Labor & Employment
業務委託先から「実態は従業員だ」と主張されたとき
業務委託の契約で継続的に仕事を依頼していた相手から、実際には従業員として働いていたとして、残業代の支払を求められた。契約を更新しないと伝えたところ、解雇に当たるとして争われた。作業中の負傷について、労災の手続を求められた。その相手が加入した労働組合から、団体交渉を申し入れられた。労働者性が問題となる場面は、こうした形で表れます。
この問題が扱いにくいのは、労働者に当たるかどうかが、契約書の表題や当事者の認識ではなく、実際の働き方によって判断されるとされているためです。
さらに、労働者という言葉は法律ごとに定義が置かれており、必ずしも同じ範囲を指すわけではありません。本ページでは、請求の内容を整理する段階から、実際の働き方をどう確認するか、法律ごとに何が変わるかまで、順に整理します。
まず確認すること
以下は、ご相談の際に分かる範囲で共有いただきたい事項です。労働者に当たるかどうかの判断がついていない段階でも、ご相談いただけます。
- 請求書・通知の内容と、回答を求められている期限――届いた書面、添付されている計算書、代理人からの連絡の記録を保全し、請求している人、対象となる期間、金額、求められている対応、回答の期限を確認します。
- 契約書と、発注に関する記録――業務委託契約書、仕様書、発注書、注文請書、見積書、更新の記録、報酬の改定に関する記録を確保します。契約書が作成されていない場合も、実際のやり取りの記録を確認します。
- 業務の指示と、時間・場所の指定に関する記録――業務の内容や進め方についてどのような指示をしていたか、作業の日時や場所を指定していたか、日報や報告を求めていたか、本人以外の者に作業させることを認めていたかが分かる記録を確認します。
- 報酬の決まり方と、費用の負担――報酬が時間、日数、出来高、成果のいずれを基礎として決まっていたか、機材、材料、交通費その他の費用を誰が負担していたか、業務の結果によって報酬が増減する仕組みがあったかを確認します。
- 他の業務への従事の状況――同じ時期に他の取引先の業務も行っていたか、それが可能な状態だったか、実際にどの程度の割合を占めていたかを確認します。
- その他の手続への対応――団体交渉の申入れ、労災保険の給付に関する請求、社会保険や雇用保険の適用に関する照会、労働基準監督署からの連絡があるかを確認し、それぞれの対応を検討します。
契約の内容と実際の働き方を照らし合わせたうえで、請求への回答と、今後の取引の進め方を検討します。
ご相談いただけること主張の内容と対象となる期間の確認/契約の定めと実際の就業の実態の整理/適用される法令の切り分け/認められた場合に生じる負担の整理/回答書の作成と交渉/行政手続・労働審判・訴訟への対応
お問い合わせフォームへ1 何が請求されているのかを整理する
相手方の請求が、未払賃金の請求なのか、契約の打切りに対する異議なのか、労災の手続なのか、団体交渉の申入れなのかなどによって、適用される法律も、確認すべき事実関係も異なります。最初に行うのは、請求の内容を正しく把握することです。
請求されている期間と金額、労働者だとする理由の確認
請求の対象となっている期間、金額、その計算の根拠を確認します。あわせて、相手方が労働者に当たると主張する理由として、どのような事実を挙げているのかを整理します。
なお、業務の指示に関するやり取りは、電子メール、チャット、作業管理のシステムなど、一定期間で自動的に削除される設定になっている可能性がありますので、即時に保全しておく必要があります。
2 実際の働き方から、労働者性を検討する
労働基準法は、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者を労働者と定義しています。この「使用される者」で「賃金を支払われる者」に当たるかどうかは、実務上、指揮監督の下で労働しているといえるか、報酬がその労働の対価といえるかという観点、すなわち使用従属性を中心として検討されています。この「使用従属性」が認められるかどうかは、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、契約の内容、労務提供の形態、報酬その他の要素から、個別の事案ごとに総合的に判断されます。
仕事を断る自由と、業務の進め方への指示
個別の仕事の依頼について、相手方がこれを受けるか断ることができたかどうかは、重要な事情とされています。
また、業務の進め方について、どの程度の指示をしていたかも確認します。成果物の仕様や納期を示すことは、業務委託でも通常行われることです。これに対し、作業の手順、使用する方法、日々の進め方について具体的な指示をしていた場合や、日報その他の報告を定期的に求めていた場合などには、指揮監督の下にあったと評価される方向に働きます。
時間・場所の拘束と、代わりの者による履行
作業の日時や場所が指定されていたか、始業と終業の時刻が定められていたか、勤怠の記録をとっていたかを確認します。
本人以外の者に作業させることが認められていたかどうかも、事情の一つとされています。相手方が自らの判断で補助者を使ったり、代わりの者に行わせたりすることができた場合には、指揮監督の下にあったとは評価されにくくなります。
報酬の性質と、事業者としての性格
報酬が、作業に従事した時間や日数を基礎として決まっていたか、成果や出来高を基礎として決まっていたかを確認します。時間を基礎として計算されている場合や、欠勤に応じて減額される仕組みがある場合には、報酬が労働の対価としての性格を持つと評価される方向に働きます。
また、事業者としての性格を示す事情も確認します。作業に用いる機材、材料、車両などを誰が用意していたか、費用を誰が負担していたか、業務の結果によって損益が生じる仕組みがあったか、報酬の額が会社の従業員と比べてどのような水準にあったかといった事情です。会社の業務にどの程度専属していたか、他の取引先の業務を行うことが実際に可能であったかも確認します。これらは、使用従属性の判断を補強する事情として位置づけられています。
3 法律ごとに、何が変わるかを確認する
労働者という言葉は、法律ごとに定義が置かれているため、求められている対応ごとに、どの法律の問題かを確認する必要があります。
賃金・残業代の請求
労働基準法が適用される労働者について、法定の労働時間を超えて労働させた場合や法定休日に労働させた場合には、法令の定めるところにより割増賃金を支払う必要があります。深夜の時間帯に労働させた場合も同様です。
残業代請求については、雇用契約の従業員から請求を受けた場合と共通します。これらについては、従業員・退職者から残業代を請求されたときをご覧ください。
契約の打切りに対する異議
労働契約法は、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者を労働者と定義しています。この定義に当たる場合、契約の打切りは、期間の定めのない契約であれば解雇として、期間の定めのある契約であれば期間途中の解除または更新の拒絶として、それぞれ検討されることになります。
期間の定めのある契約について期間の途中で解除する場合には、やむを得ない事由が必要とされています。また、更新を拒絶する場合についても、一定の要件の下で、その拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、従前と同一の労働条件で契約が更新されたものとみなされる旨が定められています。契約の打切りをめぐる問題については、解雇・退職勧奨を争われたときをご覧ください。
労災保険・社会保険・雇用保険
労災保険の適用については、労働基準法上の労働者の概念を基礎とするものと理解されています。もっとも、給付を受けられるかどうかは、労働者に当たるかどうかとは別に、業務上の災害または通勤による災害に当たるかなど、請求する給付ごとに要件を確認する必要があります。
また、労災保険には、一定の中小事業主や、いわゆる一人親方その他の自営業者等について、法律の定める要件と手続により加入することができる特別加入の制度が設けられており、相手方が特別加入をしていたかどうかも確認します。
健康保険、厚生年金保険及び雇用保険については、それぞれの法律が、適用される事業または事業所の要件、被保険者となる者の要件、適用から除外される者を定めていますので、制度ごとに確認することになります。過去に遡って適用される場合の保険料の取扱いも、あわせて確認します。
団体交渉の申入れ
労働組合法は、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者を労働者と定義しています。労働基準法の定義とは文言が異なっており、労働基準法上の労働者に当たらない場合であっても、労働組合法上は労働者に当たるとされることがあります。
したがって、業務委託の相手方について団体交渉が申し入れられた場合に、労働基準法上の労働者に当たらないことを理由として交渉を拒むことは、適切ではありません。団体交渉への対応については、社外の労働組合から団体交渉を申し入れられたときをご覧ください。
4 今後の取引の進め方を検討する
労働基準法上の労働者に当たる場合
当該労務提供の実態を踏まえて、労働基準法上の労働者に当たる場合には、労働基準関係の法令が適用されることになります。この場合、いわゆるフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は適用されないものとして整理されています。
過去に遡って労働者として扱うことになる場合には、未払賃金のほか、社会保険・雇用保険の適用、労働安全衛生に関する措置など、確認すべき事項が複数生じ得ます。同じ形態で契約をしている相手方が他にいる場合には、その範囲も確認します。
労働基準法上の労働者に当たらない場合
労働基準法上の労働者に当たらないと考えられる場合でも、フリーランス法が当然に適用されるわけではなく、同法は、特定受託事業者、業務委託その他の用語について定義規定を置いていますので、その定義に当たるかどうかを確認する必要があります。これらに該当する場合には、取引条件の明示、報酬の支払期日、募集に関する表示、就業環境の整備などについて、同法の定める対応が求められます。
契約書を作り直すだけでは、問題は解消しません
労働者であると主張されたことをきっかけに、契約書の文言を業務委託の形式に整え直すことがあります。もっとも、労働者性は実際の働き方に即して判断されていますので、契約書の文言のみを整えても、実際の働き方が変わらなければ、それだけで問題が解消するわけではありません。
見直しを行う場合には、契約書の文言と同時に、業務の依頼の仕方、指示の範囲、日時や場所の指定、報告の求め方、報酬の決め方、費用の負担などといった運用を、あわせて検討することになります。反対に、業務の性質上、指揮監督を伴う運用を維持する必要があるのであれば、雇用契約に切り替えることを検討する場面もあります。いずれの方向をとるにせよ、現に進行している取引先への対応と、今後の取引関係の設計とを、それぞれ検討する必要があります。
よくあるご質問
業務委託契約書を取り交わしていても、労働者と判断されることがありますか。
あります。労働基準法は、職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者を労働者と定義しており、これに当たるかどうかは、契約の形式ではなく、実際の働き方に即して判断されるものとされています。契約書の表題や、指揮命令関係がない旨の記載は、判断の一つの事情にはなりますが、それだけで結論が決まるものではありません。
勤務する時間や場所が自由であれば、労働者には当たりませんか。
時間や場所の拘束がないことは、指揮監督の下にあったとは評価されにくい方向に働く事情ですが、それだけで結論が決まるわけではありません。個別の仕事の依頼を断ることができたか、業務の進め方についてどの程度の指示をしていたか、本人以外の者に行わせることが認められていたか、報酬が何を基礎として決まっていたかなどといった事情をも考慮した上で、全体として評価されることになります。
相手方が請求書を発行し、事業所得として申告していた場合はどうなりますか。
請求書の発行、源泉徴収の有無、税務上の申告の取扱いは、当事者がその関係をどのように理解していたかを示す事情にはなりますが、労働者性の判断を直ちに決めるものではありません。実際の働き方に関する事実を確認した上で検討することになります。
契約が終了した後に労働者であったと主張された場合も、確認が必要ですか。
必要です。契約が終了していても、在職していたとされる期間についての賃金の請求や、契約の打切りが解雇に当たるという主張がされるケースがあります。
労働基準法上の労働者でなければ、団体交渉を断ることができますか。
できるとは限りません。労働組合法は、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者を労働者と定義しており、労働基準法の定義とは文言が異なります。労働基準法上の労働者に当たらない場合でも、労働組合法上は労働者に当たるとされることがありますので、その点を理由として交渉を拒むことは適切ではありません。申入れの内容を確認したうえで、対応を検討することになります。
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早期のご相談が、対応の選択肢を確保するために重要です。
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