Crisis Management
病院・診療所の法務――事故・診療報酬・広告・承継への対応
本ページは、病院・診療所を運営する側の法務対応についてのご案内です。医療機関では、医療事故、患者や職員の安全、患者情報や電子カルテ、診療報酬の請求、広告、医療法人の承継といった問題が、日々の診療と並行して生じます。問題によって、確認する記録、連絡や報告の相手、判断を急ぐ事項が異なります。
一つの出来事が、複数の問題にまたがることもあります。サイバー攻撃で電子カルテが使えなくなれば、診療をどう続けるかと同時に、患者情報の取扱いについての対応も検討することになります。承継の準備中に過去の診療報酬の請求に誤りが見つかれば、請求への対応と、譲渡の条件や日程の検討が重なります。
本ページは、病院・診療所の開設者(医療法人を含みます)、院長、事務長、医療安全・医事・情報システムの担当者の方に向けて、当事務所の解説のうち医療機関に関係するものを、場面ごとにまとめたものです。個別の手続や判断の基準は、各解説をご覧ください。
監修:吉川 景司(弁護士・弁理士/第一東京弁護士会)
まず確認すること
事故や不適切な行為等が疑われる場合は、まず次の事項を確認します。
- 患者の安全や診療の継続に、いま影響が及んでいるかどうか
- 行政機関等への報告・届出・通報が問題になるかどうかと、その期限
- 時間の経過や上書きで失われるおそれのある記録(電子カルテ等のアクセス記録、防犯カメラの映像、勤務表、請求データなど)
ご相談いただけること医療事故や、患者・家族との間の問題への対応/職員による虐待が疑われる場合や、患者・家族から暴力を受けた場合の対応/患者情報の漏えい等やサイバー攻撃が疑われる場合の対応/診療報酬の請求や施設基準に関する問題への対応/医療広告の表現、電子カルテ等のシステム契約についての確認/医療法人・病院・診療所の承継・譲渡
お問い合わせフォームへ患者の安全に関わる事態では、弁護士への相談を待たずに、必要な処置と安全確保を先に行ってください。そのうえで、記録の保全と、報告・説明の検討を並行して進めます。
1 場面ごとの解説
以下は、医療機関に関係する問題を網羅した一覧ではなく、当事務所が個別の解説をご用意している場面です。
医療事故・患者と職員の安全
診療を続けながら、患者と職員の安全を確保し、事実を確かめる必要がある場面です。院内で何が起きたかの確認と、患者・家族への説明、行政機関等への対応が並行します。
医療事故・医療過誤への対応 ── 医療事故が疑われる場合や、患者・遺族から説明や賠償を求められた場合。記録・資料の保全と院内調査、患者・遺族への説明、医療事故調査制度の対象となるかの判断、示談交渉・訴訟への対応を扱います。
職員による患者への虐待が疑われるとき――患者保護・院内調査・行政対応 ── 患者・家族・職員からの申告や、院内での発見により、職員による虐待が疑われる場合。患者の保護、法定の通報の要否、資料の保全と院内調査、患者・家族への説明と職員への対応を扱います。
患者・家族から暴力・脅迫を受けたとき――職員の安全確保と診療継続 ── 患者や家族から職員への暴力・脅迫があった場合。職員の安全の確保と、その患者の診療をどう続けるか(制限や終了を含めて)、その範囲と根拠、判断理由の記録を扱います。
患者情報・電子カルテ等の問題
患者情報や医療情報システムに問題が生じ、診療への影響と、情報の取扱いについての対応を検討する場面です。保守の終了のように、事故ではなく契約の問題として生じるものも含みます。
病院で患者情報の漏えいが疑われたとき――調査・報告と患者への説明 ── 検査結果の誤交付、書類の誤送付、職員による不正な閲覧・持出しなどが疑われる場合。対象となる情報と到達先の確認、個人情報保護委員会への報告・本人への通知の要否と期限、患者への説明を扱います。
病院がランサムウェア等のサイバー攻撃を受けたとき――診療継続・復旧と法的対応 ── 攻撃により電子カルテ等が使えなくなった場合や、データの信頼性が確認できない場合。診療を続ける範囲の判断、関係機関への連絡、復旧作業の調整、再開前の確認を扱います。
電子カルテなどの保守終了を告げられたら――継続利用とデータ移行の条件をどう確保するか ── ベンダーから電子カルテ等の保守の終了を告げられた場合。移行までの利用、保守・改修の引継ぎ、データの移行と旧記録の保存について、契約上の条件をどう確保するかを扱います。
診療報酬の請求・厚生局への対応
診療報酬の不適切請求が疑われるとき――院内調査・厚生局対応・返還の検討 ── 施設基準や算定要件を満たさないまま請求していた疑いが生じた場合。現在の請求の扱い、算定要件と勤務実態の照合、調査の範囲と体制、厚生局への対応、返還の範囲を扱います。
医療広告・情報発信
薬機法・医療広告規制への対応 ── 病院・診療所のウェブサイトや広告の表現を、医療広告の規制に照らして確認する場合や、指摘を受けた場合。禁止される広告、広告できる事項、ウェブサイト等での限定解除の要件、指摘を受けたときの初動を扱います(医薬品・化粧品等の商品広告についての解説も含みます)。
医療機関の承継・譲渡
医療機関のM&Aと医療法・行政手続 ── 医療法人・病院・診療所の承継や譲渡を検討する場合。取引方法の選び方、医療法上の認可・届出等、法務調査とその結果の契約への反映、保険医療機関の指定を扱います。
2 場面をまたいで確認すること
事故や不適切な行為等が疑われるときに、複数の場面に共通して確認する事項です。
2-1 報告・連絡の相手は、場面ごとに異なります
報告・届出・通報の相手方と、その根拠は、場面によって異なります。
- 患者情報の漏えい、滅失、毀損等では、法令上の要件に該当する場合に、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になります。外部への流出が確認できない場合でも、検討の対象になることがあります。
- 精神科病院で、業務従事者による障害者虐待を受けたと思われる精神障害者を発見した場合は、都道府県への通報が法律上義務づけられています。
- 医療事故調査制度の対象となる医療事故が発生した場合は、医療事故調査・支援センターへの報告が法律上義務づけられています。対象となるかどうかは、医療過誤の有無とは別に判断します。
- サイバー攻撃等では、これらとは別に、厚生労働省が公表する案内に基づく連絡が求められています。
- 診療報酬の請求や施設基準に関する問題では、その内容に応じて、地方厚生(支)局への相談・届出・回答等の要否を確認します。
一つの出来事で複数の制度が関係する場合は、それぞれの対応時期・期限と、報告等の内容とを分けて管理します。要件と進め方は、各解説で扱っています。
2-2 患者・家族への説明と、院内の事実確認
患者・家族への説明は、院内の調査が終わるのを待たずに求められることがあります。説明の時点で確認できた事実と、まだ確認できていない事項とを分けて伝え、説明した内容と日時を記録しておくと、その後の説明や、紛争になった場合の検討の手掛かりになります。
2-3 記録の保全
電子カルテ等のアクセス記録、防犯カメラの映像、勤務表や請求データには、一定の期間が過ぎると上書き・削除されるものがあります。問題が疑われた時点で、保存の期間と方法を確認し、必要な範囲を確保します。記録を保全することと、その記録から事実をどう評価するかとは、分けて進めます。
2-4 職員が関与している場合
職員の行為が問題になっている場面では、事実の確認と、職員の処分の検討とを分けて進めます。患者の保護や調査のために行う担当の変更と、懲戒とは目的が異なります。処分が争われる段階の対応は、労働関係紛争への対応(使用者側)でも扱っています。
当事務所のサポート内容
- 起きている問題の切り分けと、関係する制度・期限、院内の対応体制の確認
- 患者・家族への説明文、行政機関等への報告書・届出・回答書の案の作成と検討
- 記録・資料の保全の範囲の整理と、院内調査の設計・実施の支援
- 患者・遺族との交渉、訴訟・調停等の手続への対応
- 職員への聴取・対応と、処分の検討
- 承継・譲渡に伴う法務調査、契約書の作成・交渉、医療法上の手続の整理
- 医療広告の表現の確認、システム契約の条項の確認と、ベンダー等との交渉
よくあるご質問
Q1 サイバー攻撃で電子カルテが使えません。患者情報が外に出た可能性もあります。どの解説から読めばよいですか。
まず病院がランサムウェア等のサイバー攻撃を受けたときで、診療の範囲の判断と関係機関への連絡をご確認ください。個人情報保護委員会への報告・本人への通知は、病院で患者情報の漏えいが疑われたときで扱っています。診療の継続と、患者情報についての対応とは、並行して進めることになります。
Q2 職員による虐待の申告がありました。職員の処分も検討しなければなりません。
職員による患者への虐待が疑われるときで、患者の保護、法定の通報、院内調査、職員への対応の進め方をご確認ください。患者の保護を進め、法定の通報の対象となる場合は、職員の処分の結論を待たずに通報します。処分が争われた場合の対応は、労働関係紛争への対応(使用者側)でも扱っています。
Q3 医療法人の承継を準備している最中に、過去の診療報酬の請求に誤りが見つかりました。
請求の誤りについての調査と返還の検討は診療報酬の不適切請求が疑われるときで、承継の手続と、法務調査の結果を譲渡の条件に反映することについては医療機関のM&Aと医療法・行政手続で扱っています。現在の請求の扱いも確認しながら、請求の誤りへの対応と承継の手続とを並行して整理し、調査の結果が譲渡の条件や日程に及ぼす影響を検討します。
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ご相談にあたって
病院・診療所で生じた問題について、どの場面の問題かの切り分けから、患者・家族への説明、行政機関等への対応、院内調査、職員への対応、紛争への対応までをご相談いただけます。医療広告の確認、電子カルテ等のシステム契約、医療法人・病院・診療所の承継・譲渡についても承ります。把握している経過と、すでに行った対応をお知らせください。資料の送付方法は、ご相談の可否をお知らせする際にご案内します。
お問い合わせフォームへ※法令等の確認日:2026年9月27日。本ページは、各解説への案内を目的とするものです。個別の事案については、各解説と、事案に即した検討が必要ですので、個別にご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に関する法的助言ではありません。具体的な対応については、当事務所までご相談ください。記事の内容は、最終更新日の時点で施行されている法令等に基づいています。施行前の改正法を取り上げる場合は、本文にその旨を示しています。
