Banking & Finance
融資契約紛争――融資停止・一括返済請求・条件変更への対応
融資の実行を断られた、一括返済を求められた、条件変更の協議が進まない――こうした連絡は、多くの場合、支払予定が既に組まれた後に届きます。最初に必要なのは、通知が求めているものを正確に切り分けることです。新たな貸付けの拒絶、融資枠の利用停止、既存借入れの期限の利益の喪失と一括返済請求は、根拠も、反論の組立ても、残された時間も異なります。資金繰りに直結するため、回答の期限と、手元資金が尽きる時期の両方から逆算して進めることになります。
本稿では、借手企業の立場から、融資停止・返済請求の根拠、条件変更の協議、話合いが調わない場合の対応を整理します。金融機関からの事業融資を典型として扱い、ファクタリング等の債権買取取引は本稿の対象に含めません。他の借入れや担保・保証への波及も踏まえ、事業継続に向けた判断を検討します。
まず確認すること
- 通知の内容と対応期限――融資停止・実行拒絶・一括返済請求のどれが示されているか、対象となる借入れ、金額、理由、回答・支払の期限を確認します。口頭で伝えられた内容も、日時と担当者とともに記録します。
- 融資契約と変更合意――契約書、取引約定書、貸付枠に関する合意、変更契約をそろえ、融資の実行・更新・返済条件について何が約束されているかを確認します。
- 指摘された違反と契約上の効果――決算数値が契約で定めた水準を満たさないなど、財務制限条項や報告義務等への抵触について、判断の基礎となる数値・事実と、通知・催告・是正に関する定めを確認します。
- 資金繰りと他の借入れへの影響――手元資金、入出金予定、返済期日を整理し、融資停止や返済請求が他の借入れ、担保・保証、事業継続に及ぼす影響を確認します。
- 協議の経過と提示された条件――金融機関との説明・回答の記録をそろえ、返済猶予、金利変更、追加担保・保証等の提案内容、既に合意した事項と回答期限を確認します。
ご相談いただけること受領した通知の内容と期限の確認/契約書と担保・保証の定めの整理/指摘されている事由の検討/資金繰りと支払の見通しの整理/回答書の作成と交渉/条件変更の申入れ/裁判手続への対応
お問い合わせフォームへ目次
1 融資停止・返済請求の内容を確認する
通知の内容と対応期限を確認する
通知を受けたら、対象となる借入れ、金額、実行予定日・返済期日、回答期限を抜き出します。新たな貸付けの拒絶、融資枠の利用停止、既存借入れの一括返済請求を分け、条件変更の申入れに対する回答も整理します。
この切り分けが必要なのは、それぞれで争う対象が違うからです。実行を拒絶された場合に問題となるのは、融資を実行する義務が既に生じていたかどうかです。融資枠の利用を止められた場合に問題となるのは、枠の利用条件と、その充足の判断です。一括返済を求められた場合に問題となるのは、期限の利益を失わせる事由が生じたか、そのために必要な手続が履践されたかです。これらを一つの「融資を打ち切られた」という理解でまとめてしまうと、反論の材料も、確保すべき資料も見えなくなります。
通知が書面で届いていない場合もあります。面談や電話で伝えられた内容についても、いつ、誰が、何を述べたかを記録します。後の協議では、この記録が説明の経過を示す資料になります。
社内の窓口も、早い段階で決めておきます。資金繰りに関わる連絡は、経理、営業、経営の各部門に分散して届きます。誰が金融機関と話し、誰が記録を残すかが定まっていないと、各部門が別々の説明をすることになり、その食い違いが後の協議で問題とされます。
契約書・取引約定書・変更合意を照合する
本稿では金融機関からの事業融資を典型として、貸手の属性、融資契約、取引約定書、変更合意を照合します。ファクタリング等の債権買取取引は本稿の対象とせず、別稿では買取企業側の紛争対応を扱います。
集めるべきものは、個別の金銭消費貸借契約書だけではありません。取引約定書、当座貸越や貸付枠に関する合意、保証契約、担保設定契約、これらの変更契約、条件変更にあたって差し入れた書面、提出した事業計画や試算表が対象になります。契約書が複数の時期にわたって作り替えられている場合は、どの合意が現在も効力を持っているかを確認します。
返済の遅延や財務制限条項への抵触が指摘されている場合は、計算の基準日と資料、通知・是正に関する契約条件を確認します。貸手の説明に変更があるときは、その日時と担当者、提出した資料や回答の記録も確認します。そのうえで、通知が示す契約上の根拠と、企業側から説明・是正できる事項を検討します。
資金繰りと他の借入れへの影響を把握する
並行して、給与・仕入代金等の支払予定と手元資金を整理し、回答までに協議すべき事項、追加資料、他の借入れへの影響を確認します。
確認の順序としては、まず、いつまで支払が続けられるかという時点を出します。その時点が回答期限より前に来る場合、協議の進め方そのものを変える必要があります。次に、今回の通知が他の借入れに波及するかどうかを、各契約の定めに照らして確認します。ある借入れについて期限の利益を失ったことが、他の借入れについても期限の利益の喪失事由とされている例があります。この場合、一つの通知が複数の金融機関との関係に同時に影響します。
担保と保証についても、同様に確認します。担保物件が他の借入れの担保にもなっているか、経営者個人が保証をしているか、保証履行が求められる条件は何かを整理します。なお、事業承継やM&Aに伴う経営者保証の解除、保証を履行した後の求償・補償については、「M&A・事業承継における経営者保証の解除と紛争対応」で整理しています。
2 融資停止・実行拒絶の根拠を検討する
契約の成立と融資実行の約束を確認する
融資を実行しないと言われた場合に最初に確認するのは、融資を実行する義務が既に生じていたかどうかです。
民法は、消費貸借について、当事者の一方が種類・品質・数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって効力を生ずる旨を定めています。これに対し、書面でする消費貸借については、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類・品質・数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって効力を生ずる旨が、別に定められています。つまり、書面による合意があれば、実際にお金を受け取る前の段階でも契約が成立し得ます。電磁的記録によってされた場合も、書面によってされたものとみなされます。
したがって、確認すべきなのは、金融機関との間でどこまでの書面が取り交わされていたかです。稟議が通ったという連絡、条件を記載した書面、契約書の調印、実行日の指定といった経過を、日付とともに並べます。社内向けの説明や口頭の見込みと、書面による合意とは、区別して整理します。もっとも、口頭の説明も、交渉の経過や説明の内容を示す資料になりますので、記録が残っているものは併せて確保します。
なお、書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができるとされています。ただし、その解除によって貸主に損害が生じた場合には、損害賠償を求められることがありますので、契約上の定めと併せて確認します。また、借主が金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失うとされています。これらは借手の側にも関係する定めであり、契約の成立を主張する場合には、あわせて確認します。
実行条件と貸付枠の利用条件を照合する
契約が成立していても、実行に条件が付されていることがあります。担保の設定登記の完了、保証人の署名、他行からの調達の完了、一定の財務数値の維持、直近の試算表の提出といった条件です。金融機関が実行を断る理由として挙げているのが、これらの条件の未充足である場合、主な確認事項は、その条件が契約上の実行条件として定められていたか、条件が本当に未充足かという点になります。条件の解釈や、変更・免除についての合意も確認します。
貸付枠や当座貸越についても同様です。コミットメントラインや極度額といった、一定の融資枠の範囲内において、繰り返し借入を行うことができるという仕組みが導入されていても、実際には、多くの場合、融資契約において、銀行の裁量により、融資枠の減額や、融資枠の利用停止を行うことができる旨が定められています。融資枠が残っているという事実だけを前提に資金繰りを組んでいると、停止の連絡を受けた時点で選択肢が限られます。
条件の充足が争点となる場合、企業側から提出できる資料を早い段階で整理します。未充足とされた条件が、追加の資料提出や短期間の対応で満たせるものであれば、争うよりも充足させるほうが早いという判断もあり得ます。
更新・借換えへの期待と契約上の権利を区別する
これまで毎年更新されてきた、あるいは返済期が来るたびに借換えに応じてもらってきた、という取引経過は、次回も同じ対応がされることを法的に保証するものではありません。更新や借換えに新たな合意が必要かは、既存の契約の定めによります。自動更新の条項、更新拒絶の通知期限、既にされた更新・借換えの合意を確認します。従前の取引が継続していたという事実だけから、金融機関に更新や借換えに応じる義務が当然に生じるわけではありません。
もっとも、取引の経過がまったく意味を持たないわけでもありません。金融機関が更新を前提とする説明をしていた、更新を前提とした資金計画の提出を求めていた、更新しない場合の事前の連絡について合意があった、といった事情は、協議の場でも、後に紛争となった場合の主張としても、意味を持ち得ます。確認すべきは、期待の有無ではなく、その期待がどのような具体的なやり取りに基づいているかです。
融資の更新・借換えは本稿の契約別の整理を前提とし、継続的取引の終了に共通する通知・協議の論点は、「取引打切り・契約更新拒絶への対応」で補足します。
停止理由とこれまでの取引経過を検討する
金融機関が示した理由が、契約上の根拠を伴うものか、それとも方針や与信判断の説明にとどまるものかを区別します。「業況が厳しい」「本部の判断」といった説明は、それ自体が契約上の停止事由とは限りません。他方で、その説明の背後に、財務制限条項への抵触や報告義務の不履行といった具体的な事由がある場合には、そちらが実質的な根拠になります。
理由が明確でないまま協議を続けると、後になって別の理由が示されることがあります。書面での理由の提示を求めるかどうかは、取引関係への影響も踏まえた判断になりますが、少なくとも社内では、示された理由とその時期を記録しておきます。
3 期限の利益喪失・一括返済請求を検討する
財務制限条項・報告義務等への抵触を確認する
一括返済を求められた場合、その根拠として挙げられるのは、多くの場合、契約上の期限の利益の喪失事由です。返済の遅滞、他の債務についての期限の利益の喪失、財務制限条項への抵触、報告義務の不履行、重大な財産状態の変化といった事由が定められています。
まず、指摘された事由が実際に生じているかを、数値と資料で確認します。財務制限条項については、どの決算期のどの指標を、どの計算方法で判断するのかが契約に定められています。連結か単体か、いつ時点の数値か、特定の項目を除外する定めがあるかによって、結論が変わることがあります。金融機関の計算と自社の計算が食い違う場合、その原因を特定します。
報告義務についても、提出すべき書類、提出期限、提出先が契約に定められています。提出したが受領の記録がない、提出先を誤っていた、期限を徒過したが既に提出済みである、といった事情は、その後の協議に影響します。
期限の利益の喪失の条件と通知・催告を確認する
期限の利益をめぐっては、法律上の定めと契約上の定めの両方を確認します。
民法は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定する旨を定め、期限の利益は放棄することができるが、これによって相手方の利益を害することはできない旨を定めています。また、債務者が期限の利益を主張することができない場合として、債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、または減少させたとき、債務者が担保を供する義務を負う場合においてこれを供しないときが挙げられています。
もっとも、実際の融資契約では、これらに加えて、契約上の期限の利益の喪失事由が詳細に定められているのが通常です。そして、その定め方には二つの型があります。一定の事由の発生によって当然に期限の利益を失うとするものと、金融機関の請求によって期限の利益を失うとするものです。どちらの型かによって、通知や催告が必要かどうか、いつの時点で遅延損害金が発生するかが変わります。
したがって、確認するのは、①該当するとされた事由がどちらの型に属するか、②その型が求める手続(通知、催告、是正のための期間の付与)が履践されているか、③履践されていない場合にどのような主張が可能か、という順序になります。
違反の是正と他の契約・担保・保証への影響を検討する
抵触が認められる場合でも、是正によって対応できるかを検討します。契約に是正期間の定めがあれば、その期間内に何をすれば足りるのかを確認します。定めがない場合でも、是正の申出と実行が、協議における現実的な材料になることがあります。
同時に、他の契約への波及を確認します。前述のとおり、ある借入れについての期限の利益の喪失が、他の借入れについての喪失事由とされている場合があります。また、担保権の実行や保証の履行請求の条件が、期限の利益の喪失と連動している場合もあります。一つの金融機関との協議を進める際にも、他の金融機関との関係で何が起きるかを併せて見ておく必要があります。
遅延損害金についても確認します。金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定について、利息制限法は、その賠償額の元本に対する割合が一定の率を超えるときはその超過部分を無効とする旨を定めており、違約金は賠償額の予定とみなすものとされています。営業的金銭消費貸借については、これとは別の特則が置かれています。請求されている金額の計算根拠を確認する際には、この点も併せて確認します。
4 条件変更と金融機関との協議を進める
変更を求める条件と資金繰りの裏付けを整理する
条件変更を申し入れる場合、求める内容を具体的に特定します。元本の返済猶予か、返済額の減額か、期間の延長か、金利の変更か、追加担保・追加保証の差入れと引換えの条件緩和か。どれを求めるかによって、示すべき資料が変わります。
いずれの場合も、裏付けとなるのは資金繰りの見通しです。月次の入出金予定、大口の入金時期、季節変動、固定費の内訳、削減が可能な支出、支払を止められない支出を整理します。ここで重要なのは、見通しの前提を明示することです。前提を示さない数字は、協議の場で検証できず、結果として説得力を持ちません。
あわせて、猶予を求める期間の意味を説明できるようにします。半年の猶予を求めるのであれば、その半年の間に何が変わるのか――受注の回復、設備の稼働、資産の売却、他の調達の実行――を示します。期間の経過そのものによって状況が改善する見込みを説明できない場合、猶予は問題の先送りとして受け取られます。逆に、変化の内容と時期を示せるのであれば、求める猶予の長さにも根拠が生まれます。
また、既に一部の支払を止めている場合、あるいは止めざるを得ない見込みがある場合には、契約上の報告義務と期限を確認したうえで、その事実をどのように説明するかを検討します。後から判明した場合、それまでの説明の信頼性にも影響します。
返済猶予・金利・追加担保等の提案を検討する
金融機関から提案される条件には、返済額の減額と引換えの期間延長、金利の引上げ、追加担保・追加保証の差入れ、資金使途や配当の制限、報告頻度の増加といったものがあります。それぞれについて、受け入れた場合に何が確定し、何が残るのかを確認します。
とくに、追加担保・追加保証を伴う条件変更が資金繰りの改善につながる場合でも、他の資金調達や事業再生の選択肢に及ぼす影響を確認します。担保に供する資産が事業継続に必要なものである場合、また、保証の範囲が既存の保証を超えて拡大する場合には、受け入れる前に影響を確認します。
複数の金融機関に示す資料と説明の整合性を確認する
複数の金融機関から借入れがある場合、各行に示す資料と説明の整合性を確認します。資金繰り表や事業計画の数値が行ごとに異なっていると、その事実自体が信用に影響します。また、一部の金融機関にだけ有利な条件で返済を続けることは、他の金融機関との協議において問題とされ得ます。
どの金融機関に、いつ、何を伝えるかについて、あらかじめ順序を決めておきます。返済原資となる自社の売掛金の回収も問題となる場合は、「取引先が支払ってくれないとき(未収金・支払遅延への対応)」で債権者側の対応を確認します。
変更合意と従前の権利関係への影響を確認する
条件変更が成立した場合、合意書の内容を確認します。確認すべきなのは、変更された条件そのものだけではありません。従前の期限の利益の喪失事由が解消されたものとして扱われるのか、それとも留保されたままなのか。既に生じている遅延損害金がどう処理されるのか。担保・保証の内容に変更があるか。他の借入れとの関係についての定めが置かれるか。これらが明示されていない合意書は、後日の解釈の対立を招きます。
また、条件変更の合意そのものが、他の契約における「重大な財産状態の変化」等に当たると主張される可能性がないかも、併せて確認します。条件変更に応じてもらった事実が、別の金融機関との関係で不利に働く場合があり得るためです。
合意の成立後についても、確認しておく事項があります。変更後の条件に基づく報告義務が加重されている場合、報告義務違反が期限の利益の喪失事由として定められているときは、変更後の義務の不履行が新たな喪失事由となることがあります。変更合意によって問題が解決したと考えて管理を緩めると、同じ協議を短期間で繰り返すことになります。合意の内容は、実際に履行できる水準で定めることが必要です。
5 協議が調わない場合の対応を検討する
履行請求・損害賠償請求の根拠と証拠を整理する
協議が調わない場合に、法的な請求が可能かを検討します。融資の実行を求める請求であれば、契約の成立と実行条件の充足を示す必要があります。損害賠償を検討する場合には、まず、どの義務違反や行為を請求の根拠とするかを整理します。融資金の交付義務の履行遅滞については、金銭債務に関する特則と契約上の定めを確認します。この特則による賠償では、現実に生じた損害の証明は必要ありません。説明義務違反や不法行為等を理由とする請求では、その成立要件と賠償の範囲を別に検討します。
実務上、難しいのは損害の立証です。融資が実行されなかったことにより生じた損害として何を主張するのか、その額をどのような資料で示すのかを、早い段階で検討します。代替の資金調達に要した費用、支払遅延によって生じた違約金、失われた取引の利益といった項目が考えられますが、金額の裏付けだけでなく、その請求の根拠に基づいて賠償の対象となるかを確認します。
金融ADR・調停・訴訟等の利用条件を確認する
紛争解決の手続としては、金融機関との直接の協議のほか、金融分野の紛争解決手続、民事調停、訴訟、仲裁が考えられます。
金融分野の紛争解決手続について、銀行法は、銀行が、指定銀行業務紛争解決機関が存在する場合には当該機関との間で手続実施基本契約を締結する措置を、存在しない場合には苦情処理措置および紛争解決措置を講じなければならない旨を定めています。また、手続実施基本契約を締結する措置を講じた場合には、その相手方である指定銀行業務紛争解決機関の商号または名称を公表しなければならないものとされています。
金融分野の紛争解決手続は、金融機関の種類や紛争の内容によって、利用できる範囲が異なります。例えば、全国銀行協会のあっせん委員会では、融資の申込みや条件の変更等が審査の結果断られた事案は、紛争解決の手続を行わない場合に含まれています。契約上の義務違反や説明をめぐる紛争についても、相談・苦情の受付の対象となるかと、あっせんの対象となるかを区別して確認します。
金融分野の紛争解決手続や民事調停は、主に当事者間の合意による解決を目指す手続です。金融分野の紛争解決手続では、特別調停案について、法定の例外を除き銀行に受諾を求める仕組みもあります。一方、訴訟や、有効な仲裁合意に基づく仲裁では、契約上の権利義務等について判断を求めます。いずれの手続も、利用しただけで、借手が希望する条件変更が認められるものではありません。利用する場合には、何を目的とし、どこまでの解決を見込むのかを、あらかじめ整理します。
各手続の申立要件、対象となる紛争の範囲、費用、要する期間は、機関や手続ごとに異なります。利用を検討する段階で、最新の規程を確認します。
保全の必要性を検討する
保全の要否は、争う内容によって変わります。損害賠償請求を予定し、相手方の資力に懸念がある場合には仮差押えを検討することになりますが、金融機関を相手方とする場合、資力の面での必要性が認められる場面は限られます。
民事保全法は、仮差押命令について、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、または強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる旨を定めています。保全の申立てにあたっては、被保全権利と保全の必要性の双方について示す必要があり、担保を求められるのが通常です。
むしろ実務で問題になりやすいのは、担保権の実行や、預金との相殺への対応です。これらについては、契約上の要件と手続、実行が予定されている時期を確認したうえで、対応の可否を検討します。
返済協議の限界と事業全体の債務調整の必要性を検討する
一つの金融機関との条件変更では資金繰りが持たない場合、検討の対象は、個別の協議から、事業全体の債務の調整に移ります。この段階では、取引先への支払、従業員の給与、税・社会保険料の滞納の有無、担保に供していない資産の状況が、選択肢を左右します。
判断の分かれ目は、事業を継続しながら債務を整理できる見込みがあるかどうかです。見込みがある場合と、ない場合とでは、金融機関への説明の内容も、準備すべき資料も異なります。また、どの段階で誰に相談するかによって、取り得る手段が変わります。資金が尽きる直前になってからでは、選べる手続が限られます。
したがって、条件変更の協議を始める段階で、協議が調わなかった場合に何をするかを、併せて検討しておくことになります。
当事務所の支援内容
契約・通知と金融機関との協議経過を整理する
融資契約、取引約定書、変更合意、担保・保証契約を照合し、通知が示す根拠と、企業側から説明・是正できる事項を整理します。複数の借入れがある場合は、波及の範囲を確認します。
金融機関への回答と条件変更の協議を支援する
回答書面の作成、資金繰りと事業計画の示し方、複数の金融機関に対する説明の整合性について、実務的な観点から支援します。変更合意の内容についても、従前の権利関係への影響を確認します。
紛争手続の選択と事業継続に向けた対応を支援する
協議が調わない場合の手続の選択、証拠の整理、保全の要否を検討します。事業全体の債務調整が必要となる場合は、その時期と方法についても併せて検討します。
よくあるご質問
融資を実行すると言われていたのに、直前で断られた場合は争えますか。
融資の実行を求める場合と、実行されなかったことについて損害賠償を求める場合とを分けて検討します。実行を求める場合には、契約の成立と実行条件の充足が問題になります。書面による合意があれば、実際に金銭を受け取る前の段階でも消費貸借契約が成立し得るとされていますので、どこまでの書面が取り交わされていたかを確認します。実行義務が認められない場合でも、説明の内容や交渉の経過によっては、不法行為による損害賠償が問題となることがあります。もっとも、契約が成立していても、実行に条件が付されている場合があります。担当者の口頭の説明や社内の見込みと、書面による合意とを区別して整理することが出発点になります。
財務制限条項に抵触したら、直ちに全額返済しなければなりませんか。
契約の定め方によります。一定の事由の発生によって当然に期限の利益を失うとする定めと、金融機関の請求によって失うとする定めとがあり、どちらの型かによって、通知や催告が必要かどうかが変わります。また、抵触の有無そのものについても、計算の基準日や方法をめぐって認識が食い違うことがあります。まず、指摘された数値の根拠を確認し、あわせて是正の可否を検討します。
返済条件の変更を申し入れれば、返済や一括請求は止まりますか。
申入れをしたこと自体によって、返済の義務や請求が当然に止まるわけではありません。条件が変更されるのは、金融機関との間で合意が成立した場合です。したがって、申入れと並行して、合意が成立しなかった場合の資金繰りを確認しておく必要があります。協議の過程で暫定的な取扱いについて合意する場合は、その範囲と期間を書面で明確にします。
一つの銀行との問題が、他の銀行の借入れにも影響しますか。
各契約の定めによります。ある借入れについて期限の利益を失ったことが、他の借入れについても期限の利益の喪失事由とされている例があり、この場合には複数の取引に同時に影響します。担保権の実行や保証の履行請求の条件が連動している場合もあります。一行との協議を始める前に、他の契約の該当条項を確認しておくことをお勧めします。
金融機関との話合いが続いている段階でも相談できますか。
話合いが続いている段階からご相談いただけます。早い段階で契約の内容と資金繰りの見通しを整理することが、協議の進め方を検討するうえで役立ちます。既に一括返済を請求されている場合でも、請求の根拠と手続を確認する余地があります。
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まずはご相談ください
早期のご相談が、対応の選択肢を確保するために重要です。
お問い合わせフォームへ本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。
