争に対応するために必要な証拠の範囲とは、同じではありません。価格協議の経過に関する記録は、法令上の保存義務の対象でなくても、後の説明の可否を左右します。
第2章 取適法が適用される取引と事業者
取適法が問題になるかどうかは、取引の類型と、当事者の規模の組合せで決まります。自社の取引が対象かどうかを、この2つの軸で確認します。
取適法の適用対象は、製造委託等の取引類型と、委託側・受託側の資本金又は従業員数等の法定要件によって定まります。企業間取引や外注取引のすべてが対象となるわけではありません。取引類型ごとの要件、委託事業者・中小受託事業者の規模要件、支配関係のある子会社等への再委託に関するみなし規定を、それぞれ確認します。
資本金の組合せによる適用要件を満たさない場合でも、従業員数の組合せによる要件を満たすときは、取適法が適用されます。製造委託等については従業員300人以下、情報成果物作成委託・役務提供委託については100人以下が掲げられています。従業員数だけで判断するのではなく、該当する委託類型との組合せで確認します。
業として販売する物品を販売先又はその指定する者に運送するため、他の事業者に運送を委託することは、特定運送委託に含まれます。これは特定運送委託の一類型を示すものであり、運送の委託がすべてこれに当たるわけではありません。事業者の規模要件も別途必要です。
第3章 発注条件の明示と代金の支払
発注の段階で明示すべき事項と、支払期日の定め方には、それぞれ条文上の枠があります。支払が遅れた場合の遅延利息も、法律と公正取引委員会規則に分かれて定められています。
委託事業者は、製造委託等をした場合、直ちに、給付の内容、代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。内容を定められない正当な理由がある事項については例外がありますが、確定した後は直ちに追加して明示する必要があります。明示すべき具体的な事項と方法は、公正取引委員会規則によります。
支払期日は、検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日の期間内で、かつ、できる限り短い期間内に定めなければなりません。役務提供委託及び特定運送委託では、役務の提供を受けた日が基準となります。検収が完了した日から一律に起算するという理解は、条文と一致しません。支払期日を定めなかった場合等については、みなし規定が置かれています。
委託事業者が製造委託等代金を支払期日の経過後もなお支払わないことは禁止されており、この禁止には、当該代金の支払について手形を交付することも含まれます。満期が支払期日以内であれば手形が許されるという例外は、条文に定められていません。金銭及び手形以外の支払手段については、同号括弧書きが、支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難であるものという別の要件を定めています。
委託事業者が支払期日までに代金を支払わなかった場合には、給付を受領した日から起算して60日を経過した日から支払をする日までの日数に応じ、未払金額に公正取引委員会規則で定める率を乗じた遅延利息を支払わなければなりません。その率は年14.6%です(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」(令和7年公正取引委員会規則第9号))。年率は法律本体ではなく規則が定めています。また、起算日は常に約定の支払期日の翌日になるわけではありません。減額分の遅延利息については、別の規定があります。
第4章 価格協議と一方的な代金決定
価格をめぐる問題は、協議の場面と、決まった代金の水準の場面とに分かれます。この2つは別の条項で規律されており、協議を行ったという事実だけで、両方の問題が解消するわけではありません。
給付に関する費用の変動その他の事情が生じ、中小受託事業者が代金額の協議を求めたにもかかわらず、協議に応じず、又はその協議で求められた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に代金額を決定して中小受託事業者の利益を不当に害することは、禁止されています。この規定は、費用変動等、協議の求め、協議・説明等の状況、一方的な決定、利益の不当な侵害を一体として定めています。協議の拒否や説明不足を、それぞれ独立した禁止行為として並べることはできません。
これとは別に、同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い代金の額を不当に定めることが禁止されています。いわゆる買いたたきの規定です。協議を実施したという事実だけで、この規定との関係が解消するわけではありません。決まった金額の水準そのものが問題となります。
価格改定の申入れについては、協議の申入れの内容、求められた説明事項、自社の回答と決定に至る経過を記録します。協議の経過のすべてについて一律の法定記録義務があるわけではありませんが、上記の要件がいずれも経過に関わるものであるため、記録が残っているかどうかが後の検討を左右します。法律が定める取引記録の作成・保存義務とは、目的も対象も異なります。
第5章 減額・返品・変更・やり直しをめぐる問題
いずれの類型にも、「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに」という要件が置かれています。理由があるかどうかと、その理由に見合う内容かどうかを、分けて確認します。
中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、委託事業者が製造委託等代金の額を減ずることは禁止されています。給付に不具合があったことを理由とする場合も、責任の所在と減額の内容を確認します。理由があればどのような減額も可能となるわけではありません。
中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、受領した給付に係る物を引き取らせることも禁止されています。役務提供委託及び特定運送委託をした場合は、受領及び引取りに関するこれらの禁止は適用されません。
中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、給付の内容を変更させ、又は受領後にやり直させることによって、その利益を不当に害してはなりません。この類型には「利益を不当に害する」という要件が含まれています。役務提供委託及び特定運送委託では、役務の提供を受けた後にやり直させる場合が含まれます。
第6章 規制違反と私法上の請求の関係
取適法に違反するという評価と、契約条項の私法上の効力や、代金・返還の請求が認められるかという問題とは、区別して検討する必要があります。「違反しているのだから当然に無効であり、支払った分は全額返還される」という整理も、逆に「行政上の規制であるから民事上の判断には影響しない」という整理も、いずれも正確ではありません。行政上の評価が民事上の判断に影響する場面はありますが、その関係は個別に検討することになります。
損害賠償や相殺によって未払の代金を処理する場合も、取適法上の減額の禁止との関係を確認する必要があります。民事上の相殺の主張であるから取適法上の問題は生じない、という整理にはなりません。
解決の合意を行う場合には、既に発注した分についての支払や返還と、将来の取引条件とを分け、対象となる金額、履行の期限、清算の範囲を明確にします。和解書に署名することによって過去の違反がなくなるわけではなく、当事者間の合意によって当局の判断を拘束することもできません。
第7章 公正取引委員会等の調査と勧告
調査は発注側だけを対象とするものではありません。また、違反行為をやめたことによって、当然に勧告の対象から外れるわけでもありません。
公正取引委員会は、取引を公正にするため必要があると認めるときは、委託事業者若しくは中小受託事業者に報告をさせ、又はその職員に事務所等へ立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができます。中小企業庁長官及び事業所管大臣の権限は、別に定められています。
公正取引委員会は、委託事業者の遵守事項に違反する行為があると認めるときは、代金や減じた額の支払など必要な措置をとるべきことを勧告するものとされています。措置の内容は違反の類型によって異なります。なお、勧告は、当然に裁判所による支払命令や強制執行が可能となる判断ではありません。
違反行為が既になくなっている場合でも、特に必要があると認められるときは、勧告がされることがあります。是正済みであることによって、当然に対象から外れるわけではありません。
第8章 是正・記録管理・再発防止と当事務所の支援
是正の場面では、支払うべき金額に遅延利息が加わるかどうかと、法定の記録が整っているかどうかが問題になります。
中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに代金の額を減じたときは、減じた額についても、法定の期間に応じた遅延利息の支払が必要となります。支払遅延の場合とは起算点が異なります。減額分は遅延利息の対象外である、という整理はできません。
委託事業者は、給付、給付の受領、代金の支払その他の事項について、法令所定の書類又は電磁的記録を作成し、保存しなければなりません。具体的な記載事項、保存の方法及び保存期間は、公正取引委員会規則によります。
中小受託事業者が違反の事実を公正取引委員会、中小企業庁長官又は事業所管大臣に知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすることは禁止されています。これは同号所定の違反事実と申告先を対象とする規定であり、公益通報者保護法による保護とは別の仕組みです。
当事務所は、案件ごとに委託事業者又は中小受託事業者の立場で、取適法の適用関係の確認、価格協議・代金をめぐる対応、当局対応と社内手続の見直しを、ご依頼の範囲に応じて支援します。
よくあるご質問
当社は資本金が小さい会社ですが、従業員数によって取適法の対象になることがありますか。
あります。資本金の組合せによる要件を満たさない場合でも、従業員数の組合せによる要件を満たすときは、取適法が適用されます。製造委託等では従業員300人以下、情報成果物作成委託・役務提供委託では100人以下が、中小受託事業者側の基準となります。従業員数だけではなく、該当する委託類型との組合せを確認します。
委託先からコスト上昇を理由に価格協議を求められました。どのように対応する必要がありますか。
協議に応じ、求められた事項について必要な説明又は情報の提供を行う必要があります。費用の変動その他の事情が生じ、中小受託事業者が代金額の協議を求めたにもかかわらず、協議に応じず、又は必要な説明・情報の提供をせず、一方的に代金額を決定して相手方の利益を不当に害することは禁止されています。なお、協議に応じたことは、要求された値上げ額を受け入れる義務を意味しません。他方、協議を行ったという事実によって、著しく低い代金の額を不当に定めることの禁止との関係が解消するわけでもありません。協議の申入れの内容、説明した事項、決定に至る経過を記録します。
委託先への支払に、支払期日までに満期が来る手形を使ってもよいでしょうか。
取適法が適用される取引の代金の支払には、使えません。支払期日を経過して代金を支払わないことは禁止されており、この禁止には、代金の支払について手形を交付することも含まれます。満期が支払期日までに到来する手形であれば許されるという例外は、条文に定められていません。
代金の支払期日を過ぎてしまいました。遅延利息は、いつから、どの利率で支払う必要がありますか。
給付を受領した日から起算して60日を経過した日から、支払をする日までの日数に応じて、年14.6%を乗じた額を支払う必要があります。約定の支払期日の翌日から起算するのではない点に注意が必要です。なお、減額をした場合の遅延利息は、別の規定によります。
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お問い合わせフォームへ本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は最終更新日時点の法令等に基づいています。
